大阪府同和対策審議会答申(平成13年9月) 第2章第2節  今後の推進方向

更新日:2023年6月21日

2 今後の施策の推進方向

 

  前述の今後の同和問題解決のための施策の基本目標に沿って、府民の差別意識の解消・人権意識の高揚、同和地区出身者の自立と自己実現の達成、同和地区内外住民の交流の促進のため、一般施策を活用し、以下の取組みに努める必要がある。

 

 

(1)  府民の差別意識の解消・人権意識の高揚を図るための取組み

 

  「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」の制定や「府人権施策基本方針」の策定などを踏まえ、人権教育・啓発の推進のための取組みが一層求められている。府民の差別意識を解消し、人権意識の高揚を図っていくために、同和問題を人権問題の本質からとらえ、すべての人の人権を尊重していくための人権教育・啓発を推進していくべきである。

  そのためには、まず、これまでの同和問題に関する教育・啓発の経験や成果を踏まえ、あらゆる場で、多様な人権教育・啓発の機会が提供される必要がある。また学校や職場における教育・研修を一層充実させるため、プログラムや教材の開発・整備を図る必要がある。

  次に、府民が、日常生活において人権尊重と差別を許さない態度や行動を身につけるために、人権教育・啓発に際し、当事者との交流を促進することや内容を具体的な人権問題に即しわかりやすいものにするなど、具体的、実践的な手法による取組みを推進する必要がある。また、幼少期から生命の尊さや人の人たる道(人間として基本的に守らなければならないル−ル)に気づかせ、豊かな情操や思いやりをはぐくみ、お互いを大切にする態度と人格の育成をめざす人権基礎教育に取り組むことは、その後の成長に応じた人権教育を実効的なものとする上で、大きな役割を果たすと考えられる。

    さらに、人権教育にかかる指導者の役割は大きく、特に職場や地域における指導者養成は不可欠であり、民間団体等が行う活動とも連携・協力しながら人材育成を推進すべきである。

  近年、人権教育・啓発を進めるにあたって、人権関係NPO・NGO等の果たす役割が高まっており、今後、府は、これら関係機関の活用を図るとともに、市町村・関係機関等との密接な連携を図るためのネットワ−クを構築し、人権教育・啓発を推進していく必要がある。

 

 

(2) 自立と自己実現を達成するための取組みの支援

 

  実態等調査の結果を踏まえ、同和地区出身者の自立と自己実現を図っていくため次のような取組みが求められる。

 

 教育については、高等学校における中退問題や保護者から見た子どもの学習理解度が、家庭における学習習慣、保護者のPTA活動や地域における保護者活動への参加状況などと相関関係を有していることなどが明らかになった。

 そのため、学校教育における進路指導等の充実や、保護者等への学習機会の提供交流の場の充実、地域における諸活動の活性化などが求められる。

  しかしながら、このような諸問題は、学校における課題であるとともに地域全体の共通の教育課題としてとらえるべきものである。地域においては、「地域青少年社会教育総合事業」なども、このような観点から取り組みがなされているところである。

 今後は、同和地区出身者を含むさまざまな課題を有する子どもや保護者等に対する人権尊重の視点に立った取組みとして、学校教育でのさまざまな取組みの充実とあわせ、学校、家庭、地域社会におけるさまざまな人びとが協働して子どもの教育のために力を出し合う「教育コミュニティ」の形成、地域で展開されているさまざまな活動の活性化やネットワーク化を進めることなどが必要である。

 

  就労については、今後、同和地区出身者に限定せず、さまざまな課題を有しているために就職が困難な人びとを対象に、国の職業安定機関や市町村等と連携し、地域におけるきめ細かな職業相談を通じ、職業能力の開発や雇用・就労等に結びつく取組みを進めるため、現在モデル的に実施している「地域就労支援事業」のより一層の推進を図るとともに、地域における多様な働き方に対する取組みが必要である

  その際、(社)同和地区人材雇用開発センターについては、その名称を変更し、対象者を同和地区出身者に限定せず、さまざまな課題を有しているために就職が困難な人びとに広げ、同センターの機能を活用して、多様なニーズに対応する上記取組みがより効果的に展開されることが望まれる。

 

  住宅・まちづくりについては、比較的若い中堅所得層の同和地区外への転出や同和地区居住者の高齢化などにより、活力低下が懸念されていることから、「コミュニティづくり」という視点のもと、定住魅力ある住宅・住環境の整備が課題となっている。

  このため、市町において、公営・改良住宅の良好な維持管理、浴室等の設備やバリアフリー化などの住戸改善、老朽化に伴う建替えなど、既存の公営・改良住宅のストックを総合的に活用するとともに、まちづくりを進めるにあたり持家対策を含めさまざまなニーズに対応した多様な住宅供給の促進を図っていくことが求められる。また、その際、あわせて国の支援措置の充実を働きかけていく必要がある。

  なお、市町の公営・改良住宅については、今後、地域のまちづくりの観点から入居のあり方や活用方策を検討することが望まれる。

 

  地域福祉については、高齢者、障害者、母子・父子世帯などで課題を有する人びとが、地域社会の中で安心して生活していけるよう、さまざまな福祉サービスの充実が求められるとともに、これらの人びとが自立意識を醸成し、生きがいをもって生活できるよう、自立支援のための条件づくりが必要である。そのためにきめ細かな相談等について、ネットワークを構築し、総合的に対応できるよう体制づくりを進める必要がある。

  また、(社福)大阪府総合福祉協会(大阪府同和地区総合福祉センター)は、これまで人権の視点に立った障害者、高齢者、母子世帯等に関する相談事業等への支援や福祉専門職員等に対する人権研修事業などに取り組んできた。今後、同センターについては、その名称を変更し、これらの実績やノウハウを活用し、市町村をはじめ関係機関・団体等との連携を強化しながら、「福祉と人権」に関わる地域住民の自立支援のための事業等への指導・助言、福祉に携わる人材の養成事業などを推進し、人権尊重の視点から地域の多様な福祉サービス等に寄与することが求められる。

 

 

(3) 人権にかかわる相談体制の整備

 

  部落差別などの人権侵害を受けた場合、府は、人権侵害に直面した府民が自らの主体的な判断に基づいて課題の解決ができるよう支援がなされ、迅速かつ適切な人権保護・救済を受けることができるという視点に立って、人権擁護に資する施策を進める必要がある。

  このため、人権にかかわる問題が生じた場合に、身近に解決方策について相談できるよう、行政機関をはじめ、NPO・NGO等さまざまな関係機関において、人権侵害を受けまたは受けるおそれのある人を対象とした人権相談活動のネットワークを整備していくことが求められる。その際、人権にかかわる相談には、さまざまな要因が絡み合っているものも少なくないことから、解決のための手だてを本人が主体的に選択できるようにする必要があり、そのためには、きめ細かな対応を行うため、当事者どうしがお互いに理解し合いながら自立生活に向けて支援する相談等の実施や、地区施設における相談機能の充実も含めて、複合的に幅広く相談窓口を整備していくことが求められる。

  また、自らの人権を自ら守ることが困難な状況にある府民については、相談窓口から個別の施策や人権救済のための機関へつなぐことも重要である。

 府においては、こうした観点から、関係機関の協力を得ながら、具体的な人権相談を実施している機関相互間の連携体制の確立、人権相談を受ける相談員の技能向上等を図る人材養成、具体的な事例をもとにした人権相談に関するノウハウの集積などを図り、人権に関する総合的な相談窓口機能を整備する必要がある。

  さらに、国は前述のとおり、「人権擁護推進審議会」答申に基づく人権救済機関の具体化の検討を進めており、この救済機関との連携協力体制を構築するとともに、今後とも国に対し、人権侵害の救済に関する施策の充実について働きかけていく必要がある。

 

 

 (4) 自立と自己実現、地区内外交流を促進する関係機関等のあり方

 

〔1〕 関係機関のあり方

 

 (財)大阪府同和事業促進協議会(以下、「府同促」という。)は、同和地区出身者の自立支援や同和地区の生活環境改善、同和問題をはじめとする人権啓発、人権相談など、同和問題の解決に資するための取組みを実施してきた。その結果、かつての同和地区の劣悪な状況は大きく改善されたところである。

  府同促は、同和事業の実施に際し、当事者の住民参加の方途として、同和地区の実態と同和地区出身者の実情を的確に把握し、必要な調整を行うなど、同和行政の円滑かつ効果的な推進に寄与してきた。そのため府同対審答申においても、府が実施する同和対策に協力し、かつ、促進する機関と位置づけてきたところである。

 平成14(2002)年度以降については、「地対財特法」が失効することから、これまで府同促が実施してきた事業のうち、特別措置としての同和対策事業を促進する機能に関する部分は、この限りにおいて終了するものである。

  一方、「人権の世紀」といわれる21世紀において積極的な人権施策が求められる中、「府人権施策基本方針」においても、府と市町村が密接に連携し、市町村単位では実施が困難な事業等については府が積極的に推進するとともに、企業やNPO・NGOなどの諸団体の活動とより一層連携を深め、協働関係の構築を図ることにより、人権施策を効果的に推進していく必要があると示しているところである。

  このようなことから、平成14(2002)年度以降の府同促については、これまで、同和地区の実態等を的確に把握し、必要な調整等を行うとともに、同和問題を中心とした人権啓発、人権相談など人権問題に取り組んできた貴重な実績とノウハウを踏まえ、府と市町村が、同和問題解決のための施策をはじめ、人権施策を推進していくための協力機関として位置づけるべきである。それに伴い、府域において人権啓発や人権相談等を行っている関係機関と連携し、これらの活動を通じた同和問題をはじめとする人権侵害の実態把握、地域住民の自立支援、同和地区内外の住民の交流促進を図り、差別のない「コミュニティづくり」をめざす機関として、それにふさわしい名称、組織体制、事業内容等に改組すべきである。

 

  また、地区協議会については、平成4(1992)年及び平成8(1996)年の府同対審答申を踏まえ、市町の実施する同和対策事業に協力し、かつ、促進する機関として、現在、府内すべての同和地区で整備されており、府同促と連携し、同和対策事業の実施に際して、同和地区の実態・ニーズを踏まえた必要な調整や、同和地区出身者の自立支援のための相談や啓発、同和地区内外住民の交流促進のための事業、地区施設の運営協力など、地域における同和対策の推進に大きな役割を果たしてきた。

 地区協議会は、これまで地域で同和問題解決に携わってきた貴重な実績とノウハウをもつことから、市町は、今後の府同促の改組の基本方向を踏まえ、地区協議会を周辺地域の住民も参加した地域での取組みを推進する組織として整備し、人権施策等を推進するための協力機関として引き続き活用することが望まれる。また、地区協議会は、改組後の府同促と連携し、その支援を受けるとともに、地区施設と連携を図りながら、周辺地域を含むさまざまな相談活動を通じた地域住民の実態・ニーズの把握、地域住民の自立支援のための一般施策の普及・定着、同和地区内外住民の交流促進を通じての「コミュニティづくり」などの機能を担うことが期待される。

 

  (社)部落解放・人権研究所については、今後、さらに調査・研究活動を深めるとともに、これまでの研究活動等を通じ蓄積されてきた実績とノウハウを活かし、より専門的な人権教育・啓発や人権に関する情報収集・提供、人材養成等の取組みを通じ、同和問題解決をはじめ一人ひとりの人権が尊重される豊かな社会の実現に寄与することが求められており、府としても必要な支援を行うことが望まれる。

 

  なお、「府人権施策基本方針」に示されているように、前述した関係機関やNPO・NGOなどの諸団体が、同和問題解決をはじめとする人権問題解決のさまざまな取組みを行っていることから、今後、府は、それぞれの諸団体が培ってきたノウハウを活用し、同和問題解決をはじめとする人権施策を効果的に推進していくため、これらの活動とより連携を深め、ネットワークを構築する必要がある。

 

 

〔2〕 地区施設のあり方

 

  解放会館などの地区施設は、同和問題の速やかな解決に資することを目的として設置・運営されており、施設間の総合性を図りつつ、その活用により「コミュニティづくり」を推進するため、同和地区内外住民が運営に参画し、幅広く利用する施設として、それにふさわしい運営や名称変更が望まれる。

解放会館については、同和地区やその周辺の住民に対する、福祉の向上や人権啓発のための住民交流の拠点となる地域に密着したコミュニティセンターとして、人権啓発事業、地域住民に対する自立支援のための相談事業、レクリエーション、教養・文化活動等地域住民の交流事業などの事業が数多く展開されており、名称も「人権文化センター」などに変更されてきている。今後、「人権教育のための国連10年大阪府後期行動計画」で示されている取組みの地域における具体化を図るための人権問題の学習・啓発、人権情報の発信や、関係機関と連携した地域住民の生活上の相談、自立支援、地域住民の交流を図り、地域から人権尊重の「コミュニティづくり」を進めるための拠点として、一層重要な役割が期待される。

  他の地区施設についても、同和問題の解決のためにこれまでそれぞれの分野で果たしてきた実績とノウハウを活かしながら、人権教育・啓発の推進、地域住民の相談、地域福祉の推進を図るなど、今後とも地域住民の自立を支援する拠点として活用するとともに、「コミュニティづくり」の観点から、同和地区内外住民の交流をより一層促進すべきである。

 

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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権擁護課 人権・同和企画G

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