第2部 自然とふれあう場の整備
第8章 自然とふれあう場の整備構想の基本的考え方
緑の少ない府域においては、臨海部の広大な未利用地への大規模な緑の拠点創出が求められており、これを廃棄物最終処分場跡地において実現することにより循環型社会形成のシンボルとすることが期待できる。高度成長期に大量に排出された産業廃棄物の適正処分を行うため、時代の要請を受け、その役割を担ってきた堺第7−3区廃棄物最終処分場においては、長期的な視点に立ち、この時代に消失した大都市における緑の再生を図ろうとする「共生の森」構想の検討を進めているところである。また、近畿圏における先駆的な廃棄物の広域処理場である大阪湾フェニックス計画泉大津沖処分場においては「大阪湾圏域広域処理場整備基本計画」(平成13年9月)において環境ゾーンとして緑地エリアを区分している。
8−1 「共生の森」構想の経緯
堺第7−3区は、平成13年12月都市再生プロジェクトに「大都市圏における都市環境インフラの再生」として緑の拠点を創出することが決定され、市民、NPO等の参画のもと整備を進めることとされている。堺第7−3区廃棄物最終処分場は、平成15年度末には廃棄物の受入が終了し、平成17年度には覆土が完了する予定であり、その整備方向を明確にすることが求められている。このため、平成14年度から15年度の2ヶ年にわたり、堺第7−3区における緑の拠点整備に関する構想、基本計画を策定することとしている。構想・基本計画の検討は、国土交通省との共同調査により進めることとし、検討に際しては、学識経験者、有識者、NPO、ボランティア団体等の代表、関係行政機関による委員会を設置し、ここでの協議の結果を踏まえて取りまとめることとしている。
(大阪湾臨海部緑の拠点創出(堺第7−3区「共生の森」)検討委員会設置要綱 参考資料5参照)
8−2 「共生の森」構想の課題の抽出
基本コンセプトの検討にあたり、堺第7−3区において自然との共生を目指した森づくりを進める上での課題を、以下のとおり整理した。
(1)対象地域における制約条件
対象地域の地盤条件、自然条件から、以下に示すような制約条件が考えられる。
1)廃棄物処分場としての制約条件
廃棄物処分場であるため、処分終了後も「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づき、維持管理に関する計画に従い、環境基準をクリアするまで長期にわたる水質管理等の維持管理をしなければならない。なお、平成16年3月の廃棄物の受入終了後も、2年程度覆土を実施する予定である。
2)地盤性状による制約条件
沖積粘土層の上に廃棄物で埋め立てられた土地であるため、地盤沈下が今後も続くと考えられる上、全域が管理型廃棄物により埋め立てられているため、掘り返しを行う場合配慮が必要である。また、一部を除いて平坦な地形が連続していることから、土質が変化する層で雨水が滞留し、根腐れ等により樹木の生育が阻害される恐れがある。
3)気象条件による制約条件
特に沖側護岸周辺において冬季を中心とした強風・越波の影響があり、夏季の降水量が少ないため、日照・乾燥により、草本の生育が阻害される恐れがある。
4)その他の制約条件
過大な荷重がかかる利用を行う場合、護岸の応力度等の強化が必要である。
また、造成を行う場合、沖側護岸に沿って埋設されるガス導管に留意する必要がある。
(2)対象地域の活用すべき特性
対象地域である堺第7−3区の地理的条件などから、「共生の森」づくりの用地として活用すべき特性は以下のとおりと考えられる。
1)ベイエリアのビューポイントとしての特性
対象地域は臨海部に広がる広大な未利用地であることから、海や対岸を臨む視点場として活用するとともに、海路・空路から対象地域を臨む景観がベイエリアのビューポイントとして際立った役割を果たせる。さらに、計画・事業中の堺第2区における暫定緑化、沖合いの干潟整備等と連携した景観形成が期待できる。
2)埋立処分場跡地としての特性
埋立処分場造成後の起伏のある地形、水際線、自然回復が始まっている覆土完了地など、その形状をそのまま活用できる部分も多い。また、廃棄物最終処分場跡地の自然再生というシンボル的な取組みとともに、一次処分地で構想中のリサイクル施設や周辺企業との連携により、環境教育のモデルフィールドとしての位置付けが可能である。
(3)対象地域の整備課題
以上に示した、堺第7−3区の制約条件と活用すべき特性から、その跡地利用に関する整備課題は次のとおりと考えられる。
1)整備方向に係る課題
○ 京阪神都市圏における都市環境インフラ再生に資する整備が必要
・ 都市圏の環境改善(大気の浄化、CO2吸収等)に資する整備
・ 生物の生息環境の回復
・ 自然とのふれあい空間の創出
○ 自然海浜、干潟の大半を埋め立てにより失った大阪湾臨海部における自然回復に資する整備が必要
・ 生物の生息環境の創出
・ 海域水環境の改善に資する整備
・ 緑地の少ない臨海部においてまとまりのある緑地の形成
・ 臨海部の水際線、緑地による緑の湾岸軸形成に資する整備
○ 市民と海との関係回復(産業利用から市民利用への転換)が必要
・ 海とふれあえる親水空間の整備(水際線の市民への開放)
・ 海や対岸を臨む特徴ある景観を活かした環境デザイン
○ 工業地帯、廃棄物処分場という環境に関する負のイメージの払拭と新たな環境イメージの 形成が必要
・ 環境保全・創造に対する市民や企業の取り組みを先導する整備
・ 環境イメージを高める地域デザイン(陸、海、空からの眺望に配慮した環境デザイン)
・ 周辺地域の重厚長大型産業からの転換を先導できる整備
・ 対象地域への誘導路における工業地帯としてのイメージの改善
2)整備に当たり必要となる課題
○ 対象地域への交通アクセスの改善が必要
・ 最寄駅からの公共交通アクセスの確保
・ 海上アクセスを含めた市民を引き付けるアクセスの確保
3)制約条件に係る課題
○ 廃棄物処分場としての管理に配慮した事業計画が必要
・ 水質・地盤にできる限り負荷をかけない利用
○ 地盤性状(土壌、土質)が悪いことへの対応が必要
・ 植栽に際しての土壌改良
・ 土中の排水対策(暗渠工等)
・ 樹木の生育に適した地形の確保
・ 荷重建造物の建築に際しての地盤改良
○ 越波、強風といった臨海部特有の自然条件への対応が必要
・ 植栽手順、樹種選定への配慮
・ 護岸での親水空間整備に際しての安全性確保
4)実現手法に係る課題
○ 広大な面積であるために整備・維持管理に多大な費用が必要となるため、整備費用をかけないとともに官民一体の取り組みが必要
○ 広く市民やNPOの参画を促すための手法が必要
○ 民間のノウハウを活用するなど、企業、大学等、多様な主体の参画を促すための手法が必要
○ 対象地域の認知度が低いため、市民等へのPR等が必要
○ 自然回復は完成までに長期間を要する事業であるため、段階的かつ継続的に効果を上げていける事業手法が必要
8−3 「共生の森」構想の基本コンセプト
「活用すべき特性」と「制約条件」を考慮した上、廃棄物最終処分場跡地である堺第7−3区に緑の拠点整備を図る本構想の基本コンセプトとして、以下のような考え方を整理した。
1)対象地域が果たすべき役割
○ 大阪湾・京阪神都市圏の都市環境インフラの再生を先導する
臨海部の自然海浜を埋立て、自然環境に多大な負荷をかけ続けてきた我々の働きかけを反省し、これまで都市が失ってきた生物種及びその生育の場である美しい緑や水の環境を新しい都市環境インフラとして再生することについて、大阪湾・京阪神都市圏において整備手法のモデルを創造、提示し、先導的な役割を果たす。
○ 都市住民・企業の環境創造活動を活発化する
自然再生を進めることを通して、自然体験の場、環境学習の場、環境創造の実験的な取組みの場を提供し、都市住民、企業の自発的な環境創造活動を活発化する役割を果たす。
また、このことにより、廃棄物処分場としての「20世紀の負の遺産」、「環境阻害地域」といったイメージを「環境創造の拠点」へと一新するとともに、環境ビジネスの芽を育てることにより、地域産業の再生や雇用創出に繋げていく。
2)整備テーマ
「経済重視から環境重視へ」、「人間中心から自然中心へ」、「官主体のインフラ整備から市民主体のインフラ整備へ」といった価値観の変化に沿った都市環境づくりの端緒を開き、次代に繋げることが重要である。「『共生の森』づくり」はそのような考え方を象徴する取組みとなる。
3)対象地域に導入すべき機能
対象地域には、京阪神都市圏・大阪湾の自然ネットワークの拠点として、また生物種の保存・供給基地として、さらには自然再生への取組みを学習、実践できる拠点として、以下に示すような機能の導入が期待される。
○ 「共生の森」(80ha)に導入すべき機能
・ 自然再生機能
・ 自然とのふれあい機能
・ 自然体験、環境学習機能
・ 自然環境に係る調査研究機能
○ 周辺関連地域(120ha)に期待する機能
・ 自然再生機能
・ 大阪湾の海域環境改善機能
・ レクリェーション機能
以上のような考え方をもとに、平成15年度に具体的な整備コンセプト、事業手法等を検討し、基本計画を策定することとする。
図8−1 「共生の森」ゾーニングの広域的イメージ
このページの作成所属
環境農林水産部 循環型社会推進室資源循環課 施設整備グループ
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