大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第147号)

更新日:2009年8月5日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第147号)

[警察庁宛報告文書公開拒否決定審査請求事案2]

(答申日 平成19年9月26日)

第一 審査会の結論

諮問実施機関(大阪府公安委員会)の決定は妥当である。

第二 審査請求の経過

1 平成19年1月30日、審査請求人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府警察本部長(以下「実施機関」という。)に対し、「平成16年11月8日から、同年12月1日の間で、大阪地検が○○警察及び同署員等の捜査(取り調べ、捜索等全般を行った際に、その旨を警察庁に報告した際に作成された行政文書一切」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

  同年2月7日、実施機関は、本件請求に対し、条例第13条第2項の規定により、本件請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく本件請求を拒否する旨の公開請求拒否決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり理由を付して審査請求人に通知した。

(公開請求を拒否する理由)

本件請求は、大阪地検が、○○警察及び同署員等の捜査を行った際に、その旨を警察庁に報告した際の行政文書の全てを求めるものである。

    本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えることは、捜査機関が行う捜査の動向を明らかにするものであり、被疑者等の事件関係者が逃亡や証拠隠滅等を図るおそれがあるなど、犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある。

    したがって、本件公開請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、大阪府情報公開条例第8条第2項第2号に該当する情報を公開することとなるため、同条例第12条の規定により、当該行政文書の存否を明らかにしないで、本件公開請求を拒否する。

3 同年3月13日、審査請求人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第5条の規定により、大阪府公安委員会(以下「諮問実施機関」という。)に対し、審査請求を行った。

第三 審査請求の趣旨

本件決定を取り消し、公開することを求める。

第四 審査請求の主張要旨

審査請求人の主張は、概ね次のとおりである。

1 審査請求書における主張

(1)○○警察署の署員等は、犯罪の被疑事実で、刑事告訴され、大阪地検特別捜査部から、捜査を受けている事実を警察庁に報告したのか、どうかの行政文書開示請求を本件で拒否しているが、その拒否理由は、以下の理由で、本件開示請求には、何ら、該当しない。

(2)本件拒否理由で、行政文書を開示すると、「捜査機関が行う捜査の動向を明らかにするものであり、被疑者等の事件関係者が、逃亡や証拠隠滅等を図るおそれがある」とあるが、少なくとも、今回の場合の被疑者等とは、警察関係者等であり、一般の府民や国民が、被疑者ではない。よって、本件拒否理由には、全く、該当しない。むしろ、逆に、行政文書を開示しない方が、証拠隠滅等を図られるおそれが、十分にある。

(3)本件拒否理由で、「犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」との理由であるが、警察の犯罪予防については、「警察庁」にも、対策を講じさせる必要があり、少なくとも、○○警察の署員等が、刑事告訴された事実について、大阪府警察本部が報告を行ったのか、どうかが、分からないでは、済まされる問題ではない。それに、「警察庁」側では、その様な報告を受けていなかった疑いの方が、現段階では、非常に強い。それは、警察庁に対しての聞き取り調査等で判明している。もし、大阪府警察本部が、○○警察の署員等が、刑事告訴された事実を「警察庁」に報告していなければ、これは、重大な隠蔽行為である。

(4)○○警察の署員等が刑事告訴された事件に絡んで、大阪府知事や大阪府の顧問弁護士等迄もが、刑事告訴されている。これは、「大阪府」としての組織的犯罪行為である。「大阪府」としての組織の一部である、「警察」の犯罪行為で刑事告訴された事案に伴って作成された行政文書を開示しない行為は、府民や国民の背信行為であり、とても、民主主義国家の行政行為とは、言えるものではない。

(5)よって、当然、本件行政文書は、開示されて当然である。

2 反論書における主張

審査請求人は、諮問実施機関の主張に対し、下記記載の反論がある。

尚、諮問実施機関の主張のうち「意見の趣旨」については、審査請求人は、既に、審査請求を行っている為、形式的な趣旨である為、反論は、行わない。又、「捜査機関について」の部分は、捜査機関の説明を行っただけのものであるから、この部分についても、反論は、特に行わない。

(1)諮問実施機関が主張する「本件決定の妥当性について」部分の反論

ア まず、「情報公開制度」における府民全体の基本的な利益を十分に保護する必要がある事については、審査請求人らも何ら、異論はない。

しかし、犯罪捜査に於いては、まず、一般的な国民や府民が被疑者になった場合と、今回の様に、「警察」と言う公的な組織の一員が、被疑者になった場合と、大別しなければならない。

なぜならば、一般の府民や国民(以下、一般人と言う)と公務員とでは、身分が違うからである。例えば、一般人が、他人を逮捕・監禁すると「罪」になる。

しかし、公務員には、その権限が与えられている者が行えば、「罪」にはならないからである。

それに、「行政文書」とは、行政庁で働く公務員が行った仕事の「証」とも言える。      つまり、行政文書の開示とは、府民や国民の税金で運営されている行政庁で働く公務員の仕事内容を確認できる方法でもある。

今回、審査請求人が行った行政文書開示請求は、一般人の刑事事件では無く、公務員による「権力」を行使した犯罪行為である。

諮問実施機関は、公開・非公開については、高度な政策的な判断が伴う場合があると主張しているが、今回が、それに該当するのか、どうか不明であり、仮に該当していたとすれば、高度な政策的判断と言うのは、公務員等個人の保身が、高度な政策的判断と言わざるを得ない。

又、犯罪等に関する将来予測として、専門的、技術的な判断を要することなど、特殊性を認めていれば、尚更、警察庁に対して、報告するのは当然の事であり、少なくとも、現時点で、警察庁側では、審査請求人が行った行政文書開示請求の内容については、報告された形跡が、全く無く、これでは、諮問実施機関が主張する犯罪の捜査等に関する情報について、他の都道府県との情報を共有すると言う主張も詭弁に過ぎない。

又、行政庁の第1次判断を尊重しなければならないと言う趣旨は、行政庁の横暴を許すと言う弊害もある。

今回の非開示決定は、諮問実施機関又は、実施機関の権限に基づき、「相当の理由がある情報」の場合は、公開しないことができる規定を悪用したに過ぎない。

諮問実施機関は、「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると諮問実施機関又は実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」を理由に非開示決定は、妥当だと主張を行っている。

しかし、まず、犯罪の予防を考えれば、当然、今回の情報開示請求内容について、警察庁に報告したのか、どうか、一般人に公開する必要がある。

「鎮圧又は捜査・公訴の維持・刑の執行」についても、今回、情報開示請求内容では、警察・検察での捜査等は、終了している為、何ら、該当しない。

又、今回の事案の根本は、「逮捕」に関する事であり、これは、民主主義国家の根本に関わる事である。秩序の維持とは、民主主義国家と言う秩序の維持の事であり、その上での公共の安全である。

公共の安全と秩序の維持を考えれば、行政文書を開示して当然である。

イ 公開請求の拒否については、その事例毎に判断する必要はある。

しかし、これも、悪用される場合がある。

現在、大阪府では、「裏金」に関する事が問題になっている。

公務員等が、「裏金」を自由に使用する為に、権利利益の侵害を主張し又、これを理由に、事務執行の支障があると主張すれば、その主張が、通る事になる。過去、事務執行を行って、「裏金」を作り、これを公務員等の私的流用や、行政庁ぐるみで使用していた事が発覚している。

今回の行政文書開示請求において、具体的な権利利益の侵害や事務執行の支障等が、全く不明であり、拒否理由とすれば、前記記載した公務員等の都合で、拒否決定を行ったと見做さざるを得ない。

ウ 諮問実施機関の主張は、何か、勘違いをしている。

行政文書と言っても、今回、開示請求を行っているのは、「刑事記録」ではない。今

回、開示請求を行っているのは、刑事記録ではない、行政文書の開示請求である。

今回の請求では、「犯罪を捜査する」場合の行政文書の事であると諮問実施機関は、主張しているが、「犯罪を捜査する」行政文書については、捜査が終了した時点で、これらの行政文書は、刑事記録として、大阪地検が全て、保管している筈である。

よって、大阪府警察本部が、これらの行政文書を所持している事は、あり得ない。

今回の行政文書の開示請求は、捜査が終了した結果を警察庁に報告したのか、どうかの行政文書開示請求である。よって、今回の場合は、捜査は終了しているのだから、当然、被疑者等に対しても、捜査の結果報告がなされている為、証拠隠滅や逃走の恐れ等、全くない。

又、探索的な捜査情報の情報公開請求がなされた場合について、まず、その事案が、捜査中なのか、捜査が終了しているのか、行政庁で判断する事が可能である。よって、存否応答拒否については、その時に、行政庁側で、状況判断する事が可能である。

又、被疑者の特定に関しては、捜査が終了した段階で判明する事から、今回の事案には、一般人が含まれていなかった事は、関係者であれば、判別する事が容易である為、この主張についても、今回の請求には、該当しない。

諮問実施機関は、今回の請求と、他の捜査対象と区別する理由等は無いと言う主張であるが、行政庁内の犯罪行為については、一般人が知らない情報を行政庁側で、所持している以上、一般人の犯罪捜査と、区別する必要がある。

そんな事を行っているから、大阪府の「裏金問題」でも分かる様に、長年に渡って、公務員等の不正が、延々として行われ続けたものである。

(2)審査請求の反論に対する諮問実施機関の主張について

行政文書の開示請求についてであるが、行政文書の開示請求を行うに当たっては、一般人は、それぞれ、所持している情報が違う。よって、請求する一般人が、全く、同一の開示請求を行うと言う事は、まず、有り得ない。(尚、一般人同志が、話し合って、同一の開示請求を提出する場合は、別である。)

例えば、今回の事例の様に、審査請求人が所持している情報と言うものが、他の一般人が、所持している情報かと言うと、所持している可能性は、低いものと考えられる。よって、審査請求人と全く同一の開示請求を行うと言う事は、考えられず、又、審査請求人も、他の一般人が行う開示請求と同一の請求を行うと言う事は、殆ど、考えられない。つまり、行政文書開示請求とは、その請求者、一人、一人の請求内容が違う事になる為、偶然を除いては、違う行政文書開示請求になる筈である。

行政文書の開示請求を行う場合、どの様な行政文書が存在しているのか一般人は、殆ど、分からない為、自らの情報に基づいて、請求をせざるを得ない。

今回の場合が、そうであり、審査請求人が所持している情報に基づいて請求したに過ぎない。

又、具体的に踏みこんだ請求だと、諮問実施機関は、主張しているが、審査請求人は、何ら、被疑者の名前を挙げて請求した訳でもなく、ただ単に、行政庁が捜査された結果を上級庁に報告したのか、どうかの行政文書開示請求を行ったに過ぎない。

行政庁が捜査されたと言う事実を一般人が、知らない事は、不幸であるにも関わらず、その後、その事案についての処理も一般人に教えないと言う行為は、大阪府の「裏金問題」を悪化させたのと同じである 

(3)実施機関の結論について

本件決定は、条例を公務員等の都合の良い解釈に基づいて行われたものである。

(4)諮問実施機関のまとめについて

実施機関(氏名は不詳)は、これから、個人情報に関する事件で、刑事告訴される被疑者である。

その様な被疑者の決定は、条例第8条第2項第2号や条例第12条を悪用したに過ぎず、又、諮問実施機関は、現在、刑事告訴されている大阪府知事が、任命した連中であり、その様な連中の条例解釈は、全く信用が、出来ない。

よって、本件決定は、不当決定であり、今回の請求は、認められなければならない。

第五 諮問実施機関の主張要旨

諮問実施機関の主張は、概ね次のとおりである。

1 実施機関の意見等

(1)意見の趣旨

「実施機関の決定は妥当である。」との裁決を求める。

(2)実施機関の意見

ア 捜査機関について

(ア)捜査機関は一般的に、犯罪の捜査や被疑者の逮捕をその本分としており、具体的には、司法警察職員と検察官とに大別することができる。

司法警察職員とは、官名でも職名でもなく、捜査権限を行使することができる刑事訴訟法上の資格の名称であり、一般司法警察職員と特別司法警察職員とがある。一般司法警察職員とは、実施機関の職員のうち警察官を指し、特別司法警察職員とは、特別の事項について、法律で定めのある場合に司法警察職員としての職務を行う者であり、具体的には、麻薬及び向精神薬取締法での麻薬取締官や海上保安庁法での海上保安官などがこれに当たる。

一方、検察官は、検察事務を行う権限を有する国家組織であり、刑事訴訟法第191条第1項により、必要と認めるときはみずから犯罪を捜査することができるとされており、検察庁法第6条第1項で、いかなる犯罪についても捜査をすることができるとし、刑事訴訟上の捜査機関としての権限を具体的に明らかにされている。

(イ)司法警察職員は、刑事訴訟法第189条第2項で、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとすることとされており、実施機関においては、これらを根拠に、犯罪の予防や被疑者の逮捕、交通の取締りその他公共の安全と秩序の維持に従事しているところである。

イ 本件決定の妥当性について

(ア)条例第8条第2項第2号について

公共の安全と秩序を維持することは、府民全体の基本的な利益を擁護するため府に課された重要な責務であり、情報公開制度においても、これらの利益は十分に保護する必要がある。特に、警察が保有している情報のうち、公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧、捜査等の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれのあるものについては、公開・非公開の判断において、高度の政策的な判断を伴う場合があり、また、その性質上、犯罪等に関する将来予測としての専門的、技術的な判断を要することなどの特殊性が認められる。さらに、その性質上、犯罪の捜査等に関する情報については、他の都道府県警察と共有するものが多く、その取扱いに全国的な斉一性が求められることとなる。こうした事情から、「公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」情報に関して、これに該当するかどうかについての実施機関の第一次的な判断を尊重することとしたのが本号の趣旨であり、本号は、「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると公安委員会又は警察本部長が認めることにつき相当の理由がある情報」は公開しないことができる旨規定している。

(イ)条例第12条について

本条は、「公開請求に対し、当該公開請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで第10条第2項各号(第8条第2項各号又は第9条各号の規定により公開しない情報)に掲げる情報を公開することとなるときは、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該公開請求を拒否することができる。」旨規定している。

本条による公開請求の拒否は、公開請求に係る行政文書が存在するか否かも明らかにしないというものであり、安易な運用は行政文書公開制度の趣旨を損なうことになりかねないが、公開請求に係る行政文書の存否が明らかになることによる権利利益の侵害や事務執行の支障等が具体的かつ客観的に認められる場合には、本条によって公開請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく公開請求を拒否することができるものである。

(ウ)本件請求に係る行政文書の存否を答えることにより明らかとなる情報と条例第8   条第2項第2号該当性について

捜査機関の行う捜査は、その代表的な例として、一般司法警察職員が行う凶悪犯罪の捜査、少年犯罪の捜査や交通ひき逃げ事件などの交通捜査を始め、特別司法警察職員が行う大麻取締法や覚せい剤取締法などの捜査や海上における海上保安官が行う捜査の他、検察官自らが行う捜査と、その範囲は多岐に及んでいる。

これらのうち、検察官の行う捜査は、「必要と認めるときはみずから犯罪を捜査することができる(刑事訴訟法第191条第1項)」とされているが、これは、司法警察職員の行う「犯罪があると思料するときは犯人及び証拠を捜査する(刑事訴訟法第189条第2項)」と同義であると解されている。

本件請求に係る捜査が、捜査機関において「犯罪を捜査する」場合に該当するといえる。

本件請求は、検察官が何らかの犯罪についての捜査を行った際に実施機関において作成された行政文書の公開を求めるものであり、本件請求に対して、該当する行政文書の存在の有無を答えることは、何らかの犯罪について、特定の捜査機関が行う捜査の動向を明らかにするものである。

一般的に捜査機関の行う捜査とは、被疑者の逮捕や証拠の収集のために行われるものであり、場合によっては、被疑者の逃走及び証拠隠滅の防止を図るため、秘匿捜査として行われるものもある。

従って、捜査の情報はもとより、秘匿捜査であることの可能性を完全に否定できない状況で、捜査があったか否かの情報を明らかにすることは、犯罪を犯した者や犯罪を犯そうとする者に対し、逃走や証拠隠滅の機会を与えることとなり、現在又は将来にわたっての犯罪捜査に支障を来たすことが認められる。また、数年前の捜査であっても、いまだ被疑者の逮捕や証拠品の確保に至っていない場合など、捜査が継続して行われていることもあるため、現在又は将来にわたっての犯罪捜査と同様に支障を来たすことが認められる。

今後、「○○年○月○日の○○市役所(若しくは○○株式会社)に対する捜査情報」といった探索的な情報公開請求が行われた際、請求に係る行政文書を特定し、更に当該捜査を主管する所属が、公開又は非公開等何らかの決定を行うこととなれば、捜査機関の中でも、どの所属が、どのような捜査を行っているか否かという情報や、その捜査の進捗状況が明らかとなることで、被疑者の逃走及び証拠隠滅が容易に可能となるおそれが認められる。

なお、本件請求では、「○○警察及び○○警察の署員等が捜査等を受けた際に、」とあるが、実施機関の職員であっても、他の個人と同様に捜査対象となり得るし、当該捜査が、一次的に実施機関の職員に対して行われたものであったとしても、これらを端緒に実施機関以外の個人を被疑者として、捜査が行われる場合もあり得る。

よって、実際の捜査対象が、実施機関の職員か、それとも他の個人に向けられたものなのかは、実際に捜査を行う捜査機関でしか知りえない捜査上の情報であり、被疑者の逃走や証拠隠滅の防止の観点から、他の捜査対象と何ら区別すべき理由はない。

以上で述べたとおり、本件請求に係る行政文書は、その存否を答えるだけで、条例第8条第2項第2号に該当する犯罪の予防、捜査、鎮圧等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報を公開することとなるものである。

(3)審査請求人の主張に対する反論について

審査請求人の主張は、本件請求に係る行政文書の具体的な内容にまで踏み込んだものであり、該当する行政文書の存否さえ明らかにできないとする本件決定においては、該当する行政文書について意見を述べる立場にない。

(4)実施機関の結論

以上のとおり、本件決定は条例の趣旨を踏まえて行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

 諮問実施機関のまとめ

本件請求に係る行政文書は、条例第8条第2項第2号に該当する情報であり、条例第12条の規定に基づいて行った本件決定に違法、不当はないものと考える。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けるとともに、第12条において、公開請求に係る文書の存否を答えるだけで、これら適用除外事項に該当する情報を明らかにすることになる場合には、当該公開請求を拒否することができる旨を定めているのであり、実施機関は、請求された情報がこれらの規定に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

実施機関は、本件請求に係る行政文書があるかどうかを答えるだけで条例第8条第2項第2号に該当する情報を公開することになり、条例第12条に該当すると主張しているので、検討したところ、次のとおりである。

(1)条例第8条第2項第2号について

公共の安全と秩序を維持することは、府民全体の基本的な利益を擁護するため府に課された重要な責務であり、情報公開制度においても、これらの利益は十分に保護する必要がある。

特に、警察が保有している情報のうち、公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧、捜査等の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれのあるものについては、公開・非公開の判断において、高度の政策的な判断を伴う場合があり、また、その性質上、犯罪等に関する将来予測としての専門的、技術的な判断を要することなどの特殊性が認められる。さらに、犯罪の捜査等に関する情報については、他の都道府県警察と共有するものが多く、その取扱に全国的な斉一性が求められることとなる。

こうした事情から、公安委員会と警察本部長が保有する「公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」情報に限定して、司法審査の場においては、裁判所が、本号に規定する情報に該当するかどうかについての実施機関の第一次的な判断を尊重し、その判断が合理性をもつ判断として許容される限度内のものであるかどうかについて審理・判断することとしたものが本号の趣旨である。

本号は、公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると公安委員会又は警察本部長が認めることにつき相当の理由がある情報が記録されている行政文書を公開しないことができる旨規定している。

(2)条例第12条について

本条は、公開請求に係る行政文書の存否を明らかにするだけで第8条及び第9条に規定する適用除外事項によって保護される利益が害されることとなる場合には、例外的に公開請求に係る行政文書の存否自体を明らかにしないで公開請求を拒否することができる旨を定めたものである。

本条による公開請求の拒否は、公開請求に係る行政文書が存在するか否かも明らかにしないというものであり、安易な運用は行政文書公開制度の趣旨を損なうことになりかねないが、公開請求に係る行政文書の存否が明らかになることによる権利利益の侵害や事務執行の支障等が具体的かつ客観的に認められる場合には、本条によって公開請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく公開請求を拒否することができるものである。

(3)本件請求に係る行政文書の存否を答えることにより明らかとなる情報とその条例第8条第2項第2号該当性について

本件請求に係る行政文書は、「平成16年11月8日から、同年12月1日の間で、大阪地検が○○警察及び同署員等の捜査(取り調べ、捜索等全般)を行った際に、その旨を警察庁に報告した際に作成された行政文書一切」であり、本件請求に係る行政文書が存在するとして公開あるいは非公開の決定を行うだけで、捜査機関である大阪地方検察庁が○○警察署又はその署員等に関して何らかの犯罪があったとの疑いを持ったこと、及び指定の期間内に○○警察署の捜索、その署員等の取り調べ等の捜査活動を行ったことが明らかとなる。

このような犯罪捜査における被疑者あるいは捜査活動に関する具体的な情報が明らかになると、当該捜査活動に関する情報が既に捜査機関等により公にされているなど特別な事情がない限り、被疑者の逃走や証拠隠滅を容易にするおそれがあり、大阪地方検察庁が行う犯罪捜査に支障を来たすおそれがある。

したがって、本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、条例第8条第2項第2号に規定する犯罪の予防、鎮圧、又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼす情報を公開することになると認められ、条例第12条の規定に基づき本件請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく本件請求を拒否したことは妥当である。

3 審査請求人の主張について

審査請求人は、「被疑者は、警察関係者であり、一般の府民や国民でないことから、逃亡、証拠隠滅を図るおそれがあるとの理由は該当しない」「一般人が知らない情報を行政側で所持している以上、一般人の捜査と区別する必要がある」旨主張している。

しかしながら、犯罪の捜査においては、実際の捜査対象が警察関係者であっても、一般人であっても捜査の具体的な動向に関する情報は、実際に捜査を行う捜査機関でしか知り得ない情報であり、そのような情報を公開することにより、証拠隠滅や逃走を容易にするおそれがあることには何ら変わりがないから、警察関係者とそれ以外の者を区別する理由はない。

以上のことから、上記の審査請求人の主張は、採用することはできない。

4 結論

以上のとおりであるから、本件審査請求には理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

(主に調査審議を行った委員の氏名)

岡村周一、福井逸治、松田聰子、岩本洋子

 

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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