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施設コンフリクト(資料1-4)
4.施設コンフリクト解消の基本方向
(1) 行政の自己革新
- 1950(昭和25)年に成立し、1965(昭和40)年に一部改正された精神衛生法時代は、薬物療法も未発達で、精神病院への収容が中心であった。結果として、精神障害者等は、長年地域から隔離された生活を余儀なくされてきたといえる。社会的入院の問題や、回復途上の精神障害者の地域での自立や就労の促進、社会復帰施設の整備等にあたって大きな阻害要因となっている、精神障害者等への誤解や偏見に基づく差別は、たぶんにこのような政策過程の中で生まれた問題であると考えられる。
- 1987(昭和62)年に、度重なる病院内での人権侵害事件の発生の反省から、入院患者の人権保護と社会復帰の促進が叫ばれ、精神保健法の改正がおこなわれると共に、知的障害者の地域生活の援助の一つの方法として、グル-プホ-ム制度の創設への提言が、中央児童福祉審議会から提出されたのが、翌88年である。
- 本府においては、昨年の大和川病院事件を契機として、依然として、多数の社会的入院者の存在が明らかになり、早急な地域生活への移行のための条件整備が必要であることが、改めて認識された。府は、国の指導に基づき、国庫補助金を求める際の要件の一つとして、地元同意等を求めてきたことが、結果として障害者の生活の場の確保を停滞させてきたことに対し、十分な認識が必要である。
- 障害者が地域社会のかけがえない一員として、安心して生活を送れるため、 住民の理解を促進する取り組みが必要なことは当然であるが、このことが施設設置に係る住民同意の必要性に結びつくものではない。特に、予断、偏見に基づく住民運動については、行政として毅然とした態度で取り組むことが必要である。
- また、地域住民との同意を巡り、徒らに時間を費やすことは、必要な自立支援サ-ビスのネットワ-クの中で「人間関係があり、友達がおり、固有名詞で呼ばれ、社会参加し続けたい」と願う人々の存在を断ち切ることにもなる。
- このような視点に立ち、今後、大阪府としては、行政の自己革新を進め、施設コンフリクト解消の大きなポイントとなっている地域住民の「同意」の必要性 について見直すこととする。
- また、これまで経済効率優先の考え方で、社会が形成されてきたことに伴い、一方で、多くのバリア-を生み出してきたことは事実であり、こうした点を十分 踏まえ、「共に生きる社会」づくりに向け、諸制度や事業を見直し、併せて当事者によるチェック体制の整備を進め、利用者本位の施策の選択と展開が必要である。
- とりわけ、精神障害者に関する施策が、他の障害者施策に比べ立ち遅れている状況を踏まえ、精神保健福祉法第3条の趣旨(国民に対して精神障害者に対する理解を深め、偏見をなくすとともに、精神障害者が社会復帰をし、自立と社会経済活動への参加をしようとする努力に対して、協力を求める)を生かし、「人権教育のための国連10年」とも連動しつつ、あらゆる機会を通じた不断の人権教育の推進をはじめ、精神障害者の自立生活支援システムを形成する必要がある。
(2) 今後の対応方針 (当面の取り組み)
- 現在、施設コンフリクトに関して、早急に改善すべきと考えられている地域住民の同意条件については、以下の方針で臨むこととする。
- 国庫補助金の対象となる社会復帰施設(生活訓練施設、福祉ホ-ム、授産施設)については、「住民同意書」を施設助成条件としない。なお、府は、国の指示に基づいて住民の同意があることを認可の要件としてきているが、こうした手続きそのものが、結果として法の趣旨にそぐわない障害者の権利を阻害してきたとの認識にたち、国に対してはその撤廃を要望していく。
- 身体障害者、知的障害者施設については、「住民同意書」が施設助成条件とはなっていない。なお、国との協議書類に、「地域住民への説明等の状況」を記すこととなっており、これまで、地元説明の状況として、同意書が添付されていたが、今後は、施設設置者へ「同意書」が条件となっていない旨の説明を徹底していく。
- グル-プホ-ム制度(地域生活援助事業)は、その制度の趣旨として、地域生活を希望する障害者に対し、日常生活における援助等を行うことにより、 障害者が、地域における自立生活を助長することを求めている。また基本的人権である住宅の確保が、制度の中で大きな位置をしめているという認識のもとに、府営住宅におけるグル-プホ-ムについても、広く府民に対してグループホーム制度についての理解を求めていく。なお、グル-プホ-ムの円滑な整備促進を図るため、地元市町村と「グル-プホ-ム推進会議」を設置するなど、障害や障害者、ならびに障害者施策 に対する正しい認識や理解を得るための啓発等を推進するものとする。
- 施設コンフリクトの解消のためには、「共に生きる社会」の実現に向けた住民意識の醸成と日常生活における実践が重要であり、そのために、これまでの様々な課題解決のために取り組まれてきた人権教育・啓発の成果をより発展させ、その充実を図るとともに、今後のまちづくりの重要な方向性として、施設が障害者の自立支援システムに不可欠な要素として組み込まれ、また地域の誇れる社会資源として機能するよう、積極的な位置づけを行う。 (今後の検討事項)
- 国において、「障害者プラン ノ-マライゼ-ション7か年戦略」を策定し、身体・知的・精神障害者共通の圏域として、概ね人口30万人を目安とする 「障害保健福祉圏域」の設定を促している。本府においては1997(平成9)年12月に円滑な福祉サ-ビスを提供するシステム作りを目指して、身体障害者(児)、知的障害者(児)及び精神障害者に共通の圏域を、概ね30万人を規模に設定している。設定にあたっては、本府が既に定めている基本保健医療圏や老人保健福祉圏域を細分化していくこととし、市町村の自然なまとまり及び精神障害者、難病患者等のための重要なサ-ビス資源となっている保健所所管区域を参考に「障害保健福祉圏域」を設定したところであり、今後、障害者施策の実施にあたって市町村間及び障害保健福祉圏域間の調整等を行い、市町村が地域の実態や多様なニ-ズを把握し障害者計画を策定していけるよう、指導・援助について検討を進める。
- バリアフリ-な街づくりからさらに進めて、個々のニ-ズに対応し、すべての人にとっても使いやすく、住みやすい、いわゆるユニバ-サルデザインを追求していくことが求められており、全ての住民を対象とする街づくり・社会づくりに向けた、総合的な取り組みについて、その体制づくりを含め検討を進める。
- 本府においては、「新大阪府障害者計画」(1994・平成6年3月策定)に基づき、障害者施策の総合的かつ計画的な推進に努めているところであるが、計画的な施設整備とともに、障害者の地域での生活を支援していく拠点としての施設等のあり方を示しながら、市町村や民間における施設整備等にあたっての相談・支援体制のあり方の検討を進める。
- 従来、精神保健福祉サ-ビスは、都道府県の業務と認識されていたが、今後は知的障害者、身体障害者と同様、精神障害者の保健福祉サ-ビスを進める市町村の役割が大きくなると考えられる。このため、市町村が精神保健施策等を主体的に推進していけるよう、府としては、支援のあり方の検討を進める。