大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第233号)

更新日:2014年6月30日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第233号)

〔事業協同組合報告書部分公開決定異議申立事案〕(答申日 平成26年6月30日)

 

第一 審査会の結論

 実施機関(大阪府知事)は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において公開しないことと決定した部分のうち、異議申立人が公開を求めている部分から法人代表者の印影を除いたもの全てを公開すべきである。

第二 異議申立ての経過

1 平成25年6月3日付けで、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対して、「平成24年○月○日 大阪府知事松井一郎発行の大阪府指令経支第○号、平成25年△月△日  大阪府知事松井一郎発行の大阪府指令経支第△号 上記に係る交渉記録、調査記録(現地調査を含む)、申請人及び申請人に関係する人物との面談記録、許可に至った理由書等本件に関係する全書類等、大阪府指令経支第○号についての取り下げの交渉記録、調査記録(現地調査を含む)、申請人及び申請人に関係する人物との面談記録、理由等に関係する全書類等」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 平成25年6月14日付けで、実施機関は、本件請求に対応する行政文書(以下「本件行政文書」という。)に、A事業協同組合(以下「当該協同組合」という。)に当該協同組合に関する情報が記録されていることから、条例第17条第1項の規定に基づき、第三者に意見書提出の機会を付与するため、当該協同組合に対して、「意見書の提出依頼書」を送付した。

 3 平成25年6月24日、当該協同組合は実施機関に対し、次のとおり、本件行政文書の一部について公開に反対する旨の意見書を提出し、実施機関はこれを収受した。
(1)公開に反対する部分
  全て。
(2)公開に反対する理由
・現在、裁判にて係争中であること
・公開文書をプロパガンダ目的で使用する可能性が高いこと
 現に、平成24年9月20日付にて定款変更認可申請書一式、平成24年10月23日付にて理事会議事録をプロパガンダ目的で使用しており、それについて平成24年11月21日の第3回弁論準備手続期日において裁判所より注意を受けたにも関わらず、平成25年1月10日付及び2月25日付にて理事会議事録を、5月24日付にて訴状の一部等をコピーして組合員に送りつけています。
・公開文書の中に個人情報(情報ソース等)が含まれていること

4 平成25年7月2日付けで、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する文書として、別紙1記載の行政文書を本件行政文書として特定の上、下記(1)の部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を下記(2)のとおり付して、異議申立人に通知した。

(1)公開しないことと決定した部分
ア 定款変更決議無効を大阪府に申し出た法人名及びその代表者名、法人名が特定されうる情報
イ 当該協同組合の組合員である法人名・個人事業主名、及びこれが特定されうる情報(既に公表されているものを除く。)
ウ 当該協同組合の役員名簿と記載されたもので、本府が認知している事実と異なるもの
エ 法人の代表者の印影・個人事業主の印影
オ 法人の経営に関する部分のうち非公表の重要な経営事項
カ 出資口数
キ 法人従業員の氏名(役員である者を除く。)、及びこれが特定される情報
ク 個人の印影

(2)公開しない理由

・条例第8条第1項第1号に該当する。
  本件行政文書(非公開部分)には、法人の代表者の印影等が記録されており、これらを公にすることにより、当該法人の取引の安全を害する又は法人の経営に関する情報が明らかになるなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。

・条例第9条第1号に該当する。
  本件行政文書(非公開部分)には、法人従業員の氏名・個人の印影が記録されており、これらは、特定の個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。

5 異議申立人は、平成25年8月13日、本件処分を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に対し異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行い、実施機関はこれを受け付けた。
  
また、平成25年11月7日、当該協同組合から行政不服審査法第48条の規定において準用する同法第24条第1項に規定に基づき、参加人の申立てがあり、実施機関は、同日、当該協同組合の参加を許可した。

 

第三  異議申立ての趣旨

 本件決定のうち、当該協同組合の提出した「平成25年2月1日付け報告書(組合から大阪府知事あて)」(以下「本件報告書」という。)の黒塗りされた箇所全てに係る部分を非公開とした決定を取り消す、との決定を求める。

 

第四 異議申立人、実施機関及び参加人の主張要旨

1 異議申立書における主張要旨

  異議申立人の異議申立書における主張は、概ね次のとおりである。

(1)本件決定では、条例第8条第1項第1号を適用して、本件報告書の中に非公開とした箇所があるが、当該協同組合は社会一般の取引を行う企業(組合)ではなく、長期に亘りその実績もない。また同様の企業(組合)と競合していることはなく、「・・取引の安全を害する又は法人の経営に関する情報が明らかになるなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害する・・」とは言えない。
(2)本件決定は、条例第9条第1号を適用して、本件報告書の中に非公開とした箇所があるが、本件報告書には、法人(組合)従業員の氏名・個人の印影が記録されていることはなく、「・・特定の個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」とはいえない。
(3)よって、本件決定は違法不当である。
 

2 実施機関の弁明書における主張要旨
  実施機関の弁明書における主張は、概ね次のとおりである。

(1)事業協同組合について
  事業協同組合は、中小企業等協同組合法(以下、「法」という。)に基づく協同組合の中で最も代表的かつ一般的な組合の形態であり、組合員である中小企業者が行う事業に関して、共同購買や共同受注・市場開拓等のいわゆる共同経済事業や組合員のための福利厚生事業などの共同事業を行うことにより、中小企業者の経営の合理化、企業体質の強化や対外信用力の増大等を図るものである。
  事業協同組合の機関としては、組合の基本的事項を決定する最高意思決定機関としての「総会」と、具体的な業務の執行を決定する「理事会」がある。
  
また、組合の役員として「理事」と「監事」があり、いずれも総会又は総代会で選任される。そして、理事の中から代表理事(多くの組合では理事長と呼称)が理事会で選任されるが、それ以外に、副理事長・専務理事・常務理事の職をおく組合も少なくない。
  
事業協同組合は、法人税率が公益法人並みに軽減されるなどの税制上の優遇措置とともに、公的施設の運営や公共工事などの事業を受託することも多く、民間法人の中では公益性の高い性格を有する法人である。
  
法は、事業協同組合の公益性に着目し、その設立に当たっては所管する行政庁の認可を必要とし、設立後においても定款変更認可、決算関係書類及び役員変更の届などの諸手続きを通じて行政の監督下においた。
 
 行政庁の認可が必要な定款変更認可については、法第51条第2項では、「定款の変更は、行政庁の認可を受けなければ、その効力を生じない。」とされ、定款変更認可書に添付しなければならない書類として、中小企業等協同組合法施行規則第136条第1項において次の書類が定められている。

ア  変更理由書
イ  定款中の変更しようとする箇所を記載した書面
ウ  定款の変更を議決した総会若しくは総代会の議事録又はその謄本

  さらに、同条第2項において「定款の変更が事業計画又は収支予算に係るものであるときは、前項の書類のほか、定款変更後の事業計画書又は収支予算書を提出しなければならない。」とされている。

(2)本件係争部分について
  
本件行政文書中、異議申立ての対象とされた情報は、平成25年2月14日に当該協同組合から大阪府知事に対して中小企業等協同組合定款変更認可申請に関わる補足説明資料として提出された、同月1日付けの本件報告書のうち、非公開とされた部分(以下「本件係争部分」という。)である。

 本件係争部分には、
ア 法人の代表者の印影
イ 法人の経営に関する部分のうち非公表の重要な経営事項
が記載されており、条例第8条第1項第1号に該当するものとして公開しないことと決定した。なお、本件係争部分には、条例第9条第1号を適用して非公開とした情報は存在しない。

(3)本件決定の適法性について
ア 条例第8条第1項第1号について
  
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重・保護されなければならないという見地から、社会通念に基づき判断して、競争上の地位を害すると認められる情報、その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第1号の趣旨である。

同号では、
(ア) 法人等に関する情報であって、
(イ) 公にすることにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認 められるもの
は、公開しないことができると規定している。

 また、「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理を侵害すると認められるものをいうと解されており、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、事業者に対する名誉侵害、社会的評価の低下となる情報及び公開により団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきである。

イ 本件係争部分が条例第8条第1項第1号に該当することについて

 本件係争部分は法人の代表者の印影及び法人の経営に関する部分のうち非公表の重要な経営事項に関する情報であり、ア(ア)の要件に該当することは明らかである。
 次に、本件係争部分が、ア(イ)の要件に該当するか検討する。
 
本件係争部分についてみると、当該協同組合は昭和 □ 年□月□日設立以降、法人として活動しており、法人の代表者の印影は、法人が対外的な活動を行うに際し作成した文書の責任を明らかにするものとして重要な意義を有しており一般的には専ら法人自ら管理すべき情報である。これを公開することは、印章偽造等の不正使用を誘発し、虚偽の契約書等の作成が容易になるなど競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものである。
 
また、法人の経営に関する部分のうち非公表の重要な経営事項については、生産技術上又は営業上のノウハウなどではなく、異議申立人の主張のとおり「法人の競争上の地位を害する」情報とは認められないが、この情報を公開することにより当該協同組合に対する名誉侵害、社会的評価の低下を招くなど、「その他正当な利益を害する」情報に当たることから、ア(イ)の要件に該当する。
 
したがって、本件係争部分に記載された情報は、条例第8条第1項第1号に該当すると認められる。
 なお、異議申立人は、条例第9条第1号を適用して本件係争部分の非公開決定をしていると主張するが、条例第9条第1号を適用して非公開にした部分は本件係争部分には存在しない。

(4) 以上のとおり、本件決定は適法かつ妥当である。

 

3 異議申立人の反論書における主張要旨

  異議申立人の反論書における主張要旨は、概ね次のとおりである。
  
実施機関が、弁明書中で第三者である当該協同組合として記載しているものを、当該協同組合の新旧代表理事の2名であると解して、以下のとおり反論する。
  本件報告書の文脈からすると、本件係争部分には、大阪府から組合代表理事に理事就任登記に関する是正の手続を正式に行うよう求められたところ、当該協同組合側からそれが出来ない、あるいはしない理由が記載されているものと推察される。
  
選挙手続きに係る定款変更の大阪府知事の認可を経ずに、この定款に基づいて交代した新旧代表理事が、大阪府知事の認可と当該協同組合の実態上の代表理事の整合性を持たせるために、各種手続きの代表理事名の使い分けを行うなどしており、その趣旨の説明が本件係争部分に記載されているものと推察される。このように、当該協同組合は虚偽の説明、偽装工作を行っているものであり、こうした行為は「・・名誉侵害、社会的評価の低下を招くなど『その他正当な利益を害する』情報に当たる・・」との評価は成立しない。よって、本件係争部分に記載された情報は、条例第8条第1項第1号に該当せず、本件決定は不当である。
 
 
なお、本件係争部分のうち、当該協同組合の代表者の印影を非公開した実施機関の判断について異議はない。 

4 参加人の主張要旨

  参加人である当該協同組合が、口頭意見陳述で主張した内容は概ね次のとおりである。

・ 公開請求によって開示された文書は、組合員に配布され、現在の役員体制が適法な手続きを経て決定されたものではないなどといったことを組合員に吹聴し、当該協同組合の信用を失墜させるためのプロパガンダに使用されている。本件係争部分が公開されると、左記のとおり、組合や会社が築き上げた信用がつぶれるおそれがある。
  
こうした評判は組合内にとどまらず、関係企業にも広まる。一般消費者からの信用はもちろん、同業者間での信用も失われ、当該協同組合として必要な情報等を入手できなくなる可能性もある。
  よって、本件係争部分に記載された情報は、条例第8条第1項第1号に該当する情報であって、非公開とすべきである。

5 実施機関の追加弁明書における主張要旨
  
実施機関の追加弁明書における主張は、概ね次のとおりである。
(1)公開しない理由の追加について
  
本件決定の非公開理由として、条例第8条第1項第4号に該当する、との理由を追加する。(2)条例第8条第1項第4号について
  
府が行う事務事業に係る情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達せられなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

 同号では、
ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
は、公開しないことができると規定している。

 また、本号における「事務の目的が達成できなくなる」とは、立入検査、交渉等事務の性質上、それらに係る情報を公開すれば、事務事業を実施しても期待どおりの結果が得られず、実施する意味を喪失する場合などをいい、「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」とは、公開することにより、特定の者に不当に利益又は不利益を与えるなど、事務事業の公正さを著しく損なうこと、事務事業実施のために必要な情報又は関係者の理解、協力を得ることが著しく困難になることなどをいうものである。

(3)本件係争部分が条例第8条第1項第4号に該当することについて
  
本件報告書は、当該協同組合から平成25年1月23日付け中小企業等協同組合定款変更認可申請がなされ、実施機関がそれに係る認可、また、法に基づく適法な組合運営、手続きについて確認、指導監督を行うにあたり、組合代表理事の登記手続きの進め方について報告を求め、任意に提出された情報であり、当該協同組合の経営に関する部分のうち非公表の重要な経営情報が含まれている。
  以上のことから、本件係争部分に記録されている情報は、「府の機関又は国等の機関が行う監督等の事務に関する情報」として、(2)アの要件に該当することは明らかである。
  
次に、本件係争部分が(2)イの要件に該当するか検討する。
  
本件係争部分に記録されている情報は、当該協同組合内部の情報であり、当然、当該協同組合の組織外への公開を想定して実施機関に提出したものではなく、この内容を公開するのであれば、特定の者に不当に利益又は不利益を与えることになり、円滑な事業協同組合等の監督事務の公正さを著しく損なうことになる。
  
また、これらの文書を公にすると、実施機関が実施する法に基づく報告の徴収、検査等において、事業協同組合は、自己の名誉侵害や社会的評価の低下、組合事業の遂行上の悪影響を考慮して事実を述べることを差し控え、又は任意の組合運営上に係る事情聴取、任意の報告書の提出に応じない等の対応が予想される。それにより実施機関は、組合運営に関する事実に係る情報を得ることが難しくなる。今後、実施機関が法に基づく報告の徴収、検査等、また、定款変更認可や組合運営指導に係る事情聴取、報告の徴収を行うことは、事業協同組合の認可を行う行政庁である府として、適切な組合の指導監督を行う上で必要な手続であり、その事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすことになる。
 
したがって、本件係争部分に記載されている情報は、「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」として、(2)イの要件に該当する。
 
以上のことから、本件係争部分に記録されている情報は条例第8条第1項第4号に該当すると認められるので、非公開とすることが妥当である。

(4)よって、本件決定は、適法かつ妥当なものである。

6 異議申立人の口頭意見陳述のための陳述書及び口頭意見陳述、再反論書における主張要旨
  
異議申立人の口頭意見陳述のための陳述書及び口頭意見陳述、再反論書における主張の要旨は、次のとおりである。
(1)反論書にも述べたとおり、当該協同組合は虚偽の説明、偽装工作を行っているものであるから、条例第8条第1項第1号について、本件係争部分に記載された情報は該当しない。
(2)条例第8条第1項第4号について
ア 条例第8条第1項第4号は、非公開の対象となる情報を「府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報」に限定している。
  この点について、追加弁明書は、本件非公開決定に係る文書の部分には、当該協同組合の経営に関する部分のうち非公開の重要な経営情報が含まれるので、条例第8条第1項第4号の非公開の対象となる情報に該当することは明らかであると主張する。
イ しかし、本件係争部分の情報は、当該協同組合の非公表の経営情報ではない。
  
すなわち、本件係争部分の情報は、その文書の前後の内容、脈略から見て、法人の代表理事の登記を是正しないことに関する司法書士の意見の内容であって、当該協同組合の経営情報ではないし、非公表の情報でもない。
  したがって、本件係争部分の情報は当該協同組合の非公表の重要な経営情報ではないので、条例第8条第1項第4号の「府の機関又は国等の機関が行う監督等の事務に関する情報」に該当するとする追加弁明書の主張は失当である。
ウ また、条例第8条第1項第4号は、非公開の要件として、「公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある」ことを必要としている。
  この点について、追加弁明書は、(a)本件係争部分に記録されている情報は、当該協同組合内部の情報であり、当然、当該協同組合の組織外への公開を想定して実施機関に提出したものではなく、この内容を公開するのであれば、特定の者に不当に利益又は不利益を与えることになり、円滑な事業協同組合等の監督事務の公正さを著しく損なうことになる、(b)これらの文書を公にすると実施機関が実施する法に基づく報告の徴収、検査等において、当該協同組合は、自己の名誉侵害や社会的評価の低下、組合事業の遂行上の悪影響を考慮して事実を述べることを差し控え、又は任意の組合運営上に係る事情聴取、任意の報告書の提出に応じない等の対応が予想される。それにより実施機関は、組合運営に関する事実に係る情報を得ることが難しくなる。今後、実施機関が法に基づく報告の徴収、検査等、また、定款変更認可や組合運営指導に係る事情聴取、報告の徴収を行うことは、事業協同組合の認可を行う行政庁である府として、適切な組合の指導監督を行う上で必要な手続であり、その事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすことになる、との2点を指摘して、条例第8条第1項第4号の「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」に該当すると主張する。

   しかし、これらの主張は、次に述べるとおり根拠のないものであって、失当である。

(ア)(a)について

  本件係争部分の情報は、上記のとおり司法書士の代表理事の登記に関する専門的意見であって、「当該協同組合の内部の情報」ではなく、これを公表したからといって、「特定の者に不当に利益又は不利益を与えること」にはならない。
  したがって、「円滑な事業協同組合等の監督事務の公正さを著しく損なう」ことなどありえないことである。

(イ)(b)について

  上記のとおり本件係争部分の情報は司法書士の専門的意見の内容であるから、これを公表したからと言って、「自己の名誉侵害や社会的評価の低下」を生ずるおそれはない。
  また、実施機関が行う事情聴取や報告書の提出などについて、事業協同組合がその内容の公表をおそれて協力を差し控えるということは、想定できることではある。しかし、これは常にありうることであるから、これが想定できるからといって非公開を正当化することはできない。そのため、条例第8条第1項第4号は、非公開の要件として、「事務の公正かつ適切な執行」に単に「支障を及ぼす」程度では足りず、「著しい支障を及ぼす」ことを必要としているのである。

  追加弁明書の主張は、文書公開によって生ずるおそれのある実施機関の事務への一般的な支障を指摘するにとどまるにもかかわらず、これをもって、「著しい支障」を生ずるおそれがあるとするものであって、失当である。

第五 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

  行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
 
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
 このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める事項に該当する場合を除いて、公開しなければならない。

2 本件係争情報について

  本件異議申立ての対象とされているのは、本件係争部分のうち、法人代表者の印影を除く部分である。したがって、本件における係争情報(以下「本件係争情報」という。)は、本件係争部分のうち、法人代表者の印影を除く部分である。

3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

  実施機関が、本件係争情報は条例第8条第1項第1号及び同項第4号に該当し、条例第9条第1号に該当する情報を含んでいないと主張するため、条例第8条第1項第1号及び同項第4号並びに条例第9条第1号の該当性について具体的に検討する。

(1)条例第8条第1項第1号該当性について

ア 条例第8条第1項第1号について
  
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができる、とするのが本号の趣旨である。

同号は、
(ア) 法人(国、地方公共団体、独立行政法人等、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、土地開発公社及び地方道路公社その他の公共団体を除く。)その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
(イ) 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)
が記録された行政文書は公開しないことができる旨定めている。

 本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきである。

イ 条例第8条第1項第1号該当性について
      条例第8条第1項第1号の該当性について、以下検討する。
  まず、上記ア(ア)の要件についてみると、本件報告書は、参加人である当該協同組合から代表理事の就任登記の是正に関し、実施機関に提出された情報であるから、ア(ア)の要件に該当する。
   次に、上記ア(イ)の要件について検討する。本件報告書を当審査会が見分したところ、本件係争情報の内容は、参加人である当該協同組合の代表理事の就任登記の是正に関する司法書士及び法務局登記官への相談やその発言に過ぎず、法人の競争上の地位その他正当な利益を害する情報に当たるとは認められない。また、この点に関し、参加人に説明を求めたが、組合員に対して当該文書を広く流布されることの影響及び抽象的に信用失墜につながる懸念を指摘するのみで、正当な利益を害すると認められる具体的な主張はなされなかった。以上のことから、ア(イ)の要件には該当しない。

(2)条例第8条第1項第4号該当性について

  条例第8条第1項第4号該当性については、本件決定の時点では、本件係争情報の非公開理由として明示されていなかったものであるが、実施機関は、当審査会での審査過程において、これを追加主張するに至った。
  
当審査会は、(1)当審査会が、異議申立人に対し、実施機関が提出してきた追加弁明書を提供し反論の機会を与えたこと、(2)当審査会が実施機関の追加主張について判断を示さなかった場合、実施機関が答申後の決定の際に、本件係争情報につき、条例第8条第1項第4号を理由として、今回の非公開部分と同じ部分を改めて非公開にすることも想定されることから、実施機関のこの追加主張の部分についても、審査の対象とすることとした。
  条例第8条第1項第4号該当性について、以下検討する。

ア 条例第8条第1項第4号について
  
行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

  このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第4号の趣旨である。

同号は、
(ア) 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理企業経営等の事務に関する情報であって、
(イ) 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
は、公開しないことができる旨を定めている。

イ 条例第8条第1項第4号該当性について

  本件係争部分が、上記の要件に該当するか否かについて検討する。

  まず、上記ア(ア)の要件についてみると、本件報告書は、中小企業等協同組合の運営等に関し、認可権限を有する実施機関が、参加人である中小企業等協同組合の運営等に関し、苦情等の申出を受けて事実を確認する中で提出された情報であるから、ア(ア)の要件に該当する。
  
次に、上記ア(イ)の要件について検討する。実施機関の説明や追加弁明書によると、実施機関の主張は、本件係争情報を公開すれば中小企業等協同組合が実施機関の問合せ等に対し、事実の詳細な報告を差し控えるなどの対応が予想されるため、事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすというものであると解される。しかし、認可権限を有する大阪府知事は、中小企業等協同組合の運営が著しく不当である疑いがあると認めるときは法に基づき必要な報告を徴することができ(法第105条の3)、この報告をせず、若しくは虚偽の報告をした場合には30万円以下の罰金に処されることとなっている(法第114条)。したがって、本件係争情報を公開しても、同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものとは認められないから、ア(イ)の要件を満たさない。
  
なお、実施機関は、本件係争情報は参加人である当該協同組合内部の情報であり、これを公開することにより特定の者に不当に利益又は不利益を与えることになるなどと主張しているが、本件係争情報の内容からして、実施機関の主張には理由があるとは認められない。

(3)条例第9条第1号該当性について

 異議申立人は、本件係争情報中に、実施機関が、条例第8条1項第1号及び第4号を適用して非公開とした情報だけではなく、条例第9条第1号に該当するため非公開とした情報があると主張する。しかし、当審査会が本件報告書を見分したところ、実施機関が条例第9条第1号に該当するとして非公開とした情報は存在せず、異議申立人の主張に理由があるとは認められない。

 (4) 以上のことから、本件係争情報は、条例第8条第1項第1号及び同項第4号並びに第9条第1号に該当しない。     

 

4 結 論

以上のとおりであるから、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

 

 (主に調査審議を行った委員の氏名)

   鈴木秀美、北村和生、小原正敏、細見三英子


【別紙1】公開することと決定した行政文書の名称

当該協同組合の 

<応接記録等>

・当該協同組合の定款変更について(平成24年8月9日実施の応接記録)

・当該協同組合ヒアリング(平成24年8月24日実施の応接記録)

・当該協同組合関係対応概要(平成24年8月30日実施の応接記録)

・当該協同組合説明・指導(平成24年9月5日実施の指導記録)

・当該協同組合確認項目表(平成24年10月11日実施の調査結果)

・当該協同組合説明・指導(平成24年10月22日実施の指導記録) 

<定款変更認可決裁文書>

・平成25年1月23日付け中小企業等協同組合定款変更認可申請書(変更箇所新旧対照表、定款変更理由書、平成24年度臨時総代会議事録)

・チェックリスト

・当該協同組合確認項目表(平成25年1月29日実施の調査結果)

<組合からの提出文書>

・定款変更認可申請の取り下げについて(平成25年1月23日付け、顛末書添付)

・平成25年2月1日付け報告書(組合から大阪府知事あて)

・平成25年3月7日付け報告書(組合から大阪府知事あて)

<府民の代理人から大阪府商工労働部商工振興室経営支援課団体グループあて届いた文書>

・通告書(平成24年10月2日収受分・平成25年1月28日収受分)

<府民から大阪府知事あてに届いた文書>

・平成25年4月12日収受分の送付書類(上申書、上申書提出の経緯等の上申書に添付された文書を含む。)

 

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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