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気持ちをわかることで <正しいことがきちんと言える>
(5)気持ちをわかることで <正しいことがきちんと言える>
単元名
- 「どうしよう?」(特別活動)
- 「とりあいじゃんけん」(人権教育読本『ひと いのち』低学年用)
観点
◎善悪の判断 ○思いやり ○共に生きる ○規範意識 ○コミュニケーション力
ねらい
- 人の気持ちや痛みがわかり、正しいことを自分で判断し、勇気を出して行える態度を養う。
ここでは、日常の仲間との生活や遊びの中で起こるさまざまな場面を通じて、間違ったことを見抜き正しいことを行うことができる態度を育てる。 - 展開例1では絵を通して、展開例2では読み物教材を通じて、もめごとや仲間はずれ、いじめなどに直面した時の行動のあり方について考え、正しいと思うことが出せない理由や悩みなどを素直に出しながら、みんなが気持ちよく生活できるための仲間関係のあり方について考えるとともに、自己主張や問題解決のスキルについて学ぶ。また、違いを認め合い、お互いを尊重できる態度を培う。
展開例1
「どうしよう?」(絵)
学習活動 | 指導者の働きかけ・留意点 | 予想される反応 |
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1 「どうしよう?」(絵)を見て気づいたことを話し合う A(仲間はずれ)・B(いじめ)、それぞれの絵について |
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2 気持ちについて考える 自分たちの経験をふりかえって、つなげて考える |
※いじめている子の立場(背景につらいことがあることもある)や気持ちにも思いをはせるように。 ※特定の子に対する決めつけにならないように。 |
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3 無視している子・悩んでいる子について考える |
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4 どうしたらいいんだろう どんな仲間・クラスをつくっていくか考える |
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5 (発展して)学校生活以外の場面について考えよう |
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展開例2
「とりあいじゃんけん」(『ひと いのち』)
学習活動 | 指導者の働きかけ・留意点 | 予想される反応 |
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1 前半を読みとる 「あんた、いらん」と言われた子の気持ちを考える |
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2 後半を読みとる 「いらない」と言われた「ぼく」の気持ちを考える |
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3 日常の生活をふり返る 自分の経験を思い出す |
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4 学級での仲間の気持ちを考える |
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5 解決方法を考える 解決できることを実感し、展望をもてるようにする。 |
※はずされた経験のある子がその役によって傷つくこともあるので配慮する。 ※(1)そのままのパターンでやり、(2)次に解決方法を取り入れたシナリオでやる。 |
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取組例(小学校)
いじめに正面から向き合った
- Aへのいじめに学年全員で向き合った
Aを取り囲んで何人かで悪口を言ったり、いやがらせがあった。朝の会の直前でほとんどの子が見ていたはずなのに、だれも自分からすすんで、見たことを言わないことにショックを受けた。
Aにしたことはいけないことであるとわかっていながら、どうしてやったのか、その自分を深く見つめ、本音を言えるまで話を聞いた。そこから一人ひとりの課題が見えてきた。
友だちに嫌われていてAをみんなでいじめることで友だちとつながろうとしていたB。回りの雰囲気につられて深く考えずにやってしまったC。いけないとわかっていながら、断ると次は自分がいじめられるのでは、と不安で加担してしまったD。
学年集会では、どうしてそんなことになってしまったのか、自分の弱さや卑怯なところ、今までの葛藤も出して、本音を出し合った。ほとんどの子どもが泣きながらAに謝り、謝るだけでなく、自分を語っていった。友達に嫌われたくなくてAをいじめてしまったこと。家のことでイライラしてAに当たってしまったこと、などなど……。次々、手を挙げて泣きながら話し出した。Aも肩を震わせながら聞き、一人ひとりに言葉を返していった。学年集会はみんなの思いと涙で溢れた。 - B:自分がくやしくて
「友だち関係を間違っていた。みんな、前の自分がくやしすぎて泣いたと思う。『なんであの時にしたんやろ』『何のためにしたんやろ。こんなん許してくれるん。何の得があったんやろうかな』と思って、みんなの倍以上にくやしかったです。」
取組例(幼稚園)
愛情を欲しがる子どもたち
- わざと悪態をついて愛情を試す子どもに対して
Eさんは、虐待により現在、児童養護施設で生活を送っている。初めて出会う人には必ず“試し行為”をする。4月、教師の名前を呼び捨てにしたり、「お前」と話しかけたり、何でも「イヤ」と言ったりつねったり行動が見られた。しかし、これはEさんが担任の愛情を試す行為であるととらえ、「おはよう!よく来たね」と言って抱き寄せ、愛情を伝えることを大切に接した。一週間ほど経った頃、「そんな言い方されたら先生、嫌な気持ちするな。今度から*先生って呼んでね」と話すと、素直にうなずき、「*先生」と呼ぶようになった。 - “人としてこうなってほしい”という願いがあるから
また、Eさんが爪を立ててひっかいた時には「そんなことをしたら駄目!先生とても痛くて悲しいよ!」と少し厳しく注意をすると「ごめんなさい」と涙を流し、素直に謝ることができるようになってきた。Eさんが集団生活をする上で、人に危害を加え、傷つけるような行為はしてはいけない、ということは伝えねば。それは、今後、自分も人をも大切にし、ともに生活する基盤となるはずだから。 - Eさんの気持ちが安定するように、受けとめながら
出欠席をとる時や歌を歌う時には保育室で座っているが、全員でゲーム遊びやごっこ遊びをするようになると保育室から出て行ってしまう。どうすればEさんが参加してくれるようになるのか考えない日はなかった。焦る気持ちがあったが、Eさんにとって今一番大切なことは、自分の思いを存分に出し、気持ちを安定させることである。その時間を保障しながら、Eさんがクラスに帰ってきた時には、「おかえり、Eちゃんが帰ってくるのを待っていたよ」「先生、Eちゃんがお部屋から出ていくと悲しいよ。みんなやEちゃんと一緒に遊びたいな」と気持ちを伝える努力をしていった。 - 興味あること・いいところを見つけ、愛情を注ぐ中で
同時に、Eさんが興味をもって取り組める歌や踊りなどの音楽的活動を取り入れるようにした。そして、Eさんが参加できた時には思い切りほめ抱っこをしたりして、教師の喜びを全身で感じとれるようにした。こうして5月過ぎにはほぼ毎日の活動に参加できるようになった。教師自身の人間性が問われ続けるような苦しい日々だったが、心が通いだし、互いに相手を信頼できるようになれた時にはこの上ない喜びを感じた。Eさんには、教師としての原点を見つめ直す機会を与えてもらったと思う。
取組例(幼稚園)
「悪い子」と否定的に見ずに、寄り添うことで
- 生き物をいじめるので、制止し説得するが効果なく…
4月中旬、ウサギがびしょ濡れで震えておりびっくりした。F児がジョロで水をかけていた。すぐにやってはいけないことだと知らせたが話を聞いていない。そんなことが1ヶ月ほど続いた。5月に入り、アリやダンゴムシ、ミミズを見つけると踏んだり引きちぎったりしていた。なぜするのか尋ね思いを聞き出そうとしたが返事がなく話も聞いていない。仕方なく行動を制止し、虫にも命があり死んでしまうことを繰り返し話した。クラスの子も「かわいそうやん、やめたりや」と声をかけにいく子が出始めたが、余計に面白がって繰り返していた。 - 頭から否定せず、受け入れながらさとす5歳児
そんな時、5歳児がF児に水をかけられて、話しかけている姿を見てハッとした。5歳児はF児を責めるのではなく「水をかけるのはおもしろいよな。でもぼくやったらいいけど、ウサギさんにはかけたらあかんで」と、それまで、どうしてF児は残虐な行為をするんだろう、やめさせなければ、という思いが強く、F児の行動を否定していたつもりはなかったが、自分の言葉がけを振り返ると、「してはいけない」「だめだよ」と彼の行動を否定していたのだと気づかされた。 - 生き物への興味を生かし、親しみが持てるように
6月中旬、カエルをみつけたF児は土の中に埋めたり水の中に入れたりを繰り返していた。友だちの「放したりやん、かわいそうやん」の声にもやめずに繰り返していた。その時、教師の「どうして土に埋めるの?」の問いかけに「カエルは土の中に住んでいるってテレビで言ってた」と。F児に生き物に興味と親しみをもつ良い機会だととらえ、絵本の部屋に行き一緒に調べた。するとF児はカエルの冬眠について知り、「今は水の中に住んでるねんて、だから水に入れる」と言ってきたので、生き物を大切に扱えるようになってほしいと思い、一緒に飼育することにした。次の日からF児は毎日、飼育ケースを覗き、カエルの様子を見ていた。これまで生き物を粗末に扱っていたが、飼育することでカエルに愛情をもつことができるようになった。 - 「悪い子」と決めつけず、輝く場をつくることで
クラスの子らが、周りの子に合わすことができず生き物を大切に扱えないF児を「悪い子」という目で見てしまっていたのは、入園当初の教師のF児に対する言葉がけの影響があったと思う。F児の発見や良いところを知らせたり、得意な絵や工作を披露しながらF児が輝いていける場を作り出していった。「F君は虫のことをよく知っているし怖がらずに触れるからすごい」という声が聞かれるようになり、「何してるん」と一緒にかかわろうとしたり、F児に刺激を受けて生き物に興味をもって一緒に飼育する姿が見られ出した。F児自身も友だちからかかわってきてくれると、嬉しそうに自慢しながら虫のことを話したりするようになった。
- 受けとめて信頼関係をつくりながら 些細なことで乱暴してしまうG児に対して(4歳児)
G児は入園当初から行動が目立ち、物を投げ飛ばす、友だちを後ろから突き倒す、叩くなど日常茶飯事だった。しかし話はよく聞いていて、友だちにやさしい面が見られた。些細なことで乱暴な行動をとってしまうG児の良い所は褒め、感情を爆発させる前に教師に訴えていくように仕向けた。なぜしてはいけないのか、したらどうなるのか、目の前の結果を見ながら繰り返し話していくと、次第に教師の前では「はっ!」と思い止まる様子が見られてきた。
ある日、「先生、H君が砂かけた」と言ってきたので、この時を逃さず「まあGちゃん、すぐに叩いたりせずよく我慢したね。先生すぐ行くわ」と砂場に行き、砂をかけた子に声をかけた。「でもGちゃんえらかったね。先生うれしいわ。だって怒らずに先生に言いに来てくれたからね」とG児を抱きしめた。G児は満足そうな表情になった。こんな経験を繰り返しながら、友だちの気持ちを理解して、自分の感情を抑えるようになって、善悪の判断ができるようになってほしいと願っている。
取組例(幼稚園)
みずから判断し行動できるように
感情が抑えられず、友だちや教師に乱暴にしてしまうI児。粘土やブロック遊び、電車が好き。一対一の関係では落ち着く。指導方針として、(1)I児を許容し信頼関係を作る、(2)生活習慣を身につけさせる、(3)友だちの中で人との正しいかかわり方を知らせる、(4)母親の子育てを励ます、として取り組んだ。
I児のとった行動 | 教師の援助 | 友だちとの関係 |
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他児の遊んでいる物が欲しかったり、思い通りにならないと、叩く・蹴るなどする。制止すると更にひどくなる。 | I児を抱きしめて乱暴を止め、落ち着くまで満身の力を込め体で受け止める。 静まるのを待ってI児の思いを聞き、乱暴はいけないことを話す。 |
教師に「I君はいつも悪いことするねんで」とささやくJ児。「そんなことないよ」と強く言う。 |
「うるさーい!」と叫び、教師を叩く・蹴るなどして話を拒絶する。 | 登園時から何度も声を声をかけてかかわりをもつ。 I児のいい所を見つけ、できるだけ褒める。 感情を爆発させる前に教師に訴えてくるように仕向けた。 |
I児に物をとられると、黙って奪い返すので「話をして返してもらおう」と諭す。 |
友だちが作った作品をひっくり返す。注意に対して「うるさい」と一言だけ言い放つ。 | 「それはダメ」と注意すると、誰もいない部屋でじっとして考えている様子。そっと見守る。 次第に教師の前では「はっ!」と思いとどまる様子が見られてきた。 |
輪つなぎをしたり、友だちから誘いかける姿が見られる。 K児はI児が暴れると時々、体ごと飛び込んで止めに入る。 |
消化器の扉を開いてI児がしたと友だちに責められ「Iくん死んだっていいもん」とつぶやく。 | 「先生は悲しいし友だちも心配している」と気持ちを込めて話すと、教師の差し出す腕の中に入る。 | いつもと様子の違うI児に驚いて数人の子が心配そうに近づき優しく話しかける。 |
幼児期に身につけたい善悪の判断力
- 4歳児
- 自分の物と人の物を区別する
- ルールや約束を知り守る
- してはいけないこと、言ってはいけないことを考える
- 5歳児
- 周りの状況に適応した態度や行動を考える
- 相手の立場に立って考え、いたわりの気持ちをもつ
- 社会のルールや約束、生活習慣の必要性を知る
年間の見通し
- 1期
- 友だちの存在を知る
- 友だちの嫌がることをしない
- 2期
- 人に迷惑をかけない
- ルールや約束を守る
- 3期
- 友だちと遊ぶ楽しさを知る
- 助け合ったり譲ったりできる
- 4期
- 相手の立場に立って考えることができる
- 自らよいこと悪いことを考え判断していこうとする
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