大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第149号)

更新日:2009年8月5日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第149号)
[教職員評価・育成システム実施状況調査回答文書非公開決定異議申立事案]

(答申日 平成19年11月30日)

第一 審査会の結論

実施機関は、本件異議申立ての対象となった行政文書のうち、別表「公開すべき部分」に掲げる部分を公開すべきである。

実施機関のその余の判断は妥当である。

第二 異議申立ての経過

1 異議申立人は、平成18年12月25日、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対して、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「2005年度の府立学校校長と市町村教育委員会に出した実施調査票、校長や市町村教委からの個別の回答内容」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

 2 実施機関は、平成19年1月23日、本件請求に対応する行政文書として「平成17年度「教職員の評価・育成システム」の実施状況に関する調査の個別の回答(様式1:府立学校長用)」及び「平成17年度「教職員の評価・育成システム」の実施状況に関する調査の個別の回答(様式2:市町村教育委員会用)」(以下、前者を「府立学校回答文書」、後者を「市町村教委回答文書」といい、これらを合わせて「本件行政文書」という。)を特定の上、条例第13条第2項の規定により、非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり公開しない理由を付して、異議申立人に通知した。

(公開しない理由)

大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する。

本件行政文書は、府立学校や府内の市町村立学校における「教職員の評価・育成システム」の実施状況を正確に把握し、今後の改善すべき課題を抽出、分析し、システムの制度充実に役立てることを目的として、各府立学校長や市町村教育委員会の協力を得て収集したものであり、各府立学校及び府内の市町村立学校における「教職員の評価・育成システム」の詳細な実施状況や、同システムに関する各学校長又は市町村教育委員会の意見等が率直に記載されている。これを公開することになれば、今後、調査に必要な正確かつ詳細な情報を十分に得ることができなくなり、調査本来の目的が達成できず、今後の人事管理に関する事務の公正かつ円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

 3 異議申立人は、平成19年2月5日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

第三  異議申立ての趣旨

本件決定を取り消し、当該情報の全部公開を求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。

1 大阪府情報公開条例の「精神」と実施機関の情報提供義務

「『知る権利』の保障と個人の尊厳の確保に資するとともに、地方自治の健全な発展に寄与するため」に制定された条例は、周知のようにその前文において、「情報の公開は、府民の府政への信頼を確保し、生活の向上をめざす基礎的な条件であり、民主主義の活性化のために不可欠なものである。」とし、更に「府が保有する情報は、本来は府民のものであり、これを共有することにより、府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てるべきものであって、府は、その諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている。」と、条例制定の「精神」を明示している。特に、「府は、その諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている。」という部分は、従前の大阪府公文書公開等条例(昭和59年大阪府条例第2号、以下「旧条例」という。)にはなく、市民の「知る権利」(前文)もしくは「行政文書の公開を求める権利」(第1条)の保障を目的とする条例の「精神」をより一層具体化するために追加されたものである。

従って、実施機関が、条例の「精神」に沿った情報公開を進めることは、大阪府民に対する責務である。

2 「評価育成システム」そのものの問題点と検証の必要性

(1)「システム」そのものが、育成者と位置づけられる校長が同時に評価者となることによって、各教員の目標設定からその達成度の評価の全過程で、校長の意向に事実上従わざるを得ない結果をもたらし、それゆえ、教育の特質たる「人間的主体性」「真理教育の自主性」「教育の専門的自立性」「教育の自主的責任制」を脅かし、「教育に対する不当な支配」になるのではないかという、極めて現実的な疑義があることを実施機関は指摘していない。昨年出された大阪弁護士会の要望書(2006年7月25日)の中でも、『子どもたちを取り巻く様々な問題状況の解決が、学校が一丸となった学校教育目標を設定、共有し、その目標に向かって個々の教職員の取り組みを校長が評価することが、常に「教職員の意欲・資質能力の向上」をはかることに結びつくものであるか否か、目的達成のための合理性、必要性の議論、その道筋の合理性、必要性に関しての検証を怠ってはならない。つまり、評価制度については、当該評価制度につき、a何のために(評価の目的)b誰が(評価の主体)c何を(評価の対象)dどのように評価し(評価の基準と方法)eそして、その評価をどのように活用するのか(評価結果の活用)といった議論が十分になされないまま導入されたとき、上意下達の管理強化の単なる一手段と化す危険性がある』『教育内容、方法に対する行政の関与である本件の評価制度が前述した危険性を考慮した上で、なお、合理性と必要性を有するかにつき、慎重な議論が続けられなければならないと考える』と、「システム」そのものについて、慎重な議論と検証の必要性を指摘している通りである。

(2)さらに、2007年度からは、「システム」の「総合評価」が給与額と連動して、B評価を普通とすると、S、Aが高く、C、Dが低い金額となる。実施機関は、全く触れていないが、もし、自己申告票を提出しなければ、それだけで初年度はC評価相当とし、未提出が続けばD評価相当として昇給は一切停止し、自己申告票を出さない限り、退職するまで昇給停止の給与額となり、それに合わせて勤勉手当額の計算及び退職金の計算がなされることとなるのである。この点からも、「システム」が「教育に対する不当な支配」になるのではないかという疑義が極めて強いものになる。

従って、「システム」そのものが大阪の学校教育に重大な影響を与えるものであることから、広く大阪府民に実態を公開し、先述の疑義について検証していかなければならない。

なお、実施機関は「ほとんどの教職員が自己申告を行い、目標達成に取り組んでいることは明らかになっており、システムは着実に定着している」と主張しているが、自己申告票の不提出が給与面で不利益を受けることを考えれば、事実を反映した見解ではないことは明らかである。

3 実施機関の主張の不当性

(1)異議申立人が本件行政文書の公開を求めるのは、府立学校及び市町村教育委員会において「評価・育成システム」が実際にどのように運用され、それがもたらすプラス・マイナスの面を現場からの回答に基づいて把握することが目的である。従って、実施機関が言うような個別の府立学校長、個別の市町村教育委員会の特定を前提にしたものではない。学校名や市町村教育委員会名を特定せずに、全体の傾向を明確に知るために公開を求めているのである。

従って、「各府立学校及び府内の市町村立学校における「教職員の評価・育成システム」の詳細な実施状況や、同システムに関する各学校長又は市町村教育委員会の意見等が率直に記載されている。これを公開することになれば、今後、調査に必要な正確かつ詳細な情報を十分に得ることができなくなり、調査本来の目的が達成できず、今後の人事管理に関する事務の公正かつ円滑な執行に著しい影響を及ぼすおそれがある」とするならば、個別の学校名、教育委員会名の公表を伴わない形での文書公開を求めるものである。

(2)府立学校回答文書について

実施機関は、「「平成17年度目標設定面談について」、「平成17年度の開示面談の実施状況について」、「平成17年度の評価・育成システムの説明等について」、「平成17年度の職務遂行状況の把握等について」、「一次評価者について」など、校長が行う人事管理の手法に係わる情報が含まれている。本来、ここで示されている面接や授業観察の時間の長さ、あるいは何を参考として職務状況を把握するかなどは、個々の校長の裁量に委ねられている。しかも、こういった手法は、各校長が教職員の性格や指向性等の個性を踏まえつつ、教職員間の人間関係等をも考慮して決定するものであって、一般に公にされているものではなく、むしろ、公にされないからこそ、所属教職員の個別指導を行う上で効果を発揮する性格のものであるもこれらの情報が公開されると、教職員にとっては、自校の回答例と自分に対する対応とを比較して、校長の自身に対する評価結果に不信を抱いたり、他校の回答と自校の状況を時間や回数等で単純比較することで、校長の評価行為に対する誤った認識を生むおそれがある。また、校長が個々の教職員の育成のために日常的に行う個別指導と結び付けられることによって、校長の指導の真意が誤ってとらえられるなど、今後の校内における人事管理に、著しい支障を及ぼすおそれがある。」と理由を申し立てているが、ここで述べられている内容はたとえ合理性を持つとしても、学校名を公表しない形での文書公開であれば何らの支障もなく、個別の校長に対して不信を持つことも、誤解をすることも、校内における人事管理に著しい支障を及ぼすおそれもありえない。

付け加えれば、これらの項目については主として統計数字の形で全体の概要は「平成17年度実施状況調査(集計)」として平成18年12月26日に通知されている。

システム実施に伴う「学校運営において、プラスの影響」、「マイナスの影響、改善についての提案」、「意見・提言の自由記入欄」について、実施機関は「校長に対して、公開されることを前提にせずに記載させる項目であり、学校運営上のシステムの影響や課題、改善点など、校長の意見が率直に記載されている。これを公開すると、今後、府民や教職員の誤解をおそれ、率直な意見を記載することを躊躇するようになり、調査本来のねらいである正確なデータ収集に基づく状況把握ができないことも予測され、ひいては、調査そのもの信頼性が確保できなくなるおそれがある。」と主張している。

しかし、「評価・育成システム」が学校教育に対して肯定的な役割を果たしているか、それとも否定的な役割を果たしているか、このことについて実施機関は全体的な調査を行い、その結果を報告したことはない。システムがまだ給与反映を前提とせず、導入後間もない平成16年2月の調査では、教職員の35.0%が自己申告票提出は役に立たないと考えており、しかも回答の中で最大の比率を占めた。その後、このシステムに対する教職員の評価が変わったという結果は出ていない。唯一、調査が行われたのは本件行政文書での校長、教育委員会に対する調査だけである。対象が教職員ではなく校長と教育委員会に限られているとはいえ、これら当事者の一方がシステムにどのような評価を行っているかは府民にとっても極めて重要な情報である。

しかし、これらの項目について「平成17年度実施状況調査(集計)」として平成18年12月26日に通知された文書は、いくつかの意見を例示的に採り上げているだけであり、それが全体の中でどのような位置を占めるのか、その考えが全体の中で占める比率などを反映する形ではまとめられていない。まとめ方が恣意的でないという保証もない。ここで回答された全体を知るためには書かれた回答全体の公表が不可欠である。校長の回答は個人の意見ではない。公的な立場にいるものとして職務上の回答であり、それが公表されることによって率直な意見の公表をはばかるようになり、今後の調査そのものの信頼性が確保できなくなるとは考えられない。

(3)市町村教委回答文書について

実施機関は、「「平成17年度目標設定面談について」、「平成17年度の開示面談の実施状況について」、「平成17年度の評価・育成システムの説明等について」、「平成17年度の職務遂行状況の把握等について」、「一次評価者について」など、府立学校と同様の調査を行った結果が記載されている。これらの情報が公開されることになれば、他市との比較によって、時間の長短や回数を単純比較して、当該市町村のシステムに対する取り組み姿勢を表すものと誤解されるおそれがあるばかりでなく、小規模な市町村においては、回答内容から個別の学校名の特定につながることも否定できないなど、府立学校に係るものと同様に本件情報に基づくシステム改善や各市町村教育委員会が行う人事管理事務に著しい支障を及ぼすおそれがある。」と理由を申し立てているが、ここで述べられている内容はたとえ合理性を持つとしても、学校名を公表しない形での文書公開であれば何らの支障もなく、個別の校長に対して不信を持つことも、誤解をすることも、校内における人事管理に著しい支障を及ぼすおそれもありえない。

システム実施に伴う「学校運営において、プラスの影響」、「マイナスの影響、改善についての提案」、「意見・提言の自由記入欄」については、『校長や市町村教育委員会に対して、公開されることを前提にせずに記載させる項目であり、学校運営上のシステムの影響や課題、改善点など、校長や市町村教育委員会の意見が率直に記載されている。これを公開すると、今後、府民や教職員の誤解をおそれ、率直な意見を記載することを躊躇するようになり、調査本来のねらいである正確なデータ収集に基づく状況把握ができないことも予測され、ひいては、調査そのもの信頼性が確保できなくなるおそれがある。」と主張している。

しかし、「評価・育成システム」が学校教育に対して肯定的な役割を果たしているか、それとも否定的な役割を果たしているか、このことについて実施機関は全体的な調査を行い、その結果を報告したことはない。システムがまだ給与反映を前提とせず、導入後間もない平成16年2月の調査では、教職員の35.0%が自己申告票提出は役に立たないと考えており、しかも回答の中で最大の比率を占めた。その後、このシステムに対する教職員の評価が変わったという結果は出ていない。唯一、調査が行われたのは本件行政文書での校長、教育委員会に対する調査だけである。対象が教職員ではなく校長と教育委員会に限られているとはいえ、これら当事者の一方がシステムにどのような評価を行っているかは府民にとっても極めて重要な情報である。

しかし、これらの項目について「平成17年度実施状況調査(集計)」として平成18年12月26日に通知された文書は、いくつかの意見を例示的に採り上げているだけであり、それが全体の中でどのような位置を占めるのか、その考えが全体の中で占める比率などを反映する形ではまとめられていない。まとめ方が恣意的でないという保証もない。ここで回答された全体を知るためには書かれた回答全体の公表が不可欠である。校長の回答は個人の意見ではない。公的な立場にいるものとして職務上の回答であり、それが公表されることによって率直な意見の公表をはばかるようになり、今後の調査そのものの信頼性が確保できなくなるとは考えられない。

4 結 論

以上のとおり、本件決定は、条例の趣旨を蔑ろにし、条例第1条に明確に反するもので、実施機関の主張には、何ら正当性がない。従って、実施機関の決定は不当との決定をのぞむものである。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね以下のとおりである。

1 教職員の評価・育成システムについて

(1)概要

実施機関は、平成14年7月、「教職員の資質向上に関する検討委員会」から、「教職員全般の資質向上方策」について最終報告を受けた。この最終報告の中で、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として提言されたのが「教職員の評価・育成システム」(以下「システム」という。)である。

システムは、学校の教育活動等における目標・計画の策定(Plan)、目標達成に向けた実践(Do)、結果の点検・評価(Check)、改善への取組(Action)という「PDCAのサイクル(マネジメント・サイクル)」を活性化するとともに、これまで評価されることが少なかった一人ひとりの教職員の活動を客観的に評価することにより、教職員の意識改革と意欲・資質能力の向上を図り、教育活動をはじめとする様々な活動を充実させ、学校を活性化することを目指すものである。

システムでは、年度初めに教職員一人ひとりが、「学校教育計画」等で決定されている学校の教育目標の実現に向け、組織内の自らの役割を踏まえて個人目標を設定し、校長に申告する。校長は、教職員と面談を行い、仕事の内容や課題について相互理解を深めるとともに、教職員の目標が学校の教育目標に適合しているか、その教職員の役割に照らして適切であるかなどを判断し、必要な場合には目標の修正・変更を指導した上で、教職員の取り組むべき目標を確定する。

教職員は、同僚教職員と連携協力しながら、目標達成に向け1年間取組みを進め、中間時点での進捗状況と、年度末には達成状況を自己評価し、校長に申告する。

校長は、児童生徒や保護者、同僚教職員、教頭などの意見も参考にしながら、教職員の自己申告を踏まえた上で、教職員の目標の達成状況を判断し、これを「業績評価」として評価する。また、職務全般の取組みを対象に、教職員の日常の職務遂行を通じて発揮された能力を「能力評価」として評価する。その上でこれらの評価をもとに「総合評価」を行う。評価は、いずれもA・B・Cの3段階を基本にS・Dを加えた5段階(S・A・B・C・D)の絶対評価である。

評価の結果は、教職員本人に開示され、取組みの改善や次年度の目標設定に生かすこととしているが、評価の結果に納得できない場合については、教職員は苦情の申出ができることとしている。

また、校長の学校運営の充実・改善に資するため、教職員が「校長への提言シート」に学校運営に関する意見等を記入して校長に提出する制度を設けている。この制度により、校長が自らの学校運営について見直しを行ったり、教職員の意見を学校運営に反映したりするなど、システムは双方向性を持ったものとなっている。なお、このシートの写しは校長から教育委員会に提出され、教育長は校長の評価の際に学校運営を把握する参考資料としている。

(2)システムの実施根拠

実施機関は、平成16年4月16日に開催された大阪府教育委員会会議で、府立学校に勤務する教職員を対象とした「府立の高等専門学校、高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(平成16年大阪府教育委員会規則第12号)及び市町村立学校に勤務する府費負担教職員を対象とした「府費負担教職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(平成16年大阪府教育委員会規則第13号)(以下、両規則をあわせて「システム実施規則」という。)を新たに制定し、これら規則に基づいて実施している。

(3)勤務評価としてのシステムと評価結果の活用

ア この「システム実施規則」では第1条において、その根拠規定を府費負担教職員については、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第46条、府立の高等専門学校、高等学校等の職員については、地方公務員法第40条第1項に基づく勤務成績の評定としての「システム」であることを明記している。

イ 平成17年度には人事院勧告において、給与制度の改正(いわゆる給与構造改革)が勧告され、本府においても、府人事委員会勧告を受け、勤務成績を昇給及び勤勉手当の支給に反映することとした。具体的には、平成18年度の「システム」における評価結果を平成19年度の昇給及び勤勉手当における勤務成績の判定に活用することとし、「職員の給与に関する条例」及びこれに関連する府人事委員会規則の改正や実施機関による「勤務成績に応じた昇給の取扱いに関する要領」等を制定するなど必要な規定整備を行い、各学校長及び各市町村教育委員会に通知し、全ての教職員に周知した。

なお、評価結果は給与以外においても、校内での教職員の指導・育成や能力開発に活用する他、人事(昇任、異動、人事配置など)の参考資料として活用している。

(4)平成17年度の自己申告票の提出状況について

平成15年度の試行段階の自己申告票の提出率は、7割程度であったものが、平成17年度には府立学校で94.6%、市町村立学校で96.0%となっていることから、ほとんどの教職員が自己申告を行い、目標達成に取り組んでいることが明らかとなっており、システムは着実に定着している。

(5)システムの充実

実施機関では、他の施策と併せて、このシステムを通じて、教職員の意欲・資質能力の向上と学校の活性化を図り、子どもたちにとって、魅力ある学校、保護者・府民から信頼される学校づくりを進めるため、システムのより一層の充実を図っていくことが重要と考えており、毎年度システムの実施状況結果を検証し、制度改善及び運用改善に努め、今後も継続的に取り組んでいくこととしている。

2 本件行政文書について

(1)本件行政文書は、各府立学校や各市町村教育委員会において、システムがどのように運用されているのかを把握・検証するとともに、システムの運用上の課題を点検し、改善するために、実施機関が実施した調査(以下「本件調査」という。)に対する各府立学校長及び市町村教育委員会からの回答個票である。

具体的には、所定のスケジュールに応じてシステムが実施できているのかどうか、あるいは、校長が教職員の職務遂行についてどういった点から把握したのか、校長が本システムの実施に伴って学校運営にどのような影響があったと考えるか、また、どのように改善すべきかなど率直な意見が記載されており、これらを踏まえて実施機関がシステムを検証し、運営改善を図るために用いるものである。

さらに、本件行政文書は、府立学校長や市町村教育委員会の実施結果や率直な記述が記載されることを前提としたものである。また、府立学校長や市町村教育委員会が、自校あるいは管内学校の実施状況をふりかえり、システムを実施する中での思いや提言をまとめることによって、今後のシステム運用について活用されることもある。

(2)なお、実施機関においては、システムの実施状況をできる限り明らかにするという趣旨から、毎年度、調査結果の全体集計をとりまとめ、各府立学校長及び市町村教育委員会に対して通知しており、本件行政文書を集計したものについても、「平成17年度実施状況調査(集計)」として平成18年12月26日に通知した。

3 本件決定理由について

本件決定は、本件行政文書に記載された情報(以下「本件情報」という。)が、条例第8条第1項第4号に該当することから非公開としたものであり、その理由は次のとおりである。

(1)本件行政文書の基本的な性格は、これをもって直接校長や教職員の評価をするものではないものの、校長及び市町村教育委員会のシステムの運営状況の実態を踏まえて、システムを適切に運用するために検証・改善するための人事管理情報であり、システムは、1(3)で述べたとおり、勤務評定としての性格を有するのである。

(2)府立学校回答文書について検討する。

ア 本件情報には、「平成17年度目標設定面談について」、「平成17年度の開示面談の実施状況について」、「平成17年度の評価・育成システムの説明等について」、「平成17年度の職務遂行状況の把握等について」、「一次評価者について」など、校長が行う人事管理の手法に係わる情報が含まれている。本来、ここで示されている面接や授業観察の時間の長さ、あるいは何を参考として職務状況を把握するかなどは、個々の校長の裁量に委ねられている。しかも、こういった手法は、各校長が教職員の性格や指向性等の個性を踏まえつつ、教職員間の人間関係等をも考慮して決定するものであって、一般に公にされているものではなく、むしろ、公にされないからこそ、所属教職員の個別指導を行う上で効果を発揮する性格のものである。

これらの情報が公開されると、教職員にとっては、自校の回答例と自分に対する対応とを比較して、校長の自身に対する評価結果に不信を抱いたり、他校の回答と自校の状況を時間や回数等で単純比較することで、校長の評価行為に対する誤った認識を生むおそれがある。また、校長が個々の教職員の育成のために日常的に行う個別指導と結び付けられることによって、校長の指導の真意が誤ってとらえられるなど、今後の校内における人事管理に、著しい支障を及ぼすおそれがある。

イ 「平成17年度の『校長への提言シート』について」は、1(1)で述べたとおり、個別のシートについては、写しが実施機関に提出され、教育長による校長評価の参考として用いられているものであり、校長の評価そのものに関わる情報である。

本件調査は、所属教職員が校長をどう評価しているか等を集約して記載されるものであるが、これは提出されたシートの内容について、校長にあらためて考えてもらうために集計を行うものである。これを公開すると、積極的に校長に提言した教職員の意見のみを集約している結果、校長と教職員全体の関係について誤った理解を生むことになるとともに、教職員に対しては積極的な提言シート提出をためらわせる結果につながるおそれがあるなど、「校長への提言シート」の運用に著しい支障を及ぼすことになる。

ウ システム実施に伴う「学校運営において、プラスの影響」、「マイナスの影響、改善についての提案」、「意見・提言の自由記入欄」については、校長に対して、公開されることを前提にせずに記載させる項目であり、学校運営上のシステムの影響や課題、改善点など、校長の意見が率直に記載されている。これを公開すると、今後、府民や教職員の誤解をおそれ、率直な意見を記載することを躊躇するようになり、調査本来のねらいである正確なデータ収集に基づく状況把握ができないことも予測され、ひいては、調査そのもの信頼性が確保できなくなるおそれがある。

(3)市町村教委回答文書について検討する。

ア 本件行政文書のうち、市町村教育委員会に係るものについては、各市町村教育委員会が、所管する公立学校において、「平成17年度目標設定面談について」、「平成17年度の開示面談の実施状況について」、「平成17年度の評価・育成システムの説明等について」、「平成17年度の職務遂行状況の把握等について」、「平成17年度の『校長への提言シート』について」など、府立学校と同様の調査を行った結果が記載されている。これらの情報が公開されることになれば、他市との比較によって、時間の長短や回数を単純比較して、当該市町村のシステムに対する取り組み姿勢を表すものと誤解されるおそれがあるばかりでなく、小規模な市町村においては、回答内容から個別の学校名の特定につながることも否定できないなど、府立学校に係るものと同様に本件情報に基づくシステム改善や各市町村教育委員会が行う人事管理事務に著しい支障を及ぼすおそれがある。

イ システム実施に伴う「学校運営において、プラスの影響」、「マイナスの影響、改善についての提案」、「意見・提言の自由記入欄」については、校長や市町村教育委員会に対して、公開されることを前提にせずに記載させる項目であり、学校運営上のシステムの影響や課題、改善点など、校長や市町村教育委員会の意見が率直に記載されている。これを公開すると、今後、府民や教職員の誤解をおそれ、率直な意見を記載することを躊躇するようになり、調査本来のねらいである正確なデータ収集に基づく状況把握ができないことも予測され、ひいては、調査そのもの信頼性が確保できなくなるおそれがある。

4 結 論

以上のとおり、本件決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 本件行政文書について

本件行政文書は、平成17年度のシステムの運用状況を把握するため、実施機関が各府立学校や各市町村教育委員会に対して実施した調査の回答文書である。

(1)府立学校回答文書について

府立学校回答文書は、各府立学校長が当該学校におけるシステムの運用状況について回答した調査票であり、その内容は次のとおりである。

ア 回答者に関する事項

回答を行った学校名及び校長名が記入されている。

イ システムの実施状況に関する調査事項

(ア)平成17年度の目標設定面談について

目標設定面談の開始時期、終了時期、面談の方法、一人あたりの平均的な面談時間(個人面談の場合)、1グループあたりの平均的な面談時間(集団面談を実施した場合)について、選択式で回答が記入されている。

(イ)平成17年度の職務遂行状況の把握等について(校長、一次評価者を併せての状況)

a 教諭等(「講師(実習担当)」を含む)の職務遂行状況の把握について

授業観察を行ったか否か、授業観察を行った場合の対象者の割合、1回当たりの観察時間、事後指導の実施状況及び授業観察以外で教諭等の職務状況を把握する上で参考としたことについて、選択式で回答が記入されている(ただし、一部の教諭等の授業を観察した場合の割合は大まかな数値で記入されている。)。

b 教諭等以外の職員の職務遂行状況の把握について

教諭等以外の職員の職務遂行状況を把握する上で参考としたこと及び職務遂行上の必要な指導助言の実施状況について、選択式で回答が記入されている。また、各職種について職務状況を把握する上で特に参考としたことについて、職種ごとの記述式で回答が記入されている。

(ウ)平成17年度の開示面談の実施状況について

平成17年度末時点の実施状況(開示した者の割合)、開始時期、終了時期、一人あたりの平均的な開示面談時間、開示面談時の「評価・育成シート」の交付の有無及び面談時に評価・育成シートを交付しなかった場合の交付時期について、選択式で回答が記入されている。

また、開示面談の終了時期が4月以降の場合及び開示面談時以外に「評価・育成シート」を教職員に交付した場合は、その理由について、記述式で回答が記入されている。

(エ)一次評価者について

教頭が一次評価を行う職種の職員への目標設定面談の実施方法、教頭が一次評価を行う職種の職員への開示面談の実施方法及び校長と一次評価者との役割分担等について、選択式で回答が記入されている。ただし、校長と一次評価者との役割分担について、「その他、何らかの形で校長と一次評価者で役割分担をした」を選択した場合は、その具体的な方法について、「校長と一次評価者とは特に役割分担をしなかった」を選択した場合は、その理由について、記述式で回答が記入されている。

(オ)平成17年度評価・育成システムの説明等について

評価・育成システムの説明等の対象及び時期、校長の学校教育目標の説明の方法及び時期について、選択式で回答が記入されている。

(カ)平成17年度の「校長への提言シート」について

教職員が校長の学校運営に関する意見等を記入して提出する「校長への提言シート」について、平成17年度の提出者数(人数)、最も多かった提出時期(選択式)、意見等の着眼点の状況(「リーダーシップ」、「指導・育成」、「責任感」、「コミュニケーション」の着眼点ごとに、「そう思う」、「どちらとも言えない」、「そう思わない」の意見の枚数)、提言内容の分野別の件数(「授業の充実・改善」、「教育環境・施設設備の改善」、「学校行事・特別活動」、「人事・校内体制」、「校長と教職員との関係」、「その他」の区分によるもの)が記入されている。

ウ システム実施に伴う学校運営への影響に関する調査事項(調査事項7及び8)

「システム実施に伴う学校運営へのプラスの影響」及び「システム実施に伴う学校運営へのマイナスの影響及び改善点の提案」について、記述式で回答が記入されている。

エ システム実施に伴う意見・提言(自由記述)(調査事項9)

「システム実施に伴う意見・提言」について、記述式で回答が記入されている。

(2)市町村教委回答文書について

市町村教委回答文書は、各市町村教育委員会が、所管の市町村立学校に対し(1)と同様の調査を実施し、集計した結果等を回答した調査票であり、その内容は次のとおりである。

ア 回答者に関する事項

回答した市町村教育委員会の名称のほか、担当課名、電話番号、担当者職・氏名及びメールアドレスが記入されている。

イ 設置学校数

学校の種類別(小学校、中学校、盲・聾・養護学校・高等学校)の設置学校数及び合計数が記入されている。

ウ システムの実施状況に関する調査事項

(1)イと同じ調査事項((1)イ(エ)を除く)について、各学校の回答を小学校、中学校等(中学校、盲・聾・養護学校及び高等学校)の別に集計した数が記入されている。ただし、「校長への提言シート」についての調査事項のうち「着眼点の状況」及び「提言内容」につ?ては、小学校及び中学校等を合わせた当該市町村全体の集計数が記入され、記述式により回答する項目については、小学校及び中学校等を区分せず各学校からの回答のうち主なものを列挙する形で記入されている。

エ 評価結果に対する苦情に関する調査事項

平成17年度の評価結果について、当該市町村教育委員会に苦情申出のあった件数及びそのうち再評価を指導した件数並びに苦情内容別の件数(「業績評価に対する苦情」、「能力評価に対する苦情」、「総合評価に対する苦情」、「評価者の事実誤認を訴える申出」、「評価ルールからの逸脱があるとする申出」、「評価理由が示されなかったとする申出」、「評価理由は理解できるが、評価結果に納得がいかないとする申出」、「その他」に分類したもの)が、小学校及び中学校等を合わせた件数で記入されている。

オ システム実施に伴う学校運営への影響に関する調査事項

「システム実施に伴う学校運営に関するプラスの影響」及び「システム実施に伴う学校運営に関するマイナスの影響及び改善点についての提案」について校長が回答した意見が、学校名を明記することなく、まとめて転記する形で記入されている。

カ システム実施に伴う意見・提言(自由記述)

「システム実施に伴う意見・提言」が、「学校」(校長の主な意見を転記したもの。学校名の記入はない。)と「市町村教育委員会担当」に区分して記入されている。

3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

実施機関は、本件行政文書に記録されている情報について、条例第8条第1項第4号に該当すると主張しているので、以下検討する。

(1)条例第8条第1項第4号について

行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

同号は、

ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、

イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

は、公開しないことができる旨を定めている。

(2)本件行政文書の条例第8条第1項第4号該当性について

ア 府立学校回答文書の条例第8条第1項第4号該当性について

府立学校回答文書に記録されている情報は、教職員の評価・育成に関するシステムの府立学校における実施状況について、実施機関が府立学校に対して行った調査の回答であり、「府の機関が行う人事管理等の事務に関する情報」として、(1)アの要件に該当する。

次に、府立学校回答文書に記録された情報が(1)イの要件に該当するか否かについて検討したところ、以下のとおりである。

(ア)回答者に関する事項について

本項の情報は、府立学校名及び校長名であり、これを公にしても、府立学校長が、実施機関の調査に回答したという事実が明らかになるに過ぎないから、(1)イの要件に該当しないことは明らかである。

(イ)システムの実施状況に関する調査事項について

本項の情報は、府立学校における平成17年度のシステムの実施状況に関し、各学校の校長が行った回答である。

本項の情報について、実施機関は、校長が教職員の状況を踏まえ裁量により行う人事管理の手法に係わる情報が含まれており、このような情報を、公にすることにより、当該学校の教職員が自分に対する評価と比較して自己の評価結果に不信を抱いたり、他校の回答と自校の状況を時間や回数等で単純比較することで、自校の校長の評価行為に対する誤った認識を生むおそれがあるなど、人事管理に著しい支障を及ぼすと主張する。

しかしながら、本項の情報は、いずれも、公務として行われているシステムの実施状況に関する客観的な情報である。また、校長の裁量に委ねられている事項についても、府民に対する説明責務はあり、本項の情報が公開されることにより、教職員を含む府民等が他校と比較するなどして校長のやり方の是非を論じることがあっても、そのこと自体は、情報公開制度の趣旨に沿うものである。本調査に関しても、既に全体集計が公開されていて、教職員は、自校と全体との比較ができるようになっているのである。

これらのことを総合して判断すると、本項の情報については、全体としては、公にすることにより、実施機関が行う人事管理等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすとは認められないものであるが、本項の情報のうち、「平成17年度の「校長への提言シート」について」の「着眼点の状況」の回答については、着眼点ごとに3段階の評価をした人数の内訳が記入されており、シートを提出した教職員から見た校長に対する評価が具体的に明らかとなる情報である。その写しが実施機関に提出され、教育長による校長の評価に使用されていることからすると、校長個人の勤務評価に係る具体的な情報ともいうべきであり、このような情報が公になると、今後とも、校長が行う学校運営や教職員の指導に関する業務に支障が生じることも想定され、教職員の評価・育成を通じて学校の教育活動の充実を図ることを目指すシステムの公正かつ適切な執行に著しい支障があると認められる。

以上のことから、本項の情報のうち、「平成17年度の「校長への提言シート」について」の「着眼点の状況」の回答については、(1)イの要件にも該当するが、その余の部分は、(1)イの要件に該当しないと認められる。

(ウ)システム実施に伴う学校運営への影響に関する調査事項及びシステム実施に伴う意見・提言について

本項の情報は、いずれも、システム実施に伴う影響や意見・提言について、校長が自由に記述したものである。審査会において内容を見分したところ、校長の率直な意見が当該学校の具体的な事情を含めて記入されており、中には相当詳細なものも含まれていることが認められた。

本件調査の集計結果については、本項の情報の要約も含め、既に公開されているが、多くの校長は、上記のような記述内容がそのままの形で府民に公開されることまでは想定していないと考えられる。こうした状況において、本項の情報が公になると、今後、同種の調査等において校長が率直な意見の記入を躊躇するなど、実施機関が学校の責任者である校長の率直な意見を聴取し、システムの運用上の課題の点検・改善に結びつけようとする本調査の目的を果たすことが難しくなるなど、システムの運営に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められることから、(1)イの要件にも該当する。

以上のとおりであるから、府立学校回答文書については、「システム実施に伴う学校運営への影響に関する調査事項」及び「システム実施に伴う意見・提言」並びに「平成17年度の「校長への提言シート」について」の「着眼点の状況」の回答の部分に記録されている情報は、条例第8条第1項第4号に該当するが、その余の部分に記録された情報は、同号には該当しないと認められる。

イ 市町村教委回答文書の条例第8条第1項第4号該当性について

市町村教委回答文書に記録されている情報は、教職員の評価・育成システムの市町村立学校における実施状況について、実施機関が市町村教育委員会に対して行った調査の回答であり、「府の機関等が行う人事管理等の事務に関する情報」として、(1)アの要件に該当する。

次に、市町村教委回答文書に記録された情報が(1)イの要件に該当するか否かについて検討したところ、以下のとおりである。

(ア)回答者に関する事項及び設置学校数について

本項の情報は、回答した市町村教育委員会の名称のほか、その担当課名、電話番号、担当者の職・氏名及びメールアドレス並びに当該市町村が設置する学校の種類別の数等である。これらの情報を公にしても、当該市町村教委が調査に回答したこと及び当該市町村教育委員会に関する通常公開されている情報が明らかとなるに過ぎないから、(1)イの要件に該当しないことは明らかである。

(イ)システムの実施状況に関する調査事項について

本項の情報は、市町村立学校における平成17年度のシステムの実施状況に関し、市町村教育委員会が、府立学校回答文書と同じ調査事項について調査した結果に関する回答である。

本項の情報について、実施機関は、他市町村との比較によって時間の長短や回数を単純比較して、当該市町村のシステムに対する取組みの姿勢を表すものと誤解されるおそれや、小規模な市町村においては、回答内容から個別の学校名の特定につながることも否定できないなど、実施機関等が行う人事管理に関する事務に著しい支障を及ぼすおそれがあると主張する。

しかしながら、本項の情報は、いずれも、公務として行われているシステムの実施状況に関する客観的な情報であり、基本的に府民に明らかにされるべきものである。また、市町村教委回答文書における回答は、府立学校回答文書とは異なり、市町村ごとの集計値であり、「平成17年度の「校長への提言シート」について」の「着眼点の状況」についても、当該市町村が設置する全校種の学校の集計値であって、基本的には、特定の学校の校長に係る情報とは言えない。

これらのことを総合して判断すると、本項の情報については、基本的には、これを公にしても、実施機関が行う人事管理等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすとは認められないが、審査会において、その内容を見分したところ、田尻町及び岬町からの回答文書における「平成17年度の「校長への提言シート」の提出状況について」の「着眼点の状況」の回答については、両町の調査対象校が少数であることから、提出率に係る情報を照らし合わせることにより、特定の学校の校長に係る情報であることが明らかになると認められた。このような情報を公にすると、府立学校回答文書における場合と同様に、今後とも、校長が行う学校運営や教職員の指導に関する業務に支障が生じることも想定され、教職員の評価・育成を通じて学校の教育活動の充実を図ることを目指すシステムの公正かつ適切な執行に著しい支障があると認められる。

以上のことから、本項の情報のうち、田尻町及び岬町からの回答文書における「平成17年度の「校長への提言シート」について」の「着眼点の状況」欄に記録されている情報については、(1)イの要件にも該当するが、その余の部分は、(1)イの要件に該当しないと認められる。

(ウ)「評価結果に対する苦情」に関する調査事項について

本項の情報は、当該市町村教育委員会に苦情申出のあった件数並びにそのうち再評価を指導した件数及び苦情内容別の件数の情報である。これらの情報は、いずれも、公務として行われているシステムの実施状況に関する客観的な情報であり、(イ)で述べたところからすると、公にすることにより、実施機関や各市町村教育委員会が行う人事管理に関する事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある情報とはいえず、(1)イの要件には該当しない。

(エ)システム実施に伴う学校運営への影響に関する調査事項及びシステム実施に伴う意見・提言について

本項の情報は、システム実施に伴うプラス・マイナスの影響とマイナスの影響に対する改善策として、校長から回答のあった意見を転記したもの並びにシステム実施に伴う意見・提言として、校長から回答のあった意見を転記したもの及び教育委員会担当の意見である。

本項の情報について、実施機関は、校長や市町村教育委員会に対して、公開されることを前提とせずに記載させる項目であり、学校運営上のシステムの影響や課題、改善点などについて、校長や市町村教育委員会の意見が率直に記録されていることから、公にすると、府民や教職員に誤解を与え、率直な意見の記録を躊躇することにより、調査本来の正確なデータの収集に基づく状況把握ができない旨主張する。

しかしながら、本項の情報は、公の機関である市町村教育委員会が外部の機関である実施機関に対して行った回答であり、基本的に府民に公開すべきものである。校長の意見を転記した部分については、各市町村の調査対象校がいずれも複数であり、かつ、学校名等学校を特定し得る情報が併記されていないことから、府立学校回答文書とは異なり、どの学校の校長の意見であるか容易には特定し得ないものとなっている。また、市町村教育委員会担当の意見部分については、市町村教育委員会として、外部の機関である実施機関に回答するものであることから、担当者個人の意見ではなく、市町村教育委員会においてシステムを担当する部署の組織としての意見が記入されているものと考えられる。さらに、審査会においてその内容を見分したところによっても、府民や教職員が見ることにより、誤解を与えるような情報は記録されていないことが認められた。

以上のことから、本項の情報については、公にすることにより、システムの公正かつ適切な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、(1)イの要件には該当しない。

以上のとおりであるから、市町村教委回答文書については、田尻町及び岬町からの回答文書における「平成17年度の「校長への提言シート」について」の「着眼点の状況」の回答の部分に記録された情報は、条例第8条第1項第4号に該当するが、その余の部分に記録された情報は、同号には該当しないと認められる。

(3)条例第8条第1項第4号に該当しないと判断した情報の条例第9条第1号該当性について

(2)で条例第8条第1項第4号に該当しないと判断した情報のうち、府立学校回答文書のシステムの実施状況に関する調査事項に係る記述式の回答については、システムの実施に関し具体的な事例が記入されており、個人のプライバシーに関する情報が記録されている可能性があることから、条例第9条第1号に該当する情報が含まれているか否かについて、以下検討する。

ア 条例第9条第1号について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

本号は、このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。

同号は、

(ア)個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

(イ)特定の個人が識別され得るもののうち、

(ウ)一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならない旨定めている。

イ 条例第9条第1号該当性について

府立学校回答文書のシステムの実施状況に関する調査事項に係る記述式の回答の内容について、審査会において見分したところ、「平成17年度の職務遂行状況の把握等について」、「平成17年度の開示面談の実施状況について」及び「一次評価者について」の記述式の回答の中に、校長及び一人配置職種の教職員の休暇取得等の理由が具体的に記録されているものがあると認められた。これらの情報は、個人の心身の状況等私生活に関する情報であって、通常公開される府立学校に在職する教職員の氏名等の情報と照らし合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報であることから、ア(ア)及び(イ)に該当することは明らかである。また、このような個人の私生活に関する情報については、公務員といえども、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるから、ア(ウ)の要件にも該当する。

以上のことから、府立学校回答文書のシステムの実施状況に関する調査事項に係る記述式の回答の部分に記録された情報のうち、校長及び一人配置職種の教職員の休暇取得等の具体的な理由は、条例第9条第1号に該当するが、その余の情報については、同号には該当しないと認められる。

(4)学校を特定し得る情報を除いた部分公開に関する異議申立人の主張について

異議申立人は、二次的な主張として、条例第10条の規定に基づき、学校名や校長名など学校を特定し得る情報を除く情報の全部公開を求めていると解される。

しかしながら、公務員の職務の遂行に関する行政文書の公開請求に対しては、個人のプライバシー情報を非公開とする必要がある場合や当該公務員の生命、身体、財産等の保護に支障を及ぼすおそれがある場合など特別の事情のない限り、当該公務員の氏名や所属、職名等を公開すべきであり、本件行政文書について学校を特定して公開請求された場合に請求の趣旨に沿って部分公開を行うためにも、学校名や校長名など学校を特定し得る情報を非公開とすることを前提に部分公開を検討することは適当でない。仮に、学校名や校長名等学校を特定し得る情報を除くとしても、システムの実施状況に関する調査事項に係る回答の内容を公開すると、当該学校の教職員等一定の関係者から見れば、当該学校を容易に特定し得ることとなるため、(2)において非公開が妥当と判断した「平成17年度の「校長への提言シート」について」の「着眼点の状況」に係る回答の部分等は、公開することができず、請求の趣旨を満たすことはできないから、この点についての異議申立人の主張は採用することができない。

以上により、本件行政文書については、府立学校回答文書のうち「システム実施に伴う学校運営への影響に関する調査事項」、「システム実施に伴う意見・提言(自由記述)」及び平成17年度のシステムの実施状況に関する調査事項のうち「平成17年度の「校長への提言シート」について」の「着眼点の状況」、並びに、市町村教委回答文書のうち、田尻町及び岬町からの回答文書の「平成17年度の「校長への提言シート」について」の「着眼点の状況」の回答の部分に記録されている情報については、条例第8条第1項第4号に該当し、公開しないことができ、府立学校回答文書のうち「平成17年度の職務遂行状況の把握等について」、「平成17年度の開示面談の実施状況について」及び「一次評価者について」の記述式の回答中に記録されている、校長及び一人配置職種の教職員の休暇取得等の具体的な理由については、条例第9条第1号に該当し、公開してはならないが、その余の部分に記録されている情報は、いずれにも該当しないから、実施機関は、別表の「公開すべき部分」記載した部分を非公開とした決定を取り消し、公開すべきである。

4 結 論

以上のとおりであるから、本件異議申立ては、本件決定において非公開とされた部分のうち別表「公開すべき部分」の公開を求める部分については理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

(主に調査審議を行った委員の氏名)

 岡村周一、曽和俊文、小松茂久、鈴木秀美


別表        

 表中「公開すべき部分」にある「b」とは、「まる2」のことである。

行政文書の名称

公開すべき部分

平成17年度「評価・育成システム」の実施状況に関する調査の個別の回答(様式1:府立学校用)

以下の項目を除く部分

・清友高校分の3(4)「上記(3)においてウ、エの場合、その理由」のうち、1文字目から19文字目まで

・清友高校分の4(3)エ「その理由」のうち、10文字目から20文字目まで

・今宮工業高校全日制の2(2)b「各職種について職務状況を把握する上で特に参考としたこと<養護教諭>」のうち、1文字目から8文字目まで

・泉北高校の2(2)b「各職種について職務状況を把握する上で特に参考としたこと<養護教諭>」のうち、7文字目から15文字目まで

・6「(3)着眼点の状況」の回答欄に記録された情報

・7、8、9の回答欄に記録された情報

平成17年度「評価・育成システム」の実施状況に関する調査の個別の回答(様式2:市町村教育委員会用)

以下の項目を除く部分

・田尻町教育委員会分及び岬町教育委員会分のうち、6「(3)着眼点の状況」の回答欄に記録された情報

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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