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平成21年10月28日開催 第1回ホウ素中性子補足療法(BNCT)研究会の概要
と き 平成21年10月28日(水曜日) 午後1時から2時5分まで
ところ 大阪府庁 新別館北館 4階 多目的ホール
【会議資料】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)研究会について [PDFファイル/327KB]
【議事概要】
1 開会(事務局)
2 出席者紹介(事務局)
3 運営委員長(森山 京都大学原子炉実験所長)挨拶
京都大学原子炉実験所は、昭和39年、全国大学等の共同利用研究所として、設置されました。原子炉実験所としては、これまでの研究活動の成果をもとに、さらに発展させていきたいと考えております。これまで行ってきた全国大学の共同利用の成果の社会還元、社会貢献という観点からは、熊取町、大阪府のみなさんと連携していくことがぜひとも必要であると考え、検討を進めてまいりました。平成19年、その協議の成果を「熊取アトムサイエンスパーク構想」という構想にまとめまして、以来、その活動を行っているところです。この研究会も、その構想のひとつの柱となる「ホウ素中性子捕捉療法」に関するものです。社会的にも非常に期待が大きいがん治療法であるBNCTの拠点形成ということを目指して、この研究会の設立に至りました。委員のみなさまがたには、ぜひ、忌憚のないご意見をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
4 研究会について(事務局)
資料「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)研究会について」に基づき、研究会の概要について説明
「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)研究会設置要綱(案)」について説明
⇒「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)研究会設置要綱」については、原案どおり承認
5 研究の現状と課題について
(1)医療連携について
小野委員(京都大学原子炉実験所 教授): 資料 に基づき説明
これまで、BNCTの研究(臨床)に参画した研究機関は、京都大学、京都府立医大(脳神経外科)、大阪大学医学部(呼吸器)、大阪大学歯学 部、大阪医大、関西医大、神戸大学(皮膚科)、川崎医科大学、近畿大学、藍野大学、和歌山医大、広島大学。病院では、市立泉佐野病院、愛知県がんセンター、北野病院、岸和田市民病院等々が参画しており、実質的に患者さんが集まってくるネットワークはできあがっています。このような事実上のネットワークを、今後、形の上でどう整備していくか、ということが今後の課題です。
・現在、解決しておかなければならない課題は、PET実験施設の充実です。PETは、症例を選択し、また、治療後の効果がいかなるものかということを評価する上でも、非常に有用なツールですが、これが実施できる施設が、現状では、京都西陣病院の1施設しかなく、研究発展の足かせの1つになっています。このPET施設の問題が早く解決できれば、適切な症例を選択して、スムーズな研究を進めていく上で、非常に大きな力になります。
畑澤委員(大阪大学(医学研究科)教授)
大阪府の統計によると、現在の治療法で、5年生存率は約4割。残りの6割の患者さんは、今の治療法では、残念ながら、命を救うことはできない、というのが現状です。新しい治療法を開発して、この方々に光を与えることは、非常に大きなミッションです。
・ 大阪大学医学部附属病院は、がん診療連携拠点病院になっているので、このような大きな組織を利用して、特にこの治療法が適用になる患者さんをスクリーニングするということで、まず貢献したいと考えています。
・ スクリーニングするためには、PET(positron emission tomography 陽電子放射断層撮影)が非常に有効です。PETは、現在、阪大病院でフル稼働しているので、この一部を患者さんのスクリーニングのために使いたいと考えています。
・ これまで、京大原子炉で培ってきた技術、学問が一番の基盤なので、それをいかに社会に還元できるか、というところに私どもが少しでも貢献できれば、と考えています。
宮武委員(大阪医科大学 准教授): 資料 に基づき説明
・BNCTを用いると、化学療法をしなくても、統計学的に優位な差をもって、患者さんの寿命が延びています。ほかの粒子線治療(陽子線、炭素線等)と違って、細胞選択性があるので、再発の症例にも適用可能で、十分な治療効果を得ています。
・京大炉は休止中ですが、原研炉(茨城県那珂郡東海村)でBNCTを再開するということを聞いて、患者さんが相談に来られています。この1週間で、全国から、6名の方が私に相談に来られたり、メールをいただいたりしています。
・BNCT用加速器を医療装置とすることを目的とした取組みが進んでいる間、原子炉BNCTをどうするか、ホウ素化合物をどうするか、費用をどうするかというような課題があります。相談に来られている6名の患者さんは、自分でお金を出すからなんとかしてほしいとおっしゃいますが、それを受けると、混合診療の問題が出てきます。非常に深刻な問題を抱えているので、みなさんと一緒に解決できたら、と思っています。
平塚委員(川崎医科大学 教授)
・川崎医大は、岡山県倉敷市に所在します。京大炉で医療照射した後、急性反応が出る可能性のある患者さんを、熊取から倉敷まで連れて帰るのは大変です。患者さんの負担も大きいし、主治医団としてもかなり気を遣います。
・ 将来的な希望として、医療照射後の、せめて急性期反応期だけは、きっちり診てくれる医療施設が京大原子炉実験所の近くにあれば、主治医団としての負担はかなり減ると思います。
宮武委員
・原子炉の近くと言わず、実験所の中に、診療所ではなく短期の入院できる施設をつくっていただくとありがたいと思います。
森山委員長
・従来から、そのような意見はありますが、本来の実験所としての本来の役割もあり、それとの兼ね合いがあります。
・今後ぜひ、ワーキンググループで具体的にどのようにしていくかについて、ご意見をいただきたいと思います。
高山委員(大阪府 福祉部医療監)
・大阪府で、医療対策を担当している立場、特に、がん施策を担当している立場から、今の大阪のがん診療連携体制について、紹介します。
・ 大阪府のがんの状況は、がんによる死亡率が男女ともワースト1が長期にわたって続いてきました。がん対策は、これまでも重要政策と位置づけてきました。
・平成19年4月、国でがん対策基本法が施行され、それに基づく大阪府のがん対策推進計画を策定し、予防の推進と早期発見、医療の充実を3本柱として、対策を進めてきているところです。
・このうち、医療の面については、国の指定するがん診療連携拠点病院に加え、大阪府としても独自に大阪府がん診療拠点病院を指定し、拠点病院に適切に患者さんを集め、医療成績を向上させ、がんの死亡率を改善させようと取り組んでいます。
・国の基本法の重点課題として、放射治療、化学療法の推進及び専門ドクターの育成がうたわれているので、特に、がん診療連携拠点病院のうち、オンコロジー(腫瘍学)センター機能を持つ府内の特定機能病院6病院(府立成人病センターのほか、5箇所の医科大学病院)がリードする形で、その他の国指定のがん診療連携拠点病院や、大阪府指定の大阪府がん診療連携拠点病院といった地域の拠点病院に対して、最新の治療や高度先進医療の提供といった技術的支援、医師の派遣育成を行うこととしています。
・そんな中にあって、BNCTについては、先端的がん医療の技術として、非常に高い関心を持って勉強させていただいています。今後の研究成果に大いに期待するところであり、急性期医療やコストを支える医療制度上の課題など、大阪府では対応できない問題も多いですが、国への要望など、医療対策の観点から、協力できることがあれば、取組んでいきたいと思います。
(2)ホウ素薬剤について
切畑委員(大阪府立大学 教授)
・この治療法には、ホウ素薬剤が必須です。ホウ素(B)は、私たちの周りにたくさん存在している元素です。ホウ素は、B10とB11の混合物として、天然に存在します。この天然のB10とB11のホウ素原子から、B10だけを分離するという技術が、非常に貴重な技術であり、この技術を、ステラケミファが持っています。ステラケミファは泉大津に工場を持っていますが、これは、世界で2社だけが持っている技術です。
・ただし、これはホウ酸という形でしかとれないので、これを、がん細胞に集まるように、修飾する必要があります。どのような形に変えれば、がん細胞に集まるか、ということを、大阪府立大学で研究しており、ステラグループの中のステラファーマと共同で研究してきました。
・現在、BNCTでは、2種類のホウ素化合物(薬剤)が実際の臨床に用いられています。これらのホウ素薬剤を安定的に、廉価で医師の方々に使っていただこうと、努力しています。
・BNCTの発展のためには、ホウ素薬剤をどのように供給するのか、また、現在の2つの薬剤だけではなく、より優れたホウ素薬剤をどのようにしてつくっていくかという研究について、大阪でどのような拠点をつくっていくか、ということが課題であると考えています。
(3)BNCT設備について
丸橋委員(京都大学原子炉実験所 客員教授・名誉教授) 資料 に基づき説明
・原子炉を使った治療施設については、今から15年ほど前に、重水設備により熱中性子や熱外中性子を使い、2006年3月までに、非常に大きな成果をあげてきました。それ以降、炉は休止状態ですが、その間、できるだけ患者さんにやさしい照射場をつくるために、更に改良を行っており、現在は、燃料が挿荷されるのを待っている、という状態です。
・原子炉が止まっている間に、住友重機械工業との共同研究で、加速器を使った中性子場を作ることが現実化しています。この加速器の大きさは全体を含めて3m×4mぐらいで、非常にコンパクトなものです。取り出された非常に強力な陽子線を隣の部屋に運んで、ターゲットに当てて、中性子を発生させます。高いエネルギーの中性子が出るので、それをちょうど治療に適した中性子のエネルギーにするためのモデレーターの開発が進んでいます。現状では、予定の6割5分ぐらいの陽子ビーム強度が得られていて、既に、治療ができるような中性子強度が得られている状況です。
・BNCT設備としての課題は、最適な中性子場をつくることです。今後の設備は、放射線、中性子線の質を変えることができるようにすることが1つのめざすべき方向性です。それから、加速器では、患者さんを治療するのに、だいたい30分から1時間ぐらいかかると考えています。ちなみに、原子炉では、1時間から2時間程度かかっています。患者さんができるだけ楽に受けられるような設備をつくっていく、ということが、もう1つの大きな課題だと考えています。
辛嶋委員(株式会社コスモ医学物理研究所 代表取締役)
・私は、医学物理士という職種です。
・これから、医学物理士は、医療のどこまでの業務に携わるか、ということが非常に問題になってきます。たとえば、患者さんの位置決めや体位固定、線量測定や機械のQA(品質保証)の関係、あらゆることが医学物理の分野に入ってきます。特に、医学物理士ぬきではBNCTは成り立たず、医学物理士の役割をいかにするか、ということによって、治療の成果にも影響してきます。
・放射線治療全体にとって医学物理士のような人材が、非常に不足していることが大きな問題になっています。BNCTにおいても同様で、人材は更に僅少であり、今後の発展には医学物理士の育成が不可欠です。そのようなことから、今後は、おもに人材育成に取り組んでいきたいと考えています。
6 その他
清水委員(熊取町副町長)
・京都大学原子炉実験所が立地する地元熊取町を代表して、今後の抱負を少し述べさせていただきます。
・本日お集まりの委員、オブザーバーの方々に、日頃から医療の進歩のためにご尽力頂いていることに対し、敬意と感謝の意を表したいと思います。
・熊取町では、これまで、シンポジウムの開催など、町民に対しこの研究のPRなどに努めてきました。
・テーマが、世界中のがん患者を救う研究ということでグローバルな内容を持つことは地元の住民として理解、承知しています。ただ、小さな団体でも、お手伝いできることがあると考えており、当面は、地元住民を中心とした広報活動や、地元医療機関との連携の可能性を探ることが、本町の役割と考えています。
・その上で、京都大学や大阪府と一緒になって、財政的な面など、国に要望していくことも必要かと考えています。
・町としても、できることを精一杯させていただき、その上で、地元振興にもつなげることができれば、と考えています。