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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第135号)
公安委員会苦情申出書公開請求拒否事案
(答申日 平成19年4月25日)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成18年8月14日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府公安委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「請求人・Aが大阪府公安委員会に提出した平成18年7月12日付苦情申出書における浪速警察署等に対する処分等に関する文書」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 同年8月24日、実施機関は、本件請求に対し、条例第13条第2項の規定により、本件請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく本件請求を拒否する旨の公開請求拒否決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり理由を付して異議申立人に通知した。
(公開請求を拒否する理由)
本件請求は、特定の個人が行った苦情申立てに関連する文書の公開を求めるものである。本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えることは、特定の個人が苦情申立てを行ったか否かという情報を明らかにするものであって、個人のプライバシーに関する情報を公にすることとなる。
したがって、本件公開請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなるため、大阪府情報公開条例第12条の規定により、当該行政文書の存否を明らかにしないで、本件公開請求を拒否する。 - 同年10月20日、異議申立人は、本件決定を不服として、実施機関に対し、行政不服審査法第6条の規定により、異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、公開することを求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
1 異議申立書における主張
実施機関が、本件請求につき、拒否を決定した理由は、「特定の個人(=請求人)が苦情申立を行ったか否かという情報を苦情申立を行った本人に明らかにするもの」で、請求人に「個人(=請求人)のプライバシーに関する情報を公にすることとなる」とし、「本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを苦情を申し出た本人に答えるだけで条例第9条第1号に該当する情報を苦情申立を行った本人に公開することとなるため」「条例第12条の規定により、当該行政文書の存否を明らかにしないで」拒否するというものである。
しかしながら、本件請求の趣旨は、請求人本人が過去に出した苦情がどのように処理されたかまたは処理中かを請求人本人が請求人本人に開示せよと請求しているのであって、請求人の個人情報が記載されていても、請求人は自分の個人情報は当然認識しているから、上記情報は条例第9条第1号に規定する情報には当たらない。
また、実施機関は、条例第9条ではなく条例第12条を理由に公開を拒否しているのであって、上記苦情申出人と請求人が同一人物であるか否かを考えず、杓子定規的に拒否したものである。請求人本人が上記苦情を出しており、上記苦情を出したことは、上記苦情を出した請求人本人が当然認識しているから、上記苦情が請求人本人から出されたか否かを請求人本人に答えることは、条例第12条に規定する拒否可能条件にはあたらない。
条例の趣旨は、府民及び請求者の「知る権利」を保障し、個人の尊厳を確保することで公益に寄与することである。
本件苦情の趣旨は、浪速警察署の警察官が、犯罪被害者である請求人の尊厳を完全否定し、犯罪組織による継続的な犯罪行為の容認とも取れる対応を取ることに対して、その実態を届け出るとともに、浪速警察署に対して是正を求めているのであって、不当に苦情を申し出たわけではない。
しかしながら、実施機関は、請求人の「知る権利」を完全否定した上で、上記苦情についての対応及び処理に関する文書の開示を拒否したわけであり、請求人の尊厳を踏みにじり、さらに、請求人は上記犯罪組織からさらなる被害を受けることが容易に推認できる(現に上記犯罪組織及び浪速警察署の警察官からさらにひどい被害(=人権侵害)を受けた)。実施機関が浪速警察署に対してどのような指導をし、浪速警察署がどのように対応したのかを請求人が知ることで、国家賠償法に基づく損害賠償を浪速警察署に請求するにあたり、浪速警察署の不法行為の度合いを知ることとなり、請求人にとって有益であるところ、実施機関は、本件請求により情報を公開しても請求人には何ら不利益にはならず、むしろ浪速警察署の態度を明らかにすることは公益にもつながる。そうすると、条例第11条に基づき、本件行政文書に条例第9条第1号に該当する情報が記載されていても開示する必要がある。
以上を鑑み、実施機関の本件決定には理由がなく、公益性の観点からも、少なくとも本件苦情につき、苦情の態様、浪速警察署への指導及び浪速警察署の態度に関する部分だけでも開示すべきである。
2 反論書における主張
- (1)実施機関の主張は、要するに、本件苦情の存在を黙殺したいだけであり、本件苦情申出から4ヶ月以上経過した本書面作成時においても警察法第79条第2項に規定する通知が成されていないことを隠蔽するための牽強付会の主張であって、特段の理由はない。
- (2)本件請求で公開請求しているのは、あくまでも浪速警察署の態度や組織犯罪を摘発する気があるか否か等に関する文書であって、個人情報は記載されてはいない。これを公開することを拒むのは許されないが、実施機関の主張からは、条例第11条の規定を無視できる特段の事由は認められない。個人情報が記載されていても個人情報の部分は消去すればよく、開示拒否に理由はない。実施機関や浪速警察署に疾しいところがなければ公開を拒まない筈である。
- (3)本件苦情の存在を明らかにしないのは、実施機関が、既に提出済みである本件苦情申出書を受理していないか、警察法第79条第2項に違反して処理していない可能性が認められ、上記不法行為を隠蔽するために、条例第9条第1項や条例第12条を持ち出しているに過ぎないと思われる。
- (4)実施機関は、上記不法行為がないと主張するならば、速やかに上記文書(浪速警察署に組織犯罪を摘発する気があるか否か、及び摘発に関する方針に関する文書)を開示して、上記不法行為がないことを立証されたい。
以上を鑑み、要するに、実施機関は身内の不法行為を隠蔽したいだけであり、上記不法行為はないと主張するならば、警察法第79条第2項に規定する本件苦情に対する通知等を異議申立人(=苦情申出人)に直ちに交付するか、進捗状況を直ちに異議申立人に通知して異議申立人に開示すべきである。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 警察法に基づく苦情申出制度について
警察法(昭和29年法律第162号)第79条に基づく苦情申出制度は、都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者が、国家公安委員会規則で定める手続に従い、都道府県公安委員会に対し、文書により苦情の申出をした場合に、同委員会が法令等の規定に基づき、これを誠実に処理し、処理の結果を文書により申出者に通知するものである。
2 本件決定の妥当性について
(1)条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
本号は、このような規定を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。
同号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。そして、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、
住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」とは、個人のプライバシーに関する情報を
例示したものであり、「特定個人が識別され得る」情報とは、当該情報のみによって直接特定の個人が識別される場合に加えて、容易に入手し得る他の情報と結びつけることによって特定の個人が識別され得る場合を含むと解される。
また、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報」とは、社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうと解される。
(2)条例第12条について
本条は、公開請求に対し、当該公開請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで第10条第2項各号(第8条第2項各号又は第9条各号の規定により公開しない情報)に掲げる情報を公開することとなるときは、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該公開請求を拒否することができる旨規定している。
本条による公開請求の拒否は、公開請求に係る行政文書が存在するか否かも明らかにしないというものであり、安易な運用は行政文書公開制度の趣旨を損なうことになりかねないが、公開請求に係る行政文書の存否が明らかになることによる権利利益の侵害や事務執行の支障等が具体的かつ客観的に認められる場合には、本条によって公開請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく公開請求を拒否することができるものである。
(3)本件請求に係る行政文書の存否を答えることにより明らかとなる情報と条例第9条第1号の該当性について
本件請求は、異議申立人が提出したとする苦情申出書に基づいて、本件苦情申出がどのように処理されたのかという情報の開示を求めるものであり、実施機関が該当する文書があるとして公開・非公開の決定を行うだけで、特定の個人が実施機関に苦情申出書を提出したという情報を明らかにすることとなる。
これら本件請求に係る行政文書の存在を答えることにより明らかとなる情報は、個人の内心の秘密に関する情報であって、前記(1)のア及びイに該当することが明らかであり、その内容が、特定の個人が実施機関に対し苦情を申し出たものであることからすると、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるから、前記(1)のウの要件にも該当する。
したがって、本件請求に係る行政文書は、その存否を答えるだけで、条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなるものであり、本件決定は妥当である。
3 異議申立人の主張に対する反論について
(1)自己情報の開示について
異議申立人は「自分の個人情報は当然認識しているから、条例第9条第1号に規定する情報には当たらない。」旨主張するので、以下検討する。
自己情報の開示請求については、
- ア 条例は、「何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる。」と規定して請求者を何ら区別することなく行政文書の公開を請求する権利を付与しており、第8条及び第9条に規定する公開・非公開の基準においても、請求者が本人である場合について特則を設けず、個人情報の本人開示に不可欠な本人確認の手続きも定めていない。
- イ 大阪府では、昭和59年に制定された公文書公開等条例においては、一般の公文書の公開に加えて、公文書の本人開示に係る規定が置かれていたが、平成8年に個人情報保護条例が制定され、同条例に自己に関する個人情報の開示の規定が設けられたことから、公文書公開等条例の公文書の本人開示に係る規定が削除された経緯がある。これらのことから、条例に基づく行政文書公開制度においては、請求者が誰であるかによって、公開・非公開等の決定内容に差異を設けることはできないのであり、異議申立人の主張は失当である。
(2)条例第11条に基づく公益上の理由による公開について
異議申立人は、「苦情に対する措置等を知ることは、損害賠償請求をするにあたり、異議申立人にとって有益であり、また、浪速警察署の対応を知ることは、公益にもつながるため、条例第11条に基づき、本件行政文書に条例第9条第1号に該当する情報が記載されていても開示する必要がある。」旨も主張するので、以下検討する。
条例第11条は公益上の理由による公開について定めたものであり、同第2項においては、公開請求に係る行政文書に条例第9条第1号に掲げる情報が記録されている場合であっても、「公益上特に必要があると認めるとき」は、請求者に対し、当該行政文書の全部又は一部を公開することができる旨規定している。
本項の「公益上特に必要があると認めるとき」とは、条例第9条第1号の規定によって保護される個人のプライバシー保護の利益と公益上の公開の必要性とを個別具体的に比較衡量し、公益上特に公開する必要があると認められる場合をいうと解され、そのような場合には、本項に基づいて、当該情報を公開することができるものである。
しかしながら、条例は、一方で、第5条において、条例の解釈及び運用に当たっては、条例第9条第1号に規定する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定しており、本項の規定により行政文書を公開しようとする場合にも、条例第11条第3項の規定により、大阪府個人情報保護条例の趣旨を勘案し、個人の権利利益が適正に保障されるよう特段の配意をしなければならないとされている。
以上のことからすると、本項の「公益上特に必要があると認めるとき」に該当して行政文書を公開できる場合とは、具体的には、災害時等における人の生命、身体、財産等に対する重大な被害の発生を防止するため当該情報を公開することが必要不可欠であるなど、基本的人権に関わる個人のプライバシー保護の利益に匹敵する特段の事情、必要性が現に存在する場合に限られると解すべきであり、本件において、異議申立人が主張する事情のみをもって、公益上特に本件請求に係る行政文書を公開する必要があるとは認められない。
4 結論
以上のとおり、本件決定は条例の趣旨を踏まえて行われたものであり、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けるとともに、第12条において、公開請求に係る文書の存否を答えるだけで、これら適用除外事項に該当する情報を明らかにすることになる場合には、当該公開請求を拒否することができる旨定めているのであり、実施機関は、請求された情報がこれらの規定に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。
2 警察法に基づく苦情申出制度について
都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し、国家公安委員会規則で定める手続に従い、文書により苦情の申出をすることができる(警察法第79条第1項)。
苦情の申出の手続に関する規則(平成13年国家公安委員会規則第11号)によれば、この苦情の申出は、申出者の氏名等のほか、苦情申出の原因たる職務執行の概要やこれにより被った不利益の内容、これに対する不満の内容等を記載し、署名又は押印して提出するものとされており(同規則第2条)、都道府県公安委員会は、苦情の申出があったときは、法令又は条例の規定に基づきこれを誠実に処理し、処理の結果を文書により申出者に通知しなければならないとされている(警察法第79条第2項)。
3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は、本件請求に係る行政文書があるかどうかを答えるだけで条例第9条第1号に該当する情報を公開することになり、条例第12条に該当すると主張しているので、検討したところ、次のとおりである。
(1)条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
本号は、このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。
同号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
そして、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」とは、個人のプライバシーに関する情報を例示したものであり、「特定個人が識別され得る」情報とは、当該情報のみによって直接特定の個人が識別される場合に加えて、容易に入手し得る他の情報と結びつけることによって特定の個人が識別され得る場合を含むと解される。
また、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報とは、社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうと解される。
(2)条例第12条について
本条は、公開請求に係る行政文書の存否を明らかにするだけで第8条及び第9条に規定する適用除外事項によって保護される利益が害されることとなる場合には、例外的に公開請求に係る行政文書の存否自体を明らかにしないで公開請求を拒否することができる旨を定めたものである。
本条は、公開請求に係る行政文書が存在するか否かを答えるだけで適用除外事項に該当する情報を公開することとなる場合にのみ例外的に適用できるのであって、安易な運用は行政文書公開制度の趣旨を損なうことになりかねない。本条の運用にあたっては、公開請求に係る行政文書の存否が明らかになることによって生じる権利利益の侵害や事務執行の支障等を各適用除外事項に照らして具体的かつ客観的に判断する必要があると解されるところである。
(3)本件請求に係る行政文書の存否を答えることにより明らかとなる情報とその条例第9条第1号該当性について
本件請求は、「請求人・Aが大阪府公安委員会に提出した平成18年7月12日付苦情申出書における浪速警察署等に対する処分等に関する文書」を求めるものである。
本件請求に係る行政文書は、「特定の個人が実施機関に苦情申出書を提出したこと」を前提として作成される文書であり、本件行政文書が存在するとして公開あるいは非公開の決定を行うだけで、特定の個人が警察職員の職務執行に関する苦情を取り扱う実施機関に苦情申出を行ったという情報が明らかとなる。
このような情報は、(1)ア及びイの各要件に該当することは明らかであり、また、その内容が警察の業務に関するものであることからしても、個人の私生活に関する情報の中でもとりわけ機微にわたるものであって、社会通念上、他人に知られることを望まないものであることからすると、(1)ウの要件にも該当する。
以上により、本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなると認められるから、実施機関が、条例第12条の規定に基づき本件請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく本件請求を拒否したことは妥当である。
4 異議申立人の主張について
異議申立人は、本件請求中の個人情報や苦情申出については、異議申立人本人が当然認識していることから、これらの情報を本人が請求した場合は、条例第12条に該当しない旨主張している。
しかしながら、条例は、「何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる。」(条例第6条)と規定して請求者を何ら区別することなく行政文書の公開を請求する権利を付与しており、第8条及び第9条に規定する公開・非公開の基準においても、請求者が本人である場合について特則を設けず、個人情報の本人開示に不可欠な本人確認の手続も定めていない。また、大阪府では、昭和59年に制定された公文書公開等条例(昭和59年大阪府条例第2号)においては、一般の公文書の公開に加えて、公文書の本人開示に係る規定が置かれていた(同条例第17条)が、平成8年に個人情報保護条例(平成8年大阪府条例第2号)が制定され、同条例に自己に関する個人情報の開示の規定が設けられたことから、公文書公開等条例の公文書の本人開示に係る規定が削除された経緯もある。
これらのことからすると、条例に基づく行政文書公開制度においては、請求者が誰であるかによって、公開・非公開等の決定内容に差異を設けることはできないのであり、その公開請求に係る行政文書が請求者の個人情報を記録したものであるからといって、他の請求者と異なる公開決定を行うことはできない。
また、異議申立人は、「浪速警察署の態度を明らかにすることは公益にもつながる」、「実施機関が浪速警察署に対して行った指導、浪速警察署の対応を知ることは、国家賠償法に基づく損害賠償請求のために必要である。」などとして、条例第11条第2項に規定する公益上の理由による公開を求めていると解される。
しかしながら、本項に規定する「公益上特に必要があると認めるとき」に該当して行政文書を公開できる場合とは、具体的には、災害時等における人の生命、身体、財産等に対する重大な被害の発生を防止するため当該情報を公開することが必要不可欠であるなど、基本的人権に関わる個人のプライバシー保護の利益を上回る特段の事情、必要性が現に存する場合に限られると解すべきであり、異議申立人が主張する事情をもって、公益上、特に本件請求に係る行政文書を公開する必要があるとは認められない。
以上のことから、上記の異議申立人の主張は、いずれも採用することはできない。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
岡村周一、福井逸治、松田聰子、岩本洋子