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更新日:2009年7月8日

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人権基礎教育について

1 人権基礎教育について

(1)子どもたちの現状と課題

すべての子どもは、一人ひとりが人間としてかけがえのない存在であり、限りない可能性をもっています。そして私たちは、すべての子どもがお互いを尊重し支え合い、豊かな夢を育み、幸せに成長できる社会の実現に努める必要があります。

今日の子どもたちは、豊かな感性や自由な発想力・創造力などを発揮したり、文化・スポーツ活動・ボランティア等に自ら意欲的に取り組んでいる例も決して少なくはありません。

しかし、社会環境の変化に伴い、人間関係の希薄化や大人社会のモラルの低下、家庭・地域の子育て機能の低下、経済的な不安、さらにさまざまな偏見や人権侵害など、子どもを取り巻く環境は厳しく、子どもの成長に強く影響を及ぼしています。少子化や核家族化によって過保護・過干渉等が生じる一方、子育ての孤立化などによる悩みや不安から、時には保護者の子育て忌避などによる虐待が多く生起していることが大きな問題になっています。また、子どもどうしが地域や自然の中で遊ぶ機会が減少し、遊びの中で育まれていた社会性、想像力、感性などが育ちにくく、生命あるものを身近に感じる機会も減少している状況があります。

学校においては、仲間はずしや言葉・暴力による「いじめ」によって時には命にかかわる深刻な状況も生み出されています。また、不登校やひきこもりは増加傾向にあり、校内暴力や家庭内暴力、学級崩壊や小学校1年生における学級未形成の問題も見られます。さらに、少年犯罪における対象が幼児や高齢者などに向けられているケースや、少年非行の低年齢化等、深刻な課題が多くあります。

このような状況の下で、子どもたちが、自分への自信や他者への信頼を持ちきれていないこと、生命の尊さや自他の存在の大切さについての認識が弱いこと、人間関係を形成するための基礎となる自己表現力やコミュニケーション力が不足していること等が指摘されています。また、他人への思いやりや共感する心、集団生活における規範意識や倫理観、社会生活を送る上での善悪を判断する力などが希薄になっていること等も懸念されています。

(2)人権教育の推進と課題

大阪府では、すべての人の人権が尊重される社会の実現のために、「一人ひとりがかけがえのない存在として尊重される差別のない社会の実現」、「だれもが個性や能力を生かして自己実現を図ることのできる豊かな人権文化の創造」を府政推進の基本理念として掲げています。

府教育委員会では、平成11年(1999年)3月に「人権教育基本方針」及び「人権教育推進プラン」を策定し、人権教育を総合的に推進するための基本的な考え方及び具体的な施策の推進方向を明らかにしています。人権教育推進の基本視点としては、「人権問題を解決し、あらゆる差別のない社会を形成するためには、基本的人権を尊重することの重要性や、人間の尊厳に対する認識が社会に浸透することが重要」です。「また、多様な価値観をもつ人々が互いに相手の立場を理解して友好関係を保つことや、すべての人々が社会に主体的に参加できることも重要であり、これらの基礎を培うもの」としています。また、人権教育推進の基本方向として、人権及び人権問題について正しく理解すること、教育を受ける権利が保障されていること、またすべての教育が人権を尊重したものとして行われること、という3つの側面から推進することとしています。

これに沿って、各学校においては、「人権教育推進計画」を作成するなど、計画的に人権教育を推進してきています。その中で、自己肯定感や他者を大切にする心、生命の尊さに対する感性などの資質を培うとともに、人権問題に関する正しい理解を深め、社会の構成員としての責任を自覚し、豊かな人権感覚を持って行動する民主的な人間の育成に努めてきたところです。

しかしながら、子どもたちが学習を通じて学んだ内容が、知識・理解の段階にとどまり、自己の行動や態度に結びついていないことや、子どもたちは自尊感情を高められず、将来に展望をもちきれていないといった状況が見受けられます。

また、自らが権利の主体であるのと同様に、他者も権利の主体であることを認識した上で、それぞれの権利を尊重するとともに、社会の一員としての自覚のもとに責任を果たすという基本的姿勢が十分には形成されていない問題も指摘されています。

(3)人権基礎教育の推進

ア.役割と効果

子どもたちの状況と人権教育推進上の課題をふまえ、学校教育において人権教育の一層の充実が求められています。すなわち、一人ひとりの子どもに、自己肯定感を育むとともに、他者を尊重する態度を養うこと、自らが権利と同時に責任を果たす主体であるという認識を育成すること、また、自己表現力、コミュニケーション力等を高め、人間関係づくりを深めていくことが重要です。

大阪府においては、平成13年(2001年)3月に策定された「大阪府人権施策推進基本方針」や「人権教育のための国連10年大阪府後期行動計画」において、幼少期からの人権基礎教育の取り組みを位置づけています。すなわち、人権基礎教育は、「幼少期から生命の尊さや人の人たる道(人間として基本的に守らなければならないルール)に気づかせ、豊かな情操や思いやりをはぐくみ、お互いを大切にする態度と人格の育成をめざす」ものとし、「人権基礎教育に取り組むことは、その後の成長に応じた人権教育を実効的なものとする上で、大きな役割を果たす」としています。

また、同趣旨の提言が平成13年(2001年)9月の「大阪府同和対策審議会答申」でもなされています。

これらを踏まえ、府教育委員会としては、人権基礎教育については、幼少期から、人権意識や人権感覚形成の基礎として、生命の尊さに気づき、自分自身を大切にするとともに、人の気持ちを思いやる心を育み、お互いを大切にしあう態度や行動を育成するものとして推進します。また、人権基礎教育は、「人権教育基本方針」及び「人権教育推進プラン」で示している人権教育の基本的視点や内容・方向と合致するものであり、これをさらに効果あるものとして推進していくものです。

イ.内容と観点

人権基礎教育の内容として、まず、豊かな人権感覚の基礎として、自己肯定感や、生命の尊さに対する感性と、善悪を判断する力を育てることが重要です。その上にたって、他者の立場や思いを理解し思いやる心、他者とのより良い人間関係を築くために必要なコミュニケーション力、互いの違いを認め合って共に生きる姿勢を育むことが求められます。さらに、一人ひとりが、集団生活のルールや社会規範の大切さに気づき、自他の権利を尊重し、社会の一員としての責任を果たし、社会に貢献する態度を身につけることが大切です。

このことから、次の9つの観点にもとづいて人権基礎教育を推進します。

  • 自分が好き <自己肯定感(自尊感情)>
    かけがえない存在である自分を好きになり、自分自身の良さや個性を自覚し、それをさらに伸ばそうとする。自分に自信をもつとともに、人間への信頼感をもつ。
  • みんな生きている <生命の尊重>
    自らの生命の大切さを自覚するとともに、自分以外の他者の生命を尊重する。また、みな生命あるものは互いに支えあって生きていることに感謝の念をもつ。
  • よいこと、悪いこと <善悪の判断>
    何が正しく、何が誤りであるかを区別できる判断力を養い、勇気をもって望ましい行動をとる力を身につける。
  • やさしさ、あたたかさ <思いやり>
    さまざまな人々とかかわりながら、相手の気持ちを思いやり、相手の立場に立って考える力を身につけ、人に対するあたたかい心や共感する心をもつ。
  • つながる、わかりあう <コミュニケーション力>
    人と接することが好きになり、自分の気持ちや思ったことを表現できる。相手の気持ちや考えを受けとめながら、自分の考えをさまざまな方法で表現するコミュニケーション力を身につけ、豊かな人間関係を築く力を身につける。
  • みんな違って、みんな一緒に <共に生きる>
    いろいろなものの見方や考え方があることを理解し、それぞれの個性や立場の違いを認め、尊重するとともに、共に生きていこうとする態度を身につける。
  • 約束やルールを大切に <規範意識>
    基本的な生活習慣を身につけ、学校や地域の一員として生活する上で、約束やルールが存在することを理解する。さまざまな出来事を通じて、みんなが暮らしやすくするために、約束やルールを作ったりそれを大切にする態度を身につける。
  • 自分も人も大切に自分の役割をしっかりと <権利と責任>
    自分と他人の権利を尊重し、権利を行使するにあたっては、同時に他人の権利を守る責任が伴うことを認識し、公正や正義の態度を身につける。
  • 人のためにすすんで <社会貢献>
    自らが集団や社会の一員であることを自覚し、自分にできることを見つけ、積極的に協力したり、すすんで行動しようとする態度を身につける。

各学校が人権基礎教育に取り組むにあたって、その内容を観点別のねらいとして、次項の表に取りまとめました。学校教育としての連続性や系統性に留意し、子どもの成長・発達段階に応じて、効果的に人権基礎教育を展開する参考とするものです。

とくに、幼稚園および小学校低学年段階においては、次のような発達段階を踏まえて、人権意識や人権感覚形成の基礎となる態度の育成に重点をおくことが大切です。

<幼稚園段階>

  • 自己肯定感や他人を大切にする心、生命の尊さに対する感性を育む。
  • 遊びや活動を通し、健康で安全な生活を送る習慣を身につける。
  • 進んで身近な人とかかわり、自然・社会へと視野を広げる。

<小学校低学年段階>

  • 集団や社会生活における人間関係づくりの基礎を育む。
  • 集団生活のルールや社会規範について学ぶ。
  • 他者とのトラブルを解決する経験を通して、他者の気持ちを共感的に理解したり、人を信頼することの大切さに気づき、違いの存在を認める態度を育てる。
(表)人権基礎教育 9つの観点別ねらい
観点 自分が好き みんな生きている よいこと、悪いこと やさしさ、あたたかさ つながる、わかりあう みんな違って、みんな一緒に 約束やルールを大切に 自分も人も大切に自分の役割をしっかりと 人のためにすすんで
自己肯定感 生命の尊重 善悪の判断 思いやり コミュニケーション力 共に生きる 規範意識 権利と責任 社会貢献
子どもの成長 自分の良さを知り、明るく伸び伸びと行動し充実感を味わう。 動植物の世話を通して、生き物に親しむ。また、人とのふれあいを通して生命の尊さに気づく。 やってもよいこと、やってはいけないことがあることに気づく。 家族や地域の人々など自分の生活に関係の深い人々に親しみをもつ。 日常生活での挨拶や言葉かけ、遊びなどを通して、自分から友だちにつながる。 友だちとの遊びを通して、お互いの良さや違いについて気づく。 正しく規則的な生活習慣を身につける。 家族の一員として大切にされていることに気づく。 自分の周囲にある自然やことがらについて、積極的に関心をもつ。
自分の成長には多くの人々の支援があり、自分がかけがえのない存在であることに気づく。 生活の中で自然や人とふれあい、生命の尊さを知り、生命あるものを大切にする。 よいことと悪いことの区別をし、よいと思うことを行えるようにする。 さまざまな人々とふれあい、思いやりのある、温かな心で接する。 したこと、見たこと、聞いたこと、感じたこと、考えたことなどを自分の言葉や様々な方法で表現する。 違いを認め合うとともに、人間として共通する思いや願いがあることを知る。 友だちとのかかわりの中で生じるトラブルに対し、解決の方法やルールについて知る。 友だちや家族とのかかわりを通して、その一員としての自覚をもち、自らの果たすべき役割に気づく。 友だちや地域の人々との出会いや活動を通して、自分と集団や社会とのつながりに気づく。
自分らしさや自分の良さに気づくとともに、それを伸ばそうとする。 誕生や成長についての親やまわりの人の思いを知り、生命の大切さを自覚し、自他の生命を尊重する。 よいことは勇気をもって行い、よくないことは勇気をもってやめる態度を身につける。 相手の気持ちを知り、相手の立場に立って、自分のできることを考える。 相手の意見を聞き、また、自分の意見を積極的に述べることを通して、コミュニケーションが好きになり、それを豊かにするスキルを身につける。 自分の個性や良さを認識し、伸ばそうとするとともに、友だちの個性や良さを発見する。 集団生活におけるルールの存在に気づき、それらを作ったり守ったりすることを通して、望ましい生活態度を身につける。 身近な人とのかかわりを通して、自分の権利を主張することと同時に、相手の権利を尊重することの大切さを知る。 自らが集団や社会の一員であることに気づき、自分にできることを進んでする。
自分に自信を持ち、自己理解に努め、自分の良さや個性を伸ばそうとするとともに、人間への信頼感を培う。 自他の生命を尊重するとともに、生命あるものが互いに支えあっていることに感謝の念をもつ。 何が正しく、何が誤りであるかを判断し、適切な行動がとれるようにする。 さまざまな人々とかかわることの大切さを理解し、接しようとする態度を身につける。 コミュニケーションを通して問題を解決したり、豊かな人間関係を築こうとする態度を身につける。 性や障害の有無、民族や言語などの違いに気づき、多様性を認め合い、向上心をもって共に生きていこうとする態度を身につける。 家庭や地域社会との日常的なかかわりの中で起こる身近な出来事などを通して、約束やルールを大切にする態度を身につける。 自他の権利を尊重するとともに、社会や集団における自分の役割と責任について考え、果たそうとする。公正と正義の態度を身につける。 自分の住むまちや地域活動・ボランティア等に興味をもち、自分が他の人のためにできることを見つけ、行動しようとする態度を身につける。

2 人権基礎教育を取り組むにあたって

(1)効果的に推進するために

すべての教育活動は、人権が尊重されたものとして、またそれにふさわしい環境で行われることが必要です。そのためには、まず教職員が鋭敏な人権感覚・意識をもつことが大切です。とりわけ、幼少期においては、子ども一人ひとりの発達の特性を十分に理解し、その多様な教育課題を明らかにして、調和のとれた発達の基礎を築くことに努める必要があります。指導にあたっては、以下のような姿勢をもって進めることが大切です。

子どもと接する姿勢

  • (1)子どもを、背景を含めて理解する
    • 子どもの気持ちを聞き、子どもを受容し、多様な面をトータルに理解する。
    • 子どもの発達段階や心理状態、家庭や社会の状況など、子どもを取り巻く背景を把握する。
  • (2)子どもの思いに共感し、子どもの立場に立って考える
    • カウンセリングマインドをもち、学習・生活・進路等の希望や不安を受けとめる。
    • 子どもとの信頼関係づくりに努め、すべての子どもが心の居場所をもち、存在意義を感じられるようにする。
  • (3)子どもの自立を支援する
    • 自己肯定感や自分への自信を育て、他者を受け入れ、夢と目標をもって努力する姿勢を育てる。
    • 一人ひとりの違いを認め、個性を尊重し、子どもの自主性・積極性を伸ばしていく。
  • (4)子どもの人間関係づくりを進め、仲間づくりを支援する
    • 協力することや仲間の大切さを実感しながら、お互いの良さと違いを認め合える対等な関係づくりを進める。
    • 自己表現力やコミュニケーション力をつけ、もめごとや問題を平和的に解決する力をつけるようにする。
      • ※特に幼児に対しては、遊びや人とのかかわりを通して、人間形成の基礎を培う
        • 教職員は、幼児が精神的に安定するためのよりどころとなるとともに、自身の行動(生活態度や言葉遣い、人との接し方、社会規範、善悪の判断、等)が幼児のモデルとなるように意識し実践する。
      • ※特に低学年児童に対しては、仲間と一緒の生活体験の中で、社会性を育てる
        • 友だちや、地域の人との出会いを通して、社会生活上の基礎的なルールを身につけるように支援する。

連携と対応の姿勢

  • (1)保護者・地域社会の人々と連携する
    • 子どもを中心に据えて、保護者の思いを受けとめ、信頼関係づくりに努め、保護者の子育てを支援する。必要に応じて、適切な呼びかけや啓発、助言等を行う。
    • 地域に開かれた学校づくりをめざして、地域の人との出会いやつながりを大切にし、協力を進める。
  • (2)組織として対応する
    • お互いの個性を発揮しながら、男女協働参画の視点に立って、教職員のチームワークを高め協力して対応する。
    • 子どもを多様な観点から理解するとともに、めざす子ども像や方針等を一致させ、組織的に取り組む。

(2)プログラム化にあたって

スキル(技能)の習得をめざして

人権教育を進めるためには、知識・理解を深めるだけでなく、自分自身の行動原理や態度を育成するとともに、自己表現力やコミュニケーション力などの必要な技術・技能の習得を図る必要があります。これに関連して、WHO(世界保健機関)では、日常生活で生じるさまざまな問題に対して、効果的に対処するために必要な能力として、10のライフスキルをまとめ、トレーニング(訓練)のためのプログラムをつくっています。すなわち、(1)自己認識、(2)共感的理解、(3)コミュニケーション、(4)対人関係、(5)創造的思考、(6)批判的思考、(7)感情への対応、(8)ストレスへの対応、(9)意志決定、(10)問題解決、のスキルです。これらは青少年の健康教育だけでなく、人権教育においても必要な技能であり、また人権基礎教育の9つの観点、及び上記の、子どもと接する姿勢とも共通した部分が多くあります。人権基礎教育を取り組むにあたっても、こうしたスキルの獲得について意識しながら取り組む必要があります。

効果的な手法を取り入れて

学習の手法については、知識伝達型にとどまらず、参加・体験型学習を取り入れるなど、効果的に人権感覚・人権意識を高められるよう工夫し、充実を図ることが大切です。参加・体験型学習では、お互いに意見を出し合い、受け入れながら、合意を形成するやりとりを通じて、ちがいを認識する力やコミュニケーション力、集団にかかわる技術・技能等の能力が高まることが期待できます。

次章の人権基礎教育の展開例でも、手法として、読み物教材や絵、ワークシートをはじめ、ロールプレイや聞きとり、交流や話し合い、行動など多様な方法を紹介しています。また、ボランティア活動や自然体験活動、地域の文化・伝統に親しむ活動をはじめ、地域での聞きとりや調査など、子どもたちの興味・関心を引き出し、体験を通して心を豊かにするような工夫が大切です。さらに今後、映像メディアやインターネットの活用、詩歌や郷土の歴史人物のエピソードを取り入れる等の取り組みが考えられます。

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