大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第152号)

更新日:2009年8月5日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第152号)

[特定個人自損事故報告書公開請求拒否決定審査請求事案]

 (答申日 平成20年1月16日)

第一 審査会の結論

諮問実施機関(大阪府公安委員会)の判断は妥当である。

第二 審査請求の経過

1 平成19年3月7日、審査請求人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府警察本部長(以下「実施機関」という。)に対し、「平成○年○月○日○で転落死したAの転落状況について、B警察署が調査し、上記転落をAの自損事故と判断した資料全部」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2  同年3月20日、実施機関は、本件請求に対し、条例第13条第2項の規定により、本件請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく本件請求を拒否する旨の公開請求拒否決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり理由を付して審査請求人に通知した。

(公開請求を拒否する理由)

本件請求は特定個人の自損事故に関する文書の公開を求めるものである。本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えることは、特定個人に係る自損事故があったか否かという情報を明らかにするものであって、個人のプライバシーに関する情報を公にすることになる。

したがって、本件公開請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなるため、同条例第12条の規定により、当該行政文書の存否を明らかにしないで、本件公開請求を拒否する。

3 同年5月31日、審査請求人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第5条の規定により、大阪府公安委員会(以下「諮問実施機関」という。)に対し、審査請求を行った。

第三 審査請求の趣旨

本件決定を取り消し、公開することを求める。

第四 審査請求の主張要旨

審査請求人の主張は、概ね次のとおりである。

1 審査請求書における主張

(1)審査請求人は、平成19年3月20日、実施機関から大阪府警察本部指令(捜一)第1号をもって、審査請求人の同年同月6日付行政文書公開請求を拒否する旨の決定を受けた。

(2)審査請求人が公開を請求した文書は、平成○年○月○日○で転落死した審査請求人の孫Aの転落状況について、B警察署が調査し上記転落をAの自損事故と判断した資料の全部である。

(3)上記請求に対し、実施機関は「本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えることは、特定個人に係る自損事故があったか否かという情報を明らかにするものであって、個人のプライバシーに関する情報を公にすることになる。したがって、本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、条例第9条第1号に該当する情報を公開することになるため、条例第12条の規定により、当該行政文書の存否を明らかにしない」ことに決定した、と言う。

(4)しかし、本件転落事故が発生した平成○年○月○日以来今日まで○年余りの間、本件転落事故を調査したというB警察署は、審査請求人に対し、それがAの自損事故であったかのごとく言いながら、上記事故の状況についてB警察署が調査した結果も、それに基づいて本件転落事故をAの自損事故と判断した理由(上記調査結果及び判断理由)も、一切説明しない。

(5)一方、Aの両親は言うまでもなく、Aの祖父である審査請求人にとっても、本件転落事故の発生状況について詳しく知りたいと考えるのは、親と子又は祖父と孫との間における人間の情愛として全く当然のことである。

(6)ところで、本件転落事故の発生状況を調査してその発生原因を究明することは、市民の生命と安全を守ることを重要な使命の一つとする警察官の当然の職務である。

しかも、B警察署は、上記調査の結果、本件転落事故が何人かの加害行為又は過失によって発生したものではないと判断して、これに関する書類及び証拠物を大阪地方検察庁へ送致(刑事訴訟法第246条)していない。

したがって、請求人としては、B警察署が本件転落事故を自損事故と判断されたものと考えざるを得ず、そうであるとすれば、調査結果及び判断理由は、司法文書ではなく行政文書である。(ちなみに、審査請求人は、本件転落事故がAの自損事故であったと認めている訳ではない。)。

(7)しかるに、実施機関は、本件決定の理由として、「請求人が請求している文書が存在しているか否かを答えることは個人のプライバシーに関する情報を公にすることになること」を挙げている。

しかし、本件転落事故が発生したことは、事故発生直後新聞等のマスコミによって広く報道され、公知の事柄である。また、審査請求人は、調査結果及び判断理由について、単に同人に対する開示を請求しているだけであって、広く社会全体に公開することを請求している訳ではない。

また、実施機関は、本件決定の法令上の根拠として、「本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなる」と述べている。

しかし、審査請求人は言うに及ばずAの両親も、調査結果及び判断理由を他人に知られたくないと望んでいる訳ではなく、逆に調査結果及び判断理由が開示されることを望んでいるのである。

しかも、調査結果及び判断理由が公開されることは、本件転落事故現場付近の危険性や本件転落事故の発生原因を、広く付近住民に周知させることになり、将来同種の事故が発生することを予防することにも役立つという意味において、極めて公共性の高い情報である。

なお、本来「プライバシーの権利」というものは、これを守られるべき市民の立場からその保護を求める権利として認められているものであって、公僕である警察官が自ら有する市民の死亡事故に関する情報を秘匿するために認められている権利ではない。

(8)以上の理由により、審査請求の趣旨記載のとおりの決定を求める次第である。

2 反論書における主張

(1)この事案は、平成○年○月○日、○に転落して○○したわたしの孫、Aの転落状況について、B警察署が、Aの親権者及び近親に、今日まで全く説明していないことにより発生した事案である。

また、Aの転落時、同所で行動を共にしていた○たち及び通報者の○が、転落時の状況について語ってくれず、○たちも協力していないばかりか、B警察署からは、説明を求めるわたしに対して「威力行為になる、パトカーが呼ばれることのないように」と、私を威圧するようなことばの「連絡」が入った。

このような背景をもつ警察に対し、わたしは、Aの転落状況の説明と関係資料の開示を求めているだけである。

(2)わたしは、A転落の直後、行動を共にした○及び通報した○が、警察で調書をとられていることは、警察より聞かされていた。わたしは、警察に口頭説明ができないなら、調書の開示を求めた。

警察から「行政文書は開示できる」が、「司法文書は開示できない」と説明されたから、警察が事件とみなしていないこの事案は、「司法文書に当たらない」のではないかとのわたしの主張に、それ以後警察は、この件に関して語らなくなった。

(3)Aの死亡から○年余り経過した平成18年11月9日、C弁護士を代理人として、B警察署に「Aの転落状況についての捜査関係資料のすべてを開示したうえ、本件事件を事故と判断した根拠を説明されるよう要望」した要望書を提出した。

席上、D副署長は、C正弁護士に「まだ、事件とも事故とも決めていない」と、はじめて事案の取り扱いが○年余り放置されていたことを認める説明をされた上で、検討の時間を求めた。

以後、B警察署から返答がなかったので、同年12月25日に催告書を送った。同月27日、B警察署より、今後は大阪府警察本部で対応するとの連絡があり、翌年1月10日大阪府警察本部に赴き、担当官よりB警察署に説明するよう指示するとの言質を得たが、その後B警察署からは全く返答も対応もない。

(4)平成19年3月6日、大阪府警察本部に「行政文書公開請求書」を提出し、3月20日「公開請求拒否決定通知書」の通知を受けた。

この行政文書公開請求書の書式は、大阪府警察本部の定めたもので、こちらで作成した「公文書開示請求書」の趣旨と関係資料の書面は受け取りを拒否された。               

(5)よって今回、平成19年5月19日、Aの生命の尊厳、社会正義の回復を求めて諮問実施機関に「審査請求書」を提出した。6月7日、諮問実施機関より「審査会諮問通知書」を受領し、6月26日に「理由説明書の送付及び反論書の提出について(通知)」にいう貴審査会の通知を受領した。

(6)「理由説明書」は空疎にして奇弁で満たされている。

説明書による「2 転落死による自損事故の取扱いについて」は、「一般的に行われる手続きについて」と前置きして「死体の取扱いについて」と解説しておられる。

求めている必要事項は、Aが死に至った○への転落の状況説明及び関係資料の開示である。水死体の取り扱いに置き換える奇弁を弄して、問題をすり替えておられる。 

(7)説明書による「3 本件決定の妥当性について(1)条例第9条第1号について」は、「プライバシーの保護」という情報公開一般論で紙面をつぶし、問題点を一般化しておられる。

保護されるべきA本人は、プライバシーの保護どころか、「死」という最悪の姿で、本人のプライバシー(人格)は侵害され破壊されてしまっている。侵害され破壊されたプライバシーを回復しようとする死者及び近親の努力に対して、このような言動は、まさに「死者を愚弄している」というべきものである。

(8)また、実施機関は、当該行政文書の存否を明らかにすることについて弁解しておられるが、すでに上記(2)で申し述べたとおり、わたしは、当該文書の存在を知らされている。いまさら、なにをそらぞらしいことを言われるのかと思う。

(9)理由説明書は、本来警察機能が、追及するべき犯罪性、守るべき治安と国民生活の安全に反して、社会の正道を踏み外す空疎な奇弁で満たされておられる。わたしの能力をもって、必要最低事項は記述しましたが、この空疎な奇弁に対して言葉をついやす努力はしたくない。

Aが、○に転落して、○して以来○年余り、その転落状況を知ることを求めて全身全霊努力してきた結果がこのようなものであるとしたら、もはや警察機能とは、民主主義国家「美しき国づくり」にとって、なんぞやといわざるを得ない。

くりかえすが、わたしが、唯一求めていることは、Aが○に転落したその転落状況を知ることだけである。国民は、かかる捜査権を警察機能に託している。それが機能しないばかりか、隠蔽、阻害しているかのような疑いを抱かせる警察に、情報公開という民主主義国家の根幹にかかわる機能が、弁明のために利用されることのないよう願うものである。 

第五 諮問実施機関の主張要旨

諮問実施機関の主張は、概ね次のとおりである。

1 実施機関の意見等

(1)意見の趣旨

「実施機関の決定は妥当である。」との裁決を求める。

(2)実施機関の意見

ア 転落死による自損事故の取扱いについて

本件請求は、実施機関が特定個人の転落死について、これを調査し、自損事故と判断した資料を求めるものであるが、これらの事案に対して一般的に行われる手続きについて、以下説明する。

(ア)死体の取扱いについて

a 警察官は、死体取扱規則(昭和33年国家公安委員会規則第4号)の規定により、死体を発見し、又は死体がある旨の届出を受けたときは、すみやかにその死体の所在地を管轄する警察署長にその旨を報告しなければならないこととされている。また、報告を受けた警察署長は、その死体が犯罪に起因するものではないことが明らかな場合においては、その死体を見分するとともに死因、身元その他の調査を行い、又は所属警察官にこれを行わせなければならないこととなる。その見分は、公共の福祉、公衆衛生等の立場から、死因、身元、その他の状況を調べる行政措置であることから、一般的に「行政検視」とよばれている。

b 一方で、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)に規定する変死者又は変死の疑いのある死体の場合は、その死亡が犯罪に起因するか否か明らかでないことから、捜査の端緒を得るために「司法検視」として死体の検視を行うこととなる。なお、「司法検視」を行うまでもなく、その死亡が犯罪によることが明らかな場合は、同法及び犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)の規定に基づき、検証、実況見分などの捜査活動を直ちに開始することとなる。

(イ)犯罪によらない死体に係る行政文書について

上記(ア)aで述べたとおり、警察署長が死体を認知した場合で、その死体が犯罪による死体以外の死体であるときは必要な調査を行うこととなるが、その結果、天災地変による死亡であることが明らかな死体、明白な自己の過失死による死体、明白な自殺死による死体等のように、その死亡が犯罪に起因しないことが客観的に明白な死体の場合は、死体取扱規則の規定により、死体見分調書を作成することとなる。 

イ 本件決定の妥当性について

(ア)条例第9条第1号について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

本号は、このような規定を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。

同号は、

a 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

b 特定の個人が識別され得るもののうち、

c 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。

そして、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」とは、個人のプライバシーに関する情報を例示したものであり、「特定個人が識別され得る」情報とは、当該情報のみによって直接特定の個人が識別される場合に加えて、容易に入手し得る他の情報と結びつけることによって特定の個人が識別され得る場合を含むと解される。

また、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報」とは、社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうと解される。

(イ)条例第12条について

本条は、「公開請求に対し、当該公開請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで第10条第2項各号(第8条第2項各号又は第9条各号の規定により公開しない情報)に掲げる情報を公開することとなるときは、」当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該公開請求を拒否することができる旨規定している。

本条による公開請求の拒否は、公開請求に係る行政文書が存在するか否かも明らかにしないというものであり、安易な運用は行政文書公開制度の趣旨を損なうことになりかねないが、公開請求に係る行政文書の存否が明らかになることによる権利利益の侵害や事務執行の支障等が具体的かつ客観的に認められる場合には、本条によって公開請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく公開請求を拒否することができるものである。

(ウ)本件請求に係る行政文書の存否を答えることにより明らかとなる情報と条例第9条第1号該当性について

本件請求は、特定個人の転落死による自損事故に関する文書の開示を求めるものであり、実施機関が該当する文書があるとして公開・非公開の決定を行うだけで、特定個人について、転落死による自損事故にあったか否かという情報を明らかにすることとなる。

これら本件請求に係る行政文書の存在を答えることにより明らかとなる情報は、個人の心身状況に関する情報であって、上記イ(ア)a及びbの要件に該当することが明らかであり、また、その内容は転落死による自損事故という個人の心身状況に関する情報のなかでもとりわけ機微にわたるものであって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるから、上記イ(ア)cの要件にも該当する。

したがって、本件請求に係る行政文書は、その存否を答えるだけで、条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなるものであり、本件決定は妥当である。

ウ 審査請求人の主張に対する反論について

(ア)行政文書の公開請求権について

審査請求人は、「単に請求人に対する開示を請求しているだけであって、広く社会全体に公開することを請求している訳ではない。」と主張するので、以下検討する。

情報公開請求の請求者については、

a 条例第6条で、「何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる。」と規定して請求者を何ら区別することなく行政文書の公開を請求する権利を付与しており、第8条及び第9条に規定する公開・非公開の基準においても、請求者が誰であるかという特則を設けず、個人情報の本人開示に不可欠な本人確認の手続きも定めていない。

b 大阪府では、昭和59年に制定された公文書公開等条例においては、一般の公文書の公開に加えて、公文書の本人開示に係る規定が置かれていたが、平成8年に個人情報保護条例が制定され、同条例に自己に関する個人情報の開示の規定が設けられたことから、公文書公開等条例の公文書の本人開示に係る規定が削除された経緯がある。

これらのことから、条例に基づく行政文書公開制度においては、請求者が誰であるかによって、公開・非公開等の決定内容に差異を設けることはできないのであり、他の請求者と異なる公開決定を行うことはできない。

(イ)条例第11条に基づく公益上の理由による公開について

審査請求人は、「極めて公共性の高い情報である」旨主張するので、以下検討する。

条例第11条は公益上の理由による公開について定めたものであり、同第2項においては、公開請求に係る行政文書に条例第9条第1号に掲げる情報が記録されている場合であっても、「公益上特に必要があると認めるとき」は、請求者に対し、当該行政文書の全部又は一部を公開することができる旨規定している。

本項の「公益上特に必要があると認めるとき」とは、条例第9条第1号の規定によって保護される個人のプライバシー保護の利益と公益上の公開の必要性とを個別具体的に比較衡量し、公益上特に公開する必要があると認められる場合をいうと解され、そのような場合には、本項に基づいて、当該情報を公開することができるものである。

しかしながら、条例は、一方で、第5条において、条例の解釈及び運用に当たっては、条例第9条第1号に規定する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定しており、本項の規定により行政文書を公開しようとする場合にも、条例第11条第3項の規定により、大阪府個人情報保護条例の趣旨を勘案し、個人の権利利益が適正に保障されるよう特段の配意をしなければならないとされている。

以上のことからすると、本項の「公益上特に必要があると認めるとき」に該当して行政文書を公開できる場合とは、具体的には、災害時等における人の生命、身体、財産等に対する重大な被害の発生を防止するため当該情報を公開することが必要不可欠であるなど、基本的人権に関わる個人のプライバシー保護の利益に匹敵する特段の事情、必要性が現に存在する場合に限られると解すべきであり、本件において、審査請求人が主張する事情のみをもって、公益上特に本件請求に係る行政文書を公開する必要があるとは認められず、本件請求に係る行政文書を条例第11条第2項の規定に基づき、公開すべきであるとはいえない。 

エ 実施機関の結論

以上のとおり、本件決定は条例の趣旨を踏まえて行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

2 諮問実施機関のまとめ

本件請求に係る行政文書は、条例第9条第1号に該当する情報であり、条例第12条の規定に基づいて行った本件決定に違法、不当はないものと考える。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けるとともに、第12条において、公開請求に係る文書の存否を答えるだけで、これら適用除外事項に該当する情報を明らかにすることになる場合には、当該公開請求を拒否することができる旨を定めているのであり、実施機関は、請求された情報がこれらの規定に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

実施機関は、本件請求に係る行政文書があるかどうかを答えるだけで条例第9条第1号に該当する情報を公開することになり、条例第12条に該当すると主張しているので、検討したところ、次のとおりである。

(1)条例第9条第1号について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

本号は、このような規定を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。

同号は、

ア  個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

イ 特定の個人が識別され得るもののうち、

ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。

そして、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」とは、個人のプライバシーに関する情報を例示したものであり、「特定個人が識別され得る」情報とは、当該情報のみによって直接特定の個人が識別される場合に加えて、容易に入手し得る他の情報と結びつけるとによって特定の個人が識別され得る場合を含むと解される。

また、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報」とは、社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうと解される。

(2)条例第12条について

本条は、公開請求に係る行政文書の存否を明らかにするだけで第8条及び第9条に規定する適用除外事項によって保護される利益が害されることとなる場合には、例外的に公開請求に係る行政文書の存否自体を明らかにしないで公開請求を拒否することができる旨を定めたものである。

本条による公開請求の拒否は、公開請求に係る行政文書が存在するか否かも明らかにしないというものであり、安易な運用は行政文書公開制度の趣旨を損なうことになりかねないが、公開請求に係る行政文書の存否が明らかになることによる権利利益の侵害や事務執行の支障等が具体的かつ客観的に認められる場合には、本条によって公開請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく公開請求を拒否することができるものである。

(3)本件請求に係る行政文書の存否を答えることにより明らかとなる情報と条例第9条第1号の該当性について

本件請求に係る行政文書は、「特定個人が特定場所において転落死した」ことを前提として作成される文書であり、実施機関が該当する文書があるとして公開あるいは非公開の決定を行うだけで、特定個人が転落死したという情報を明らかにすることとなる。

このような特定個人の死亡及びその死因に関する情報は、前記(1)のア及びイに該当することが明らかであり、また、個人のプライバシーに関する情報の中でもとりわけ機微にわたるものであって、社会通念上、他人に知られることを望まないものであることからすると、(1)ウの要件にも該当する。

以上により、本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなると認められるから、実施機関が、条例第12条の規定に基づき本件請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく本件請求を拒否したことは妥当である。

3 審査請求人の主張について

審査請求人は、「本件転落事故が発生したことは、事故発生直後新聞等のマスコミによって広く報道され、公知の事柄である。」旨主張している。

しかしながら、本件転落事故については、平成○年○月当時には報道機関による報道により、親族その他の関係者以外の一般人が容易にその発生を知り得る状態にあったと考えられるものの、当該報道から約○年を経過した本件請求時点の状況においては、一般人が容易にその発生を知り得る公知の事柄であるとは認められない。

また、審査請求人は、「調査結果及び判断理由について、単に同人に対する開示を請求しているだけであって、広く社会全体に公開することを請求している訳ではない。」旨も主張している。

しかしながら、条例は、「何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる。」(条例第6条)と規定して請求者を何ら区別することなく行政文書の公開を請求する権利を付与しており、第8条及び第9条に規定する公開・非公開の基準においても、請求者が本人である場合について特則を設けず、個人情報の本人開示に不可欠な本人確認の手続も定めていない。また、大阪府では、昭和59年に制定された公文書公開等条例(昭和59年大阪府条例第2号)においては、一般の公文書の公開に加えて、公文書の本人開示に係る規定が置かれていた(同条例第17条)が、平成8年に個人情報保護条例(平成8年大阪府条例第2号)が制定され、同条例に自己に関する個人情報の開示の規定が設けられたことから、公文書公開等条例の公文書の本人開示に係る規定が削除された経緯もある。

これらのことからすると、条例に基づく行政文書公開制度においては、請求者が誰であるかによって、公開・非公開等の決定内容に差異を設けることはできないのであり、その公開請求に係る行政文書が請求者の近親者の個人情報を記録したものであるからといって、他の請求者と異なる公開決定を行うことはできない。

さらに、審査請求人は、「調査結果及び判断理由が公開されることは、本件事故現場付近の危険性や本件転落事故の発生原因を、広く付近住民に周知させることになり、将来同種の事故が発生することを予防することにも役立つという意味において、極めて公共性の高い情報である。」などとして、条例第11条第2項に規定する公益上の理由による公開を求めていると解される。

しかしながら、本項に規定する「公益上特に必要があると認めるとき」に該当して行政文書を公開できる場合とは、具体的には、災害時等における人の生命、身体、財産等に対する重大な被害の発生を防止するため当該情報を公開することが必要不可欠であるなど、基本的人権に関わる個人のプライバシー保護の利益を上回る特段の事情、必要性が現に存する場合に限られると解すべきであり、審査請求人が主張する事情をもって、公益上、特に本件請求に係る行政文書を公開する必要があるとは認められない。

以上のことから、上記の審査請求人の主張は、いずれも採用することはできない。

4 結論

以上のとおりであるから、本件審査請求には理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

(主に調査審議を行った委員の氏名)

岡村周一、福井逸治、松田聰子、岩本洋子

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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