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2 人権問題の実態(宅地建物取引業者に関する人権問題実態調査結果2)
(1)宅地建物取引業者に関する人権問題実態調査結果
その6 母子家庭・父子家庭への入居差別
シ 家主から母子(父子)家庭の入居を断るように言われた経験
家主から「母子(父子)家庭の入居を断るように言われた経験がある」業者は、1割を下回っています。
ス 母子(父子)家庭の入居を断る家主の態度に質問に対する考え
「差別である」と考えている業者は5割強である一方、4割強の業者が「差別とは言えない」「一概には言えない」としており、依然として、母子(父子)家庭に対する正しい理解と認識が低い業者が存在していることがうかがえます。
令和3年度調査結果について研修会等への参加経験の有無別で見ると次のようになります。
人権問題にかかる研修会や講演会等への参加経験別で見ると、研修会等への参加経験がある業者の方が、外国人、障がい者、高齢者及び母子(父子)家庭問題に対して正しい理解と認識を持っていることがわかります。このことから、大阪府や業界団体等が開催する研修会の効果があらわれていることがうかがえます。
セ LGBTの入居を断るように言われた経験
家主から「LGBTの入居を断るように言われた経験がある」業者は、1.8%が断られた経験をもっており、LGBTに対する家主側の入居拒否意識が存在していることがわかります。
ソ 宅地建物取引業に関する人権関係法令等の認知状況
平成21年度調査以降に施行等された、次の5つの人権関係法令等について、その内容の認知状況の調査を行ないました。
- 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
- 部落差別の解消の推進に関する法律
- 大阪府の「宅地建物取引業法に基づく指導監督基準」
- 宅地建物取引業法第47条における同和地区に関する告知の取扱い
- 大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例の遵守事項
これらの法令等は、宅地建物取引の業を営む上で、必ず理解しておく必要がある重要なものです。「知っている」と答えた業者は、少なくとも約7割はあるものの、「知らない」と答えた業者もそれぞれ1割以上となっています。これらの法令等を理解して業を行っていくことが必要です。
その7 まとめ
宅地建物取引の場における人権問題
「取引物件が同和地区であるかどうかの質問を受けた経験がある」業者は1割強あり、家主から特定の理由により入居を断るように言われた経験がある業者は、その理由が「母子(父子)家庭」の場合は1割弱、「障がい者」の場合は1割強、「外国人」の場合は3割弱、「高齢者」の場合は3割強となっています。これらのことから、宅地建物取引の場において、人権問題が依然として存在していることがわかります。
人権問題に関する業者の理解と認識
取引物件が同和地区であるかどうか質問する取引相手に対する考えとして、「差別につながる」と考える業者は約6割であるものの、「差別とは無関係」又は「差別とは一概には言えない」と考える業者も約4割となっています。
また、外国人の入居を断る家主の態度に対する考えとして、「差別である」と考える業者は約3割しかおらず、「差別とは言えない」又は「差別とは一概には言えない」と考える業者が6割を超えています。
このように、人権問題に対して、正しい理解と認識が不足している業者が多数いるといえます。
宅地建物取引業の運営に関し適正を欠く行為
「取引の対象となる物件が同和地区に所在するか否かについて調査すること又は取引関係者に教示すること」や「賃貸住宅の入居申込者が外国人、障がい者、高齢者又は母子(父子)家庭であるという理由だけで、その該当者からの入居申込みを拒否すること」は、大阪府の「宅地建物取引業法に基づく指導監督基準」においても「宅地建物取引業の運営に関し適正を欠く行為」であるとして指導等の対象となる行為です。
同和問題に関する宅地建物取引業法上の扱い
「お客さんに、同和地区かどうかを気にするのは誤りだと言いたいと思う」という問いに「そう思う」又は「やや思う」と答えた宅建業者が約7割であるにもかかわらず、約5割の宅建業者が「同和地区の物件であろうとなかろうと、お客さんの質問にはありのままに伝えなければならないと思う」という問いに「そう思う」又は「やや思う」としています。
お客さんに、同和地区かどうかを気にするのは誤りだと言いたいと思う。(再掲)
同和地区の物件であろうとなかろうと、お客さんの質問にはありのままに伝えなければならないと思う。
この一因として、「取引相手から同和地区の存在について質問を受けた場合、回答しなければ宅地建物取引業法第47条第1項に抵触する」との誤った解釈をしている宅建業者がいることが考えられます。
お客さんからの同和地区に関する質問に答えなくても宅地建物取引業法第47条第1項に抵触することはありません。
さらに、大阪府の宅地建物取引業法に基づく指導監督基準では、「取引の対象となる物件が同和地区に所在するか否かについて、取引関係者に教示すること」を、宅地建物取引業の運営に関し適正を欠く行為としており、これに違反すると行政指導を行うとしています。
宅建業者の皆さんは、宅地建物取引業法を正しく解釈するとともに、宅地建物取引の場における人権問題を解消するため、人権問題に対して、より一層、理解と認識を深めていってください。
宅地建物取引の場における人権問題への対応
宅地や建物は、通常の商品・サービスに比較して、極めて高額な財産です。
それを取り扱う宅建業者の皆さんは、大変重要な役割を担っています。
「宅地建物取引業者に関する人権問題実態調査」の結果が示すように、宅建業者の皆さんは、宅地建物取引の場において、同和地区に関することなど取引相手から予断と偏見に基づいた問合せを受けたり、外国人や障がい者、高齢者、母子(父子)家庭であることだけを理由に入居を拒否されたりすることがあるかもしれません。
このような取引相手の問合せや家主の入居拒否は、全て人権問題になります。
宅建業者の皆さんが、これらの取引相手や家主に同調し、同和地区に関する問合せに応じたり、お客さんが、外国人や障がい者、高齢者、母子(父子)家庭であることだけを理由に入居を断わると、皆さん自身が、差別を助長したり、加担したことにもなります。
もしも、このような場に直面したときには、適正な宅地建物取引業の運営を行うため、人権を尊重する視点から毅然とした対応をしてください。
また、お客さんや家主などの取引関係者に対しても、積極的に啓発に努めるよう心がけてください。
障がい者や外国人等への差別的な契約内容への対応
平成21年に、賃貸借契約における家主側からの無催告解除条件の一つとして、「乙(賃借人)、同居人、及び関係者で精神障害者、又はそれに類似する行為が発生し、他の入所者、又は関係者に対して財産的、精神的迷惑をかけた時」という条項がある賃貸借契約書の存在が、入居申込者からの通報で明らかになりました。
「他の入居者への迷惑行為」を賃貸借契約解除要件にすることは当然かもしれませんが、それを「精神障がい者」等にのみ適用しているこの条文は、明らかな差別です。
宅建業者の皆さんが、この契約書により仲介業務を行った場合、皆さん自身が精神障がい者に対して偏見を持ち、家主側の差別に同調しているとみなされるだけでなく、家主側の偏見をお客さんに伝播させる、つまり、差別を助長することにもなりかねません。
宅建業者の皆さんは、入居条件に加え、契約書や居住規則等についても、違法性だけでなく、人権を尊重する視点からも十分に確認してください。
不適切な表現等を見つけたときは、事前に、家主側に対して訂正を求め、適法で、差別のないものとしてから、お客さんに提示するよう心掛けてください。