大阪府同和対策審議会答申(平成13年9月) 第1章第2節 現状と課題

更新日:2023年6月21日

2 実態等調査からみた府内同和地区の現状と課題

 

 同和地区における生活実態や府民の人権意識の現状と差別の原因等を把握し、同和問題の解決に資することを目的として、平成12(2000)年度に実施した実態等調査により明らかになった府内同和地区の現状と課題は、概要次のとおりである。

  なお、府においては、今後とも実態等調査の結果を十分活用されることが望まれる。

 

〔1〕 同和地区には、高齢者の単独世帯や高齢者夫婦、母子・父子世帯の割合が高く、高齢者世帯については、出身地が現住地区以外の率が高い。また、同和地区外からの転入者は、母子世帯、障害者、低所得層、不安定就労の割合が高いなど、福祉、就労などのさまざまな課題を有する人びとが同和地区に来住していることがうかがわれる。ちなみに、現在住んでいる同和地区で出生し、他の地域で居住したことのない原住者は約32%で、同和地区出身の来住者は約24%であり、また、同和地区出身でない来住者は約37%となっている(来住者のうち出身別不明が約7%)。

 

〔2〕 「婚姻類型」では、同和地区内外の結婚が確実に増加しており、若い世代ほどその率が高くなっているが、同和地区内外の結婚の場合、結婚に際し被差別体験を有する夫婦が2割を超えている。また、同和地区出身者と自認している人のうち2割が結婚破談経験を有し、その半数近くが同和問題が関係したと思うとしている。さらに、約2割の府民が、結婚にあたって相手が同和地区出身者かどうかが気になるとしており、同和問題が府民の結婚観に影響している。根強い差別意識解消の取組みはもとより、差別を乗り越え結婚しようとしている人びとへの相談機能等の充実が必要である。

 

〔3〕 高校進学率は90%以上にまで高まり、今日では、大阪府平均に比べ3%から4%程度の格差がなお残るものの、大きく改善されたが、大学進学率は、なお相当の開きを残している。また、高校の中退率も高く、中退問題はなお重要な教育課題となっている。

  最終学歴が中退である人のうち50歳未満層においては、仕事上の不利益解消のために、あるいは自分自身の成長のために、再学習への期待を有する人が、どの年代においても4割前後の高い割合を示している。これら再学習意欲の期待に応えるための観点からも、生涯学習などの学習機会の活用・提供が求められている

 

〔4〕 同和対策事業の奨学金がなかった場合、高校生や短大・大学生の子どもをもつ同和対策奨学金利用者の半数以上の人が進路への影響があったとしており、制度が廃止されるだけであれば進学率は低下し、教育を受ける権利を損ない、格差が拡大するおそれがある。とりわけ、低所得層への影響が大きく、また、大学への進学に関しては女性に対する進学抑制が強くなることがうかがえる。

  奨学金制度がこれまで同和地区生徒の進学機会の確保と進学を奨励する機能を果たしてきたことを踏まえ、日本育英会、大阪府育英会などさまざまな一般施策の活用を図るための取組みが必要である。

 

〔5〕 介護保険については、実態等調査の時期が制度発足後1か月あまりの時点であることを考慮する必要があるが、制度が複雑でわかりにくいという意見が多いことや、依然として家族介護への依存が強い状況にあることがうかがえる。

  同和地区の高齢者が、必要な介護サービスを利用しながら住み慣れた地域で安心して暮らしていくためにも、介護保険制度の一層きめ細かな周知、これらのサービスが十分活用されるよう当事者の立場に立った親身な相談や指導などが求められている。

 

〔6〕 保健・福祉サービスについては、家事援助や健康づくり、生きがいづくり、住宅相談についてのニーズが高い。また、保健・福祉サービスを受けるに際し、サービスが利用者の選択による自立支援型に転換しつつある中で、一律的な個人給付等の福祉対策になじんできた同和地区出身者にとまどいが生じていることがうかがわれる。保健・福祉サービスを住民自らが十分活用し得るよう、サービスの周知・徹底や総合的な相談活動の充実など、住民のニーズと保健・福祉サービスを結びつける、住民の立場に立ったきめ細かな方策が必要である。

 

〔7〕 公的年金未加入者の割合は、平成2(1990)年の調査と比べ増加しており、未加入理由としては、経済的理由や年金制度に対する否定的見解が高い割合となっている。また、公的年金を受給していない60歳以上の高齢者が3割を超えている。

   公的年金は、受給者にとってはセーフティネットであり、国においては、未加入者への対応が求められる。

  生活保護受給世帯の割合は、地域的な差はあるが、依然として高い割合となっている。生活保護世帯に対する取組みについて、引き続き国に要望する必要がある。

 

〔8〕 同和地区のパソコンの普及率は、全国と比べ大きな格差がみられる。インターネットの利用率においては、全国平均の半分にとどまっている。高度情報化社会においては、情報手段を使いこなせる人と使いこなせない人との間に情報格差が生じ、それが社会的、経済的格差につながるおそれがある。このため誰もが情報通信の利便を享受できる「情報バリアフリー」が課題となっている。

 

〔9〕 失業率は、男女とも大阪府平均を上回っており、とりわけ若年層の失業率が非常に高く、また、40歳代の男性の失業率も府平均の2倍前後となっている。このため就労に結びつける総合的な取組みを講じる必要がある。

  雇用形態における常雇の割合や給与形態における月給の割合は、平成2(1990)年の調査では、年齢が若いほどその割合は高く、安定就労の傾向がみられたが、今回の調査ではこのような傾向はみられない。

  障害者の就労状況については、不安定な状況にある人が多く、とりわけ障害者の就労希望と「生きがい・社会参加」とが強く結びついていることを踏まえ、障害者の就労問題に取り組むべきである。

  母子世帯の保健・福祉サービスのうち、「就職あっせん」についてのニーズが高く、雇用・就労の支援に取り組む必要がある。

 

〔10〕 公営・改良住宅においては、最低居住水準を満たしていない割合が14%であるのに対し、民間借家では約4割にのぼっている。また、同和地区の公営・改良住宅に居住している世帯は、6割を超えており、1960年代に建設された住宅が多く、この10年間にその改修や建替えが課題となってくる。さらに公営・改良住宅が大半を占める共同住宅においては、高齢者世帯や障害者のいる世帯の占める割合が高く、住宅におけるバリアフリー対応が急がれる。

  住み替え希望者の住宅志向をみると、土地付き一戸建ての購入希望者が約半数、公営・改良住宅への入居希望者が約24%、分譲マンションの購入希望者が約9%となっている。同和地区外への転出希望が、若年層、中堅所得層に多くみられるなど、居住意識・定住意識が変化してきており、定住魅力ある「まちづくり」が課題となっている。

 

〔11〕 8割を超える府民が「被差別部落」、「同和地区」あるいは「部落」と呼ばれる差別を受けている地区があることを知っている。

  約4割の府民が家を購入する際やマンションを借りる際に同和地区を避けるとし、前述のとおり約2割の府民が自分の子どもの結婚にあたって相手が同和地区出身者かどうか気になる、と答えている。

 さらに、差別の原因を、同和地区だけに特別対策を行うことや同和問題を教育・啓発で取り上げること、また同和地区出身者の責任に求める意識も根強い。しかし一方で、約7割の府民がこうした差別を近い将来なくすことができると考えており、同和地区内外の人びとが互いに理解、協力しあえるという意識も高くなっている。

 上記のような忌避意識や結婚観にみられる府民意識の現状を踏まえ、地域住民間の交流促進や「コミュニティづくり」などに取り組むとともに、同和問題に関するより効果的な教育・啓発や、府民の人権意識の高揚を図るための取組みが重要である。

 そのためには、正しい理解や認識を育むことはもちろん、それが態度や行動に結びつくよう、その手法・内容に工夫をこらす必要がある。とりわけ、これまでの同和問題についての啓発のあり方が、差別の厳しさを強調するあまり、解決が困難であるという府民の消極的な認識をつくった傾向もあるため、同和問題が解決可能であるという具体的な展望を示すことが重要である。

 

〔12〕 同和地区では、同和対策事業として、住宅、道路、公園などが整備され、かつての劣悪な生活環境は大きく改善された。また、同和地区出身者の自立と自己実現を図ることを目的とする地区施設として、解放会館をはじめ、高齢者保健福祉施設、障害者施設、青少年施設、医療施設、文化施設、スポーツ施設などが整備されている。今後は、相談や地域福祉のより一層の推進を図るなど、地域住民の自立支援等に寄与するとともに、幅広く地域住民に利用され、同和問題解決のために活用されることが期待される。

 

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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権擁護課 人権・同和企画G

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