大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第199号)

更新日:2011年2月15日

(大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第199号)

〔教職員評価・育成システム評価総括表部分公開決定異議申立事案〕

(答申日 平成23年2月15日)

 

 

第一 審査会の結論

実施機関の決定は妥当である。

 

 

第二 異議申立ての経過

1 異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により平成20年10月15日、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対して、「府立高校(全日制)における平成19年度「評価・育成システム」の総合評価の各学校毎のS、A、Bの評価分布(人数・%)全教職員・退職者を含む」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

 

 2 実施機関は、平成20年10月29日、本件請求に対応する行政文書は不存在であるとして、条例第13条第2項の規定により、非公開決定(以下「不存在決定」という。)を行い、「各学校毎の評価結果分布に関しては、評価結果入力のシステムにおいて、集計されていない状況であることから、現在システム改修を行っている。したがって、請求に関する行政文書を管理していない。」との理由を付して異議申立人に通知した。

 

 3 異議申立人は、平成20年12月25日、行政不服審査法第6条の規定により、不存在決定の取り消し、及び早急にシステムを改修し公開することを求めて異議申立てを行った。

 

 4 評価結果入力のシステムが改修されたため、実施機関は上記2の不存在決定を取り消し、本件請求に対応する文書として各府立高等学校の「2007年度 評価総括表」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、平成21年11月20日、次の(1)の部分を除いて公開する旨の部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、(2)のとおり公開しない理由を付して異議申立人に通知した。

 (1)公開しないことと決定した部分

    各学校毎の2007年度 評価総括表(集計表)について

   「対象外の者の数(注2)」、「対象者数」及び「対象者の評価結果集計」の各集計欄

(2)公開しない理由

ア 条例第8条第1項第4号に該当する。

     本件行政文書(非公開部分)には、個人の業績評価、能力評価、総合評価、評価結果の集計等が記載されており、これらの情報は、教職員の評価・育成システムに関する人事管理情報であって、これらの情報が公になると、他校の分布と比較されることにより、校長が自分の評価に対する批判などを意識して適正な評価を行うことが困難になるおそれがあるなど、人事管理に関する事務の遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

イ 条例第9条第1号に該当する。

     本件行政文書(非公開部分)には、対象外の者の数、自己申告票の不提出者数等が記載されており、これらの情報は、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別されうるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるものである。

 

5 異議申立人は、本件決定を不服として、平成22年1月15日、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

 

 

第三  異議申立ての趣旨

本件決定を取り消し、非公開部分の「教職員評価・育成システム」の総合評価の各学校毎のS・A・Bの評価分布(人数・%)の部分について全面公開を求める。

 

 

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。

 

1 異議申立書における主張

(1)本件異議申立てに至る経過

ア 平成20年10月15日:「府立高校(全日制)における平成19年度評価・育成システムの総合評価の学校毎のS・A・Bの評価分布(人数・%)全教職員・退職者を含む」の公開を求める行政文書公開請求を行う。

イ 同年10月29日付け「不存在による非公開決定通知書」を受け取る。

ウ 同年11月4日:教職員企画課職員と連絡をとり「昨年度は存在した分布表が、なぜ今年度はないのか」の説明を求める。

エ 同年11月7日:府政情報センターで教職員企画課職員2名により説明を受ける。説明によると、「昨年度は実施機関が作成したエクセルを使った集計ソフトを使用したが、今年度はSSC(総務事務サービス)で各学校長が入力したものを集計するように変更した。その際、システムに不具合があり、本来集計されるべき学校毎の評価分布が集計されてなかった。現在、システム改修中であるが、今のところ学校毎の評価分布は存在しない」との                                                                                                                                             ことであった。私は「a.システムの不具合は4月当初には判明していたはずなのに、それから半年以上経ってなぜ改修できていないのか、b.学校毎の評価分布を出すぐらい、教員でもエクセルを使えば短時間で出来る。SSCはプロのコンピューターシステム会社によりサポートされているはずだから、やる気があればシステムの改修は容易に出来るはずである、c.学校長も『教職員評価・育成システム』(以下「評価・育成システム」という。)では評価されているが、学校長を評価する時、学校長が出した教職員の評価及び評価分布を参照せずに評価しているとすれば、実にいい加減な評価態度と言わざるを得ない、d.コンピューターシステムが不具合なら、この程度の集計は手計算でもできる。手計算で行っている可能性も排除できない。」と主張した。a、bに対して教職員企画課職員から説得力のある説明はなかった。

 最後に私は、「本来集計されるはずのものがシステムの不具合で集計されていないのだから、現時点では『不存在』であっても、システムが改修されれば存在するものである。従って、その時点で公開すべきである。」と主張した。それに対し教職員企画課職員は納得し、システムが改修され次第連絡することを約束して別れた。以来、平成21年6月30日に至るまで何の連絡もなかった。

オ 同年12月24日:実施機関に対して「不存在決定を取り消し、早急にシステムを改修し公開を求める」異議申立書を提出する。

カ 平成21年1月8日付け審査会諮問通知書を受け取る。同年2月3日付け弁明書を受け取る。審査会より同年6月19日付け口頭意見陳述の日程(7月6日)の連絡を受け取る。

キ 同年6月30日、教職員企画課職員にシステムの改修状態について尋ねる。「まだ出来ていない」という返事であった。次いで、担当の総務サービス課に電話をかけ事情を説明し、「調べてみる」との返事をもらう。

ク 同年7月1日:総務サービス課へ電話をかけ、調査の結果を聞く。答えは「平成20年度末には改修は完了したが、システムにアップされていないので、7月2日の夜にアップしておく」というものであった。(実施機関が確認の労さえとっていれば、3月末にはシステムにのせることができたということになる。)

 また、同日、教職員企画課に電話をかけ、事情を説明する。担当職員は「システムが改修されているか確認するため、府立学校全教職員のデータと付き合わせる必要があるので時間がかかる」と述べ、後の対応は情報公開課と調整するということであった。

ケ 同年7月2日:情報公開課に電話をかけ教職員企画課との話し合いの結果を聞く。その結果、7月6日の口頭意見陳述は延期し、当該情報の存在が確認された後、改めて実施機関が情報の開示・非開示の決定を出す方向で調整するということになった。情報公開課職員は、「1ヶ月ほど前、『システム改修の有無については、審査会で当然聞かれることになるので確認しておいてほしい』と依頼したところ教職員企画課職員は『まだできていない』との返事であったと話した。

コ 同年7月13日:教職企画課職員に一連の経過について説明を求める。その中で、情報公開課が確認を求めた件について問うと、そのような事実はないと否定する。しかし再度説明を求めると「総務サービス課より『完了した』との連絡がないので完了していないものと解釈し『まだできていない』と返事をした」と前言を訂正する。「早急にシステムを点検して、決定通知書を出してほしい」と要請した。

サ 同年8月24日:情報公開課職員に尋ねると「教職員企画課からは、2008年、2007年度の両方を点検しているので未だ済んでいないと聴いている」とのことであった。

シ 同年9月7日:教職員企画課職員に、その後の状況を尋ねる。「総務サービス課より『まず平成20年度の点検をしてほしい、それで誤りがなければ、データを平成19年度のものと切り替える』という要請があったので、まず、平成20年度の点検を行った。目下平成19年度のものを点検中で、あと1、2週間で完了する予定である。その後に決定書を出す」と説明があった。

ス 同年10月6日:教職員企画課職員より電話がある。私が不在だったため、10月7日に私の方から電話する。用件は「点検が完了したので、これから開示・非開示の検討に入る」というものであった。

セ 同年11月11日、教職員企画課へ「決定書がまだ届いていないが、どうなっているのか」問い合わせる。「来週中には起案書を作成し再来週には決定書を送付できる見込みである」とのことであった。

ソ 同年11月20日付け本件決定通知書を受け取る。

タ 同年12月3日:府政情報センターで教職員企画課より部分公開された集計表を受けとる。 

(2)異議申立の理由

ア 本件異議申立てに至る経緯に係わる以下の点について実施機関として説明責任を果たしていただきたい。

a.  平成20年10月15日付けで情報公開請求した行政文書は、結果として存在していた。

実施機関として平成20年10月29日付け不存在による非公開決定通知にある非公開決定及びその理由は、現時点でも正しかったと認識しているかどうか。

b. システムの不具合はシステムを開発した業者の責任であり、不具合の指摘があれば早急に是正してしかるべきである。不具合を認識した時点(平成20年3月又は4月)で、すみやかな是正をし、その結果を確認していないとすれば、実施機関は発注者として「怠慢である」といわれても仕方ないのではないか。

c.  平成20年10月15日付け行政文書公開請求から平成21年11月20日付け本件

定まで、1年以上を要した。なぜこれ程時間がかかったのか。

イ 平成20年12月25日付け異議申立に対する実施機関の主張(平成21年2月3日付け)においては、「この集計表は、校長が入力結果に誤りがないかどうかを点検、確認するための便宜として作成したものであり、実施機関としては必要としていない情報であるとともに、使用していない」としているが、

a.  集計表では、入力結果の誤りの有無を確認することは出来ない。入力の誤りの有無を正

確に確認するには、集計表でなく、全教職員の評価を打ち出した一覧表を使うしかない。集計表で分かるのは、まさに学校毎の評価分布である。

b.  大阪府人事委員会は、S+Aの合計比率が5割を超えないように、規則で定めている。

現に実施機関は、市町村教育委員会に対して5割を超えないように指導していると聞いている。また、市町村によっては5割を超えている学校に指導が入っているとも聞く。これは、「評価は絶対評価である」という実施機関の主張と相容れないものである。実施機関が「学校毎の集計表は必要としていないものである」と述べているが、出てきた結果が府全体では5割以下になっているのは、「学校毎に5割を超えない」ように何らかの指導・示唆が校長会等でなされているか、校長同士が申し合わせているのではないかと疑わせる。もしそのような指導・示唆・申し合せがないとすれば、5割を超える可能性もあり、その場合学校毎の分布を当然チェックすることになるのではないか。

c. 「評価・育成システム」では、校長は育成者の役割を担っている。育成者としての成果は、教職員の評価に当然反映されるものである。校長を評価する際に教職員評価結果を考慮に入れていないとすれば、実施機関が「評価・育成システム」を誠実に執行していないことになるのではないか。

d. 評価する以上、学校毎の評価結果について分析する必要がある。府全体の分布だけでは、不十分である。特定の校長の評価に(他と比較して)著しい偏りがあれば、事情を聞いても絶対評価の原則に抵触するとは思われない。むしろ、監督者として当然の行為である。教員が複数クラス同じ教材で教えていて、あるクラスの平均点が極端に違えば、当然その理由を分析する。また他の教員のクラスとの比較も行う。

(3)本論

  本件決定の「公開しない理由」で、「条例第8条第1項第4号に該当する」として、その理由を「本件行政文書(非公開部分)には、個人の業績評価、能力評価、総合評価、評価結果の集計等が記載されており、これらの情報は、教職員の評価・育成システムに関する人事管理情報であって、これらの情報が公になると他校の分布と比較されることにより、校長が自分の評価に対する批判などを意識して適正に評価を行うことが困難になるおそれがあるなど、人事管理に関する事務の遂行に著しい支障をおよぼすおそれがある」と述べている。

条例第8条第1項第4号は公開しないことができる行政文書として「・・・人事管理・・・の  事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」と定めている。以下、「評価育成システム」により、「これらの事務(=教職員の評価)の公正かつ適切な執行」がなされているか検証して、請求している情報の公開が「これらの事務(=教職員の評価)の公正かつ適切な執行」に不可欠であることを実証する。

ア 学校長は客観的な基準に基づいて「公正かつ適切」に評価することはできるか。

a. 校長は、自分の専門教科を除いてその他の教科については門外漢である。従って自分の

専門教科以外の教科を評価する基本的知識・能力を欠いており、それらの教育内容、教育方法について適正に評価することは不可能である。その点を指摘すると、私が在籍した学校長は「自分も教員であったので、授業を見ればわかる」と強弁したが、それは教科の専門性を軽視するものである。面談の中でさらに追及すると、校長は、「(私の担当教科である)英語教育の専門的なことについてはよくわからない」と認めざるを得なかった。

b. 校長は、1時間程度の授業観察で教員の教える能力をはかることは出来ない。授業観察 を増やすとしても2〜3時間が限度である。授業には1年を通した流れがあり、その内の多くて2〜3時間(私は2007年度約600時間授業をした)を切り取って1年間の授業を評価するのは、野球選手が2〜3試合の結果で査定されるようなものである。また、教頭が一次評価者となっているが、教頭が授業を見に来たことは全くない。手引き1の3頁には「一次評価者は、教職員の自己申告と日常的に教職員と接する仲で把握した評価の対象となる事実(行動や態度)をもとに評価を行い・・・」とある。たしかに、教頭は教員と接する時間は校長よりは長いが、それでも教員との接点は断片的である。授業も見ないで、なぜ教える能力がわかるのか。

c. 24学級規模の府立高校全日制普通科には、教頭、事務長、事務職員、技能員、教諭、養護教諭、実習助手と多岐に渡る職種の職員が約60名いる。教諭に対してでさえ専門外の教科は「よくわからない」と言っているのに、教諭以外の未経験の職種に対しては、さらにわかるはずがない。それらの全教職員を「公平・公正」に評価することは、物理的に不可能である。

d. 手引き1の10頁で「能力評価は、日常の業務の遂行を通じて発揮された能力(態度・行動)を絶対評価します。*職務全般の取組が評価の対象となります。」とあるが、校長が多数の教職員の「職務全般」を把握するのは不可能である。「担任している生徒(約40人)の学校生活全般を把握している」と言う教員がいたとしたら、その教師は同僚からバカにされるだけである。(担任した生徒と卒業後に話すと、担任中の秘話がぞろぞろ出てきて「いかに生徒を知らなかった」か、痛感させられる。)

イ 「評価・育成システム」は、教員にとって(および生徒にとっても)授業が最も重要ということを理解していず、その点でも教員を「公正かつ適切」に評価することは出来ない。

a. 能力評価の3つの評価要素「学ぶ力の育成」「自立・自己実現の支援」「学校運営」が能力評価を占める割合は、なぜ1対1対1であるのか。

  「1対1対1の比率は教育委員会の指針である」と複数の教育委員会教職員企画課職員が確認している。

  私は2007年度週18時間授業を行った。その18時間の授業の教材研究、教材作成、提出物の点検・評価、小テストの作成・採点および授業に要した時間は、週当たり30時間以上であった。週40時間の勤務時間のうち、4分の3以上を使って行った教科教育(「学ぶ力の育成」)が、どうして「自立・自己実現の支援」「学校運営」と同じ比重なのか。また、「教員の仕事の中で最も重要で中心になるのは、授業(教科教育)である」というのは、私の32年間の教員生活での常識であったし、一般的な共通認識だと思う。

b. 「手引き」2の10頁、11頁「自立・自己実現の支援」の「着眼点の例」には、「授業を通じ、自立・自己実現を支援する」という観点がないのはなぜか。

  授業の役割は、授業を通して生徒が科学的知識・正しいものの見方・真に必要な学力をつけることである。そのことは必然的に生徒達の自立・自己実現につながる。生徒と最も長く接し、勤務時間の中で最も長い部分を使い、教師として最も専門性を持って行っている授業により、生徒の「自立・自己実現の支援」をはかるという観点がないとは、私には信じられない。「授業」こそ生徒の「自立・自己実現の支援」の中心であり、また中心でなければならない。

ウ 以上のように、「評価・育成システム」はきわめて杜撰な制度設計だと言わざるをえないが、評価結果に納得できない場合、「苦情申出」の制度がある。では、「苦情申出」は「評価の公正性・公平性に資すること(手引き1の21頁)ができるだろうか。

a. 苦情審査会の構成は教育監、教育振興室長、総務企画課長、教職員室長、教職員人事課長の5名で全て教育委員会の職員で占められている。いわば身内だけの審査で、果たして「公平・公正」な審査ができるのか、出来るというならその理由と、これまでの苦情申出の総件数、そのうち教職員の主張が認められたものの件数を示してもらいたい。

b. 手引き1の23頁「苦情対応要領」には「審査会は、申出事案にかかる評価結果が事実に基づき、評価基準等に照らして評価されているかどうかを審査する」とある。審査会に提出された書類は、a.校長からの「評価・育成シート」、b.教職員企画課の調査員が校長より聞き取りまとめた調書(以下「校長調書」という)、c.教職員の「苦情申出書」(調査員による書き込み有り)・「評価者調書に対する追加意見」、である。教職員が「苦情申出」で述べている事実と、「校長調書」で述べられている事実が相反する場合、苦情審査会は何を持って判断するのか。

  2006年度、私の申出はまさにその点が争点であったが、苦情審査会は、私の主張を一方的に却下した。私は自分自身のことを述べている。校長は約60人もの教職員を評価しなければならない。一人一人の言動について思い違いがあっても不思議ではない。

エ 評価の客観性は、評価・育成システムのなかに組み込まれていない。

   実施機関は地位確認請求訴訟(平成19年(行ウ)第81号、第102号、第168号)平成20年4月8日付け「訴えの変更に対する答弁書」11頁で「(自己申告票未提出者について)自己申告票による目標の設定等の手続なしに業績評価を行おうとしても、目標設定等の客観的基準がないために、結局校長の主観的判断により業績評価を行うことになる。そして、この場合、実施機関が別に業績評価の基準を作成したとしても、基本的に校長の主観的評価であることに変わりがなく、また、校長の主観による業績評価を行う場合は、能力評価との区分が曖昧になるおそれがある。しかも、能力評価、業績評価及び総合評価がともに校長の主観によることになれば・・・」と述べている。

   この文面で実施機関は、(a)能力評価及び総合評価は、「校長の主観により行われる」こと、(b)手引き2の10頁、11頁の教諭・講師(実習担当)・実習助手に対する能力評価の評価基準等(評価基準・評価要素/判断基準・着眼点・着眼点の例)は、実施機関が別に作成した基準であるので客観的基準でないと自ら認めている。

  業績評価について「目標設定等の客観的基準」があるので、客観的であると主張するが、手引き1の9頁、10頁「評価について」を読むと、「目標ごとの達成状況の判断」「業績の評価」とも「最終的には校長が主観的に判断する」と解釈できる。教育活動を総合的に評価することは至難であることは、実施機関も理解していて、それを無理やり評価するには、評価しやすいように「単年度で切り取り、教育活動のごく一部に焦点を当てる」必要があった。それが「目標設定」の真の理由で、決して「客観的基準」などではない。

(4)結語

私は本論において、ア 学校長は、客観的な基準に基づいて「公正かつ適切」に評価することは不可能であること、イ 「評価・育成システム」は、授業の持つ意味・重要性を理解していないという、重大な欠陥を持っていること、ウ 苦情審査会は、構成メンバーが偏っているうえ審査方法に欠陥があるため、「評価の公正性・公平性」を保障するものではないこと、エ 評価の客観性は、評価・育成システムのなかに組み込まれていないこと、について述べ「これらの事務(=教職員の評価)の公正かつ適切な執行」がきわめて困難であることを実証してきた。

「評価・育成システム」による評価は、ボーナス・昇給・年金にリンクしているため、教職員に対し一生涯影響を与える。従って、万に一つも評価の誤りは許されない。実施機関は「これらの情報が公になると他校の分布と比較されることにより、校長が自分の評価に対する批判などを意識して適正に評価を行うことが困難になるおそれがある」と主張する。現状のように、各校長の評価の実態がブラックボックスに入っていて外部から何もわからず、苦情申出をしても一方的に校長に有利な制度のもとでは、校長は「安心して」恣意的な評価ができる。評価結果の分布を公表することは、「自分の評価に対する批判などを意識」することで校長に緊張感を与え、より適切な評価を行おうという動機付けになる。つまり、それは「人事管理に著しい支障を及ぼす」のではなく、むしろいい影響を与えると考えるのが合理的である。(なお、「公開しない理由」の「条例第9条第1号に該当する」部分については、私が請求した文書には直接関係していないため、本件異議申立てでは争わない。)

 

2 反論書における主張

(1)実施機関は、情報公開請求に対して誠実に対応していない。

2007年にも私は、「府立高等学校における平成18年度評価・育成システムの総合評価の学校毎の評価分布(人数)全教職員・退職者を含む」の公開を求める「行政文書公開請求」を行った。その際にも、教職員室教職員企画課職員は「電子データとして個人ごとの情報は存在するが、学校単位で集計したものは、存在しない。」というものであった。私は、「学校単位で集計していないはずがない。コンピューターで簡単に集計できるものだから、必ず学校単位でまとめているはずで、もし行政文書として残っていないのなら廃棄したのではないか」と主張し、公開請求をした。ところが、部分公開決定通知書を受け取り、実施機関の説明では、「校長からの提出用紙に学校毎の集計表があるのがわかった」ということであった。

もし、この公開請求の時点で「不存在」ということで諦めて帰っていたら、この公開請求は終っていた。情報を持っている側が、請求の文書が実際は存在するのに「存在しない」と述べるのは、請求する側には確認する手段がないのだから、絶対に許されるものではない。

    この点に関して、審査会は「当審査会としては、今後、実施機関において、条例第7条第5項の規定に基づき、公開請求を行おうとする者に対して、公開請求に係る行政文書の特定に必要な情報を提供するに当たっては、府民が求めている情報の内容及びこれに該当する行政文書の保有の状況について、慎重に確認し、条例に基づく公開請求を行う権利の行使を阻害することのないように努められることを望むものである。」と答申(大公審答申第156号)している。

    2007年度にこのような経過があったにもかかわらず、2008年度の情報公開請求では、実施機関の情報公開に対する姿勢は、改善されるどころか、むしろひどくなっている。実施機関の説明責任は、審査会に対してだけにあるのではなく、第一義的には市民(特に請求者である私)に対してある。

(2)実施機関は説明責任を果たしていない。

ア 異議申立に至る経過について

 「1 異議申立書における主張」の(2)「異議申立の理由」アaからcの3点は、情報公開に至る手続に関する問題であり、手続は情報公開の当然一部である。それがなぜ「本件行政文書の情報公開と全く関係ない」と無視できるのか。

  イ 集計表の取り扱いについて

 集計表について「1 異議申立書における主張」の(2)「異議申立の理由」アaからdについて実施機関に説明を求めたが、実施機関は、「本件行政文書については、評価結果入力のシステムの改修が誤りなく行われたことを確認するために、今回に限り実施機関が出力したものであって、通常は実施機関には必要ない情報で出力していない。」と述べ、「集計表は本来行政文書ではない」とも受け取れる主張をしている。

a. 実施機関は、「当該集計表に関しては、年度当初に、入力結果に入力結果の集計に不備があったことから、現在総務サービス課に改修を依頼し、当該入力システムの改修を行っているところであり、本件行政文書である集計表を作成することができず、様式も出力できない状況であることから、行政文書として管理していないものである。」、「現状においては、入力システム(集計表の集計等に係る部分)の改修を行っているところであり、行政文書として管理していないが、集計表等の出力ができることとなった場合の公開・非公開に関する実施機関としての判断は次のとおりである。」と主張しており、「集計表は行政文書である」ことを明確に認めている。

b. 実施機関は「本件行政文書の評価結果分布は・・・各校長が入力したデータが入力システムで自動的に集計され・・・「業績評価」、「能力評価」及び「総合評価」の集計表等が出力できる仕組みになっている。」という主張と集計表の出力の仕組みについての説明は明らかに矛盾する。

c. 実施機関は、「集計表は実施機関としては必要としていない情報である」と言い切って  いるが、各学校の評価分布を集計し、学校間の評価分布の偏りを調査・分析する必要が今後ともないと果たして言い切れるのか。

 (3)条例第8条第1項第4号について

 条例第8条第1項第4号では、公開しないことが出来る行政文書として「・・・人事管理・・・の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」とあり、「これらの事務」とは本件では教職員の評価を指し、それが「公正かつ適切」に執行されることが大前提になっている。

  また、本件決定における「公開しない理由」で条例第8条第1項第4号に該当するとし、その説明として「本件行政文書(非公開部分)には、個人の業績評価、能力評価、総合評価、評価結果の集計等が記載されており、これらの情報は、教職員の評価・育成システムに関する人事管理情報であって、これらの情報が公になると他校の分布と比較されることにより、校長が自分の評価に対する批判などを意識して適正な評価を行うことが困難になるおそれがあるなど、人事管理に関する事務の遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある」と述べ、「評価は適正にされなければならない」ことを理由に、公開を拒否している。

  私は現行の教職員・評価育成システムが「公正かつ適切に」評価するシステムになっているかどうかを異議申立書の中で検証して、問題提起をした。それが何故、「本件行政文書の公開と全く関係ない」のか。

(4)本件情報公開が、評価に与える影響について

  すでに前記「1異議申立書における主張(3)結語」で述べたように、本件行政文書の公開は、「人事管理に著しい支障を及ぼす」のではなく、むしろいい影響を与えると考えるのが合理的である。

(5)評価分布の公表は、学校の序列化につながるのか。

  実施機関の主張には、「府民にとっては、学校毎の評価分布の差が、所属教職員の資質・能力の差であると受け取られ、ひいては、学校自体の優劣を示すものと誤解されるおそれがある。そうすると、所属教職員や在校生に対する偏見を生み、あるいは、学校の序列化につながるなど、今後の学校運営に著しい支障を及ぼすことも考えられる。」という理由が追加されているが、

a. あとから理由を追加するのは認められない。私が反論書で主張しても実施機関の弁明を聞く機会はない。

b. 学校の序列化につながる等という理由は、条例のどの項目に該当するのか説明がない。「学校運営に著しい支障を及ぼす」の「学校運営」を条例の「これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」の「これらの事務」に当てはめることには無理がある。「これらの事務」は本件では「教職員の評価」を指す。

c. 「所属教職員の資質・能力の差であると受け取られ、ひいては、学校自体の優劣を示すものと誤解されるおそれがある」ということには、根拠がない。なぜなら、

 (a) 府立高校には既に「学校自体の優劣を示す」学校間格差が歴然とある。学校間格差は、私が教員になった1976年に既にあった。それは、退職した2008年まで、学校の課程が変わることなどで若干の変遷はあったが、ほぼ固定的に存在したことは、私の経験からも明らかである。

 (b) 府民(特に中高生を持つ親)の府立高校に対する最大の関心事は、各高校の大学進学実績である。府立高校全日制普通科の序列を決めているのは、大学進学実績であり、「学校毎の評価の分布差が所属教職員の資質・能力の差であると受け取られ、ひいては、学校自体の優劣をしめすものと誤解されるおそれ」はない。

 (c) 実施機関は、「学校の序列化」に否定的であるように思えるが、実際は現存する「学校の序列化」を解消するための有効な施策をとっていないだけでなく、それを助長する方向に舵をきっている。○○高校時代の校長は、高校教育担当課長経験者であったが、「実施機関では、9学区(当時)のトップ校+豊中高校のことを『トップテン』と言っている。」と言っていた。教職員組合は「高校間格差」の是正と「学区縮小」を要求してきたが、実施機関は逆に2007年度より学区統合をして「格差」を拡大する施策を行った。また上記10校を「進学指導特色校」に指定し、私学に押され凋落激しい府立高校「トップテン」を、エリート校化することに躍起になっている。

 

現行の「評価・育成システム」では、ア 学校長は客観的な基準に基づいて「公正かつ適切に」評価することは不可能であること、イ 「評価・育成システム」は、授業の持つ意味・重要性を理解していないという、重大な欠陥を持っていること、ウ 苦情審査会は、構成メンバーが偏っているうえ審査方法に欠陥があるため、「評価の公正性・公平性」を保障するものではないこと(2007年〜2009年の苦情審査会で、計87件の苦情申出に対し、教職員の主張(苦情)が認められたものは1件もないことが、情報公開により明らかになった)エ 評価の客観性は、システムのなかに組み込まれていないこと、について私は異議申立書における主張で実証してきた。

日本国憲法第28条は、経営者・使用者の一方的支配から勤労者(労働者)を守るため、勤労者(労働者)に団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障している。しかし、現行の「評価・育成システム」は教職員を分断し、教職員の連帯と協働を阻んでいる。校長の評価結果が、実施機関によってもチェックされず、外からも全く見えない状況は、教職員を一方的に不利な立場に追いやっている。校長が恣意的な評価をしても、当人が裁判で訴えない限り、どこからもチェックされない構造になっている。

教育現場では今、moralとmoraleが危機に瀕している。

 

 

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね以下のとおりである。

 

1 教職員の評価・育成システムについて

(1)実施機関は、平成14年7月、「教職員の資質向上に関する検討委員会」から、「教職員全般の資質向上方策」について最終報告を受けた。この最終報告の中で、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として提言されたのが「評価・育成システム」であり、試行実施を経て、平成16年4月16日に開催された大阪府教育委員会会議で、府立学校に勤務する教職員を対象とした「府立の高等専門学校、高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(平成16年大阪府教育委員会規則第12号)(以下、「評価・育成システム実施規則」という。)を新たに制定し、平成16年度以降は、これら規則に基づいて実施している。

     地方公務員法第40条第1項には「任命権者は、職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行い、その評定の結果に応じた措置を講じなければならない。」とあり、実施機関においては、平成16年4月16日付けで旧勤評規則を廃止し、平成16年度以降、評価・システムの評価結果をもって地方公務員法第40条第1項に規定する勤務評定として実施している。

     評価結果の給与への反映については、平成19年度から、前年度の評価結果を昇給及び勤勉手当における勤務成績の判定に活用することとし、職員の給与に関する条例、府人事委員会規則の改正や実施機関による「勤務成績に応じた昇給の取扱いに関する要領」等を制定するなど必要な規定整備を行い、各府立学校長に通知し、全ての教職員に周知している。

(2)評価・育成システムは、評価・育成システム実施規則に基づき、自己申告と面談を基本に実施しており、府立学校における教諭の評価者については、1次評価者は教頭、2次評価者は校長としている。

     各教職員は、学校や校内組織の目標達成に向け、各自が年間を通じて取り組む目標を設定し、自己申告票(設定目標等)を作成して育成(評価)者である校長に提出する。教職員の設定目標は、自己申告票をもとに、育成(評価)者との面談によって決定される。

     教職員から提出された自己申告票に対して、育成(評価)者は、児童生徒や保護者、同僚教職員などの意見も参考にしながら評価を行う。

評価では教職員の自己申告を踏まえ、設定された個人目標の達成状況を判断して「業績評価」として評価し、また、職務全般の取組みを対象に、教職員の日常の業務の遂行を通じて発揮された能力を「能力評価」として評価する。その上でこれらの評価をもとに「総合評価」が行われる。

評価は、いずれもA・B・Cの3段階を基本にS・Dを加えた5段階(S・A・B・C・D)の絶対評価でなされ、その結果は年度末に本人に開示され、評価の結果は、教職員本人に開示され取り組みの改善や、次年度の目標設定に生かすこととされている。

 

2 本件行政文書について

(1)府立学校長からの評価結果の報告

     各府立学校長は、評価・育成システム実施規則第11条第1項に基づき、同システムに係る評価結果について、教育長に報告することとなっており、評価結果入力システムを用いて、所属教職員の「業績評価」、「能力評価」、「総合評価」及び評価結果のない職員については、対象外区分のデータを入力することとしている。

なお、実施機関では、このデータを集約して、府立学校全体の評価結果分布を毎年公表しているところである。

(2)本件行政文書の記載内容について

     本件行政文書には、「学校名」、「課程等」、「校長名」が記載され、また「総職員数」、「対象外の者の数(注2)」、「対象者数」の項目別集計表及び、「対象者の評価結果集計」の表があり、2つの表の集計は、上記(1)で、各校長により入力されたデータが評価結果入力システムで自動的に集計され、評価対象外の者の数、自己申告票の不提出者の数、「業績評価」、「能力評価」及び「総合評価」の評価区分(S、A、B、C、D)ごとの集計表等が出力できる仕組みになっている。

なお、この集計表は、校長が入力結果に誤りがないかどうかを点検、確認するための便宜として、作成したものであり、実施機関としては、必要としていない情報であるとともに、使用していない。

 

3 本件処分の理由について

  (1)本件処分は、本件行政文書に記載された情報のうち、「対象外の者の数(注2)」、「対象者数」の集計欄については、条例第9条第1号に該当することから、また「対象者の評価結果集計」の集計欄については、条例第8条第1項第4号に該当することから部分公開としたものであるところ、異議申立人は、本件異議申立書の最後で、条例第9条第1号に該当する部分については、この異議申立では争わないとしていることから、本件行政文書のうち、「対象者の評価結果集計」の集計欄(以下「本件情報」という。)について弁明することとする。

     また、異議申立人は、本件異議申立書の中で、様々な質問を提起し、回答を求めているが、これらについては、本件行政文書の情報公開とは全く関係のないものであり、弁明の必要はないと判断する。

 (2)条例第8条第1項第4号の該当性について

   教職員の評価は、前述のとおり、校長が個々の教職員ごとに、その業績及び能力について、絶対評価を行うことにより実施している。

本件情報を公開すると、学校間の評価結果の分布を比較することが可能となり、評価者(校長)ごとの評価分布の異同が明らかになることから、個々の評価者にとっては、自身の評価に対する批判を避けようとする心理や、あるいは他校とのバランスを図ろうとする心理が働き、所属教職員の評価に予断が生じることが考えられるなど、評価・育成システムの公正かつ適切な運用に著しい支障を及ぼすおそれがある。

   また、府民にとっては、学校ごとの評価の分布の差が、所属教職員の資質・能力の差であると受け取られ、ひいては、学校自体の優劣を示すものと誤解されるおそれがある。そうすると、所属教職員や在校生等に対する偏見を生み、あるいは、学校の序列化につながるなど、今後の学校運営に著しい支障を及ぼすことも考えられる。

   このように、本件情報は、教職員の人事管理に関する情報であって、公にすることによって、府民に誤解を与えるなど、当該及び同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある情報に該当する。

   なお、実施機関においては、こうした事務執行上の支障を回避するため、学校ごとの評価結果は公表せず、府立学校全体の評価分布を公表しているところである。

 

4 結 論

  以上のとおり、本件処分は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

 

 

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

 

2 評価・育成システムについて

実施機関は、教職員の自己申告による個人目標の設定(自己申告票の作成)や上司との面談等を内容とするシステムを2年間にわたる試験的実施と試行実施を経て、平成16年度から本格的に実施している。

評価・育成システムは、実施規則に基づき運営されている。府立学校における教諭の評価者については、1次評価者を教頭、2次評価者を校長とし、具体的な評価においては、教職員の自己申告を踏まえ、設定された個人目標の達成状況を判断して「業績評価」として評価し、また、職務全般の取組みを対象に教職員の日常の業務の遂行を通じて発揮された能力を「能力評価」として評価する。その上でこれらの評価をもとに「総合評価」が行われる。

なお、実施機関においては、評価・育成システムの評価結果をもって地方公務員法第40条第1項に規定する勤務成績の評定とし、平成18年度の評価結果からは、翌年度の昇給や勤勉手当の支給割合にも反映している。

また、評価・育成システムによる評価は、いずれも5段階(S・A・B・C・D)の絶対評価であり、評価区分ごとの割合は、定められておらず、結果は年度末に本人に開示されている。

 

3 本件係争情報について

本件行政文書は、大阪府の各府立高等学校において各校長が評価・結果システムに入力し、実施機関が帳票配信システムから出力した、府立学校ごとの「2007年度 職員の評価総括表(集計表)」である。本件決定において非公開となったのは、次の部分である。

(1)総教職員数の「対象外の者の数(注2)」及び「対象者数」の各欄

「対象外の者の数」については、(注2)に各欄の説明が記載されており、a在外教育施設等において勤務している者、大学等において長期研修中の者、b充指導主事として教育委員会事務局に勤務する者、c実施期間のうち病気休暇、休職発令、育児休業等により実施可能な期間が6ヶ月に満たない者、dその他実施機関が対象としないことが適当と認めた者のことであり、それぞれ該当する人数が記録されている。

 「対象者数」の欄には、「自己申告票の提出者数」、「自己申告票の不提出者数」、「合  

計」の人数が記録されている。

(2)「対象者の評価結果集計」に係る「業績評価」、「能力評価」及び「総合評価」の各欄

これらには各府立高等学校の評価区分(S、A、B、C、D)ごとの人数の集計及び構成比(%)がそれぞれ記載されている。

   本件行政文書の(1)及び(2)のうち、(1)の非公開部分については、異議申立人は争わないと主張しているため、本件係争情報として(2)の「対象者の評価結果集計」に係る「業績評価」、「能力評価」及び「総合評価」について、以下検討する。

 

4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

(1)条例第8条第1項第4号について

行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第4号の趣旨である。

同号は、

ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、

イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

は、公開しないことができる旨を定めている。

(2)条例第8条第1項第4号該当性について

本件情報が上記(1)ア及びイの要件に該当するか否かについて検討したところ、以下のとおりである。

本件情報は、実施規則に基づき、評価・育成システムに係る評価結果について、各府立学校長が評価結果システムに入力し、実施機関が帳票配信システムから出力した文書であることから、「府の機関又は国等の機関が行う人事管理等の事務に関する情報」として、(1)アの要件に該当する。

次に、本件情報が(1)イの要件に該当するかどうかについて検討する。

  本件係争部分は、評価者である各府立高等学校の校長が、所属の教職員について行った評価・育成システムによる人事評価における「業績評価」、「能力評価」及び「総合評価」の結果の評価区分ごとの該当人数に係る情報である。また、評価・育成システムによる評価は、全て絶対評価であり、5段階の評価区分(S、A、B、C、D)ごとの割合は定められていない。

このような事情の下で、本件係争情報を公にし、各学校の評価結果の分布が明らかになると、今後とも、各校長が行う評価・育成システムによる人事評価に当たって、他校とのバランスを取ろうとしたり、自身の評価に対する所属教職員からの批判を避けようとする心理が働くことが想定され、評価結果が特定の評価区分に集中するなど客観的で公正な評価を行うことが困難になるおそれがあると認められる。

異議申立人は、「S・A・Bに係る評価分布」についての公開を求めているが、5段階の評価区分の一部のみの公開であっても、当該公開部分について他校とのバランスを取ろうとし、あるいは所属教職員からの批判を回避しようとする行動は容易に予想されるから、客観的で公正な評価を行うことが困難になるおそれが減じられるわけではない。

以上のことから、本件係争情報については、公にすることにより、評価・育成システムによる人事評価に係る事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められ、(1)イの要件に該当する。

よって、本件係争情報は、条例第8条第1項第4号の規定に基づき、公開しないことができるものである。

   

5 その他の異議申立人の主張について

異議申立人は、評価結果入力システムの改修が遅れたために、当初の不存在による非公開決定から本件決定までに相当な時間がかかったこと、その間の適切な説明がなかったこと、評価・育成システム制度そのものの問題点等に関して種々主張しており、これらについては、実施機関との十分な意見交換を行うべきものであるが、本件決定の公開・非公開の判断に影響するものではない。

審査会としては、実施機関は、条例第7条第5項の規定に基づき、公開請求を行おうとする者、及び行った者に対しても、公開請求に係る行政文書の特定に必要な情報を提供し、情報の内容及びこれに該当する行政文書の保有の状況について、慎重に確認し、条例に基づく公開請求を行う権利の行使を阻害することのないよう努めるよう、これまでも付言してきたところであるが、今後なお一層、実施機関としての説明責任を果たすよう望むものである。

 

6 結論

以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

 

 (主に調査審議を行った委員の氏名)

   松田聰子、岩本洋子、大和正史、野呂充

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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