大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第169号)

更新日:2009年8月5日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第169号)

〔全国学力・学習状況調査結果部分公開決定異議申立事案1〕

(答申日 平成21年6月15日)

第一 審査会の結論

実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において公開しないことと決定した部分のうち、(1)市町村別の学校実施数、(2)市町村別及び学校別の児童数又は生徒数、(3)市町村別の平均正答数及び平均正答率が記録された部分を公開すべきである。

実施機関のその余の判断は妥当である。

第二 異議申立ての経過

1 平成20年9月10日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「全国学力・学習状況調査(H19・20年度)に関する文書のうち、市町村別・学校別の実施概況(平均正答率)のわかるもの」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2  同年9月16日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(3)のとおり付して異議申立人に通知した。

(1)行政文書の名称

ア 平成19年度全国学力・学習状況調査 実施状況 大阪府−教育委員会 小学校調査

イ 平成20年度全国学力・学習状況調査 実施状況 大阪府−教育委員会 小学校調査

ウ 平成19年度全国学力・学習状況調査 実施状況 大阪府−教育委員会 中学校調査

エ 平成20年度全国学力・学習状況調査 実施状況 大阪府−教育委員会 中学校調査

オ 平成19年度全国学力・学習状況調査 実施状況 各市町村教育委員会 小学校調査

カ 平成20年度全国学力・学習状況調査 実施状況 各市町村教育委員会 小学校調査

キ 平成19年度全国学力・学習状況調査 実施状況 各市町村教育委員会 中学校調査

ク 平成20年度全国学力・学習状況調査 実施状況 各市町村教育委員会 中学校調査

(2)公開しないことと決定した部分

ア 平成19年度全国学力・学習状況調査 実施状況 大阪府−教育委員会 小学校調査

・ 学校実施数

・ 児童数

・ 平均正答数及び平均正答率の各欄(全国(国公私立)、全国(公立)及び大阪府(公立)を除く。)

イ 平成20年度全国学力・学習状況調査 実施状況 大阪府−教育委員会 小学校調査

・ 児童数

・ 平均正答数及び平均正答率の各欄(全国(国公私立)、全国(公立)及び大阪府(公立)を除く。)

ウ 平成19年度全国学力・学習状況調査 実施状況 大阪府−教育委員会 中学校調査

・ 学校実施数

・ 生徒数

・ 平均正答数及び平均正答率の各欄(全国(国公私立)、全国(公立)及び大阪府(公立)を除く。)

エ 平成20年度全国学力・学習状況調査 実施状況 大阪府−教育委員会 中学校調査

・ 生徒数

・ 平均正答数及び平均正答率の各欄(全国(国公私立)、全国(公立)及び大阪府(公立)を除く。)

オ 平成19年度全国学力・学習状況調査 実施状況 各市町村教育委員会 小学校調査

・ 各市町村教育委員会及び各学校に係る児童数、平均正答数及び平均正答率の各欄

カ 平成20年度全国学力・学習状況調査 実施状況 各市町村教育委員会 小学校調査

・ 各市町村教育委員会及び各学校に係る児童数、平均正答数及び平均正答率の各欄

キ 平成19年度全国学力・学習状況調査 実施状況 各市町村教育委員会 中学校調査

・ 各市町村教育委員会及び各学校に係る生徒数、平均正答数及び平均正答率の各欄

ク 平成20年度全国学力・学習状況調査 実施状況 各市町村教育委員会 中学校調査

・ 各市町村教育委員会及び各学校に係る生徒数、平均正答数及び平均正答率の各欄

(3)公開しない理由

条例第8条第1項第4号に該当する。

「平成19・20年度全国学力・学習状況調査」の「小学校調査」及び「中学校調査」は、国が実施主体となり、市町村教育委員会がそれぞれの判断で参加することにより実施された調査であって、「平成19・20年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領」(文部科学省初等中等局長通知)において、文部科学省は、調査結果について、市町村名・学校名を明らかにした公表がされることになると、市町村間や学校間の序列化や過度な競争が生じるおそれがあり、都道府県教育委員会は域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこととしているものである。

また、文部科学省は、当該調査に係る実施要領において、市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねることとしており、府教育委員会において、各市町村教育委員会に対し、自主的な公表を要請しているところである。

そのため、本件行政文書(非公開部分)を公開すると、市町村教育委員会との信頼関係を損ない、次年度以降に各市町村教育委員会からの協力が得られなくなるなど、正確な情報が得られなくなり、全国的な状況を把握できなくなるなど、当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

3 同年9月17日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

第三 異議申立ての趣旨

本件決定を取り消し、全ての情報の公開を求める。

第四 異議申立ての主張要旨

異議申立人の主張は概ね次のとおりである。

1 異議申立書における主張要旨

本件決定については、大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当し、全部公開することで同種事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると部分開示の理由の説明を受けた。しかしながら、公開請求をした情報については、文部科学省の当該調査実施要領において、市町村、学校による自主公表が認められているものであり、当該情報の公開そのものが、業務への支障を及ぼすとは言えない。

また実施要領は、都道府県教委、市町村教委など行政機構同士の事務取扱上の単なる申し合わせにすぎない。情報公開は、条例制定の理念である「その諸活動を府民に説明する責務」に照らして判断すべきで、事務取扱上の申し合わせと齟齬が生じるとの理由で、公開を妨げる理由にはならない。

加えて言えば、当該調査は、各市町村教育委員会が主体的に調査への協力の是非を判断することが認められているもので、必ずしも協力を義務づけたものではなく、当該調査に協力をしない市町村教育委員会もありうるとの認識を含んでの実施である。仮に情報公開によって、次年度以降に市町村教育委員会の協力が得られなくなったとしても、調査実施段階ですべての市町村教育委員会の協力を前提としていない以上、これをもって直ちに、事務への著しい支障とは認められない。

2 反論書における主張

(1)趣旨

本件決定を不当とし、全部開示が妥当との答申を求める。

(2)実施機関の主張に対する反論

ア 実施機関は「過去の学力調査で、序列化から過度な競争が生じた事例がある」「こうした経緯をふまえ、都道府県が市町村・学校別を公開しないとする本件調査の実施要領が定められた」「実施要領に反して公開することは、調査の前提を崩す重大な約束違反」「公開により、次年度以降、市町村教育委員会や学校において協力が得られず、調査の目的が果たせなくなる」などの趣旨を述べている。

しかしこうした理由から調査への協力が得られなくなるという懸念は、一部の教育関係者の間で示されているにとどまる。10月に知事が、条例に基づき、一部黒塗りとはいえ、市町村別の結果がほぼ一覧できる資料を公開したが、実際に大阪において同調査に協力しないとの態度を表明した市町村はない。市町村別データが公表されたからと言って、調査の目的が果たせなくなるというのは、杞憂であると考える。

また学校別データの公開については、仮に学校が公表を望んでいなかったとしても、文部科学省、実施機関、市町村教育委員会が同調査を実施すべきと判断すれば、学校は調査への参加を拒むよりは、その指導・監督に従う可能性の方が高く、公開が即座に、調査の継続に著しい支障を与えるとは考えない。

加えて指摘しておきたい点は、実施機関が、市町村別・学校別のデータについて、同列に論じている点である。市町村別と学校別のデータでは、仮に公表によって過度な競争を引き起こすとしても、その度合いも異なるはずである。にもかかわらず、こうして同列に論じていることは、実施機関内で序列化や過度な競争という現象がどのような形で起こりうるかについて真摯に検討したうえで非公開を判断していない証左であり、一般的な懸念を形式的に引用し、非公開を正当化しようとしているに過ぎないと考える。

イ 実施機関は序列化や過度な競争が生じるおそれについて「一部のマスコミ報道で都道府県別が序列化されている状況」を指摘し、広島県や東京都足立区でテストで不正を行った教師らがいた事例を挙げて、「国語・算数、数学という特定の一部分に過ぎないのに、教育活動全般が評価され、特定の教科力を重視した偏った指導に陥るおそれがある」としている。またこうしたことが「府民が不利益を被るおそれがある」ともしている。

まず「序列化されている状況」については、事実であり否定しない。しかしながら問題は「序列化」ではなく、「児童・生徒が劣等感を持つこと」や「過度の競争が生じる」ということである。これらの点に関しては、具体的な事例は見あたらない。本件調査の都道府県別結果が公表されて以降、大阪府内の児童・生徒が著しく劣等感を持つようになったということを証明するものは何も示されていない。また結果が低迷したことで、実施機関も学力向上を重視し、緊急対策に取り組んでいるが、これに対し、一部の教育関係者を除き、過度な競争に走っているという批判を展開している事例はない。一部マスコミにより行われた序列化は、一般的に容認される範囲の競争を生じさせたか、もしくは競争そのものを生じさせなかったと言えるのではないか。

こうした点から、市町村別データについて、仮に公開し、序列化がされたとしても、児童生徒が劣等感を持ったり、過度と言えるほどの競争が生じたりすることはないと考える。

学校別データについては、公立・私立の高校において、しばしば受験産業が、また場合によっては学校側自身が、序列化を図ったデータを公表している点を指摘したい。そして、こうしたデータが児童・生徒に社会的な問題になるほどの劣等感を与えているという指摘や、各高校が過度に競争しているという指摘は、一般的にはなされない。ゆえに、この点について実施機関が示す懸念も、また杞憂だと考える。越境通学が起こりうるとの懸念が示されている点についても、大阪の公立小・中学校が校区制を採用していることから考えれば、それほど大きな影響を及ぼすとは考えられない。

次いで「偏った指導」については、実施機関の権限で、防止および是正が可能であり、非公開とする理由に挙げるには不適切であると考える。教師らの不正の事例も挙げているが、こうした事例が起こる懸念があるならば、懸念を払拭する取り組みを進めるのが実施機関の役目である。不正が起こるゆえに公表しないという権限の行使をすることは、本末転倒であり、公表しても不正が起こらないようにその権限を行使すべきである。

さらに「府民の不利益」の点であるが、次に指摘するため、ここでは割愛する。

ウ 最後に総論としての反論を示したい。 

実施機関の主張は、全般的に学校や教育委員会の教職員に対しての配慮が中心であるとの印象を受けた。たしかに本件調査の市町村別、学校別のデータが公表されることで、府民の関心が市町村教育委員会や学校に対して向けられ、「あの市町村や学校の教員が悪い」と指摘されるかもしれない。しかし、こうした指摘をされることは、実施機関にとって不都合かもしれないが、府民の利益を損なうものであるとはとうてい考えられない。

むしろ、こうした指摘をされることで、学校の取り組みや教育行政のあり方が是正されることにつながり、ひいては府民の利益につながるのではないか。

教職員が批判を受けず、快適に仕事をすることを望む実施機関の姿勢は、心情的に理解できなくもないが、それが開示を求められた情報を非開示とする理由にはならない。むしろ、情報公開制度の趣旨は、行政主体が開示を望まないならば、その他の教育活動についても情報を公開し、総合的に府民の評価を受ければ良い。過度の競争が生じるおそれがあるならば、それを防ぐことが実施機関に課せられた役割である。府民から厳しい指摘を受ける要因になるかもしれない情報を公開しないことで、自身の業務執行の円滑化を図ろうというのは、情報公開制度の趣旨に反していると考える。

本件請求で開示を求めている情報は、広く府民に公開し、説明責任を果たすべきである。各市町村教育委員会、学校の取り組みや、市町村の住民の経済的状況、生活環境など様々な要因によって、学力の格差が生じているであろうことは想像に難くない。しかし現状では、府民はその実態を知ることができない。実際に生じている学力格差という問題を、「児童・生徒の劣等感」「過度の競争」「市町村教委との信頼関係を崩す」などを理由に、公開しないというのは、問題の隠蔽にほかならない。

現在の実施機関のみがその実態を把握している状況では、府民は、その格差を是正する教育行政の取り組みが、適切に行われているかどうかを判断することもできない。これまでの教育行政のあり方が、情報を公開すれば、府民から強い批判を受け、児童生徒に劣等感を感じさせ、教職員を過度の競争に走らせ、市町村教委との信頼関係を崩すほどの学力の格差を生じさせているのであれば、実施機関の判断で今後の教育行政が適切に行われるという保証はなく、むしろさらに悪しき方向に向かうおそれすらあるのではないか。

情報公開制度は、情報を公開することによって、住民の知る権利を満たし、適切な行政措置が取られているかを住民自身が判断するために作られている。市町村別・学校別のデータによって、問題が生じていることが明らかになるのであれば、むしろその問題を示し、今後の教育行政の方向性について府民からの声を聞くべきだろう。実施機関の役割は、学校や市町村教育委員会、文部科学省の間で円滑に業務を推進することではなく、府民の声を聞き、その利益につながる教育行政を執り行うことである。

(3)結論

以上のとおり、実施機関による本件決定は、条例の趣旨に反して行われたものであり、不当である。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は、概ね次のとおりである。

1 全国学力・学習状況調査について

(1)調査の目的と調査対象・調査事項

全国学力・学習状況調査(以下「本件調査」という。)は、国が、全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図るとともに、各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策成果と課題を把握し、その改善を図ること、児童生徒一人一人の指導の改善につなげることなどを目的として、平成19年度から始まった調査である。

対象は国・公・私立学校の小学校6年、中学校3年の原則として全児童生徒であり、教科は小学校6年が国語・算数、中学校3年が国語・数学である。

(2)調査結果の取扱い

文部科学省は、本件調査を実施するにあたり「平成19・20年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領(文部科学事務次官通知)」(以下「実施要領」という。)を定めて都道府県教育委員会等に通知しており、市町村教育委員会等は、この実施要領を前提として本件調査に参加している。

実施要領における、調査結果の取扱いなどの定めは、概ね以下のとおりである。

ア 調査結果の公表

文部科学省は、国全体の状況及び国・公・私立学校別の状況、都道府県ごとの公立学校全体の状況、地域の規模等に応じたまとまり(大都市(政令指定都市及び東京23区)、中核市、その他の市、町村、または、へき地)における公立学校全体の状況を公表する。

イ 調査結果の提供

文部科学省は、都道府県教育委員会に対しては,その設置管理する各学校の状況に関する調査結果,当該都道府県における公立学校全体の状況,域内の各市町村における公立学校全体の状況及び市町村が設置する各学校全体の状況に関する調査結果を提供する。

また、市町村教育委員会に対しては,当該市町村における公立学校全体の状況及びその設置管理する各学校の状況に関する調査結果を提供する。

くわえて、学校に対しては、当該学校全体の状況、各学級及び各児童生徒に関する調査結果を提供する。

そして、学校は、各児童生徒に対して当該児童生徒に関する調査結果を提供する。

ウ 調査結果の取扱いに関する配慮事項

調査結果を公表する場合においては、本件調査の実施主体が国であることや、市町村教育委員会が基本的な参加主体であることなどにかんがみて、都道府県教育委員会は、域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと。市町村教育委員会も、域内の学校の状況についての個々の学校名を明らかにした公表は行わないこと。

市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。また、学校が、自校の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。

ただし、本件調査により測定できる学力は特定の一部分であることや、学校の教育活動の取組みの状況や調査結果の分析を踏まえた今後の改善策等を併せて示すなど、序列化につながらない取組みが必要と考えられること。

都道府県教育委員会が、例えば、教育事務所単位で調査結果を公表するなど個々の市町村名が明らかとならない方法で公表することは可能であること、などとしている。

(3)本件調査実施要領に関する国会審議

本件調査の実施について、国会で度々取り上げられ質疑が交わされたが、平成18年3月1日予算委員会では、各自治体や学校間の競争の激化を心配する質問に対し、小坂文部科学大臣(当時)は、「過去にあった学力調査における意見として、自校の成績を上げるために学力の差のある生徒に対して受けさせないというような事例が生じたりという弊害が過去指摘をされたこともあります。そういったことに十分配慮をいたしまして、それぞれに積極的にお取り組みいただけるようにするためには、調査の趣旨や、それから私どもが考えている配慮を十分にお伝えして、理解を得て、そして自主的に、積極的に参加していただく、そういう環境づくりが非常に重要だと思っています。」と答弁している。

平成19年4月20日衆議院の教育再生特別委員会では、「情報公開の一環として結果を公表する必要があるとの声があるが。」との質問に対して、安倍内閣総理大臣(当時)が、国や都道府県の状況については、公表するが、個々の市町村、学校の名前を明らかにした公表は行わない旨を答弁している。

また、平成19年度本件調査実施後の平成19年4月26日参議院の文教科学委員会では、伊吹文部科学大臣(当時)が、各々の市町村、学校の名前を明らかにする公表はしないと国と都道府県教育委員会とで約束が行われて、このことを平成18年6月の事務次官通知に明記している。そして、この取扱いを前提として各市町村教育委員会は参加したとし、仮に情報公開請求が行われたときには、国と都道府県との合意の内容である実施要領が公開を断る有力な資料になるといった内容の答弁をしている。

2 本件決定理由について

本件決定は、本件行政文書に記録された情報が条例第8条第1項第4号に該当することから、第2の2(2)公開しないことと決定した部分を除いて、公開することとしたものであるが、以下において、部分公開にとどめた理由を述べる。

(1)公開による弊害について

ア 調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ

過去の学力調査において、序列化から過度な競争が生じた事例がある。

本件調査の実施については、序列化や過度な競争をあおるおそれがあることや児童生徒の個人情報保護の観点から、国会や審議会、各自治体等において激しい議論が行われてきた。

そのような経緯をふまえ、文部科学省は、実施方法、公表方法について、学校の序列化・過度の競争につながらない配慮をする旨を説明し、調査結果の公表は、国全体、都道府県、教育事務所単位等での公表のみとし、市町村別や学校別などの結果は、情報公開法に基づく請求がされても不開示とする旨を実施要領に明記するなどして、各方面の理解を得たところである。

現在、いくつかの府内市町村教育委員会が既にデータを公表する方針を出しているが、これは市町村自らの分析と併せたデータの公表であり、本件調査の実施要領において、「市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。また、学校が、自校の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。」と認められていることに従った取り扱いに基づくものである。

実施要領において、都道府県教育委員会は域内の市町村教育委員会に対して、指導・助言・連絡等をするなど調査に協力するという役割が与えられており、それに沿って、情報公開制度が予定する、透明性の確保や説明責任を果たすべき要請については、府教育委員会は各市町村教育委員会に対し、文部科学省が定める実施要領において予定する自主的な公表を要請したところである。

この要請を受けて、公表を行った市町村においては、平均正答率等の数値データに加えて、学校の教育活動の取組みの状況や調査結果の分析を踏まえた今後の改善方策等も併せた公表を行っているところである。その他、現在分析中の市町村や全体の平均正答率は出さずに設問別平均正答率を公表する方針を決めた市町村、また規模が小さいため学校が特定されないような工夫をした公表を決めた市町村等もあり、それぞれの市町村の実態や課題にあわせた公表がなされるものと考えている。

そもそも、市町村立小中学校の教育については、地方教育行政の組織及び運営に関する法律において、設置者である市町村の教育委員会が管理運営するものとされている。今回の全国調査の結果等の公表等については、所管の学校の状況や地域の特性を熟知している市町村教育委員会の責任において、その自主的な判断と必要な配慮をもって実施するべきものであり、また、このことを予定して実施要領が定められている。

したがって、都道府県教育委員会が、市町村や学校個々のデータを保有していたとしても、それらを公表すること等によって各市町村・学校の教育に直接かかわることは、前述した法令上の位置づけから予定されておらず、また、都道府県教育委員会においては市町村の実情に応じて必要とされる個々の状況判断や個別のきめ細やかな配慮が困難なことから、都道府県教育委員会における一律の公表は適切ではない。

今回の調査にかかる実施要領に定められている結果公表についての様々な配慮事項も、このような法律上の位置づけ等を踏まえた上で制定されたものと考えられる。

このような状況の中で、府教育委員会が本件行政文書を公開することは、市町村教育委員会の信頼を大きく損ない、本件調査の今後の適切な実施に著しい不信を抱かせることは明らかであり、次年度以降に各市町村教育委員会が調査実施に協力せず正確な情報が得られなくなり、全国的な状況を把握し、教育力向上に向けた取り組みを促すとした本件調査の目的が果たせなくなるおそれがある。

また、「平成19年度全国学力・学習状況調査の結果の取扱いについて」(平成19年8月23日付文部科学省初等中等教育局長通知)及び「平成20年度全国学力・学習状況調査の結果の取扱いについて」(平成20年8月22日付文部科学省初等中等教育局長通知)では、調査結果の公表についての留意事項として、市町村教育委員会、学校がそれぞれの判断で自らの結果を公表した後においても、都道府県教育委員会は個々の市町村名・学校名を明らかにした公表を行わないこととしており、現在まで、全国的にも、都道府県教育委員会が、市町村名や学校名を明らかにして数値を公表した事実はない。これは、前述したような関連法令上の都道府県教育委員会と市町村教育委員会の役割分担を斟酌したものである。

このような中、本件行政文書を公開することは、都道府県が市町村や学校のデータを公表しないという、この調査の前提を崩す重大な約束違反であり、大阪府のみならず、他の都道府県や市町村に与える影響は極めて甚大である。

また、本件調査の実施方法に対する国民の信頼が損なわれることは、次年度以降、全国各地の市町村教育委員会や学校において、協力が得られなくなる可能性があり、全国的な状況が把握できなくなるなど、本件調査の目的である、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立できなくなるおそれがある。

さらに今回、本件行政文書を公開することは、次年度以降予定されている同調査においても、文部科学省より提供される市町村別・学校別データを公表することにつながるため、文部科学省が実施要領等に定める同調査における結果公表の原則を遵守できないこととなるため、文部科学省は府教育委員会などの都道府県教育委員会に対して市町村別・学校別データの提供を行わない可能性が極めて高い。このことにより、都道府県教育委員会では、次年度以降、域内の市町村別・学校別の状況の把握を行うことができなくなってしまうことから、本件調査の目的である、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立できなくなるおそれがあり、同調査の事務執行に著しい支障をきたすこととなる。

イ 序列化や過度な競争が生じるおそれ

国は本件調査の実施要領における調査結果の取扱いについて、本件調査により測定できるのは学力の一部分であることや、学校における教育活動の一側面に過ぎないことなどを踏まえるとともに、序列化や過度な競争につながらないよう十分に配慮して適切に取り扱うことなどの慎重な対応をするよう要請している。

しかしながら、国が公表した全国調査の都道府県ごとの結果は、既に一部のマスコミ報道において都道府県が序列化されている状況となっている。大阪府など比較的下位に順位付けされた都道府県においては、学力調査の結果が学力の一部を表すものにとどまるにも拘わらず、当該都道府県の教育全体が低く評価されてしまう傾向があり、住民の不安や不信感をいたずらにあおる結果が危惧されている。

また、本件請求による公開では、府教育委員会による各市町村や各学校の調査結果の数値の羅列のみの公表になってしまい、序列化や過度な競争につながらないような十分な配慮が不可能であることから、保護者の過剰な受け止めによる、越境通学などの事態を招くことや序列が低位の市町村や学校で学ぶ児童生徒が劣等感を抱くというような弊害が生じることが危惧される。

さらに、児童生徒の学力や学習状況は、学校教育によるところが大きいものの、それのみで決まるものではなく、保護者の教育に対する関心や経済力、地域の教育環境などの様々な要因に影響されることはよく知られているところである。

調査結果の数値のみが公表され、ある市町村や学校の平均正答率が全国や大阪府全体の平均正答率より低かった場合、その原因が当該市町村、地域がどのような環境であるか、保護者の経済力がいかなるものか等の地域の教育環境の問題だけに帰せられたり、「あの市町村や学校の教員が悪い。」とか「児童生徒は能力的に劣る。」といった安易な評価がされやすいとの弊に陥る危険性も憂慮される。

大阪の公立小中学校には校区があり、地域社会で生活する児童生徒には基本的に小中学校を選択することはできない。その中で、序列が低位の市町村や学校で学ぶ児童生徒は、不公平感や劣等感を抱いたり、当該地域や学校に反感や不信感を抱いたりするなど、学習そのものへの悪影響が予想され、他の地域からの恣意的な評価・格付けによるいわれなき差別を受けるおそれもある。

その結果、経済的ゆとりのある家庭は学力低位の地域・学校を避け、学力高位の地域・学校に移ることも考えられ、所得格差が社会問題となっている中、所得格差からくる教育格差、地域格差をさらに助長することになり、市町村間や学校間の序列化から新たな差別を生み出すことにつながりかねない。

また、本件調査で測ることができる学力は、国語・算数、数学に関する学力の特定の一部分であり、学校の教育活動の一側面にしか過ぎないものであるため、本件調査の結果のみで学校や市町村等の評価などが行われることは適切ではなく、仮に公表する場合においても、説明責任を有する主体が、本件調査結果を分析し明らかになった課題やその改善に向けた取り組みを調査結果と合わせて示し、それも含めた活動について、地域や保護者の理解を得ていくために行われることが適切である。

本件請求による公開は、このような配慮に至らず、諸条件を全く考慮しない一方的な公開であり、仮に公開に応じれば、一面的な学力に関する数値のみで市町村や学校の教育活動全般が評価されたり、序列化が行われたりすることも予想され、その結果、平均正答率をあげるために特定の教科力を重視した偏った指導が行われたり、それら特定の力に慣れさせるためのテストや過去のテストを事前に頻繁に実施したりするなどが考えられ、児童生徒の心身のバランスのとれた教育や公正な調査に支障をきたすおそれがある。

これらのことから、府教育委員会が本件行政文書を公開することは、府内市町村、小中学校への多大な影響が考えられ、ひいては府民が不利益を被ることになるおそれが十分にある。  

以上のように、市町村間や学校間の序列化や過度な競争が生じることによって、市町村教育委員会などとの信頼関係を損ない、次年度以降に各市町村教育委員会からの協力が得られなくなるなど、正確な情報が得られなくなり、全国的な状況を把握できなくなるなど、当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

(2)過度な競争の実際の例について

行政文書非開示決定処分取消訴訟控訴事件盛岡地裁判決文(平成19年12月20日)によると、

・ 広島県三次市の平成17年度に実施した学力テストで、ある中学校の教員が途中退席した生徒の答案用紙の未解答部分に答えを書き込んだり、ある小学校では、校長が児童の約半数の答案用紙に誤答を正答に書き換えた。

・ 東京都足立区教育委員会では、学力テストの調査結果について学校別の結果を公表していたが、同区教育委員会が実施した平成18年度の学力テストにおいて、障害のある児童3人を採点から外した小学校や試験中に校長と教員が児童の答案を指さして誤答に気づかせたり、前年の問題を不正にコピーし、児童に繰り返し練習させたりし、そのため、前年は区内小学校72校中44位であったが、平成18年度には1位になった学校があったことが大きく報道され、同区教育委員会は、「序列に注目するような公表方法は改め、今後は順位を出さないようにしたい。」との見解を示した。なお、同区教育委員会が学校別の調査結果を公表するようになったのは、東京23区の中で足立区の成績が最下位となったことが理由であった。

との具体例が報道機関の報道において指摘されている。

3 異議申立人の主張について

(1)「本件調査の実施要領において、市町村、学校による自主公表が認められているものであり、当該文書の公開そのものが、業務への支障を及ぼすとはいえない」について

実施要領では、「本件調査の実施主体が国であることや、市町村教育委員会が基本的な参加主体であることなどにかんがみて、都道府県教育委員会は、域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと。」「市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。また、学校が、自校の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。ただし、本件調査により測定できる学力は特定の一部分であることや、学校の教育活動の取組みの状況や調査結果の分析を踏まえた今後の改善策等を併せて示すなど、序列化につながらない取組みが必要と考えられること。」としている。

このように、都道府県教育委員会は、自らの結果の公表の判断をゆだねられている市町村教育委員会及び学校とは、本件調査における位置づけが大きく違っている。市町村教育委員会や学校の自主的な公表であっても、本件調査により測定できる学力は特定の一部分であることや、学校の教育活動の取組みの状況や調査結果の分析を踏まえた今後の改善策等を併せた公表が求められている。これは、本件調査を実施するにあたっての国会審議にあるように、本件調査の実施要領は、国が実施した43年前の全国調査における序列化や過度な競争による教育現場の混乱が再び起こることのないように配慮して作成されており、もし、実施要領に沿った配慮がなく、本件請求のような数値のみの羅列である公開が実施されると、過去の調査のような市町村間や学校間の序列化や過度な競争に陥るおそれは十分にあると考えられる。

そのような中で府教育委員会が情報を公開することは、結果として、市町村教育委員会や文部科学省との信頼関係を損ない、次年度以降に各市町村教育委員会からの協力が得られなくなるなど、正確な情報が得られなくなり、全国的な状況を把握できなくなるとともに、国から市町村別・学校別データの提供が受けられなくなるなど、当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

よって、「当該文書の公開そのものが、業務への支障を及ぼすとはいえない。」とする異議申立人の主張は失当である。

(2)「実施要領は、都道府県教育委員会・市町村教育委員会などの行政機構同士の事務取扱上の単なる申し合わせであり、情報公開は条例制定の理念『その諸活動を府民に説明する責務』に照らして判断すべきで、事務取扱上の申し合わせと齟齬が生じるとの理由で、公開を妨げる理由にはならない。」について

一般的に実施要領等の効力については、関連する法令等にてらして判断されるべきものであるが、前述したとおり、本実施要領は、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」に定められている都道府県教育委員会と市町村教育委員会の位置づけや役割を踏まえて制定されたものと考えられる。

今回対象になっている調査結果の公表に関する部分は、本件調査実施上の根幹にかかわるものであり、その扱いについては、より慎重な判断が求められるものである。

行政の諸活動を府民に説明する責務について本件請求で求められているのは、市町村・学校ごとの結果であり、説明する責務を負う諸活動も各市町村・学校においてなされたものである。府教育委員会としては、広域行政を所管する立場から、府全体の結果を公表し、 その調査結果の分析と改善方策を示すなどすることで、その責務は一定果たされていると考えられる。その上で市町村ごとの説明責任は市町村の判断にゆだねるという実施要項の定めは、関連法令や府条例の趣旨に反するものではない。

(3)「本件調査は、各市町村教育委員会が主体的に調査への協力の是非の判断することを認めており、協力を義務付けたものではない。仮に、次年度以降に市町村教育委員会から協力を得られなくなったとしても、実施段階ですべての市町村教育委員会の協力を前提としていない以上、事務への著しい支障とは認められない。」について

本件調査は、国が全国的に教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図ることと各教育委員会や学校が全国的な状況との関係において、自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図ることを目的としており、参加市町村が減少することで国や地域における正確な児童生徒の状況が正確に把握できなくなり、その目的を達成するにあたって支障になる。

また、市町村教育委員会等が実施要領を実施にあたっての前提として、参加・協力していることから、その約束事ともいうべき実施要領に反する取扱いが行われることで、府内及び全国の市町村教育委員会等との本件調査の実施方法に関する信頼が損なわれ、本件調査の事務の適正な実施に支障が生じるとともに、今後、府教育委員会の行う事務においても支障が生じることとなる。また、学校や児童生徒もその前提で調査を受けていることにも留意が必要である。

なお、平成20年8月の鳥取県教育委員会において市町村別・学校別の調査結果の情報公開を求められた事例においては、公開するかどうかの判断を行うにあたって、保護者、市町村教育委員会、小・中学校長会との意見交換会や県民からの意見募集を実施した上で、鳥取県教育委員会として、(1)子どもたちの心情に対して教育的配慮が必要であること、(2)教育現場で過度な競争が生じるおそれが否定できないこと、(3)全国学力・学習状況調査が、鳥取県教育委員会が市町村別・学校別の結果を公表しない前提で実施されたことなどの理由から、非公開とすることを決定している。

また、保護者との意見交換会や意見募集においても、公開に否定的な意見が少なからず出されたほか、1町の教育委員会を除く市町村教育委員会や校長会からは否定的な見解が出され、公開されれば来年度以降の参加について検討せざるを得ない旨の発言が行われた。

さらに、10月16日に大阪府知事が行った公開にあたっても、一部市町村から不安や心配の声が上がっており、来年度の本件調査参加の再検討を考えるような動きもある。

そのような状況の中で、府の教育行政の主たる担い手である府教育委員会が実施要領に反する行為を行った場合には、府教育委員会と市町村教育委員会との信頼関係が損なわれるおそれは、非常に高い状況にある。

情報公開制度が求めている透明性の確保や住民への説明責任を果たすべきとの要請については充分理解するものであるが、異議申立人における請求要請の意図を含め審理をつくしていただき、情報公開制度の要請と本件、全国学力・学習状況調査の結果の公表にかかる弊害を充分斟酌していただき賢明なご判断をお願いするものである。

全国学力・学習状況調査が市町村の信頼を失い、府内における参加が減少するような結果になれば、府の子どもたちに対する学習条件の整備や学力向上に向けた取り組みに大いなる齟齬をきたすものであり、府教育委員会としては、そうした結果が惹起されることを最も怖れるものである。

大阪の子どもたちの学力向上に向けた取り組みは、ひとえに府教育委員会と、これと連携すべき市町村教育委員会が担っているものであり、また、この両者が担わざるを得ないものであることをご理解いただきたいと考えます。

4 結論

以上のとおり、府教育委員会による本件部分公開にかかる決定処分は、条例に基づき適正に行われたものであり、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 全国学力・学習状況調査について

本件調査は、文部科学省が、平成19年度から、実施している調査であり、その目的は、

・ 国が、全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図ること、

・ 各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図るとともに、そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立すること、

・ 各学校が、各児童生徒の学力や学習状況を把握し、児童生徒への教育指導や学習状況の改善等に役立てること、

とされている。

調査対象は国・公・私立学校の小学校6年、中学校3年の原則として全児童・生徒であり、学力調査として、小学校6年が国語・算数、中学校3年が国語・数学についての筆記テスト、学習状況調査として、児童及び学校を対象とする質問紙調査が行われている。

また、本件調査は、実施主体である文部科学省が、小・中学校の設置管理者である市町村教育委員会等の協力を得て実施するものであり、都道府県教育委員会は、主に、域内の市町村教育委員会に対して、指導・助言・連絡等をするなど調査に協力することとされている。

3 本件調査に係る調査結果の公表等の状況

本件調査に係る調査結果の公表に関し、各年度の実施要領では、文部科学省は、「国全体の状況及び国・公・私立学校別の状況と都道府県ごとの公立学校全体の状況、地域の規模等に応じたまとまり(大都市、中核市、その他の市、町村、へき地)における公立学校全体の状況」を公表する一方、「都道府県教育委員会は、域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと」、「市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること」、「学校が、自校の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること」と定めている。

また、文部科学省は、公表する内容を除く調査結果について公開請求があった場合の対応について、各年度の実施要領には、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第6号の規定を根拠に不開示情報として取り扱うとするとともに、教育委員会等においても、それぞれの地方公共団体が定める情報公開条例に基づく同様の規定を根拠に、調査の適正な遂行に支障を及ぼすことのないよう、適切に対応する必要があるとの留意事項を定めている。

一方、大阪府においては、平成20年度の本件調査の調査結果について、実施機関が、府内の各市町村教育委員会に対し、平成20年9月に、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村の公立学校全体の結果を自主的に公表するよう要請を行ったこともあり、府内の約8割に当たる市町村教育委員会が、教科区分ごとの平均正答率などの情報と、設問ごとの平均正答率や質問紙調査の結果を合わせた分析を行うなど、それぞれ工夫を凝らしながら、公表している。

また、平成20年度の本件調査の市町村別結果のうち、教科区分ごとの平均正答率と質問紙調査の結果の抜粋を実施機関が取りまとめ知事に提供した資料について、知事に対する公開請求があり、知事は、平成20年10月16日に、その時点で、市町村教育委員会が、調査結果の公表について検討中又は非公表とする決定を行っていた、吹田市など8市町の小・中学校と太子町など3町村の中学校に係る数値を除いて公開を行っている。

さらに、全国的にみると、秋田県において、知事が市町村別の平均正答率を県のホームページに掲載して公表している例がある。また、市町村レベルでは、東京都墨田区が区内公立学校のホームページにリンクする形で、学校別の平均正答率等を公表しているほか、相当数の市町村が、当該市町村の公立学校全体の平均正答率等の情報を、ホームページや広報紙などに掲載して公表している状況にある。

4 本件行政文書について

本件行政文書は、文部科学省が、平成19年4月20日及び平成20年4月22日に、全国の国・公・私立学校の小学6年生及び中学3年生に対して実施した全国学力・学習状況調査の結果として、文部科学省から実施機関に提供された資料の一部であり、本件非公開部分に記録されている情報を整理すると、以下のとおりである。

(1)市町村別の「学校実施数」(平成19年度のみ)

平成19年度の調査を実施し集計対象となった学校の数が市町村別に記録されている。学校行事等で不参加となった学校があるため、各市町村が設置する学校数とは一致しない場合がある。

(2)市町村別及び学校別の「児童数」又は「生徒数」

調査を受け集計の対象となった児童又は生徒の数が、市町村別に「集計数」、「国語A」、「国語B」、「算数A(中学校調査については数学A)」、「算数B(中学校調査については数学B)」及び「質問紙」の区分により、記録されている。学校行事等で不参加となった学校の児童・生徒や当日欠席した児童・生徒は含まれない。また、遅刻・早退等があるため、教科ごとに人数が異なる場合もある。

(3)市町村別及び学校別の「平均正答数」及び「平均正答率」

学力調査における市町村別及び学校別の「平均正答数」及び「平均正答率」が、「国語A」、「国語B」、「算数A(中学校調査については数学A)」及び「算数B(中学校調査については数学B)」の教科区分ごとに記録されている。

5 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

実施機関は、本件非公開部分に記録されている情報について、条例第8条第1項第4号に該当すると主張しているので、検討する。

(1)条例第8条第1項第4号について

行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達せられなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

同号は、

ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、

イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

は、公開しないことができる旨を定めている。

また、本号における「事務の目的が達成できなくなる」とは、事務の性質上、当該情報を公開すれば、事務事業を実施しても期待どおりの結果が得られず、実施する意味を喪失する場合などをいい、「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」とは、公開することにより、事務事業の実施時期が大幅に遅れるなど、当該事務事業の質を著しく損なうこと、事務事業実施のために必要な情報又は関係者の理解、協力を得ることが著しく困難になることなどをいうものと解すべきであり、本号における「おそれのあるもの」に該当して公開しないことができるのは、当該情報を公開することによって、「事務の目的が達成できなくなり」又は「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」程度が単なる確率的な可能性ではなく法的保護に値する蓋然性がある場合に限られると解される。

(2)条例第8条第1項第4号該当性について

本件行政文書は、文部科学省が都道府県教育委員会の協力と市町村教育委員会の参加を得て実施した本件調査の結果をとりまとめ、実施機関に提供した資料の一部であることから、本件非公開部分に記録されている情報は、「府の機関又は国等の機関が行う調査研究に関する情報」として、(1)アの要件に該当することは明らかである。

次に、本件非公開部分に記録された情報が(1)イの要件に該当するか否かについて項目ごとに検討する。

ア 市町村別の学校実施数(平成19年度のみ)

平成19年度の実施期日である平成19年4月24日に本件調査を実施した学校数が記録されている。この情報は、文部科学省において公表されている情報ではないものの、これを公開しても、各市町村の設置した学校数と比べると、学校行事等のため、この日に実施できなかった学校数がわかるだけのことであり、府又は国等の事務に著しい支障があるとは認められないから、(1)イの要件に該当せず、公開すべきである。

イ 市町村別及び学校別の児童数又は生徒数

本件調査の集計対象となった児童又は生徒の人数が、市町村別及び学校別に全体と学力調査の教科区分及び質問紙調査の区分で記録されている。これらの情報は、文部科学省において公表されている情報ではないものの、これを公開しても、各市町村の在籍児童数又は生徒数と比べると、当日、欠席や遅刻、早退などにより、各調査の集計対象とならなかった児童又は生徒の人数がわかるだけのことであり、府又は国等の事務に著しい支障があるとは認められないから、(1)イの要件に該当せず、公開すべきである。

ウ 学校別の平均正答数及び平均正答率

本項の情報は、平成19年度、平成20年度とも、小学校が、「国語A」、「国語B」、「算数A」、「算数B」、中学校が「国語A」、「国語B」、「数学A」、「数学B」の教科区分で行われた学力調査の学校別の教科区分ごとの平均正答数及び平均正答率である。

これらの情報は、学力調査の結果を端的に表す数値であり、学校に序列をつけることが容易なため、序列化に伴う過剰反応の弊害が懸念されるところである。

この学校別の平均正答数及び平均正答率については、地域で情報を共有することにより、保護者のみならず広く地域住民が、地域の教育環境や学校教育の在り方等について、関心を持ち、地域全体で学校を支援することが期待されるという側面がある一方、児童・生徒が直接所属し日々学習し生活する集団の数値であることから、その取扱には、児童・生徒の学習への影響について慎重な配慮が必要である。審査会において、本件行政文書を見分したところによれば、都道府県別や府内市町村別の数値のばらつきが、平均正答率の最上位と最下位とで見て、概ね10〜20ポイント程度であるのに対し、府内の学校別のばらつきは、相当大きく、学校別の平均正答率等については、公開することにより、下位の学校の児童・生徒が、自らの属する学校や地域について無用の劣等感を持ち、学習意欲を減退させるなど教育活動に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められ、(1)イの要件に該当し、公開しないことができる。

エ 市町村別の平均正答数及び平均正答率

市町村別の平均正答数及び平均正答率についても、学校別の情報と同様、公開することにより、広く地域住民が、地域の教育環境や学校教育の在り方等について、関心を持ち、地域全体で学校を支援することが期待されるという側面がある一方、序列をつけることが容易なため、序列化に伴う過剰反応の弊害が懸念されるところであり、例えば、数値の高い市町村への越境入学や転居が起きるおそれがないとは言えない。しかしながら、市町村は、児童・生徒が直接所属する集団ではないことから、児童・生徒の学習に及ぼす影響は比較的小さい。また、小中学校の設置者である市町村教育委員会が、住民に対する説明責任を果たすためにも、市町村別の結果を公表することは、各年度の実施要領でも容認されており、実際に多くの市町村教育委員会が平均正答率等を公表している。さらに、府内市町村の中には、小学校又は中学校が1校のところがあるが、ウのとおり学校別の数値が公開されない以上、学校間の序列化は生じず、市町村間の数値のばらつきも、比較的小さいことから、市町村別の数値と同様に考えるべきである。

これらのことを総合的に考慮すると、市町村別の平均正答数及び平均正答率については、公開することにより、府又は国等の教育施策の推進や市町村立学校の教育活動に対し、公開の社会的な要請を上回るような著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、(1)イの要件に該当するとまでは言えない。

なお、この点に関し、実施機関は、本件非公開部分を公開することにより、「次年度以降に市町村教育委員会が調査実施に協力せず正確な情報が得られなくなる。」、「文部科学省は府教育委員会などの都道府県教育委員会に対して市町村別・学校別データの提供を行わない可能性が極めて高い。」などと主張しているが、3で述べたとおり、平成20年度の市町村別の平均正答率に関し、大阪府知事が、自ら公表した市町村の平均正答率を一覧できる形で公開し、秋田県知事が、県内市町村別平均正答率の一覧を公表した例があるにもかかわらず、平成21年度の本件調査については、従来、唯一参加していなかった愛知県犬山市も参加し、全国の全ての市町村が参加して実施された。また、本件調査の平成21年度の実施要領においては、都道府県教育委員会に対して市町村別・学校別データの提供を行わない場合がある旨の規定は置かれていない。これらのことからすると、少なくとも、市町村別の数値については、多くの市町村が本件調査に参加せず、本件調査の目的が達成されなくなるような状況は起こる可能性は小さいと考えられる。

また、実施機関は、「調査結果の数値のみが公表され、ある市町村や学校の平均正答率が全国や大阪府全体の平均正答率より低かった場合、その原因が地域の教育環境の問題だけに帰せられたり、教員の質や児童生徒の能力に対する安易な評価がされやすい。」、「本件調査で測ることができる学力は、学校の教育活動の一側面にしか過ぎず、一面的な学力に関する数値のみで市町村や学校の教育活動全般が評価されたり、序列化が行われたりする結果、平均正答率をあげるために偏った指導が行われることが考えられる。」などと主張しているが、このような支障は、現に実施機関や多くの市町村教育委員会が行っているように、府民に対して、本件調査の意義や限界を正確に説明し、質問紙調査を含めた調査結果を的確に分析した情報を公表するとともに、学校や教職員に対する適切な指導を徹底することにより、相当程度防止できるものである。

以上のことから、市町村別の平均正答数及び平均正答率については、(1)イの要件に該当せず、公開すべきである。

6 結論

以上のとおりであるから、本件異議申立ては、本件非公開部分のうち(1)市町村別の学校実施数、(2)市町村別及び学校別の児童数又は生徒数、(3)市町村別の平均正答数及び平均正答率が記録された部分の公開を求める部分について理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

(主に調査審議を行った委員の氏名)

岡村周一、鈴木秀美、岩本洋子、大和正史

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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