人権学習シリーズ ぶつかる力 ひきあう力 パワハラを知っていますか?

更新日:2016年2月9日

パワハラを知っていますか?

ねらい

 職場におけるパワー・ハラスメント(以下、パワハラと言う)は、個人の人格や尊厳を傷つけ、働く者の能力発揮を妨げるものです。「パワハラ」という言葉が生まれ、今まで単に部下に対する指導といわれていたものが見直されています。
パワハラは上司からの指導や助言ではなく、いかに個人の人格や尊厳を傷つけ、人権を侵害するものであるかを認識します。

プログラムの流れ

●自己紹介をしよう
 まず、この場が安心・安全な場づくりの一つとしてルールの確認をします。
 次に、安心・安全な場としてのルールづくりができましたら、受講者が自己紹介を行います。
  ○アクティビティ:楽しく自己紹介をしよう

●職場のパワハラを考える
 パワハラは、職権を持っているものが、組織強化や目標達成のためと思っての言動が、誤ってあるいは過剰になって人権を侵害することです。
  ○アクティビティ:叱咤激励ではなくパワハラです

【発展編】
●パワハラとは
  パワハラの定義について考えます

〔準備するもの〕
プリント「ある職場の風景」(参加人数分)
ワークシート「ある職場の風景」分析表(グループ数 *A3に拡大したもの、または模造紙に内容を転記して使う)
資料「パワハラの定義」について
参考資料「パワハラ」原因と認定(参加人数分)*資料と参考資料は必要に応じて配る
サインペン(グループ数)
ホワイトボード(あるいは模造紙)、専用ペン(黒板も可)

アクティビティの進め方

●楽しく自己紹介をしよう
1. 自己紹介をしよう
 グループの中で自己紹介をしてもらいます。名前と所属などを紹介しあってください。
 ▶順に自己紹介をしてもらう

2. 研修のルールづくり
 5〜6人のグループで、「研修のルールづくり」をテーマにグループ討議を行いましょう。安心・安全な場づくりのためにはどのようなルールが必要か話しましょう。
 ▶グループでどんなルールが必要か話し合ってもらう
 次に、話し合った結果を発表しましょう。
 ▶ファシリテーターは発表されたものをホワイトボードか模造紙に書く
 グループから出されたものを全員で確認してルールとします。 

3. パワハラで連想することを、グループで話し合ってください。
 ▶ グループをまわってどのような話が出ているか、様子をみておきましょう。
 
●叱咤激励ではなくパワハラです
1. 5〜6人のグループで、ワークシートを使って考えましょう。
 ▶プリント「ある職場の風景」を配る

2. 今日のテーマは「職場のパワハラを考える」です。職場にはパワー(職権)は必要ですが、パワハラは職場の目標達成のために用いるべきパワーを誤って、あるいは過剰に使うことによって起こるものです。では、A営業部長とB課長のやりとりを分析しましょう。
 ▶ワークシート「ある職場の風景」分析表を書いていく

3. 分析ができたでしょうか。では、それぞれのグループでA部長とB課長のやりとりを分析して気づいたことを発表してください。
 ▶分析表を参考に発表する

〜ファシリテーターからの一言〜
 A部長及びB課長二人の言動について分析して気づいたことを発表してもらいましたが、A部長は叱咤激励と思っていますが、だんだんと注意のしかたがエスカレートしてB課長の人格を傷つけています。
 B課長もはじめは売り上げ目標を達成できていないので、部長の言動を叱咤激励と思っていましたが、身体的・精神的な不調を起こしています。
 このように力関係の違いで、指導が人格をも傷つけてしまうことがパワハラです。そして、これに対して心がけたいことも出されました。
 部長は叱咤激励しているつもりかもしれません。しかし、部長の言動は課長に対して、2ヶ月も売り上げ目標を達成できなかったダメな奴と決めつけ、人格まで否定しています。そこには、課長がどのようにおこなったら売り上げ目標を達成することになるかなど、課長の成長への期待や暖かさを全く感じることができません。まさに、部下の成長を願うというよりも、その存在を否定してしまうパワハラだといえます。

 パワハラの研修を行うと「私たちの時代には、今パワハラといわれているようなことを言われてきたし、自分が上司になったときは部下に言ってきた。どうして今さらパワハラと騒ぐのだ。」という意見が出ます。その時代は、人格を否定され、意見を言おうとしても「実績がないくせに何をいうのだ」、「実績を示してから言え」、と言われ悔しい思いをしてきたのです。今、パワハラという言葉が生まれ、人格を傷つけられることに対して「それは問題だ」と声を上げる力を得たのです。

4. パワハラのない職場づくりのために「始めたいこと やめたいこと 変えたいこと」をグループで話し合ってください。
 ▶話し合いの内容を発表する

【発展編】
●パワハラとは
 パワハラの定義について学びます。資料「「パワハラの定義」について」を配り、説明することもできます

プリント

ある職場の風景

 Aさんは営業部長です。若い頃から朝早く来て夜中まで仕事をして、営業目標を達成してきました。また、若い頃から上司にお酒を飲みに誘われると断ったことがありませんでした。
 BさんはA営業部長の部下の営業課長です。B営業課長の課の売り上げ成績は、ここ2 ヶ月間目標を達成していません。
 
 B課長はA部長に「売り上げ目標を達成できないような課長はいらない。責任を取れ、辞表をもってこい。」と言われるようになりました。B課長はA部長の自分への叱咤激励であり、自分の能力不足が問題だと感じています。
 
 A部長はB課長に「お前は能力のない役立たず。私がやってきたように、朝は一番電車で来て、夜はタクシーで帰るくらいの時間まで仕事をやらないから、売り上げが目標に達成できないのだ。」と口癖のように言います。

 A部長はお酒が好きで、毎日のように飲みに行きます。B課長はA部長から誘われますが仕事の関係で断ると、A部長から「俺が呼ぶときは用事があるから呼ぶのだ。何で来ない。」と怒鳴られます。しかたがないので10時を過ぎてからでもA部長のいるお店に行くことになります。

 このごろ、B課長は仕事中に週3回ほどA部長に怒られるようになりました。A部長は怒り出すと2時間くらいは怒鳴りっぱなしです。

 B課長は初めA部長の叱咤激励と思っていましたが、この頃はA部長と顔を合わせるのも怖くなり、声も聞きたくありません。夜もあまり寝ることができなくなりました。会社に行くのが辛くなって友人に相談しました。


プリント「ある職場の風景」 / [PDFファイル/376KB]

ワークシート

 「ある職場の風景」分析表

A部長の気持 背景

A部長、B課長の行動

B課長の気持・背景

売り上げ目標達成が全てだ。
成績第一主義の社風。
目標達成のためなら、時間に関係なく働くものだ。
Aさんは営業部長。若い頃から朝早くから夜中まで頑張り、営業目標を達成してきた

Aさんは若い頃から上司の酒の誘いは断らなかった

BさんはA営業部長の部下の営業課長だが、課の売り上げがここ2 ヶ月目標達成できていない

A部長、B課長に責任を取るように迫る

B課長、初めはA部長の叱咤激励と思い、自分の能力不足と感じる

A部長の発言
1.能力のない役立たず
2.朝から夜中まで仕事しろ

お酒好きのA部長、毎晩飲みに行く。B課長を誘うが、B課長、仕事のため断る。

「来い!」と怒鳴るA部長。遅くからでも仕方なく行くB 課長。

週3 回ほど2 時間、A部長から怒られるB課長

A部長と顔を合わせるのがこわくなるB課長。声も聞きたくない。
夜あまり眠れない。
会社に行くのが辛い。
友人に相談した。
ある現象が起こる背景を見ず、本人の責任に転化する風潮

 
ワークシート「ある職場の風景」分析表 / [PDFファイル/354KB]

ファシリテーターのために

参加型研修の安心・安全な場づくりのためのルールづくりについて、例えば、次のようなことが考えられます。

1. 時間を大切に。時間どおり始め、終わる。
2. 自分の意見を素直に話す。
3. 他人の話を最後まで聴く。途中でさえぎらない。
4. なるべく全員が参加する、発言する。ただし、発言をしない権利も認める。(パスあり)
5. 個人的な情報は守秘、外に持ち出さない。
6. 楽しみながら話し合う。

 パワハラという言葉は造語です。株式会社クオレ・シー・キューブの岡田康子さんが労務問題やセクハラの相談業務を通じてそれらと違った訴えがあることに気づいて調査研究した結果、職権によるハラスメントが行われていることを突き止め「パワー・ハラスメント」と名づけマスコミに公表しました。それから、「パワー・ハラスメント」略して「パワハラ」という言葉が「セクハラ」とともに大きな社会問題となってきました。
 セクハラは、「改正 男女雇用機会均等法」第11条に「職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置」という法律によって、その取組みが推進されています。
 パワハラにはそのような法律はありませんが、セクハラ同様に事業主には安全配慮義務があります。46頁のような判決も次々と出ています。(場合によっては資料を配布してもよいでしょう)
 元気が出る明るい職場で働くことができるように、パワハラについて全員が正しく理解する必要があります。

資料

「パワハラの定義」について

1 職権などのパワーを背景にして
2 本来の業務の範疇を超えて
3 継続的に
4 人格と尊厳を傷つける言動を行い
5 就労者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与えること

【解説】
1 職権などのパワーを背景にして
 上司が職権を利用して、わざと低い評価を下したり、仕事を与えなかったり、反対に過重な仕事を与えるといった場合がこれに該当します。それ以外には、専門的な情報スキルを持っている者が、それを教えないことにより相手をコントロールしたり、集団から仲間はずれにしたり、正当性を全面に押し出して、有無を言わせず支配下に置くといったことも含まれます。

(ア)職権を持つ上司のパワー
 最も多いのが、このパターンです。一般に「パワハラ」と言われたときに、真っ先に思い浮かぶものです。
 上司は、部下に対して多くのパワーを持っています。仕事量の配分を決めるなど、職務のいろいろなことをコントロールできる立場にいます。それは、組織の目標を達成するために与えられたものです。
パワハラの多くは、こうした職権上の職務上の権力を背景に、組織内のパワーを持っている上の人間がそのパワーを職務の範はんちゅう疇を超えて振り回し、立場の弱い下の人間へとハラスメントが行われます。

(イ)集団が個人を攻撃するパワー
 数の力を持って、特定の個人を攻撃するハラスメント。例えば、部署全体でその人の存在を無視する、不当な言いがかりをつけ組織全体の責任を押しつける。
 その人にかかってきた電話を誰も取り次がない、会議スケジュールなど仕事上必要な情報を伝えず、ひとりだけのけ者扱いする。

(ウ)情報や専門スキルを持つ者のパワー
 パワハラは、上下関係の間だけに生まれるわけではありません。一見すると同等の立場にあるはずの同僚、あるいは部下から受ける場合もあります。それが「情報をもっている」側からのハラスメントです。例えば、中途採用で入った社員に対して、昔からいる社員たちが仕事を教えない、異動してきた上司に、部下たちが顧客のデータや必要な情報を与えないなど。
 パソコンの知識が豊富な部下がITの苦手な上司をバカにし、ことあるごとに無能よばわりし続けるケースもこれにあたります。

2 本来の業務の範疇を超えて
 客観的に見て、仕事上必要性のない指示命令・教育指導を行ったり、その人にだけ、明らかに他の社員と異なる量、あるいは内容の仕事を強要している場合、これに該当するでしょう。
 さらに深刻なのは、会社のパワーを背景に社員に不正を強いるケースです。上司(あるいは会社)から、法を犯す行為を強要される現場スタッフの不安と恐怖は、言葉では言い表せないくらい深刻です。

3 継続的に
 一・二度、注意されたり、叱られたことは普通パワハラにはなりません。こうした行為が継続して行われることがパワハラの条件です。
 例えば、仕事上のミスを犯してしまったとき、その場でひと言「バカヤロー」と怒鳴られるだけならパワハラとはいいません。
 ところが、そのあと毎日のように「おまえはバカだ」「使えないヤツだ」といわれ続けられたら、気持ちが萎縮し、とても仕事に集中できなくなります。
 ただし、何らかの法に触れる行為やその人の人権を侵害するような言動(差別的な言葉や、暴力など)は、たった一回であってもハラスメントに該当します。

4 人格と尊厳を傷つける言動を行い
 本人の意思ではどうにでもできないようなことについて、非難したり、指摘することは人格と尊厳を傷つけるハラスメントにあたります。例えば、家族や生い立ち、性別、学歴、容姿などを傷つける行為のことです。

5 就労者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与えること
 上司が部下をしじゅう怒鳴ってばかりいる、といった場合は、職場全体がピリピリして人の顔色ばかりうかがうようになり、全体の生産性も低下します。
 また、「いつでもクビにできるぞ」「できないなら、会社を辞めろ」といった言動で相手を無理やり自分の思い通りにするのは、パワハラにあたります。

ここで、厳しい指導とパワハラの相違点を見てみましょう。

厳しい指導

パワハラ

●暖かさがどこかに感じられる●冷たい視線を感じる
●相手の成長への期待がある●相手をダメな奴と思っている
●相手の仕事上のミスを叱るにとめる●仕事のミスだけでなく人格まで否定する
●仕事や役割の範囲内●仕事や役割を逸脱する
●相手の状況に合わせて指導する
● 厳しいだけでなく暖かさが全く感じられない
(相手の状況を考えずに職場で一方的に指導する)
●結果として部下が育つ●結果としてスポイル(ダメに)される

■ 部下を鍛えるためには、大声の叱責や場合によっては体罰も必要だと思う人がいるが、大声での叱責は逆効果。体罰は論外である。
■ パワハラを問題にすると厳しく部下を叱ることができなくなり、職場の規律が低下すると思っている人がいるが間違いである。
■ パワハラと厳しい指導は異なるもの。パワハラのある職場では逆に本当の意味での職場の規律や士気が低下する。

参考文献:
*『上司と部下の深いみぞ パワー・ハラスメント完全理解』
 岡田康子編著、紀伊國屋書店、2004年


資料「パワハラ」の定義について / [PDFファイル/453KB]

参考資料

「パワハラ」原因と認定

事例1
 2007年10月15日 東京地方裁判所判決
 上司から「お前は給料泥棒だ」「目障りだから消えてくれ」などと言われ続けた会社員が自殺した。暴言が自殺の引き金になったかどうかが争われた訴訟の判決で、東京地裁は15日、自殺と暴言との因果関係を認め、会社員の死を労働災害と認める判断を示した。
 判決は「キャリアばかりか人格や存在を否定するもので、嫌悪の感情も認められる。男性のストレスは通常の上司とのトラブルより非常に強かった」と指摘している。
【判決で認められた上司の暴言例】
「存在が目障りだ、いるだけでみんなが迷惑している。お願いだから消えてくれ」
「車のガソリン代がもったいない」
「どこへ飛ばされようと仕事をしないやつだと言いふらしたる」
「お前は会社を食い物にしている、給料泥棒」
「お前は対人恐怖症やろ」
「誰かがやってくれるだろうと思っているから、何にもこたえていないし、顔色ひとつ変わっていない」
「病院の回り方がわからないのか、勘弁してよ。そんなことまで言わなきゃいけないの」
「肩にふけがべたーとついている。おまえは病気と違うか」

事例2
 2007年10月18日 労働保険審査会
 上司の叱責、「パワハラ状態」= 自殺過労死を労災認定 − 保険審査会
 自殺したのは、過重なノルマや上司の強い叱責などが原因として、労働保険審査会は盛岡労働基準監督署長などが出した遺族補償給付の不支給処分を取り消した。
 審査会は「売り上げ目標も高く、叱責による心理的負担はパワー・ハラスメント(職権を背景とした嫌がらせ)を受けているような状況」と認定した。
 営業経験がないにもかかわらず厳しいノルマが課され、休日出勤も強いられた。さらに上司の営業部長から、ノルマ不達成などを理由に、毎日のように「辞表を書け」「やる気があるのか」などと叱責され、重度のストレスが原因で、自殺した。

事例3
 【パワハラが原因による自殺と認定】
 2007年11月1日 名古屋高裁2審
 中電社員「心理的負荷でうつ病」
 中部電力社員だった夫(当時36歳)がうつ病になり自殺したのは、過労や上司のパワー・ハラスメント(職権による人権侵害)が原因だったとして、愛知県内に住む妻(43歳)が名古屋労働基準監督署長を相手取り、遺族補償年金の不支給処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が31日、名古屋高裁であった。満田明彦裁判長は、「業務が原因でうつ病を発症し、そのために自殺しており、不支給処分は違法」と述べ、不支給処分の取り消しを命じた1審・名古屋地裁判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。
 判決によると、夫は1999年8月に主任に昇格した後、うつ病を発症。同年11月、乗用車内で焼身自殺した。妻は翌年、労災認定を申請したが、労基署は「業務が原因のうつ病ではない」として申請を退けた。
 判決は、「主任昇格は、夫にとって心理的負荷が強かった」と指摘。さらに、上司の「主任失格」「おまえなんかいなくても同じ」といった言葉について、「合理的な理由のない、指導の範囲を超えたパワー・ハラスメント」と認定し、こうした心理的負荷からうつ病を発症し、自殺に至ったと結論付けた。


参考資料「パワハラ」原因と認定 / [PDFファイル/353KB]

 


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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

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