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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第228号)
〔府立学校卒業式等状況報告書部分公開決定異議申立事案〕(答申日 平成26年1月30日)
第一 審査会の結論
大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において公開しないこととした部分のうち、異議申立人が公開を求めている部分を全部公開すべきである。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により平成25年3月7日、実施機関に対して、「平成23年度府立学校の卒業式の状況報告書」を請求内容とする行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 同年3月21日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の「公開しないことと決定した部分」を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、(3)のとおり「公開しない理由」を付して異議申立人に通知した。
- (1)行政文書の名称
府立学校より府教育委員会に提出された「平成23年度卒業式の状況について(報告)」 - (2)本件決定により公開しないこととされた部分
「国歌斉唱時の列席教職員の起立斉唱の状況について」の回答部分 - (3)公開しない理由
大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)に記録された情報から斉唱していない教員が特定されるおそれがあり、処分等の対象となった可能性がある。これらは、特定個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる。
- (1)行政文書の名称
- 異議申立人は、本件決定を不服として、平成25年4月4日、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
- 異議申立人は、同年6月20日、本件異議申立てのうち、教員氏名記載部分に関する異議申立てを取り下げた。
第三 異議申立ての趣旨
本件処分を取り消し、「平成23年度卒業式の状況について(報告)」における非公開部分(教員氏名記載部分を除く。以下「本件非公開部分」という。)の全部公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。
1 異議申立書における主張
- (1)府教育委員会は公開しない部分として、「国歌斉唱時の列席教職員の起立斉唱の状況について」を決定した。
- (2)府教育委員会は公開しない理由として、「大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。」「本件行政文書(非公開部分)に記録された情報から斉唱していない教員が特定されるおそれがあり、処分等の対象となった可能性がある。これらは、特定個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる。」と主張している。
- (3)開示された209枚の文書の大部分は、当該文書の報告事項3-(4)の1行が墨塗り非公開とされている。【資料1】
- (4)ところが、同時に開示された一部の文書には、非公開としている当該1行が開示されている。【資料2】この部分の開示理由として、報告事項の選択肢に回答の記載がないからと府教育委員会は説明した。
- (5)墨塗りされている非公開部分は、個人のプライバシーに関する情報は一切記載されていない。【資料2】から非公開部分には「ア 全員が起立斉唱していた イ 一部で不起立があった( )人」という客観的選択肢が記されていることがわかる。つまり、全員起立の有無と不起立者の人数を報告するものであり、特定の教職員に関する情報は一切含まれていない。
- (6)ちなみに、開示された文書【資料3】をみると、報告事項3-(4)は開示され、同時に報告事項4の自由記述部分も開示されている。報告事項4では、報告事項3-(4)が求めている以上に生々しく踏み込んだ状況が記述されている。
- (7)【資料3】の文書では、不起立者の人数と斉唱の有無、非斉唱の理由など詳細に記述された部分が開示されている。ところが、報告事項3-(4)では、不起立者の有無については報告を求めてはいるが、斉唱の有無についての状況報告は求めていない。【資料3】が公開となるのであれば、府教育委員会が主張する非開示理由は説得力が無い。
- (8)以上により、非公開部分は大阪府情報公開条例の適用除外に該当しないので、全部公開を求める。
※異議申立書には、添付資料として「【資料1】平成23年度卒業式の状況について(報告)(府立北野高等学校全日制課程分)」、「【資料2】平成23年度修了式の状況について(報告)(府立視覚支援学校幼稚部分)」、「【資料3】平成23年度卒業式の状況について(報告)(府立和泉高等学校全日制課程分)」が添付されていた(添付略)。
2 反論書における主張
(1)実施機関の弁明の理由=「個人が特定される可能性が十分ある」ことについて
- ア 個人が特定される可能性が「ゼロ」であることを立証することは不可能である。
- イ かといって「個人が特定される可能性がある=ゼロでない」ことを根拠として非公開とするのであれば、情報公開請求関連法規はまったくの画餅にすぎなくなる。
- ウ 要は、公開・非公開の判断基準は、「可能性」の蓋然性を社会通念上受け入れられるかどうかのレベルで線引きするしかない。
- エ この点に関して実施機関は、「十分ある」と主張するものの、その蓋然性については一言も触れていない。
- オ 「十分にある」という可能性について具体的な説明がない限り、非公開理由としては不十分であり、実施機関の弁明は受け入れられない。
(2)「非公開部分については」「特定個人が識別される個人のプライバシーに関する情報」について
- ア 実施機関がどのような想定でもって個人が識別可能となるのかについて、納得できる具体的説明がなされていない。
- イ 逆に【資料4】においては、「識別できない」と主張している。
- ウ 実施機関は「識別できる」、「できない」、両方の主張を展開している。
- エ 実施機関が個人を識別できるという客観的道理を示されない限り、非公開理由として受け入れられない。
(3)個人を識別できるという対応について
- ア 非公開部分「国歌斉唱時の列席教職員の起立斉唱の状況について」には、
(ア)全員が起立斉唱していた(イ)一部で不起立があった( )人
が記載されており、必要事項を記入するアンケートになっている。 - イ 列席教職員の個人名を記載することはないので、個人を特定するものではない。
- ウ 不起立の有無と人数は、客観的なもので、個人が識別可能な情報とはいえない。
- エ この質問項目の記載内容を公開することにより、個人が識別されうる根拠が説明されない限り、非公開事由としては受け入れられない。
(4)府立和泉高等学校校長は、「教員1名が起立不斉唱であった」旨の記述をしている報告書について実施機関は公開している【資料1】
- ア 実施機関は、本件事案においては起立斉唱の状況について不起立の人数は非公開としている。
- イ ところが起立不斉唱の人数については、【資料1】のごとく公開している。
- ウ 職務命令違反をしたというレベルで解釈すれば、「不起立」の人数も「起立不斉唱」の人数も同義であるはずである。ところが不起立は「非公開」、「不斉唱」は「公開」という理解できない判断をしている。
- エ この府立和泉高等学校長は、府教委への報告後しばらくして、彼の友人宛てに「不斉唱の該当者が3名いた」こと、「1名だけが事実を認めたこと」「組合員である」ことなど、「職務上知りえた事情聴取のやり取り」を、部外者である彼の友人にメールで報告している。【資料2】
- オ この府立和泉高等学校長の行為について、異議申立人が「守秘義務違反」「個人情報保護違反」として実施機関に指摘した【資料3】。これに対し実施機関は「当該校長の公表したものは秘密事項でない」から「守秘義務違反」に当たらないと回答している【資料3】。
- カ 実施機関はこの中で、「メールに記載されている情報では不斉唱だった個人を識別できず、その後の報道をあわせても個人を識別できるものではないと考える」【資料4】と回答している。
- キ この実施機関の「守秘義務違反にあたらない」「個人が識別されない」という判断によれば、本件異議申立に対する実施機関の反論は矛盾している。
(5)結論
- ア 申立人のおこなった「行政文書公開請求」と「府政へのご意見」に対して、実施機関は真逆の判断を示している。
- イ どちらの判断が正鵠なのか?
- ウ 以上の事由により、全部公開の答申を求める。
※異議申立書には、添付資料として「【資料1】卒業式の状況についての報告書(府立和泉高等学校長から実施機関宛)2012年3月2日付け?」、「【資料2】府立和泉高等学校長が友人宛に発したメール全文を、友人が転送したメール 2012年3月11日」、「【資料3】申立人が「府政へのご意見」窓口に投書した内容 2013年2月21日」、「【資料4】「府政へのご意見」に関連した実施機関からの回答およびやり取り 2013年3月7日と12日と14日」が添付されていた(添付略)。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね以下のとおりである。
1 弁明の趣旨
「実施機関の決定は妥当である。」との答申を求める。
2 弁明の理由
公開しないことと決定したことの正当性について
本件行政文書の非公開部分は、各府立学校における国歌斉唱時の列席教職員の起立斉唱の状況についての報告である。本件非公開部分が公開されると、不起立があった場合には不起立のあった学校と不起立であった教職員の人数が、広く府民に公開されることになり、これによって対象教職員個人が特定される可能性が十分ある。このことから、本件の非公開部分の決定については正当な判断に基づくものである。
3 結論
本件行政文書における非公開部分については、条例第9条第1号に基づき、公にすることにより、特定個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるものであり公開するべきものではないため、部分公開の措置を講じたものである。
よって、上記1の弁明の趣旨のとおりの答申を求めるものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。
2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
(1)条例第9条第1号該当性について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、条例第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
本号は、このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。
同号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報が記録された行政文書については公開してはならない旨定めている。
(2)条例第9条第1号該当性にかかる当審査会の判断について
当審査会において、本件非公開部分を公開しないものとした理由について実施機関に説明を求めたところ、以下のとおりであった。
本件行政文書に記載された情報は、何らかの理由で起立しなかった教職員数ではなく、学校長が事情聴取等を行った結果、正当な理由なく起立しなかった者と考える人数を記載したものである。したがって、本件非公開部分が公開され、不起立のあった学校と起立しなかった教職員の人数が明らかになれば、起立していない教職員を目撃した列席者の中には、職務命令に違反して起立しなかった教職員が誰であるかを特定できることがある。さらに、職務命令に違反して起立しなかった教職員はこのことを理由に懲戒等の処分を受ける可能性が高いため、起立しなかった教職員が特定されると、当該教職員が処分を受けたことという、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報が明らかになる。
以上の説明を前提にして、以下検討する。
- ア 上記(1)アの要件について検討すると、特定の教職員が職務命令に違反して起立したか否か及び当該教職員が処分されたか否かの情報は、当該教職員本人に関する情報である。
- イ 特定の教職員が職務命令に違反して起立したか否かの情報について、まず、上記(1)イの要件該当性を検討すると、本件非公開部分に記載されているのは、起立しなかった教職員の人数であり、これだけでは特定個人が識別されるものではないが、実施機関が説明するように、不起立のあった学校と起立しなかった教職員の人数が明らかになれば、その人数次第では、起立していない教職員を目撃していた列席者にとって、職務命令に違反して起立しなかった教職員が誰であるかを特定できる場合があり得ることは、否定できない。
そこで、上記(1)ウの要件について検討すると、本件非公開部分を公開することにより、職務命令に違反して起立しなかった教職員が特定されることになるとしても、当該情報は、当該教職員の職務遂行の内容に関する情報であって、懲戒処分を受けたことそのものではないうえ、当該教職員は、同僚や列席者に自分が起立しなかったことが目撃されることになることを十分承知していたと考えられるから、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報にあたるということはできない。 - ウ 次に、当該教職員が処分されたか否かの情報について、上記(1)イの要件該当性を検討すると、実施機関は、職務命令に違反して起立しなかったとして特定された教職員は職務命令に違反したことを理由に処分される蓋然性が高いと主張するが、懲戒等の処分が課されるか否かは本人への事情聴取等、別途の手続を経て決定されるものであり、法令等により、職務命令に違反して起立しなかった教職員をすべて処分する旨の定めが置かれているわけではない。したがって、本件非公開部分を公開することにより、職務命令に違反して起立しなかった教職員が特定されたとしても、当該教職員が処分を受けたという情報が公開されることになるとは言い切れない。
また、仮に職務命令に違反して処分を受けた教職員が特定された場合であっても、「大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例」の施行を受け、校長等から国歌斉唱時に起立をせよとの職務命令が出されているにもかかわらず、この職務命令に違反した行動をとれば、事後的に何らかの処分がなされる可能性が有ることについては、当該教職員も、十分に理解していたものと解される。したがって、職務命令に違反して起立しなかった教職員が特定し得る情報は、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に当たるということはできず、上記(1)ウの要件に該当しない。
以上のことから、実施機関が非公開とした「国歌斉唱時の列席教職員の起立斉唱の状況について」の回答部分については、特定の個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものということはできないため、条例第9条第1号に該当せず、公開すべきである。
3 結論
以上のとおりであるから、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
野呂充、松本哲治、小谷寛子、久末弥生