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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第226号)
暴力団対策法関係文書公開拒否決定審査請求事案
(答申日平成25年7月8日)
第一 審査会の結論
諮問実施機関(大阪府公安委員会)の判断は妥当である。
第二 審査請求に至る経過
- 審査請求人は、平成24年8月21日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府警察本部長(以下「実施機関」という。)に対し、「山口組ナンバー3の男の逮捕に係る書面全部。容疑は暴力団対策法の禁止命令違反。逮捕日は平成22年12月1日。毎日新聞H22.12.1夕刊8ページに報道あり。男はAという名。B組組長。」を請求内容とする行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、同年9月6日、本件請求に対応する行政文書(以下「本件行政文書」という。)について、条例第13条第2項の規定により、本件請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく本件請求を拒否する旨の公開請求拒否決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり理由を付して審査請求人に通知した。
(公開請求を拒否する理由)
本件請求は、特定の個人が警察に逮捕されたことに関する行政文書の存在を前提とするものである。
本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えることは、特定の個人が警察に逮捕されたか否かに関する情報を明らかにするものであって、個人のプライバシーに関する情報を公にするものである。
したがって、本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する情報を公開することになるため、同条例第12条の規定により、当該行政文書の存否を明らかにしないで、本件公開請求を拒否する。 - 審査請求人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第5条の規定により、大阪府警察本部長の上級庁にあたる大阪府公安委員会(以下「諮問実施機関」という。)に対し審査請求を行い、同年9月20日、諮問実施機関はこれを受理した。
第三 審査請求の趣旨
- 審査請求の趣旨
「大阪府警察本部長が平成24年9月6日付けで行った審査請求人に対する公開拒否決定処分を取り消す。」との裁決を求めます。 - 審査請求の理由
大阪府情報公開条例の解釈を誤っている。
第四 審査請求人の主張要旨
審査請求人の主張は、概ね次のとおりである。
- 大阪府警察は、山口組総本部長の地位にあるB組組長を、暴力団対策法違反で検挙したと、インターネットで公開している。
- 毎日新聞は、山口組総本部長であるB組組長Aを、暴対法違反で逮捕した旨、報じているが、情報源は、大阪府警捜査4課であると考えられる。
- 以上を総合すれば、本件決定が違法であることは明らかである。
第五 諮問実施機関の主張要旨
理由説明書及び審査会での説明における諮問実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 実施機関の意見
(1)本件決定の妥当性について
- ア 条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則とし、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
本号は、このような規定を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。
同号は、- (ア)個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- (イ)特定の個人が識別され得るもののうち、
- (ウ)一般に知られたくないと望むことが正当であると認められる
そして、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」とは、個人のプライバシーに関する情報を例示したものであり、「特定個人が識別され得る」情報とは、当該情報のみによって直接特定の個人が識別される場合に加えて、容易に入手し得る他の情報と結びつけることによって特定の個人が識別され得る場合を含むと解される。
また、「一般に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報とは、社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうと解される。 - イ 条例第12条について
本条は、公開請求に対し、当該公開請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで条例第8条及び第9条に規定する適用除外事項によって保護される利益が害されることとなる場合には、例外的に公開請求に係る行政文書の存否自体を明らかにしないで公開請求を拒否することができる旨規定している。
本条による公開請求の拒否は、公開請求に係る行政文書が存在するか否かも明らかにしないというものであり、安易な運用は行政文書公開請求制度の趣旨を損なうことになりかねないが、公開請求に係る行政文書の存否が明らかになることによる権利利益の侵害や事務執行の支障等が具体的かつ客観的に認められる場合には、本条によって公開請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく公開請求を拒否することができるものである。 - ウ 本件請求に係る行政文書の存否を答えることにより明らかとなる情報と条例第9条第1号該当性について
本件請求は、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)違反により、特定の個人が逮捕された事件(以下「本件逮捕事件」という。)に関する文書の存在を前提に、その公開を求めるものであり、該当する文書があるとして公開あるいは非公開の決定を行うだけで、特定の個人が逮捕されたか否かという情報を明らかにすることとなる。
このような特定個人の逮捕歴に関する情報は、前記アの(ア)及び(イ)の要件に該当することが明らかであり、また、個人のプライバシーに関する情報の中でもとりわけ機微にわたるものであって、社会通念上、他人に知られることを望まないものであることから、前記アの(ウ)の要件にも該当する。
また、審査請求人は、本件請求において、本件逮捕事件が、いわゆる全国紙と称される新聞記事において取り上げられていることを示しているが、仮に社会的認知度が高い人物に関する、新聞報道により世間に広く周知された事件であっても、特定の個人の逮捕に関する情報を明らかにすることはできない。
したがって、本件請求に係る行政文書は、その存否を答えるだけで、条例第9条第1号に該当する情報を公開することになるため、条例第12条の規定により公開請求を拒否したものである。
(2)実施機関の結論
以上のとおり、本件処分は条例の趣旨を踏まえて行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
2 諮問実施機関のまとめ
本件請求に係る情報は、条例第9条第1号に該当する情報であり、条例第12条の規定に
基づいて行った本件処分に違法、不当はないものと考える。
第六 審査会の判断
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は、本件請求に係る行政文書があるかどうかを答えるだけで条例第9条第1号に該当する情報を公開することになるため、条例第12条の規定を適用したと主張しているので検討したところ、次のとおりである。
- (1)条例第12条は、公開請求に係る行政文書の存否を明らかにするだけで第8条及び第9条に規定する適用除外事項によって保護される利益が害されることとなる場合には、例外的に公開請求に係る行政文書の存否自体を明らかにしないで公開請求を拒否することができる旨を定めており、条例第9条第1号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
- (2)これを本件についてみるに、本件請求は、特定の個人Aを名指しし、同人が特定の日に特定の容疑で逮捕された件に関する文書の公開を求めるものであるところ、本件請求に対し、請求に係る行政文書の存否を明らかにするだけで、特定個人が逮捕されたか否かという情報が公開されることになると認めることができる。また、一般に、個人の犯罪歴及び逮捕に関する情報は、個人のプライバシーに関する情報であり、条例第9条第1号の要件を満たすことは明らかである。
- (3)審査請求人は、山口組総本部長の地位にあるB組組長を検挙した旨が、実施機関が大阪府警察ホームページ(以下「ホームページ」という。)上で公開している「平成22年施策評価実施報告書」(以下「報告書」という。)に記載されていること、及び、B組組長Aが逮捕された旨が当時の新聞において実名で報道されていることから、Aが逮捕されたことは明らかであるから、Aが逮捕されたか否かの情報は、条例第9条第1号の要件を満たさず、条例第12条を適用するのは誤りであると主張しているものと解される。
しかし、ホームページで公開された情報は、Aの氏名を含むものではない上、実施機関の説明によると、審査請求人が示した報告書は、府民に対する警察行政の透明性の向上等を図るため当該年度に発生した重要な事実等を平成23年3月から平成24年3月までの間ホームページ上で公表していたものであって、本件決定の時点では掲載期間を過ぎており、また、同報告書の原本については一般の閲覧に供されていない。
また、過去に逮捕事実が実名で新聞報道されたことがあることをもって、特定の個人が逮捕されたという事実を将来にわたって開示してもよいという理由にはならないし、一時的に報道されただけであり、すでに逮捕事実発生から数年を経過していることから、現時点において、当該事実が一般に広く知られているとは言いがたい。
以上のことから、審査請求人の主張には、理由がない。
なお、平成25年4月9日、当審査会がホームページを見分したところ、「平成22年施策評価実施報告書」は、ホームページからのリンクによって閲覧することはできなかったが、検索エンジンを用いて検索するとウェブ上で閲覧が可能な状態であることを確認した。この後、平成25年5月28日に当審査会が見分したところ、報告書は検索エンジンを用いてもアクセスできなくなっているが、情報管理の面で問題のある対応であり、実施機関において、今後とも情報管理について、適切に対応するよう十分留意されたい。
3 結論
以上のとおりであるから、本件審査請求に理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員
野呂充、松本哲治、小谷寛子、久末弥生