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殺虫剤の系統分類
(1)有機リン系薬剤
1938年(昭和13年)に合成され、当初、Tepp・パラチオン(リン酸エステル系ー1944年)等の農薬として出て来たが、温血動物に毒性が強すぎて、衛生害虫防除用としては使用出来なかった。昭和30年代になって有機リン系薬剤が開発され、まず、ダイアジノンを筆頭にマラサイオン、ジクロルボスが出てきた。その後、国産ではフェニトロチオン、ドイツではフェンチオンが作られ有機リン系殺虫剤の全盛期となった。虫に対する毒作用はコリンエテラーゼ活性の阻害により死に至らしめるが温血動物体内では速やかに加水分解され体外へ排出される。しかし、主剤の毒性が強いため高濃度での使用等は十分注意が必要である。化学的性質はアルカリ、光、熱、湿気に不安定である。
(2)ピレスロイド系薬剤
昔から、ある種の植物を燃やしたり、くすぶらすことにより虫よけに効果があることは知られていた。なかでも、除虫菊(シロバナムシヨケギク)の殺虫効力の知名度は高かった。1924年に、この除虫菊の殺虫成分(天然ピレトリン)が分離され、これを中心にしてピナミンなどの合成が開始され今日に至っている。本剤は、他に比べて高価であること、速効性であることなどから家庭用として主に用いられたが、改良されるに従って有機リン系薬剤に近い性能を持ち防疫用としても用いられるようになった。特徴としては、ゴキブリに対しフラッシング効果があること、(ノックダウン)効果が高いこと、また、温血動物に対する毒性が低いことであるが、科学的に不安定で、光、空気中の酸素に合うと分解する。
(3)カーバメイト系薬剤
カラバー豆(アフリカ産)の根部にある毒成分で1863年に医薬品に使えることがわかった。1925年には構造が決定され、殺虫剤としてピロラン、イソランが開発された。成分はカルバミン酸のエステル化したもので作用はコリンエステラーゼ活性を阻害する。光、熱、酸には強いがアルカリには弱い性質を持つ。日本では昭和39年に農薬(プロポクスル)が登録され、昭和46年には動物用医薬品、昭和55年に防疫用として承認されている。処理直後より、ある程度時間が経過してから効果があり、残効性が高いなどからゴキブリ用および不快害虫など幅広く利用できる。
(4)昆虫成長抑制剤
昆虫が成長する場合変態するが、これは、幼若ホルモンと脱皮ホルモンが作用することにより、幼虫期の脱皮や、蛹化がおこなわれる。幼令期では、幼若ホルモン作用によるが、蛹期では、脱皮ホルモンに代わっていき、脱皮し成虫となる。この、蛹化直前に幼若ホルモンを外部から与えると変態が阻止され蛹になれなくなる。また、幼令期に脱皮阻害剤をあたえておくと、キチン質の合成を阻害するため正常に脱皮できなくなる。この性質を利用し殺虫剤として開発したものが幼若ホルモン様類似物質である。
幼若ホルモンの分離同定は1967年に行われたが、その頃、ある幼虫を紙の上で飼育すると、正常なら5令で成虫になるところ6令、7令と進むだけで成虫にならないことがわかり、紙に含まれるトドマツ酸のメチルエステルが原因であったが、これは、いわゆる幼若ホルモン類似物質であった。1970年には米国でセスキペルテン系化合物としてメトプレンが合成された。作用は、多くの昆虫に対し幼若ホルモン活性を示したが、蚊、ハエなどの双翅目には天然のホルモンより活性が強いことがわかった。1978年メトプレンが日本で実用化された。一方、脱皮阻害剤は1972年ジフルベンズロンがオランダで発見され1974年から日本で開発が進められた。
その後ヨーロッパでは森林害虫用として実用化されたが、防疫用殺虫剤としては1982年に認可された。特に、他の昆虫類にはほとんど影響がないと言う利点があり。今後、これと同様に昆虫の行動的特性を利用して行動を撹乱し、昆虫の繁殖を制御する物質、昆虫行動制御剤も検討されている。
(5)有機塩素系薬剤
日本では、戦後、多量に使用され伝染病の激滅に大変な効果をあげた。環境汚染・体内蓄積の問題などで、化学物質審査規制法に定めた「特定化学物質」に指定され事実上使用出来なくなった。
(6)その他の薬剤
ナメクジ・アリ等不快害虫の誘因剤、忌避剤、また、古くから使われているものにゴキブリ駆除の硼酸がある。新しいところでは、コリンエステラーゼ阻害を中心としたものに頼らず、昆虫体内のバクテリアに働きかけたり、細菌を利用させたりすることにより昆虫にダメージを与えようとするものもあるが、農業用として実用化されている。