大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第137号)

更新日:2009年8月5日

[宅地建物取引業務に係る事情聴取記録等部分公開決定異議申立事案]

(答申日  平成19年5月23日)

 

第一 審査会の結論

  実施機関の決定は妥当である。

 

第二 異議申立ての経過

1 平成18年12月8日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「平成18年2月13日付宅地建物取引業務の適正な運営の確保について(口頭勧告)」及び「上記口頭勧告に係る事情聴取記録」についての行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 同年12月19日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、「宅地建物取引業務の適正な運営の確保について(口頭勧告)(平成18年2月13日付)」及び「上記口頭勧告に係る本件法人の事情聴取記録」を特定の上、(1)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下、「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(2)のとおり付して異議申立人に通知した。

(1)公開しないことと決定した部分

・個人の氏名(ただし、公務員の氏名及び法人の代表者、役員の氏名を除く。)

・取引の対象物件の所在地 

・関係者からの事情聴取内容

(2)公開しない理由

ア 大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。

本件行政文書(非公開部分)には、個人の氏名、取引の対象物件の所在地等の情報が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。

イ 大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する。

本件行政文書(非公開部分)には、苦情相談に係る事情聴取記録内容が記載されており、これらは、大阪府が宅地建物取引業法に基づき、宅地建物取引業者に対して反復継続的に行う指導、調査等の事務に関する情報であって、公にすることにより、関係者の理解及び協力が得られなくなるなど、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

3 異議申立人は、平成19年1月26日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

 

第三 異議申立ての趣旨

  本件決定中、公開しないことと決した部分を取り消しする旨の決定を求める。

 

第四 異議申立人の主張要旨

  異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。

 1 異議申立書における主張

 (1)異議申立人は、先に、平成18年2月13日付「宅地建物取引業務の適正な運営の確保」について、その相手方である会社に対し、処分がなされたことの告知を受けている。その審理内容が知りたいので、本件請求をしたものである。したがって、第三者間の紛争内容のように秘匿しなければならない事情はなく、もしありとしても、極めて限られたものである。いわば、宅建業法違反の事実を異議申立人において申し出たのに対し、相手方はそれを争うなり、認めるなりの陳述を、その事実に関する陳述をしたものであり、これらは、当該処分に関する内容ともなり、異議申立人に知らされるべき内容となって来るものと考えられる。

以上のとおり、原則として非公開とする必要、すなわち、秘匿するべき事情はないものと考える。例えば、裁判所で争われる訴訟にしても原告の陳述に対し、被告の反論、事情の陳述等は公開の法廷で行われており、当事者間においてはすべて知り得る事情となっている。

 (2)本件決定により公開された陳述録取書によれば、録取部分が、すべて塗抹されているが、これでは、全部非公開と同じであり、何も知ることができない。録取書は原告である異議申立人の主張に対する反論もしくは、是認にあたる陳述部分であるから、紛争当事者間に限っては、秘匿するところはないと考える。

(3)本件の非公開の理由について、本件決定の通知文書には「個人の氏名、取引の対象物件の所在地等の情報が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別されるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。」との理由が付されているが、前記したとおり、当事者の間における受け答えであるから、秘匿するようなものではない。その文書は出版物のように不特定多数人の目にふれさせるようなものではなく、仮に異議申立人がこれを第三者に公開したとすれば、それは異議申立人の責任においてすることであって、処分庁に迷惑をかけるようなことはないと考える。

 2 反論書における主張

(1)異議申立てによる判断として条例に非公開とされる条項の趣旨と、本件を非公開とすることの可否が判断されるべきであると考える。

(2)先ず、実施機関も認めているとおり、条例は、公開を原則とするもので、公益に反するとか、濫用とかのやむを得ない部分のみを非公開とする趣旨であると解する。従って、非公開の条項についても、それを文字どおり解釈するのではなく、具体的事例に則して非公開とするか否かを決するべきである。そうでなければ、本件のように宅建業法違反に基づく監督を求める申立やその審理、結論については、非公開同然となってしまい、本件非公開部分をみても、ほとんど全部塗抹されており、内容は全くわからないから、非公開といった方が適当と思われる。しかし、このような文書こそ、全面的に公開することによって、監督責任の公正が保たれ、かえって実施機関の監督が適正に行われていることを示すことになって、公開の効果があらわれるのではないかと考えられる。従って、また、実施機関が懸念される宅建業法に関する監督等の事務について、条例第8条第1号に関する実施機関の事務に支障をきたすことはなく、むしろ、公正を確保できるし、業者からの協力が得られないなど、心配する必要はないと考える。このような宅建業法の監督事項に関しては、実施機関は厳正な態度で臨まれているし、また、臨まれるべきであると考えているから、公開することによって、違反を未然に防止することができると考えられる。よって、非公開とするべきものではない。

(3)次に、本件のような事案を公開することについては、行政文書の公開は何人に対しても同様に公開する制度であるから、異議申立者ひとりに限るものではないと主張されているが、それは、誰がどのような違反をしたかという内容の文書のうち、「誰が」に当たる部分に、個人の秘密があるといえるのであり、どのような違反をしたか、又はしていないかの部分は、人物(住所、氏名、年齢)が伏せられておれば、違反した個人には何の影響もないことであり、前記のとおり、審理の経過も結果も明らかなので、闇に消えることがなくなるから、もし、非公開の方針であれば、公開されることを是非、考え直されたい。

   特に本件に関しては、当初から、相手を名指しで違反内容も示して申出ているわけであるから、どういう審理をして、どのような結果が導かれたのかを異議申立人は、是非知りたいといって、本件請求をしているわけであるから、その内容がわからなければ、実施機関において、どのように取り扱ってもらい、それ故に、どのような結果が出たのかを知ることができない。その点からも勘案することを望む。

(4)実施機関の具体的主張によると、非公開理由として、条例第9条第1号には、「『特定の個人が識別されるもの』で、『一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるもの』については公開しない。」と規定されており、その一般に他人に知られたくないとして望むことが正当と認められる者というのは、事例として、「宅地建物取引に関する相談事例においては、相談者が相談者自身の利益の回復(売買契約の解除等)などの民事上の解決を求めている事例が多く、実施機関としては、当事者間で民事上の解決が図られるよう配慮しつつ、宅建業者等に対する指導、助言及び勧告又は監督処分を行っているところであり、」(中略)「本件決定において、実施機関は、本件宅建業者から事情聴取した内容が記載された部分を非公開とした。」というものである。

   この主張に対して異議申立人は、先ず、本件は相談を申立てたのではなく、監督機関として監督を行ったその処分結果とその処分に至る経過が知りたいとして本件請求をしたものであること、実施機関の主張されるように、知られたくない事項というのは、前記のとおり対象者の住所、氏名、年齢を秘匿すれば、行為のみでは主体がないから判明することはない。

(5)殊に、条例第8条第1項第4号に該当するとの実施機関の主張によると、「府の機関が行う監督等の事務に関する聴取であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」を非公開とする旨の規定があり、これに該当するとされている。

   しかし、役所がこのような問題を如何に処理されるのかに府民は関心をもち、特に当該業者にとっては大きな指針となる。それを公開しないということであれば、実施機関の方で公開したくないと思えば公開しないという恣意的なものとなり、公開の原則は逆に非公開の原則になってしまう。これらを非公開とすることは、紛争事件に関するものはすべて非公開となると思われる。公開して府民の指針とするべきものとして扱われることを切望するとともに、実施機関の解釈には誤りがあると信じる。よって是正を求める。

 

第五 実施機関の主張要旨

  実施機関の主張は概ね次のとおりである。

1 不動産取引に対する業務内容について

(1)宅地建物取引業法について

    宅建業法は、宅地建物取引業を直接的に規制する法律であり、昭和27年に制定された後、43回の改正を経て今日に至っている。この法律は、「宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もって購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ること」(第1条)を目的としているものである。

    宅建業法は、上記目的を実現するため、誇大広告の禁止、広告開始時期の制限、取引態様の明示義務、重要事項の説明義務など宅地建物取引における各種の規制を定めるとともに、宅建業者及び宅地建物取引主任者(以下「宅建業者等」という。)がこれらの規制に違反した場合に都道府県知事等が行うべき監督処分として、宅建業者に対する「指示及び業務の停止(第65条)」、「免許の取消し(第66条)」等並びに宅地建物取引主任者に対する「指示及び事務の禁止(第68条)」、「登録の消除(第68条の2)」等を定めている。

    また、宅建業法は、都道府県知事が「宅地建物取引業者に対して、宅地建物取引業の適正な運営を確保し、又は宅地建物取引業の健全な発達を図るため必要な指導、助言及び勧告をすることができる(第71条)」旨を定めている。

 (2)不動産取引相談に関する業務について

    実施機関は、不動産取引相談コーナーを設け、随時、宅地建物取引に関する意識啓発や紛争相談業務を行うとともに、宅建業法による規制が宅建業者等によって遵守されるよう、適宜、宅建業者等に対する指導、助言及び勧告並びに監督処分を行っている。具体的には、宅地建物取引に関する相談事例において、宅建業者等に宅建業法に違反する行為があったと疑われる場合、実施機関は、取引の概要、紛争の要因、宅建業法に違反する事実の有無等の把握に努めるとともに、当該取引に関与した宅建業者等から任意による事情聴取を行い、さらに必要に応じて宅建業法第72条に基づき報告を求めている。その結果、宅建業者等に宅建業法に違反する行為があったと確認した場合、実施機関は、当該違反行為の内容等を考慮し、宅建業者等に対する指導、助言及び勧告又は監督処分を行っている。

    なお、宅地建物取引に関する相談事例においては、相談者が、相談者自身の利益の回復(売買契約の解除等)などの民事上の解決を求めている事例が多く、実施機関としては、当事者間で民事上の解決が図られるよう配慮しつつ、宅建業者等に対する指導、助言及び勧告又は監督処分を行っているところである。

2 本件行政文書について

本件行政文書は、紛争相談の対象となった取引に関与した宅建業者(以下「本件宅建業者」という。)に対し、宅建業法第71条の規定による勧告を行うために実施機関の職員が作成した、以下の各文書である。

(1)口頭勧告書

    当該行政文書は、本件宅建業者が行った宅建業法に違反する事実に対し、実施機関が本件宅建業者に対して口頭で行った行政指導の内容、理由等を記載した文書である。なお、当該文書は、本件宅建業者から求めがあった場合には、大阪府行政手続条例第33条第2項の規定により交付する必要があるため作成したものであるが、本件宅建業者から求めがなかったため交付はしていない。

    本件決定において、実施機関は、専属専任媒介契約の当事者の氏名、取引の対象となった物件の所在地を非公開とした。

(2)事情聴取記録

    当該行政文書は、実施機関の担当者が、取引の概要、紛争の要因、宅建業法に違反する事実の有無等について、本件宅建業者から任意に事情聴取した内容を記録したものであり、「日時」、「場所」、「被聴取者」、「聴取者」、「聴取の内容」、「被聴取者の署名」が記載されている。

    本件決定において、実施機関は、本件宅建業者から事情聴取した内容が記載された部分を非公開とした。

3 本件決定の適法性について

(1)条例第9条第1号に該当することについて

   ア 条例第9条第1号について

条例第9条第1号は、

(ア)個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該情報に関する情報を除く。)であって、

(イ)特定の個人が識別され得るもののうち、

(ウ)一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの

に該当する情報が記録されている行政文書を公開してはならないと規定している。

イ 上記ア(ア)の要件について

本件非公開部分には、

a 専属専任媒介契約の当事者である個人の氏名

b 取引の対象物件の所在地

が記載されている。これらは、個人の不動産の取引に関する情報であり、上記ア(ア)の要件に該当する。

ウ 上記ア(イ)の要件について

  上記イa、bの情報は、直接的に、又は他の容易に入手し得る情報と結合することにより、個人を特定することができるものである。したがって、上記イa、bの情報は、上記ア(イ)の要件に該当する。

エ 上記ア(ウ)の要件について

  個人にとって、自己が行った不動産取引において宅建業法違反があった事実は、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報である。したがって、上記イa、bの情報は、上記ア(ウ)の要件に該当する。

  以上のことから、本件非公開部分に記載された情報のうち、上記イa、bの情報は、条例第9条第1号に該当するものである。

(2)条例第8条第1項第4号に該当することについて

   ア 条例第8条第1項第4号について

     条例第8条第1項第4号は、

(ア)府の機関(省略)が行う(省略)監督(省略)等の事務に関する情報であって、

(イ)公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

に該当する情報が記録されている行政文書を公開しないことができると規定している。

   イ 上記ア(ア)の要件について

     事情聴取記録における非公開部分には、実施機関が、宅地建物取引に係る紛争相談において、本件宅建業者から聴取した内容が記載されている。これは、紛争相談の対象となった宅地建物取引の概要又は宅建業法違反の疑いのある事実に対する当事者の認識等を記載しているものであり、実施機関は、これらの事実、主張を探知又は勘案することにより、紛争解決を促すとともに、宅建業法に基づき本件宅建業者に対して指導・調査等を行ったものである。したがって、事情聴取記録における非公開部分に記載された情報は、上記ア(ア)の要件に該当する。

   ウ 上記ア(イ)の要件について

事情聴取記録における非公開部分には、実施機関が、任意の事情聴取によって本件宅建業者から聴取した内容、すなわち、宅建業法に違反する事実の有無等の確認を中心に、違反があった場合にはその経緯、違反の内容、理由、宅建業者の宅建業法に対する認識等が具体的かつ詳細に記載されていることから、宅建業者に対する指導、助言及び勧告又は監督処分の基礎をなす情報であるといえる。

このような情報が公開されると、宅建業者は、自己の信用の低下や業績に対する悪影響等を考慮し、実施機関の事情聴取に対して、事実を述べることを差し控え、又は任意の事情聴取自体に応じない等の対応を取ることが予想され、実施機関は、違反事実や取引上の問題点を確認するための情報を得ることが難しくなるとともに、紛争解決や業務改善のために必要な理解と協力を得ることが困難になる。

     したがって、事情聴取記録における非公開部分に記載された情報が公開されると、今後実施機関が、紛争解決及び宅建業法に基づき宅建業者等に対して行う指導・調査等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあり、上記ア(イ)の要件に該当する。

    以上のことから、事情聴取記録における非公開部分は、条例第8条第1項第4号に該当するものである。

 4 異議申立人の主張について

   異議申立人は、取引の当事者間においては本件非公開部分を秘匿するべき事情はないと主張し、「例えば、裁判所で争われる訴訟にしても原告の陳述に対し、被告の反論、事情の陳述等は公開の法廷で行なわれており、当事者間においてはすべて知り得る情報となっている。」とも述べているが、条例に基づく行政文書の公開は、何人に対しても同様に公開する制度であり、条例第6条の規定による行政文書公開請求に係る公開・非公開の決定においては、実施機関は、請求者が何人であるかに関わらず、行政文書に記録された情報が条例の適用除外事項に該当する情報(非公開情報)であるか否かを判断するものであることから、取引の当事者であるからといって、本件非公開部分を公開する根拠とはなり得ない。なお、行政文書公開制度と訴訟は、その制度趣旨、目的、手続等を異にしていることから、訴訟が公開で行われることは、行政文書公開制度における公開・非公開の決定には直接関係のないものであり、そのことをもって本件非公開部分を公開する根拠とはならない。よって、異議申立人の主張は当を得ないものである。

   また、異議申立人は、「その文書は出版物のように不特定多数人の目にふれさせるものではなく、仮に異議申立人がこれを第三者に公開したとすれば、それは異議申立人の責任においてすることであって、処分庁に御迷惑をかけるようなことはないと考える。」と主張しているが、行政文書公開制度においては、府の保有する情報は公開を原則としながらも、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮することが必要とされており、このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定が設けられたものである。仮に、実施機関が、取引の当事者である異議申立人に、条例の適用除外事項に該当する情報(非公開情報)を公開した場合に、当該非公開情報を異議申立人が第三者に公開することがあれば、それにより個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害するような結果となることが予想されることから、行政文書公開制度の趣旨から考えて、異議申立人の主張は是認できない。

5 結論

   以上のとおり、本件についての実施機関の決定は、条例の趣旨を踏まえたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

 

第六 審査会の判断理由

 1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

2 宅地建物取引業に係る実施機関の事務について

宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)は、宅地建物取引における各種の規制を定めており、宅建業者及び宅地建物取引主任者(以下「宅建業者等」という。)がこれらの規制に違反した場合に都道府県知事等が行うべき監督処分を定めるとともに、都道府県知事は、当該都道府県の区域内で宅地建物取引業を営む宅地建物取引業者に対して、宅建業の適正な運営を確保し、又は宅建業の健全な発達を図るため必要な指導、助言及び勧告をすることができる旨定められている(宅建業法第71条)。

また、都道府県知事は、当該都道府県の区域内で宅建業を営む者に対して、宅建業の適正な運営を確保するため必要があると認めるときは、その業務について必要な報告を求め、又はその職員に事務所その他その業務を行なう場所に立ち入り、帳簿、書類その他業務に関係のある物件を検査させることができ(宅建業法第72条第1項)、当該宅建業者が、上記の報告をせず、又は、検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合は、50万円以下の罰金に処するとされている(宅建業法第83条第1項第5号及び第6号)。

一方、実施機関においては、不動産取引の適正な実施を図るため、府民が不動産取引について相談できるコーナーを設け、意識啓発や紛争相談の業務を行っており、相談を通じて、宅建業者等の宅建業法違反が疑われる情報を入手した場合は、違反事実の有無を確認するため、当該宅建業者等から任意による事情聴取を行い、さらに必要に応じて宅建業法第72条に基づく報告を求めている。宅建業法違反の事実が確認された場合は、当該違反行為の内容等を考慮し、宅建業者等に対する指導、助言及び勧告又は監督処分を行っているが、実施機関においては、多数の相談事案について違反事実の有無や事実関係を迅速かつ的確に確認するため、事実確認の方法については、任意の事情聴取によることを原則としているものと認められる。

3 本件行政文書について

本件行政文書は、実施機関が、不動産取引相談を通じて、宅建業法違反が疑われた特定の宅建業者(以下「本件宅建業者」という。)に対して行った事情聴取の内容を記録した「事情聴取記録」(以下「事情聴取記録」という。)と、宅建業法第71条の規定により口頭による勧告を行うために作成した「宅地建物取引業務の適正な運営の確保について(口頭勧告)」(以下「口頭勧告書」という。)である。

このうち、事情聴取記録は、実施機関の担当者が、取引の概要、紛争の要因、宅建業法に違反する事実の有無等について、本件宅建業者から任意で事情聴取した結果を記録したものであり、実施機関が事情聴取を行った日時、場所、被聴取者、聴取者、聴取の内容、被聴取者の署名が記録されている。

一方、口頭勧告書は、知事の勧告として口頭で伝達する内容を記載したものであり、勧告年月日、勧告者である知事の職氏名、標題、勧告文及び指導理由(宅建業法違反事実)と担当職員の所属、名前及び連絡先電話番号が記録されている。実施機関においては、担当職員がこの文書の内容を読み上げることにより、本件宅建業者に勧告を行ったものであるが、文書については、大阪府行政手続条例第33条第2項の規定に基づき、宅建業者から求められた時に、交付することとされており、本件においては、本件宅建業者から求めがなかったため交付していない。

なお、本件決定においては、口頭勧告書の指導理由のうち契約の相手方である個人の氏名及び取引の対象物件の所在地と、事情聴取記録のうち聴取の内容(以下、「本件係争部分」という。)が非公開とされており、異議申立人は、これら全ての公開を求めている。

4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由

(1)事情聴取記録の非公開部分について

実施機関は、事情聴取記録の非公開部分に記録されている情報について、条例第8条第1項第4号に該当すると主張しているので、検討したところ、以下のとおりである。

ア 条例第8条第1項第4号について

行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれのあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の実施後であっても、公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

同号は、

(ア)府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、

(イ)公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれら事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

が記録された行政文書を公開しないことができる旨定めている。

イ 条例第8条第1項第4号該当性について

本項の情報は、実施機関が宅建業者に対して行った指導、助言及び勧告の(以下「指導等」という。)事務に係る情報であることから、ア(ア)の要件に該当することは、明らかである。

次に、本項の情報がア(イ)の要件に該当するか検討するに、本項の情報は、特定の宅建業者について宅建業法違反が疑われたため、違反事実の有無等を把握することを目的に、当該宅建業者に対し任意で行った事情聴取の内容である。このような任意の事情聴取は、その相手方である宅建業者が、実施機関との信頼関係に基づき、事実を積極的に明らかにすることを期待するものであって、その内容が逐一公になると、今後、事情聴取の対象となった宅建業者が、事情聴取に応じなかったり、事実を積極的に明らかにしないなど、非協力的になることが見込まれる。実施機関においては、上述のとおり、任意の事情聴取が、宅建業者の指導監督における事実確認の原則的な手段となっていることから、本項の情報は、公にすることにより、事実確認に必要な情報を迅速かつ十分に得ることが困難になるなど、今後とも、実施機関が行う宅建業者等に対する指導等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあり、ア(イ)の要件にも該当すると認められる。

以上のことから、本項の情報は、条例第8条第1項第4号に該当し公開しないことができる。

(2)口頭勧告書の非公開部分について

実施機関は、口頭勧告書の非公開部分に記録されている情報について、条例第9条第1号に該当すると主張しているので、検討したところ、以下のとおりである。

ア 条例第9条第1号について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。

同号は、

(ア)個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

(イ)特定の個人が識別され得るもののうち、

(ウ)一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。

また、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」とは、社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうと解される。

イ 条例第9条第1号該当性について

本項の情報は、勧告の端緒となった宅地建物取引の相手方である個人の氏名及び対象物件の所在地であり、これらの情報は、個人の財産に関する情報であって、特定の個人が識別できる情報であることから、ア(ア)及び(イ)の要件にあてはまることは明らかである。

次に、これらの情報がア(ウ)の要件に該当するか否かを検討するに、本項の情報は、公にすることにより、特定の個人が特定の対象物件について、宅建業者と専属専任媒介契約を締結したことや、当該宅建業者との間で宅建業法違反に係る事実があったことが明らかとなる情報である。このような情報は、一般に公になることが予定される情報ではなく、また、社会通念上、他人に知られることを望まない情報であることから、ア(ウ)の要件にも該当すると認められる。

以上のことから、本項の情報は、条例第9条第1号に該当し、公開することはできない。

 (3)異議申立人の主張について

異議申立人は、本件係争部分に記録された内容は、異議申立人が実施機関に申し立てた宅建業法に違反に係る業者に対する事情聴取の内容や、異議申立人の氏名及び対象物件の所在地等の情報が記録されており、これらの情報は、当事者である異議申立人は、当然知っている内容であることから秘匿すべきものはなく、また、裁判所の訴訟においても、公開の法廷で当事者は内容をすべて知り得るものとなっていることから、公開すべきである旨主張している。

しかしながら、条例は、「何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる。」(第6条)と規定して請求者を何ら区別することなく、行政文書の公開を請求する権利を付与しており、第8条及び第9条に規定する公開・非公開の基準においても、請求者が本人である場合について特則を設けず、個人情報の本人開示に不可欠な本人確認の手続も定めていない。また、大阪府では、昭和59年に制定された公文書公開等条例(昭和59年大阪府条例第2号)においては、一般の公文書の公開に加えて、公文書の本人開示に係る規定が置かれていた(同条例第17条)が、平成8年に個人情報保護条例(平成8年大阪府条例第2号)が制定され、同条例に自己に関する個人情報の開示の規定が設けられたことから、公文書公開等条例の公文書の本人開示に係る規定が削除された経緯もある。これらのことからすると、条例に基づく行政文書公開制度においては、請求者が誰であるかによって、公開・非公開等の決定内容に差異を設けることはできないのであり、公開請求に係る行政文書が請求者の個人情報を記録したものであるからといって、他の請求者と異なる公開決定を行うことはできない。

また、異議申立人は、宅建業法の監督等の事務について、公にしても事務支障とはならないことや、宅建業法違反といった紛争に対する実施機関の対応は、府民にとっても関心事であることから、公開すべきである旨主張するが、(1)に述べたとおり、これらの情報を明らかにすることにより、実施機関が行う宅建業者に対する指導等の事務に著しい支障を生じるおそれがあることから、公開することはできない。

以上のことから、上記の異議申立人の主張は、いずれも採用することができない。

 5 結 論

以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

 

(主に調査審議を行った委員の氏名)

  岡村周一、曽和俊文、小松茂久、鈴木秀美

 

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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