大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第201号)

更新日:2011年3月22日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第201号)

〔青少年健全育成審議会議事録等部分公開決定異議申立事案〕

(答申日 平成23年3月22日)

  

第一 審査会の結論

  実施機関は、本件異議申立の対象となった部分公開決定において、公開しないことと決定した部分のうち、図書類(有害図書類指定されていないもの)の「誌名」、「作品例」及び「掲載内容部分」を公開すべきである。
  
実施機関のその余の判断は妥当である。

 第二 異議申立ての経過

 1 平成22年4月28日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「平成22年4月30日付けで発表された『有害図書類の指定』に関して、これを審議した回の大阪府青少年健全育成審議会(以下「青少年審議会」という。)議事録及び配付資料のすべて」の行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

 2 同年5月19日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、(3)のとおり公開しない理由を付して異議申立人に通知した。

(1)行政文書の名称
ア 平成21年度第1回青少年審議会第2部会議事概要、次第及び配付資料(平成21年7月29日)
イ 平成21年度第2回青少年審議会第2部会議事概要、次第及び配付資料(平成21年12月7日)
ウ 平成22年度第1回青少年審議会第2部会議事概要、次第及び配付資料(平成22年4月26日) 

(2)公開しないことと決定した部分
  青少年審議会で審議した図書類(有害図書類指定されていないもの)の誌名、作品例、掲載内容部分及び販売場所名 

(3)公開しない理由
  条例第8条第1項第1号に該当する。
  
本件行政文書の非公開部分には、青少年審議会で審議された図書類の誌名、作品例、掲載内容等が記録されているが、これらのうち有害図書類指定された図書類以外のものについては、現在、参考又は検討段階にあるものである。
 
 これら有害図書類指定されていない図書類の誌名等が公開されると、当該図書類の出版社や著作者等の事業活動等における競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。

 3 同年6月3日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

  

三 異議申立ての趣旨
  本件決定を取り消し、全部公開を求める。

 第四 異議申立人の主張要旨
  
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。

 1 異議申立書における主張

   有害図書類指定された図書類以外の参考又は検討段階にあるものを公開することが、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」とは考えられない。理由は以下のとおりである。
   大阪府青少年健全育成条例(以下「青少年条例」という。)に基づいて行われる有害図書類の指定制度では、個別指定と包括指定が定められている。その指定の手続き、基準については、青少年条例第13条のとおりである。「参考又は検討段階にあるもの」は有害図書類に該当せず、なんら販売・閲覧の禁止等の制限を受けるものではない。
  
したがって、一部を公開しないことは青少年条例第9条に反している。

  2 反論書における主張

(1)「議事録」について
   実施機関は「議事録」の公開請求に対し「議事概要」という形で公開決定を行った。これは、委員から出された主な意見を、実施機関が「請求のあった内容に関連する部分」を抽出し、箇条書きにしたものである。
   しかし、「議事概要」には以下の問題がある。
   ・ 関連する部分の抽出が、漏れなく行われているかを精査できない。
   ・ 青少年審議会の審議、議論の経過を追うことができない。
   よって、あくまで青少年審議会の大枠しか見ることができず透明性を担保できない。

(2)非公開部分について
   本件行政文書の非公開部分については、実施機関は「有害図書類に指定された図書類以外のものについては、現在、参考又は検討段階にあるものである。これら有害図書類に指定されていない図書類の誌名等が公開されると、これらの出版会社や著作者等の事業活動等における競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」から妥当だとする。
   しかし、これに関しても以下の問題がある。
   ・ 有害図書類の指定にいたる経緯で、どのようなジャンルの図書が検討されたか知ることができない。
   ・「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」とするのは、あくまで実施機関側の危惧に過ぎない。
   なお、この部分に関して実施機関は「具体的には、4月30日付けで男性同士の恋愛を描いたボーイズラブの図書8点を有害図書として指定した際、告示前に実施機関がボーイズラブを指定するという情報が流れただけで、多くの書店が販売を中止するという事態が発生した」ことを取り上げ、「青少年審議会における図書類の名称・内容の公開については、より慎重な取扱が求められるところ」とする。
   青少年条例の趣旨を越えて、萎縮効果をもたらす可能性を危惧することは妥当ではあるものの、販売者に対して有害図書類指定の趣旨や目的などを正しく理解させることは、行政機関が責任を負うところである。よって、萎縮効果を恐れて公開を行わないことには妥当性がないと考える。

(3)結論
   以上の点から、改めて非公開部分の公開を求める。
   青少年条例に基づく有害図書類の指定制度は長野県を除く全国の都道府県で行われている制度であり、その公開内容には差異が大きい。
   大阪府のように、議事録の請求に対して同様の理由から「議事概要」の公開に留める自治体もあれば、東京都をはじめとして委員名などの情報を伏した上で全文をインターネット上で閲覧できるようにしている自治体も存在する。 
   有害図書類の指定制度に関しては、本年初頭からの東京都の「非実在青少年」問題を契機に注目を集めているところだが、現状、大阪府の有害図書類の指定制度は、極めて正当な手続きに基づいて行われていることは確かだと思う。ならば、透明性を確保する上で、少なくとも東京都と同等の情報公開は行うべきであると考えている。

第五 実施機関の主張要旨
  実施機関の主張は概ね次のとおりである。
1 有害図書類指定制度について
   青少年条例は、青少年の健全な育成に関する基本理念を明らかにするとともに、府の基本施策を定めてこれを推進し、青少年を取り巻く社会環境を整備し、及び青少年をその健全な成長を阻害する行為から保護し、もって青少年の健全な成長を図ることを目的としている(青少年条例第1条)。
   その目的を達成する手段の一つとして、青少年の性的感情を著しく刺激し、青少年の健全な成長を阻害する図書類を青少年に有害な図書類として指定する制度を設けている(青少年条例第13条)。有害図書類の指定には、青少年審議会の答申を受けて個別に指定する「個別指定」、個別に審査することなく、全裸若しくは半裸での卑わいな姿態又は性交若しくはこれに類する性行為で大阪府青少年健全育成条例施行規則(以下「青少年規則」という。)で定めるものを掲載するページ等の数が当該書籍等のページ等の総数の10分の1又は合わせて10ページ以上を占めるものを有害図書類とする「包括指定」、図書類の製作又は販売を行う者の組織する、知事が指定した団体が、青少年の閲覧、視聴等を不適当と認めたものを有害図書類とする「団体指定」がある。
   有害図書類については、図書類の販売、貸付け又は閲覧等を業とする者(以下「図書類取扱業者」という。)に対して、青少年への販売、貸付又は閲覧等を禁止するとともに(青少年条例第14条)、他の図書類と区分して陳列しなければならない(青少年条例第15条)。これらの規定に違反した者には30万円以下の罰金を課す(青少年条例第50条)。
   また、実施機関が有害図書類を指定するにあたっては、あらかじめ青少年審議会に諮問しなければならない(青少年条例第40条)。

2 大阪府青少年健全育成審議会について
   
青少年審議会は、大阪府附属機関条例第1条において、「青少年条例第40条第1項各号に掲げる事項についての調査審議に関する事務を担任する」と規定されている大阪府の附属機関である。また、大阪府附属機関条例第2条の規定に基づき、青少年審議会の組織、委員その他構成員の報酬及び費用弁償の額並びにその支給方法その他必要な事項については、大阪府青少年健全育成審議会規則(以下「青少年審議会規則」という。)により定めている。
   青少年審議会には、青少年条例第13条第1項の規定による有害図書類の指定等の事項を調査審議するため第2部会(以下「部会」という。)を置く(青少年審議会規則第6条第1項第2号)。また、部会に属する委員、部会を招集する部会長は、青少年審議会会長が指名する(青少年審議会規則第6条第3項、第4項)。申立人から情報公開請求がなされた平成22年4月28日現在、部会には10名の委員が所属している。
   
なお同部会は、有害図書類指定に関する事項の調査審議を行っており、以下の理由から非公開で開催することを、青少年審議会において決定している。

(1)法人等情報(条例第8条第1項第1号)
  部会では有害図書類に関する事項の調査審議を行っていることから、指定候補となっている図書類の名称等が公開されると、審査対象となったことをもって、書店等における販売が自粛、中止されるなど有害図書類に指定されていない図書類の出版社や製作者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあること。

(2)事務執行支障情報(条例第8条第1項第4号)
  有害図書類の指定の審議における発言者名及び審議内容を公開すると、外部からの圧力や干渉等の影響を受けることなどにより、率直な意見交換や意思決定の中立性が不当に損なわれ、当該審議に係る事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあること。

(3)公共安全情報(条例第8条第1項第5号)
  審議する内容の中に、児童ポルノやわいせつな図書類等、警察の取締り事項に該当するものが含まれていた場合、捜査対象となるおそれのある情報を公にすることで、犯罪の予防又は捜査その他の公共の安全と秩序を維持する活動の遂行を阻害する等の支障を及ぼすおそれがあること。

3 本件決定の適法性について
 (1)条例第8条第1項第1号について
  
 事業者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならない。このような見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他の事業者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが、条例第8条第1項第1号である。

 (2)条例第8条第1項第1号に該当することについて
 
  本件非公開部分は、青少年審議会の議事録、次第及び配付資料のうち、有害図書類指定されていないものの誌名、作品例、掲載内容部分及び販売場所名であり、これらは、現在、有害図書類指定されておらず、参考又は検討段階のものであって、これら図書類については、当然、有害図書類には該当せず、なんら販売・閲覧の禁止等の制限を受けるものではない。
   しかし、これらの図書類の名称等が公開されると、青少年審議会における審査資料に含まれていたことをもって、書店等における販売が自粛、中止されるおそれがある。
  具体的には、4月30日付で男性同士の恋愛を描いたボーイズラブの図書8点を有害図書として指定した際、告示前に実施機関がボーイズラブを指定するという情報が流れただけで、多くの書店が販売を中止するという事態が発生した。また、指定した図書類の号数とは異なる号数の図書については有害図書指定をしていないにも係らず、書店が取扱を中止するという事態が発生しており、出版社や製作者から大阪府に対して多くの苦情が寄せられた。こうした事態からも、青少年審議会における図書類の名称・内容の公開については、より慎重な取扱が求められるところである。
   以上のことから、本件請求について、有害図書類指定を検討した図書類の中で、指定に至らなかった図書については、それらの誌名等を公開することにより、営業の自由の保障、事業者の正当な利益を害すると認められるため、条例第8条第1項第1号に該当すると判断し、非公開とする部分公開決定に至ったものである。

4 結論
   以上のとおり、本件決定は、条例の規定に基づき適正におこなわれたものであり、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について
   
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

   このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

  このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

 2 有害図書類指定制度について
   大阪府の有害図書類指定制度は、知事が、青少年の性的感情を著しく刺激し、青少年の健全な成長を阻害する図書類等を青少年に有害な図書類として指定する制度である。(青少年条例第13条)。
   
有害図書類の指定には、青少年審議会の答申を受けて個別に指定する「個別指定」、個別に審査することなく、全裸若しくは半裸での卑わいな姿態又は性交若しくはこれに類する性行為で青少年規則で定めるものを掲載するページ等の数が当該書籍等のページ等の総数の10分の1又は合わせて10ページ以上を占めるものを有害図書類とする「包括指定」、図書類の製作又は販売を行う者の組織する、知事が指定した団体が、青少年の閲覧、視聴等を不適当と認めたものを有害図書類とする「団体指定」がある。
   
これら有害な図書類の指定基準は、青少年条例第13条に基づき、青少年規則第4条及び第5条において定められている。
   
有害図書類については、図書類の販売、貸付け又は閲覧等を業とする者に対して、青少年への販売、貸付又は閲覧等を禁止するとともに(青少年条例第14条)、他の図書類と区分して陳列することが義務付けられ(青少年条例第15条)、これらの規定に違反した者には30万円以下の罰金が課せられる(青少年条例第50条)。
   
また、知事が有害図書類を指定するにあたっては、あらかじめ青少年審議会に諮問しなければならないこととなっている(青少年条例第40条)。

3 大阪府青少年健全育成審議会について
   
青少年審議会は、大阪府附属機関条例第1条において、「青少年条例第40条第1項各号に掲げる事項についての調査審議に関する事務を担任する」と規定されている大阪府の附属機関である。
   
本件請求に係る有害図書類の指定等については、青少年審議会規則第6条第1項第2号の規定により、第2部会が行うこととされている。

4 本件行政文書について
  
本件請求に対応する行政文書は、青少年審議会第2部会の平成21年度の第1回及び第2回、並びに平成22年度の第1回に係る議事録及び配付資料であり、次の(1)から(3)で構成されている。

(1)議事概要
  
議事概要は、「日時」、「場所」、「出席委員」、「内容」の項目からなり、「内容」の項には、事務局からの報告内容や諮問内容、及び各議題について委員から出された主な意見を要約したものが箇条書きで記録されている。発言した委員名は記録されていないが、議事内容は概ねわかるような記載となっている。

(2)次第
  次第には、開催日時、場所、当日の議題、配付資料の名称が記載されている。

(3)配付資料
 ア 平成21年度第1回青少年審議会の配付資料
  資料1:有害図書類指定された「レディース向けコミック」の該当平均ページ数一覧
  
資料2:有害図書類指定一覧(H21.3〜H21.7月分)
  
資料3:「大阪府青少年健全育成条例に基づく有害図書類の指定について(通知)案」
  
資料4:○○○○ 他府県の指定状況について
  
資料5:○○○○ 検討箇所について
  
資料6:○○○○ 記事抜粋
  
資料7:「ボーイズラブ」とは
  
資料8:「ボーイズラブ」他府県指定状況

 イ 平成21年度第2回青少年審議会の配付資料
  
資料1:有害図書類指定一覧(H21.5〜H21.11月分)
  
資料2:有害図書類指定通知
  
資料3:○○○○ 他県の指定状況について
  
資料4:○○○○ 検討箇所
  
資料5:○○○○ 記事抜粋
  
資料6:「ボーイズラブ」他県指定一覧
  
資料7:「ボーイズラブ」他県の指定状況について
  
資料8:広告記事掲載図書一覧
  
資料9:「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」の概要

 ウ 平成22年度第1回青少年審議会の配付資料
  
資料1:有害図書類一覧(H21.5〜H22.4月分)
  
資料2:青少年を性的対象として扱う図書類の実態把握・分析について
  
資料3:「青少年健全育成条例」における性的表現の規制状況
  
資料4:十八歳未満の青少年が性的対象として扱われている図書類一覧
  
資料5:東京都青少年の健全な育成に関する条例新旧対照表
  
資料6:新聞記事

  上記の(1)から(3)の文書に記載されている情報のうち、実施機関が非公開とした情報は、青少年審議会で審議した図書類のうち有害図書類に指定されていない図書類の誌名、作品の名称、具体的な掲載内容部分及び販売場所名である。

 5 本件決定に係る具体的な判断及びその理由
(1)条例第8条第1項第1号について
  
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。
 
同号は、
 
ア 法人(国、地方公共団体、独立行政法人等、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、土地開発公社及び地方道路公社その他の公共団体を除く。)その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
 
イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)
が記録された行政文書は、公開しないことができる旨定めている。

 また、本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきものである。

(2)本件係争部分の条例第8条第1項第1号該当性について
  
本件非公開部分に記録されている情報である「誌名」やその「具体的掲載内容」の情報は、出版社の出版事業や著作者の著作活動に関する情報であり、「販売場所名」は特定の書店等の名称であることから、(1)アの要件に該当する。

次に、本件行政文書の非公開部分に記録されている情報が(1)イの要件に該当するかどうか検討する。
 ア 有害図書類指定されていない「誌名」及び「掲載内容部分」
  
a. 特定図書の有害図書類指定に係る行政文書
    
上記4(3)ア資料4から資料6及びイ資料3から資料5の行政文書は、特定図書「○○○○」について有害図書類指定するか否かの検討を行うために実施機関が作成した資料であり、その中の特定図書の「誌名」及び「掲載内容部分」が非公開とされた。本特定図書は、有害図書類に指定されなかった図書であるが、実施機関は、審議の対象となったことが明らかになることによって、当該出版社等の競争上の地位その他正当な利益を害するというので、次のように判断する。
   
非公開となった特定図書の「誌名」は、資料4「他県における指定状況」や資料5「検討箇所」の文書で既に公開された情報から推定すると、その誌名を容易に特定することができるものである。しかも、青少年審議会において、議論が尽くされ、最終的に有害図書類指定しないことが決定した特定図書の誌名であり、当該図書は現に一般に販売等されているのであるから、非公開にしなければならないような当該出版社等の競争上の地位その他正当な利益を害する情報であるとは認められない。
   
また、当該図書の「掲載内容部分」についても、同様に非公開にする理由はない。
   
また、青少年審議会の「議事概要」において、本特定図書との比較として別の図書類の誌名が記録されている部分を、実施機関は本特定図書と同様に非公開としているが、この「誌名」は参考として引用されただけであることから、非公開にする理由はない。
   
以上のことから、特定図書の有害図書類指定に係る「誌名」及び「掲載内容部分」については、有害図書類の指定をしなかったことが明らかであることから、公にすることにより当該出版社等の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められず、(1)イに該当しないため、公開すべきである。

  b. ボーイズラブを題材とした図書類の有害図書指定の是非に係る行政文書
   上記4(3)ア資料7及び資料8並びにイ資料6及び資料7の行政文書は、ボーイズラブのジャンルに属する図書類について、青少年審議会で今後、有害図書類指定をしていくことの是非について検討するために作成された資料である。これら資料に掲載された情報のうち、代表的な月刊誌の名称としての「誌名」及び「掲載内容」の記録部分が非公開とされた。
   有害図書類指定された図書類については、青少年規則第7条の規定により、「図書類の種類」、「題名」、「発行又は制作者の氏名又は名称」、「発行年月日又は制作年月日」及び「指定理由」を公示することとなっている。
   
実施機関は、これら有害図書類指定されていないものの「誌名」等については、参考又は検討段階のものであって、当然、有害図書類には該当せず、なんら販売・閲覧の禁止等の制限を受けるものではないが、これらの図書類の名称等が公開されると、青少年審議会における審査資料に含まれていたことをもって、書店等における販売が自粛、中止されるおそれがある、と主張する。そして、現に、実施機関が平成22年4月30日付けでボーイズラブの図書を有害図書類指定するという情報が流れただけで、多くの書店が販売を中止するという事態が発生し、指定した図書類の号数とは異なる号数の図書については有害図書類指定をしていないにも係らず、書店が取扱を中止するという事態が発生し、出版社や製作者から大阪府に対して多くの苦情が寄せられた、と主張する。
   
確かに、こうした事態から、実施機関が青少年審議会において審議した図書類の名称及び内容等の公開について慎重になることも理解できないわけではない。
   
しかし、有害図書類の指定を審議する青少年審議会の資料に掲載された図書類の「誌名」が公になれば、その情報がインターネットを通して拡散され、販売書店等や実施機関への抗議が殺到し、販売書店等が当該図書の販売を控えることになり、その結果、出版社等の競争上の地位その他正当な利益を害することになるという実施機関の主張は、明白かつ高度の蓋然性をもつものとは認められない。
   
むしろ、実施機関において、青少年条例の趣旨、有害図書類指定制度に係る適正な区分陳列等について、一層の周知・啓発を進めていけば、書店等が販売の自粛を行う事態には至らないものと考える。
   
そもそも、この有害図書類の指定制度は、18歳未満の青少年の健全な育成を阻害すると認められる図書類を指定し、青少年への販売等を禁止するものであるが、当該有害図書類は適正な区分陳列を行うことによって、販売等は行うことができるものであり、発行そのものを禁止するものではない。
   
したがって、ボーイズラブのジャンルに関して有害図書類指定の是非を検討した資料に含まれる「誌名」及び「掲載内容」については、公にすることにより当該出版社及び制作者等の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められず、(1)イに該当しないため、公開すべきである。

  c.「広告記事掲載図書一覧」
   
平成21年度第2回青少年審議会資料8の行政文書には、「女性向けコミック」、「ボーイズラブ」、「週刊誌」、「少年・少女向けコミック」等のジャンルごとに抽出した複数の誌名に対応して出会い系サイト等の広告記事の有無が記載されており、実施機関は、その「誌名」を非公開とした。当該青少年審議会の議事概要を読む限り、本件行政文書に関して審議・検討した形跡が見受けられなかったため、当審査会から実施機関に確認したところ、審議時間の不足から、本件行政文書について説明・検討は行われなかったということである。
   
したがって、この「誌名」についても、これまで述べてきたのと同様の理由から、これらの図書類の出版社等の正当な利益を害するとは認められず、(1)イに該当しないため、公開すべきである。

イ 「販売場所名」及び「作品例」
   平成22年第1回青少年審議会資料4の行政文書は、「18歳未満の青少年が性的対象として扱われている図書類一覧」であり、これらの図書が販売されている「販売場所」として、a「一般書店及び古書店」b「成人向け書店」c「自動販売機」d「ゲームソフト店」e「コンビニ」が分類され、そのうちa、b、dについて、「ex」として書店名が記載されている。これら書店名は、実施機関が抽出した2〜3軒の書店名を例として記載しているものである。
   
また、「作品例」欄には、グラビア誌や週刊誌等の分類ごとに1件から3件の「誌名」が記載され、その想定される販売所が記されている。この資料の分類については、社団法人日本雑誌協会の『マガジンデータ』に基づき分類し、作品例については、同『マガジンデータ』において一定の発行部数があって青少年に流通している作品を実施機関が抽出している。実施機関は、本件行政文書に記載された情報のうち、「販売場所」欄に記載された書店名及び「作品例」欄に記載の「誌名」について非公開としたので、以下判断する。
   
「販売場所名」に記載された書店名は、数多くある書店等のうちごく一部を例示的に取り上げたものである。したがって、これらを公開した場合、この資料4が「18歳未満の青少年が性的対象として扱われている図書類一覧」であることから、これに該当する図書類を特に積極的に販売しているという誤解を府民等に与え、当該書店に対する誹謗・中傷等の抗議が直接寄せられるおそれがある。さらに、「成人向け書店」の分類に例示された書店名を公開した場合、いわゆる風俗営業法で規制の対象となる成人向け専門書店と誤解されるおそれが生じることが考えられる。以上の点を考慮すれば、これらの書店名の公開については、営業の自由及び競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められ、(1)イに該当するため公開しないことができると考える。
   
「作品例」として挙げられた「誌名」については、これまで述べてきたように、(1)イに該当せず、公開すべきである。
   
以上のことから、実施機関が非公開とした図書類の「誌名」、「作品例」、「掲載内容部分」については、これらを公開したとしても、出版社及び著作者の競争上の地位その他正当な利益を害するとまで言うことはできないため、条例8条第1項第1号に該当せず、公開すべきである。
   
また、「販売場所」欄記載の書店名については、これを公にすることにより営業の自由及び競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められることから、条例第8条第1項第1号に該当し公開しないことが相当である。

6 その他の異議申立人の主張について
 
 異議申立人は、「議事録」を公開請求したにもかかわらず、公開されたのが「議事概要」である点について、「委員から出された主な意見を実施機関が本件公開請求のあった内容に関連する部分を抽出し、箇条書きにした『議事概要』であって、これでは、青少年審議会の審議、議論の経過を追うことができないため、大枠しか見ることができず透明性を確保できないと主張している。
  当審査会において、実施機関に確認したところ、本件公開請求の対象となった青少年審議会の議事内容がわかるような会議の録音、職員の備忘録等については、本件の議事概要を作成した後、廃棄しており、当該行政文書以外の行政文書は保管・作成していないとのことであった。
  大阪府においては、議事録の作成に当たって、統一した作成要領等は定められておらず、各種審議会等の会議担当部局において、業務に必要な範囲内の記録として作成されているものであって、議事録の記載方法及び内容についての適否は当審査会で判断するところではない。
  なお、本件請求以後に開催した青少年審議会については、実施機関は、会議の開会から閉会までに至る議事進行・経過、各委員の発言内容を記録した議事録を作成していること申し添えておく。

7 結 論

以上のとおりであるから、本件異議申立は、本件非公開部分のうち公開を求める図書類(有害図書類指定されていないもの)の「誌名」、「作品例」及び「掲載内容部分」について理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

 

(主に調査審議を行った委員の氏名)
松田聰子、山口孝司、鈴木秀美、細見三英子

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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