大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第136号)

更新日:2009年8月5日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第136号)

[府立学校校長自己申告票非公開決定異議申立事案]

(答申日 平成19年5月1日)

第一 審査会の結論

実施機関は、本件異議申立ての対象となった行政文書のうち、「学校名」、「校長の氏名」、「校長在職年数」、「現任校在校年数」、「備考」、「中期的な学校経営のビジョン」及び「今年度の学校教育目標等」の各欄を公開すべきである。

実施機関のその余の判断は妥当である。

第二 異議申立ての経過

1 異議申立人は、平成18年4月18日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「大阪府「教職員の評価・育成システム」に係る府立学校長の「自己申告票」(全校長分)」(以下「本件請求1」という。)及び「大阪府「教職員の評価・育成システム」に係る府立北千里高等学校・校長の「自己申告票」」の公開請求(以下「本件請求2」という。)を行った。

2 実施機関は、同年5月2日、本件請求1及び2に対応する行政文書として「平成16、17年度の府立学校長の「自己申告票」」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、条例第13条第2項の規定により、非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり公開しない理由を付して、異議申立人に通知した。

(公開しない理由)

大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する。

  本件情報は、府教育委員会が行う人事管理に関する情報であって、公にすることにより、当該事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

(1) 本件情報は、地方公務員法等に基づく、職員の勤務評定として実施している「評価・育成システム」において、職員が評価者に提出するものであり、この情報を踏まえて評価者は評価(勤務評価)を行うこととなることから、まさに「勤務評価」そのものであり、「人事管理」に係る情報であるため。

(2) 本件情報は、当該情報について公開を前提としているものでなく、校長もその公開を全く予期しておらず、システムにおいて上司との面談や上司による評価・育成のために作成されるものであるため。

 3 異議申立人は、同年7月7日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

第三  異議申立ての趣旨

本件決定の取り消し、及び当該情報の公開を求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。

1 本件行政文書の公開の必要性

(1)学校組織の具体的な運営実態を知る権利

実施機関は、学校教育計画と本件行政文書について縷々説明し、これらが「根本的に性格を異にするもの」である旨を主張している。

「学校教育計画は、各学校の教育目標を達成するための年間計画であり、校長が作成する。校長が自らの教育理念、教育方針を明らかにするとともに、全教職員がその内容を熟知し、常に教育実践の指針とするものである。」とのことである。

しかし、学校教育計画を「校長が作成する」というのは、その作成の法的責任が最終的に校長に帰属するという意味にすぎず、作成の実態からすれば事情は逆である。即ち、その作成には、パートごとに学校内の各教科、分掌、学年等の多くの教員が携わるが、細かな字句修正を除けば内容的にはほとんど前年度のそれが踏襲されることになる。結果として、学校教育計画の多くは、各学校における教職員集団による永年の教育実践の堆積物とも言えるものであって、十年一日のごとくにほとんど変化しないものとなる。

従って、3、4年で交替する校長に合わせて学校教育計画が変化するなどということはあり得ず、少なくとも学校教育計画が校長個人の「教育理念、教育方針」を直截反映するということは考えられない。当の「教育理念、教育方針」なるものは、いわば学校の教職員集団全体に帰属するものであり、その教職員集団を機関としての校長と言い換えることはできるであろうが、これは言葉の問題にすぎない。

それ故、学校教育計画と本件行政文書とが「根本的に性格を異にする」というのは、言わずもがなの当然のことにすぎない。しかし、その違いは、「公表を前提に」するか否かといった、情報公開制度のようないわば外在的要因を根拠とするものではなく、学校制度の内在的要因に起因するものである。それらが「内容的には大部分重複するものである」と言うが、その真偽は本件行政文書が公開されない限り不明である。

学校教育計画に盛られた「理念」や「方針」は、かなりの程度一般的・抽象的であって、そこから当該学校における学校運営や教育活動の実態に関する情報を得ることは、全く不可能とは言えないまでも、それには相当に高度の専門的知識や教職経験を要するであろう。学校教育計画がかかるものである限り、部外者(なかんずく教育関係者ではない一般市民)がそこから当該学校における具体的な教育課題を知るには、きわめて大きな制約があると言わねばならない。だとするなら、とりわけ部外者(例えば府立高校への進学を考えている中学生やその保護者)にとっては、学校教育計画の抽象的「理念」と当該校の実態の溝を埋める何らかの情報が必要になってくる。このような情報には、受験産業や中学校の先輩等による非公式(インフォーマル)情報もあれば、学校見学会や説明会等による公式(フォーマル)情報もある。近年は、インターネットの普及により学校が設けた公式サイトから比較的簡単に公式情報を獲られるようにもなっている。かつては、学校が公式の情報提供に消極的だったために、受験生を含む一般市民は非公式情報に頼らざるを得ず、これが学校間格差を拡大する一因ともなってきた。しかし、公式情報が増大したとは言え、もし市民がその公式情報の真実性を疑うなら、その情報が広く普及することはあり得ない。学校の公式情報への信頼を醸成し、その流通価値を高めるには、学校それ自体の透明度を高めるよりほかに方法はない。つまり、個人のプライバシーに配慮しつつ、学校が有するあらゆる情報を公開することがその唯一最大の方途なのである。

本件行政文書は、もしそれが「公正かつ適正に」作成されたものである限り、行政的意味での学校の対外的代表者が学校の組織運営や教育活動の具体的課題に関する見解、及び、その課題に対する全校的取組の経過を示すはずのものである。実施機関によれば、それは、「「学校教育計画」と同様に学校教育目標の実現を目指すものであるが、教職員の状況や生徒の状況、さらに地域における学校の役割等を総合的に勘案して、重点的に取組む事項やそのための手段、方策等を含めて作成するものであり、校長としての学校経営戦略を取りまとめるものである」とともに、「その内容には、教職員の能力分析や目標の実現可能性等」の「校長の価値判断が含まれている」とのことであるが、そうであるならまさしくこれこそが市民にとって必要な、それ故知る権利の対象となる情報と言うべきであろう。その真偽を含めた情報価値は、本件行政文書が公開されることによって市民自身が判断すべきものであり、もしそれが何らかの誤解を生じさせかねないと言うのであれば、その他の様々な公式情報のチャンネルを通じて、当該校に関するより正確な認識をもたらすべく校長の説明責任の履行が要請されるのである。

そもそも実施機関が本件行政文書の特殊性を強調すればするほど、現在の情報公開制度の下では、ますますその公開の意義が高まるのであって、この点で実施機関の論旨は自家撞着に陥らざるを得ないであろう。

(2)本件行政文書と勤務評価

実施機関による本件行政文書の公開拒否理由の一つは、当該文書に記載された情報(以下「本件情報」という。)が人事管理上の「勤務評価」であるというものである。非公開決定通知書には次のようにある。「本件情報は、地方公務員法等に基づく、職員の勤務評定として実施している「評価・育成システム」において、職員が評価者に提出するものであり、この情報を踏まえて評価者は評価(勤務評価)を行うこととなることから、まさに「勤務評価」そのものであり、「人事管理」に係る情報であるため。」この点につき、弁明書では、本件情報を同様に「人事管理上の情報」としながらも、「校長評価の中では不可欠の情報であり、まさに「勤務評価」の一部である。」としている。これらの違いは決して些細なものではない。

本来、「評価・育成システム」の目的は、「地方公務員法等に基づく、職員の勤務評定として実施」する点にあるのではない。仮に実施機関において「評価・育成システム」導入の「ねらい」が勤務評定に取って替えることにあったとしても、その「ねらい」はあくまでも隠された動機という社会学的次元の問題にすぎない。少なくとも公的に表明された「評価・育成システム」の目的には、それが勤務評定として実施される旨の言明は何らなされていない。「教職員の評価・育成システム手引1」の2頁には、このシステムの「趣旨」が記載されているが、この導入当初よりほとんど変わらない「趣旨」のどこにも勤務評定としての実施などという記述はないのである。

この点は、次のように解するしかない。即ち、「評価・育成システム」は、本来勤務評定とは別個の固有の目的をもつ制度として導入されたものであるが、そのいわゆる「本格実施」を機に、教育委員会規則(「府立の高等専門学校、高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」平成16年大阪府教育委員会規則第12号)によって「評価・育成システム」における評価結果の勤務評定への利用が可能となったということである。

とすれば、「評価・育成システム」において職員が作成する文書のすべてが「勤務評価そのもの」(非公開決定通知書)になるわけではなく、勤務評定への事後的な利用として(「不可欠」か否かはともかく)「勤務評価の一部」をなすにすぎないものである。従って、それら文書が「人事管理上の情報」として利用されているという事実は、単に人事管理政策上の方法の問題であって、その事実のみでは決して非公開理由の十分条件にはならない(即ちそこから非公開理由が一義的に演繹されることはない)。もしこの点を無視するならば、いかなる行政文書の情報であれ、それが「勤務評価」の資料として人事管理に利用される限り、当該情報の公開は「当然に」不可となるという不合理な結論を導くことも可能である。これが誤謬論法であることは論をまたない。しかも、本件行政文書は、「評価・育成システム」における「評価・育成シート」とは異なり、それをもって当該文書作成者に対する公的な「勤務評価」を推定することは全く不可能である。

ところで、「評価・育成システム」の“固有”の目的からすれば、むしろ本件行政文書は積極的に公開されるべきこととなる。前記「教職員の評価・育成システム手引1」に記載されている同システムの「趣旨」は、「この評価・育成システムの実施を通して、校長のリーダーシップのもと、教職員が一丸となり、教育をめぐる諸課題に学校全体として適切に対応することで、子どもたちの願いや府民・保護者の期待に応えていくことが重要です。」という点に集約されている。一方で、この「子どもたち」や「府民・保護者」といった一般市民からすれば、前に述べたように、本件情報はその「願い」や「期待」を実現する上で不可欠の情報であって、行政内部の人事管理上の問題は当の「願い」や「期待」とは関係がない。しかし他方、学校教職員にとっては、「評価・育成システム」に「主体的」・「意欲的」に取り組もうとすればするほど、評価者である校長自身の目標と相関的に自己目標を設定せざるを得ないであろう。

従って、どちらの面からしても、校長の目標やその取組についての自己評価、つまりは本件情報の公開の必要性が高いと言えるのである。別言すれば、本件行政文書を公開することによって得られる公共的利益と、それを公開しないことによって得られる(もしくは公開することによって失われる)かもしれない実施機関の利益とを比較考量すれば、憲法上の人権価値を含む前者の利益がはるかに大きいということに外ならない。

(3)目標管理制度の機能要件としての評価者の目標公開

きわめて概略的に言えば、実施機関の行っている「評価・育成システム」は、目標管理制度を方法論的基礎として、顕在化された業績及び能力を評価しようとするものである。更に実施機関は、05年度末に、その評価結果を賃金昇給に反映させる制度を導入したが、昇給規模こそ小さいとはいえ、これはいわゆる「成果主義」賃金制度に外ならない。ただし、この新賃金制度は、07年度昇給分(08年1月1日実施)から適用されるものであり、そのために06年度「評価・育成システム」の評価結果が使われるが、本件行政文書はこれ以前のものであり、新賃金制度とは無関係である。

90年代以降の日本経済のバブル崩壊と経済のグローバル化に伴う企業収益の悪化に対して、民間企業は賃金コストを抑えるために従業員(ホワイトカラー)のリストラを進め、一時期は「成果主義」がその手段としてもてはやされたが、既に世紀末までにはその失敗も明らかになったと言われている。「成果主義」賃金制度それ自体に対する経営学者による理論的批判も多々あるが(高橋伸夫「虚妄の成果主義−日本型年功制復活のススメ」日経BP社04年、同「〈育てる経営〉の戦略−ポスト成果主義への道」講談社05年等)、「成果主義」を支持する論者であっても、その多くは、「成果主義」が賃金コストの抑制手段として用いられる限り失敗に終わらざるを得ないと評価している。しかし、ここでは、「成果主義」それ自体について論ずることが目的ではない。ただ、最も早くから「成果主義」を導入した株式会社富士通の元社員で、「成果主義」運用の要であった人事部に所属していた城繁幸氏の「内側から見た富士通−「成果主義」の崩壊」(光文社04年)には、その体験に基づく留目すべき提言があり、ここで紹介することも無駄ではないと思われる。城氏が単純な「成果主義」批判者ではないことは、同著者の「日本型「成果主義」の可能性」(東洋経済新報社05年)からしても明らかだが、この点は「内側から見た富士通」についても一貫している。その「日本型「成果主義」の確立へ」と題された章(Chapter6)の一節に「「成果主義」を成功させるには成績公開が必要」というものがある(P209f)。以下にその一部を引用しておく。

「成果主義」で従業員がいちばん不満complaintを持っていたことに、管理職自身の評価が不透明だったことがある。つまり、「彼らは自分たちと同じように評価されているのか」と、下の人間は常に疑うのだ。その疑惑が高じると、「あんな上司に評価されてたまるか」という声が上がる。

これをなくすためには、すべての評価を公開するしかない。つまり、オープンシステムopen systemにしなければ、「成果主義」はどうやっても機能しない。富士通では、管理職の目標も成果も従業員には非公開だった。しかも、公開しようにも、半分くらいの管理職は、実際には目標設定も評価もろくすっぽやっていなかった。先に従業員の目標管理制度の廃止を勧めたが、管理職については、目標管理制度は必要だ。そして、その目標と成果を最大限公開することが、最も重要だ。これは管理職の評価制度というよりも、部下へのおおまかな業務目標の明示という、組織上の必要性による。いわば常にリアルタイムで部署のミッションを明示し続けるためのツールである。同時にこのことは、上司と部下の信頼関係を構築する。

ここに述べられていることは、もちろん法的規範の問題ではなく、「成果主義」を成功に導くための政策レベルでの課題であるともいえよう。そのレベルでは、従業員のモラールの問題として、管理職の成果(成績評価)さえも公開の対象とすべきことが主張され得る。ただし、仮に城氏が言うように、管理職自身の自己目標やその達成状況の公開が、所属職員への「おおまかな業務目標の明示という、組織上の必要性による」ものであり、「いわば常にリアルタイムで部署のミッションを明示し続けるためのツールである」とするならば、その公開は、「成果主義」というよりもそのベースとなる目標管理制度を機能させるための、少なくとも論理的な必要条件となることは疑い得ないであろう。

2 条例第8条第1項第4号該当性

(1)条例第8条第1項第4号について

条例第8条第1項は、「実施機関(公安委員会及び警察本部長を除く。)は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている行政文書を公開しないことができる。」として、第4号に「府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、交渉、渉外、争訟等の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」を挙げている。これらは、一般に行政執行情報ないし事務・事業情報と呼ばれるものである。なお、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号、以下「情報公開法」という)では、第5条第6号イ及びロに同様の規定が見られるが、この法律では行政運営情報との見出しが付されている。

日本における行政情報の公開制度は、歴史的に見れば、地方自治体が国に先んじて先進的に情報公開条例等を制定することによって定着してきたという経緯がある。しかしながら、多くの自治体においてその初期の段階では、いわゆる行政執行情報や意思形成過程情報等に関するこのような「おそれ」規定によって市民の「知る権利」が制約されてきたこともまた歴史的事実である。その後、各地の情報公開審査会の答申や裁判例によって、実施機関が同様の規定により請求のあった公文書の公開を拒否するためには、一般的・抽象的な「おそれ」では足りず、公開しないことにより得られる公益が公開することによって損なわれるそれより大きいことを、実施機関の側で具体的・客観的に立証することが必要であるとの法理が確立されるに至っていると言ってよい。条例第3条が実施機関に対して義務付ける解釈・運用の規準からすれば、実施機関がこの法理に従って公開の可否を判断すべきことは明白である。

ところで、行政執行情報が例外的に不開示情報とされるのは、行政機関が特定の事務・事業を執行するに際して情報を秘密にすることが求められる例外的な場合としてである。条例第8条第1項第4号に列挙されている事項に見られるように、これらの事務は、その性格ないし本質からして、その情報の公開は直ちに当該若しくは同種の事務の執行を不可能にしたり、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすことが明らかなものである。国の情報公開法第5条第6号は「当該事務又は事業の性質上」という文言によってこの点を明確にしているが、条例第8条第1項第4号の解釈に当たっても、条例全体の趣旨及び同号例示の事務からして、このように解すべきことは当然である。(なお、同号に列挙されている事務類型は、「等」とあるところからすれば例示には違いないが、これらが類型的・概念的に限定可能である点においては限りなく制限列挙に近いものと考えられる。)

いずれにせよ、条例同号の趣旨は、事務・事業の本質からして情報公開と相容れないものに例外を限定することによって実施機関の裁量を統制する点にあるのであって、逆に実施機関に対して広範な裁量権限を付与するものではないことは明らかである。従って、実施機関が同号に基づいて非公開決定=公開拒否をなし得るためには、当該情報が条例同号所定の要件に該当することを厳密に論証しなければならない。このことは、条例同号の「これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれ」に関しては、前述した情報公開制度の歴史的事実からしても、特に強く要請されるところである。即ち、同号に言う「支障」の程度は名目的なものでは足りず、実質的なものが要求され、しかもそれは「著しい」ものでなければならない。また、条例同号の「おそれ」の程度には、単なる観念的な抽象的可能性ではなく、法的保護に値する程度の蓋然性が当然に要求される。更に、同号の「公正かつ適切な」という要件の中では、情報の公開を原則とする行政事務執行の公正性・適切性が観念されているのであって、この要件において既に利益衡量が行われていることが想定されているのである。

以上の理解からすれば、実施機関が示す本件行政文書の条例第8条第1項第4号該当性の主張は、抽象的かつ形式的なものでしかなく、何らの説得力も有してはいない。即ち、先ず何よりも、この「評価・育成システム」が同号に例示されている諸事務と少なくとも類型的同一性をもつ点についての論証が全く欠落している。これでは、本件行政文書につき条例同号該当性を判断する前提を欠いていると言わざるを得ないのである。

(2)大阪府情報公開審査会答申例

類似の事案に関する大阪府情報公開審査会答申84号(「府立学校校長自己申告票(試験的実施)非公開事案」に関する03年12月5日答申「大阪府情報公開審査会答申集3」364頁)は、校長の「自己申告票」における年齢を除く個人情報のプライバシー性(従って条例第9条第1号該当性)を否定し、なおかつ、条例第8条第1項第4号該当性につき次のように判断している。「実施機関が主張する〔…〕懸念については、校長による自己申告票への記入が、あくまでも職務として行われるものであることからすると、本来的には、その様式や記入の手引に工夫を凝らしつつ、試験的実施や研修等を通じて校長等関係者の習熟を促すなど、実施機関として関係者に趣旨の徹底を図ることで相当程度に回避され得ると考えられる。そのような措置を講じてもなお回避し得ないような事由が具体的に認められる事項が記載される場合はともかく、抽象的にこのような懸念があることをもって直ちに、条例第8条第1項第4号に該当するとは認められないものである。」

同答申は、「しかしながら」として、同事案が「教職員の評価・育成システムに関して、本府において初めて、しかも年度途中〔…〕から実施された試験的実施に係るものである」ことから、校長等が「自己申告票」やこれを用いて行う面談などの手続にいまだ習熟していず、実際、「審査会において、本件行政文書を見分したところにおいても、各項目の記載内容には、その詳しさや内容の熟度、校長個人の思いや考えの記載状況などに、相当大きなバラツキがあり、記入者である各校長の習熟や様式等の検討が不十分と認められる点が少なからず見受けられた」などの「試験的実施」に固有の事実問題を例示し、かくして、「このような事情のもとで、本件行政文書に記載されている目標やその実施計画、目標の達成状況、今後の課題や構想、教育委員会に対する意見等の記載内容を公開すると、今後新たに人事制度の大きな改変が行われる場合の当該制度の試験的実施など同種の事務の執行に際して、必要な情報の把握が困難となり、問題点や改善すべき点の抽出など当該同種の事務の目的が達成できなくなるおそれがある」と述べ、結論的には、当時の校長の「自己申告票」の条例第8条第1項第4号該当性を認めることも「止むを得ないところ」としている。

しかしながら、ここで認められた条例第8条第1項第4号該当性は、その行論からすれば、あくまでも「試験的実施」に限定されていることは明らかである。なかんずく、その公開によって支障を来す「おそれ」のある同種の事務類型として、「今後新たに人事制度の大きな改変が行われる場合の当該制度の試験的実施など」を挙示している点からして、この限定は明白であると言わねばならない。即ち、裏返していえば、「試験的実施」に特殊の事情により、校長等が「自己申告票」の趣旨、ひいては「評価・育成システム」それ自体の趣旨をもいまだ十分には理解していないために、その記載内容にはこれらの趣旨にそぐわないものが多々見られ、そのためこれを公開すれば、今後の同種の「試験的実施」に支障を来す「おそれ」が認められるが、このような導入時の問題は、「本来的には、その様式や記入の手引に工夫を凝らしつつ、試験的実施や研修等を通じて校長等関係者の習熟を促すなど、実施機関として関係者に趣旨の徹底を図ることで相当程度に回避され得る」ものであり、従ってそのようにして回避すべきものであって、校長等が「公正かつ適切な」職務遂行によって作成すべき行政文書たる「自己申告票」は、原則として公開すべきものであるということになる。

「評価・育成システム」につき、実施機関は、翌03年には年間を通した「試行実施」を実施し、「試験的実施」から2年を経過した04年からは、「府立の高等専門学校、高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(平成16年大阪府教育委員会規則第12号)に基づく「本格実施」を実施している。この間、「自己申告票」の様式やその記入の手引には基本的な変化はなく(従って上記答申の言う「そのような措置を講じてもなお回避し得ないような事由が具体的に認められる事項が記載される場合」は存在しない)、かつまた、実施機関は校長等に対して研修等の措置を十分に講じてきたはずである。本件行政文書は、この「本格実施」に係るものであり、実施機関がもし上記答申の趣旨を真に尊重しているとするならば、少なくとも全部非公開(公開拒否)という本件決定は到底あり得ないものである。

3 実施機関による条例の解釈・運用違反

(1)条例第3条違反

本件情報が「勤務評価の一部」をなすとしても、そのことは当然には公開拒否の理由にはなり得ない。もしかかる公開拒否理由が罷り通るとすれば、情報公開のための条例が新たな「秘密保護」の法規範を創出することにさえなりかねないであろう。実際、このような公開拒否理由は、それが真摯に主張されるかぎりは、本来条例第9条第1号該当の問題として論ずべきものである。ところが、本件類似の事案における前記答申例によって、本件情報の「プライバシー」性は基本的に否定されている。そのため、実施機関は本件情報を「勤務評価の一部」であるとして条例第8条第1項第4号該当性を主張するのであるが、このことは、条例第8条第1項第4号に新たな公開拒否類型を作出するとともに、その運用につき実施機関の融通無碍の裁量権を設定することに等しいものである。

このような実施機関による条例の解釈・運用態度には、意図的な脱法性があるのではないかとの疑念さえ生じるが、少なくとも、行政文書の原則公開を謳い、極めて例外的・限定的にのみ不公開情報を定める条例の趣旨を蔑ろにするものであると言わざるを得ない。条例第3条「実施機関の責務」は、何よりも市民の「知る権利」を保証するための解釈・運用に関する規準として、「実施機関は、行政文書の公開を求める権利が十分に保障されるように、この条例を解釈し、運用する」ことを実施機関に対して明文をもって義務づけている。この点で、本件決定における実施機関の義務懈怠は明らかである。

(2)条例第10条適用の可否

実施機関は、仮にも本件行政文書が条例第8条第1項第4号に該当すると主張するのであれば、条例第10条によって少なくとも部分公開を行うべきであった。同条は第1項で、「実施機関(公安委員会及び警察本部長を除く。)は、行政文書に次に掲げる情報が記録されている部分がある場合において、その部分を容易に、かつ、公開請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは、その部分を除いて、当該行政文書を公開しなければならない。」と規定し、「(1)第8条第1項各号のいずれかに該当する情報で、同項の規定によりその記録されている行政文書を公開しないこととされるもの」及び「(2)前条各号のいずれかに該当する情報」を掲げる。本件決定理由は、同条第1号に当たるものである。

更に、実施機関が本件請求1及び本件請求2の異同についても何ら考慮していない点は明らかである。百歩譲って、もし実施機関の言うように、本件行政文書が「勤務評価」に係るものであり、その公開によって職員の人事管理そのものに支障が生じるおそれがあるとしても、本件請求1に対応する行政文書については、学校名や校長名等の個人を特定できる部分は容易に分離でき、かつ、これらの情報を除くことによって、本件請求1に対応する行政文書に記載された情報と個々の校長の「勤務評価」との対応関係は(たとえそこに一対一対応があるとしてさえも)消滅するはずである。従って、本件請求1に対応する行政文書に関する限り、もし仮にそれが条例第8条第1項第4号に該当するとしても、上記事項等を分離することによって当該「おそれ」を減殺し、かつ、本件請求1に対して少なくとも府立学校全体に関する統計的に有意な情報を提供し得ることとなるのである。この点で、本件請求1及び本件請求2の異同を検討することさえせず、両者を一律に全部非公開とした実施機関の裁量権の踰越には甚だしいものがある。

なお、条例第13条第3項は、実施機関が行政文書の一部(非)公開又は全部非公開の決定をした場合につき、当該決定の通知に付記すべき事項を定めており、同項第2号に「当該通知に係る行政文書に記録されている情報が第10条第1項各号又は第2項各号に掲げる情報に該当しなくなる期日をあらかじめ明示することができる場合にあっては、その期日」を挙げている。これは、なるほど、同第10条第1項各号の情報に「該当しなくなる期日をあらかじめ明示することが」できない場合については、これを通知することを実施機関に明示的に義務付けたものとまでは言えないであろう。しかし、条例全体の趣旨及び同3条の規定からすれば、実施機関が同第10条適用の可否を検討し、結果としてこれを適用しないと結論したのであれば、その旨を付記することが適当であると解される。とすれば、その反面として、同第13条第3項第2号の規定がありながら、実施機関の通知が部分公開の可否について何らの言及もしていない場合に、実施機関は同第10条の適用を考慮しなかったと解することは、少なくとも一般人としての良識からすれば当然である。

本件決定理由からすれば、実施機関は、本件決定に際して同第10条の適用を考慮したようには思えず、異議申立人にとっては、実施機関が本件決定に際して考慮すべき事項を考慮しなかったと考える外ない。だとするならば、本件決定は、同第3条の規定する解釈・運用の原則に明白に違反するのみならず、この点ではそもそも実施機関に認められた裁量権を明白に逸脱してなされた不当な行政処分であると言わざるを得ないのである。

4 結論

以上のとおり、本件決定は、条例の趣旨を蔑ろにすることによってその諸条項の解釈・運用を誤り、また、大阪府情報公開審査会の過去の答申例を無視するものであって、異議申立人の知る権利を侵害し、府民の府政への信頼を著しく毀損する違法かつ不当なものである。従って、実施機関は直ちに本件決定を取り消し、本件行政文書を公開すべきである。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね以下のとおりである。

1 教職員の評価・育成システムについて

(1)概要

実施機関は、平成14年7月、「教職員の資質向上に関する検討委員会」から、「教職員全般の資質向上方策」について最終報告を受けた。この最終報告の中で、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として提言されたのが「教職員の評価・育成システム」(以下「評価・育成システム」という。)である。

評価・育成システムは、学校の教育活動等における目標・計画の策定(Plan)、目標達成に向けた実践(Do)、結果の点検・評価(Check)、改善への取組(Action)という「PDCAのサイクル(マネジメント・サイクル)」を活性化するとともに、これまで評価されることが少なかった一人ひとりの教職員の活動を客観的に評価することにより、教職員の意識改革と意欲・資質能力の向上を図り、教育活動をはじめとする様々な活動を充実させ、学校を活性化することを目指すものである。

評価・育成システムでは、年度初めに教職員一人ひとりが、「学校教育計画」等で決定されている学校の教育目標の実現に向け、組織内の自らの役割を踏まえて個人目標を設定し、校長に申告する。校長は、教職員と面談を行い、仕事の内容や課題について相互理解を深めるとともに、教職員の目標が学校の教育目標に適合しているか、その教職員の役割に照らして適切であるかなどを判断し、必要な場合には目標の修正・変更を指導した上で、教職員の取り組むべき目標を確定する。

教職員は、同僚教職員と連携協力しながら、目標達成に向け1年間取組みを進め、中間時点での進捗状況と、年度末には達成状況を自己評価し、校長に申告する。

校長は、児童生徒や保護者、同僚教職員、教頭などの意見も参考にしながら、教職員の自己申告を踏まえた上で、教職員の目標の達成状況を判断し、これを「業績評価」として評価する。また、職務全般の取組みを対象に、教職員の日常の職務遂行を通じて発揮された能力を「能力評価」として評価する。その上でこれらの評価をもとに「総合評価」を行う。評価は、いずれもA・B・Cの3段階を基本にS・Dを加えた5段階(S・A・B・C・D)の絶対評価である。

評価の結果は、教職員本人に開示され、取組みの改善や次年度の目標設定に生かすこととしているが、評価の結果に納得できない場合については、教職員は苦情の申出ができることとしている。

また、校長の学校運営の充実・改善に資するため、教職員が「校長への提言シート」に学校運営に関する意見等を記入して校長に提出する制度を設けている。この制度により、校長が自らの学校運営について見直しを行ったり、教職員の意見を学校運営に反映したりするなど、評価・育成システムは双方向性を持ったものとなっている。なお、このシートの写しは校長から教育委員会に提出され、教育長は校長の評価の際に学校運営を把握する参考資料としている。

(2)評価・育成システムの実施根拠

実施機関は、平成16年4月16日に開催された大阪府教育委員会会議で、府立学校に勤務する教職員を対象とした「府立の高等専門学校、高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(平成16年大阪府教育委員会規則第12号)及び市町村立学校に勤務する府費負担教職員を対象とした「府費負担教職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(平成16年大阪府教育委員会規則第13号)(以下、両規則をあわせて「実施規則」という。)を新たに制定し、これら規則に基づいて実施している。

(3)勤務評価としての評価・育成システム

地方公務員法第40条第1項には、「任命権者は、職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行い、その評定の結果に応じた措置を講じなければならない。」とあり、実施機関においては、本システムの評価結果をもって地方公務員法第40条第1項に規定する勤務評定として実施している。

評価結果の給与への反映については、平成18年度の評価結果を平成19年度の昇給及び勤勉手当における勤務成績の判定に活用することとし、職員の給与に関する条例、府人事委員会規則の改正や実施機関による「勤務成績に応じた昇給の取扱いに関する要領」等を制定するなど必要な規定整備を行い、各学校長及び各市町村教育委員会に通知し、全ての教職員に周知したところである。

(4)府立学校長の評価・育成システムについて

校長の評価・育成システムは、教職員の評価・育成システムと同様であり、実施規則に基づき実施しており、自己申告と面談を基本に実施している。

評価者について、府立学校では1次評価者は教育監、2次評価者は府教育委員会教育長であり、市町村立学校では市町村教育委員会教育長が評価者となっている。

校長は、年間の取組み内容を自己申告し、教育監との面談を通して教育目標や学校の経営方針等について意見交換を行い、自らの目標を設定し教育長に申告する。

校長から提出された自己申告票に対して、教育監(1次評価者)・教育長(2次評価者)は、面談、教育委員会事務局各課長等の意見、学校訪問、学校資料等を参考にしながら、校長の自己申告を踏まえ、目標達成状況を判断して「業績評価」として評価する。また、職務全般の取組みを対象に、校長の日常の職務遂行を通じて発揮された能力を「能力評価」として評価する。その上でこれらの評価をもとに「総合評価」を行う。評価は、5段階の絶対評価でなされ、その結果が年度末までに開示される。

(5)自己申告票における目標について

自己申告票は、あくまでも個人が被評価者としての立場で作成するものである。

教職員の目標については、学校や校務分掌・学年など校内組織における自己の役割を踏まえ、目標達成に向けて各自が取組みを進めるために設定するものであることから、まさに、自己申告票における目標は、教職員が意欲的に取組みたいと考えていることについて記載されたものであって、評価者である校長の評価を受けるために設定される人事管理上の情報である。

校長の目標については、地域や生徒の実態、これまでの当該学校における成果等を踏まえるものの、校長が考える学校づくりに向けての中長期的なビジョンである「中長期的な学校経営のビジョン」の達成に向け、教職員の目標と同様、校長が取組みを進めるために設定するものである。まさに、自己申告票における目標は、校長自身が意欲的に取組みたいと考えていることについて記載されたものであって、評価者である教育長の評価を受けるために設定される人事管理上の情報である。

2 学校教育計画における目標について

学校教育計画は、各学校の教育目標を達成するための年間計画であり、校長が作成する。校長が自らの教育理念、教育方針を明らかにするとともに、全教職員がその内容を熟知し、常に教育実践の指針とするものである。学校教育計画の事項については、本年度の重点課題、学校運営の重点、道徳教育及び生徒指導の重点、学習指導の重点、教員の研修計画などの項目がある。それぞれの目標については、各学校の特性、地域・保護者・教職員の意見、学校協議会の意見等を踏まえて作成されており、毎年見直しがなされ、年度当初に学校の教育方針として全教職員に示され、この目標達成に向けて年間の学校運営が行われている。

また、校長から実施機関に提出されるとともに学校のホームページに掲載されるなど、公にされているものである。

3 本件行政文書について

本件行政文書は、府立学校長が、実施規則に基づき、校長個人の評価のために校長の評価者である教育長に対して提出するために作成されたものである。

本件行政文書の内容としては、(1)「本人に関する部分」、(2)「中期的な学校経営のビジョン」及び「今年度の学校教育目標等」、(3)「設定目標」、(4)「進捗状況」、(5)「目標の達成状況」、(6)「学校経営の充実に向けた自己の課題」の項目がある。

4 本件決定理由について

本件決定は、本件行政文書に記載された情報(以下「本件情報」という。)が、条例第8条第1項第4号に該当することから、非公開としたものであるが、以下において、その理由を述べることとする。

(1)本件情報は、地方公務員法に基づき職員の勤務評定として実施する「評価・育成システム」において、他の教職員同様、校長自身が学校責任者として年間を通じて取組みたいと考えるビジョンや目標を記載し、被評価者としての立場で評価者である教育長に提出する人事管理上の情報である。

教育長は、校長から提出されたこの自己申告票の内容や校長への提言シート、さらに、学校視察等を通じて把握した学校状況や教育委員会各課が所管業務を通じて把握した情報等、様々な機会をとらえて把握した具体的取組み実績などを参考に評価することとなる。

特に、自己申告票は、本人が進捗状況や目標達成状況を、評価者である教育長に申告する自己評価そのものであって、教育長はこの自己評価としての達成状況や校長自身の課題認識などから評価することになる。このようなことから、自己申告票は、校長評価の中では不可欠の情報であり、まさに「勤務評価」の一部である。

(2)校長の自己申告票と前述した「学校教育計画」は、ともに学校教育目標の実現に向け教職員集団を指導する教育実践の指針となるものであり、内容的には大部分が重複するものである。しかしながら、「学校教育計画」は、全教職員にその内容を熟知させ、各々の役割分担の下でその実現に向けて取組ませるために作成するものであり、また、学校の取組みに対する理解と協力を求めるために、生徒・保護者や地域の関係者にも公表することを前提に作成するものである。

一方、校長の自己申告票は、「学校教育計画」と同様に学校教育目標の実現を目指すものであるが、教職員の状況や生徒の状況、さらに地域における学校の役割等を総合的に勘案して、重点的に取組む事項やそのための手段、方策等を含めて作成するものであり、校長としての学校経営戦略を取りまとめるものである。このため、その内容には、教職員の能力分析や目標の実現可能性等、公表されることを前提としない校長の価値判断等が含まれている。

この様に校長の自己申告票と「学校教育計画」は、根本的に性格を異にするものであり、人事管理情報として公表にはなじまないものである。

以上から、本件行政文書は、条例第8条第1項第4号に該当し、非公開決定としたものである。

5 部分公開について

本件行政文書は、「中長期的な学校経営ビジョン」「今年度の学校教育目標等」「設定目標」、「進捗状況」、「目標の達成状況」「学校経営の充実に向けた自己の課題」の各欄並びに本件行政文書を作成した校長の氏名、年齢、校長在籍年数、現任校在校年数、学校名で構成されている。

実施機関は、本件決定にあたり、本件行政文書について、条例第10条に規定する部分公開をすることが可能かどうかについて、次のとおり検討したうえ、部分公開をすることができないと判断した。

(1)「設定目標」、「進捗状況」、「目標の達成状況」、「学校経営の充実に向けた自己の課題」の各欄について

これらの欄は、自己申告票の主要をなす部分であり、個々の目標項目ごとに、その細目、年度途中の進捗状況、最終的な達成状況、自己評価、今後の課題などが詳細に記載されている。これらの情報は、勤務評価そのものに関わる情報であって、これを記載した校長自身も、公開されることを全く想定していないものである。

仮にこれらの情報が公開されることになれば、今後、校長は誤解や批判をおそれ、自己申告票に本音を率直に記載することを躊躇するようになり、本件システムによる人事管理事務の執行に著しい支障をおよぼすことになる。

(2)「中長期的な学校経営ビジョン」「今年度の学校教育目標等」の欄について

ア 「中長期的な学校経営ビジョン」欄には、学校の将来あるべき姿や学校が進むべき方向性を、また、「今年度の学校教育目標等」欄には、同学校経営ビジョンを踏まえ、当該年度に重点的に取り組むべき目標をそれぞれ記載することとされている。

校長は、これら二つの欄(以下あわせて「ビジョン・教育目標欄」という。)の記入に当たり、別途作成し公表している「学校教育計画」に加え、実施機関が各府立学校に対して示した教育施策や指導方針、あるいは、その時点で当該学校が現実に直面し、解決を図ろうとしている諸課題などを踏まえ、当該学校がどのような到達目標に向って重点的に取り組むべきかについて検討を行なう。そのうえで、「学校教育計画」に示された教育目標だけでなく、その時点で直面する課題に即した目標や、組織内部で改善を図るべき目標などを記載するものである。

なお、この「学校教育計画」とは、各学校の教育目標を達成するための年間計画として教育長通知に基づき校長が毎年作成し、実施機関に提出するとともに公表することとされているものであり、通常、複数の教育目標が設定されているものである。

このように、ビジョン・教育目標欄は、公表された「学校教育計画」と内容が重複してはいても、そのまま転記されているわけではなく、「学校教育計画」に記載されていない内容も含まれている。

イ すなわち、ビジョン・教育目標欄の記載を詳細に見ると、

(ア)「学校教育計画」の一部として公表された内容と共通している部分

(イ)「学校教育計画」には記載されていないが、組織内部で共通理解を図るべき事柄が記載された部分

(ウ)組織内部でも全てを周知していないが、校長が、自校の組織運営について、職務上の上司である教育長に対して部下として自分の考えを述べた部分

が混在する形態で記載されている。

ウ このうち、まず、(ア)については、「学校教育計画」として公表されている複数の項目の中から、校長自身が、当該年度にどの項目に最も重点的に取り組むべきかとの価値判断に基づき、項目の取捨選択を行った結果が反映されたものであり、公表された学校教育計画と内容が重複することはあっても、両者は全く性格の異なる情報であるので、内容に共通性があることのみをもって、直ちに公開すべきものとはいえない。むしろ、公開することによって、校長の価値判断が教職員の間に透けて見える結果となる。例えば、校長の選択からもれた項目を担当する教職員にとっては、取組み意欲の低下につながるなど、今後の人事管理に支障を及ぼすおそれがある。

次に、(イ)の例としては、学校によっては、生徒の問題行動をどの程度減少させるかということや、あるいは、具体的な大学名をあげて進学率をどの程度向上させるかということを目標として掲げている事例が存在する。

これらの記載は、当該学校に勤務する教職員集団内部においては、現実に直面する課題として共通理解を図る必要があるが、一般に公表することになれば、その学校があたかも「課題の多い学校」であるとか「大学進学者が多い学校」であるなどといった、学校の色分け・序列化につながり、ひいては、当該校に通学する生徒に対する誤解・偏見を助長するおそれがあるなど、今後の学校運営に著しい支障を及ぼすおそれがある。

また、(ウ)の例としては、校長が理想とする学校の姿を個人的なイメージを用いて表現したものや、校長が自校の教職員集団の組織運営上の課題をどう認識しているかを記載した事例が存在する。これらは、校長が上司である教育長に対して、自らの職務・職責に対する認識や意気込みを示し、あるいは、学校という組織の長としての人事管理上の課題認識・教職員の指導方針を示した部分である。

こうした情報は、部下である教職員に明らかになると、校長が行う人事管理としての教職員に対する叱咤激励の目的が透けて見えてしまう結果となるなど、人事管理・組織運営に著しい支障をきたすことになる。

エ 「ビジョン・教育目標欄」に記載された内容は、「設定目標」欄における個別具体的な項目や評価要素の概要・目次の役割を果たすものであり、前者を公開することは、後者の情報を類推させる結果につながるおそれがある。

オ なお、校長がビジョン・教育目標欄に、公表された「学校教育計画」とは異なる内容を記載することについては、校長という組織集団の長として、組織の現状を踏まえた上で、公表された「学校教育計画」の目標を達成するために重点的に取り組む事項を示すものであり、むしろ実施機関も、本件システムの実効性を高めていく上で、それが望ましい姿であると考えている。

カ すなわち、校長の育成(評価)者である教育長は、自己申告票の記載内容全体を捉えて校長の評価を行うものであり、ビジョン・教育目標欄についても、単に公表された「学校教育計画」の内容が転記されているだけなのか、あるいは、問題点を掘り下げ、あるいは絞り込んで、現在直面している教育課題を校長がどのように認識し、どのように取り組もうとしているかについても記載しているのかによって、評価の結果が異なってくることもある。いわば、学校のリーダーとしての校長の資質が問われる部分が集約されるのが、「ビジョン・教育目標欄」である。

仮にこれらの情報が公開されることになれば、今後、校長は、自己申告票に自らの本音を率直に記載することを躊躇するようになり、自己申告票欄を作成する本来のねらいである、学校目標についての校長の本音の部分を記載させ、それをもって校長の問題意識を問い、評価の一助とするとともに、これを前提として行なわれる面談等を通じて校長の育成を図るという、本件システムの本来の目的が達成できなくなり、今後の人事評価事務に支障を及ぼすことになる。

キ したがって、「ビジョン・教育目標欄」については、その欄全体として、上記(1)の各欄と同様に、評価そのものに係る情報であるということができ、部分的にも公開することはできない。

(3)校長の氏名、年齢、校長在籍年数、現任校在校年数、学校名について

これらの情報は、従来から公表されている情報(校長の年齢を除く。)であるが、全ての府立学校長から自己申告票が提出されている状況において、これらの情報のみを公開したとしても、それは府立学校名及び校長名の一覧としての意味をなすものでしかなく、本件請求の趣旨が害われる結果になることから、条例第10条の規定により、行政文書の部分公開をしなければならない場合に該当しないと判断した。

6 結論

以上のとおり、本件決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 評価・育成システムについて

実施機関は、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として、教職員の自己申告による個人目標の設定(自己申告票の作成)や上司との面談等を内容とする評価・育成システムを2年間にわたる試験的実施と試行実施を経て、平成16年度から本格的に実施している。

校長の評価・育成システムは、一般教職員の評価・育成システムと同様に実施規則に基づき実施しており、自己申告と面談を基本にしている。校長の評価は、教育監(1次評価者)、教育長(2次評価者)の面談や校長の自己申告等を踏まえ、業績評価、能力評価及び総合評価が行われており、実施機関においては、評価・育成システムの評価結果をもって地方公務員法第40条第1項に規定する勤務成績の評定としている。評価結果は、校長個人に対する指導・育成や人事異動等に活用されているが、平成18年度の評価結果からは、昇給や勤勉手当の支給割合にも反映することが予定されている。

3 本件行政文書について

本件行政文書は、実施機関が、評価・育成システムの一環として、教職員に提出させている「自己申告票」のうち、平成16年度及び平成17年度の府立学校長分であり、その記載内容は、以下のとおりである。

(1)本人に関する項目

「学校名」、「氏名」、「年齢」、「校長在職年数」及び「現任校在校年数」が4月1日現在で記入されている。また、「備考」には、年度途中に異動した場合や他校と兼務している場合など、本人に関する事項で留意すべき点があれば記入することとされている。

(2)「中期的な学校経営のビジョン」及び「今年度の学校教育目標等」

「中期的な学校経営のビジョン」には、学校設立の経緯、地域や生徒の実態、保護者等のニーズ、これまでの成果等を踏まえ、学校の将来(3〜5年後の)あるべき姿や学校が進むべき方向性について、校長としての考えを簡潔に記入することとされている。記入にあたっては、どのような資質や能力をもった児童・生徒の育成をめざすのかという視点を必ず踏まえることとされている。

「今年度の学校教育目標等」には、「中期的な学校経営のビジョン」の実現に向けて、今年度、学校全体として重点的に取り組むべき目標を記入することとされている。

実施機関の説明によれば、これらの欄の記入に当たり、校長は、各学校が教育目標の達成のために毎年作成し、公表する「学校教育計画」に加え、実施機関が各府立学校に対して示した教育施策や指導方針、あるいは、当該学校が現実に直面し、解決を図ろうとしている諸課題などを踏まえ、当該学校がどのような到達目標に向って重点的に取り組むべきかについて検討を行い、そのうえで、「学校教育計画」に示された教育目標だけでなく、その時点で直面する課題に即した目標や、組織内部で改善を図るべき目標などを記載するものとされている。

(3)設定目標

学校教育目標等を踏まえ、目標設定区分ごとに重点的に取り組むべき目標を設定することとされている。

「目標設定区分」欄に「学校の経営」、「学校組織の運営」、「人の管理・育成」、「地域連携と渉外」の四つの目標設定区分名を記入し、「内容・実施計画」欄に、目標設定区分ごとの目標の内容を具体的に記入するとともに、目標を実現するための実施計画を記入することとされている。

なお、目標の設定にあたっては、目標ごとに到達点と目標を実現するための具体的な取り組み(実施計画)が明確であることが大切とされている。

(4)進捗状況

設定目標の進捗状況についての目標ごと及び全体の自己評価の結果を、「計画以上に進んでいる」、「概ね計画どおり進んでいる」、「計画どおり進んでいない」のいずれかにチェックして記入するとともに、具体的な「進捗状況及び課題」を記入することとされている。

(5)目標の達成状況

設定目標の達成状況について、児童生徒・保護者・教職員等の意見も参考にしながら行う目標ごと及び全体の自己評価の結果を、「上回っている」、「概ね達成している」、「達していない」のいずれかにチェックして記入するとともに、具体的な「達成状況」と「今後の課題」を記入することとされている。

(6)学校経営の充実に向けた自己の課題 

学校経営の充実に向けた自己の課題について、設定目標の範囲に限定せず、学校経営全般についての自己の課題を記入することとされている。

4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

(1)条例第8条第1項第4号該当性について

実施機関は、本件行政文書に記録された情報について、条例第8条第1項第4号に該当すると主張するので、この点について検討する。

なお、異議申立人は、第二の1のとおり、本件請求1及び本件請求2の2件の公開請求を行っているが、本件請求2の対象行政文書は、本件請求1の対象行政文書に含まれることから、以下においては、両者を併せて検討することとする。

また、公開の可否の検討に当たっては、条例第10条第1項の趣旨を踏まえ、部分公開の可否を含めて検討することとする。

ア 条例第8条第1項第4号について

行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第4号の趣旨である。

同号は、

(ア)府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、

(イ)公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

は、公開しないことができる旨を定めている。

イ 条例第8条第1項第4号該当性について

本件行政文書に記録されている情報が上記ア(ア)、(イ)の要件に該当するか否かについて検討したところ、以下のとおりである。

本件行政文書は、府立学校長が、実施規則に基づき、校長の評価者である教育長に対して提出するために作成されたものであり、実施機関において校長の勤務評価を行うための資料であることから、本件行政文書に記録されている情報は、「府の機関又は国等の機関が行う人事管理等の事務に関する情報」として、ア(ア)の要件に該当する。

次に、本件行政文書に記録された情報がア(イ)の要件に該当するかどうかについて検討したところ、以下のとおりである。

(ア)本人に関する項目の各欄に記録されている情報について

本項の情報は、各年度4月1日現在の学校名、氏名、年齢、校長在職年数及び現任校在校年数並びに「備考」欄に記録されている年度途中の異動や他校との兼務などの情報である。これらの情報は、人事管理に係る行政文書である自己申告票に記載されているものの、当該情報自体は、記入者の属性に関する情報に過ぎず、公にすることにより人事管理等の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは言えず、ア(イ)の要件に該当しない。

(イ)「中期的な学校経営のビジョン」及び「今年度の学校教育目標等」の欄に記録されている情報について

本項の情報は、学校の将来あるべき姿や進むべき方向性、当該年度に学校全体として重点的に取り組むべき目標について、校長としての考えを簡潔にまとめたものである。

このような情報は、実施機関における人事管理の一環として作成された情報ではあるものの、学校運営の最高責任者である校長の職責を考慮すると、当該学校の運営の基本方針に関する情報として、当該学校の生徒・保護者のみならず、受験生やその保護者、地域住民など広く府民の正当な関心の対象となるべき情報であり、これを公開することにより、地域社会に開かれた学校運営の推進に資するところがあると考えられる。

これに対し、実施機関は、本項の情報は「公表された「学校教育計画」と内容が重複してはいても、そのまま転記されているわけではなく、「学校教育計画」に記載されていない内容も含まれている。」とした上で、次のような理由を挙げて、ア(イ)の要件に該当すると主張しているものと解される。

a 学校教育計画と重複した内容が記載されていても、その取捨選択において、校長の価値判断を経た結果であり、校長の価値判断が教職員の間に透けて見える結果となって、例えば、校長の選択からもれた項目を担当する教職員にとっては、取組み意欲の低下につながるなど、今後の人事管理に支障を及ぼすおそれがある。

b 生徒の問題行動をどの程度減少させるか、具体的な大学名をあげて進学率をどの程度向上させるかといったことを目標として掲げている事例があり、一般に公表すると、学校の色分け・序列化につながり、ひいては、当該学校の生徒に対する誤解・偏見を助長するおそれがあるなど、今後の学校運営に著しい支障を及ぼすおそれがある。

c 理想とする学校の姿を個人的なイメージを用いて表現したり、自校の教職員集団の組織運営上の課題をどう認識しているかを記載した例があるが、これらは、校長が上司である教育長に対して、自らの職務・職責に対する認識や意気込みを示し、あるいは、学校という組織の長としての人事管理上の課題認識・教職員の指導方針を示したもので、こうした情報が部下である教職員に明らかになると、校長が教職員に対して行う叱咤激励の目的が透けて見えてしまう結果となるなど、人事管理・組織運営に著しい支障をきたすことになる。

d 本項の情報は、「設定目標」欄に記載される個別具体的な項目等の概要ないし目次の役割を果たすものであり、これを公開することは、非公開とされるべき「設定目標」欄に記載される個別具体的な項目等を類推させる結果につながるおそれがある。

e 校長が、「学校教育計画」とは異なる内容を記載することは、システムの実効性を高めていく上で、望ましいと考えており、単に「学校教育計画」の内容が転記されているだけか、問題点を掘り下げ、あるいは絞り込んで、現在直面している教育課題を校長がどのように認識し、どのように取り組もうとしているかについても記載しているのかによって、評価の結果が異なってくることもあるが、本項の情報が公開されることになれば、校長は、自己申告票に自らの本音を率直に記載することを躊躇するようになり、今後の人事評価事務に支障を及ぼすことになる。

そこで、これらの点について検討するに、aで言及されている学校教育計画と重複した内容の部分は、校長による取捨選択という価値判断を経たものとは言え、既に公表されている内容であり、校長の職責を考慮すると、むしろ積極的に教職員や生徒・保護者等と共有すべき情報である。

次に、bの学校の色分け、序列化等の問題は、本項の情報が公開されたからといって、改めて、これが著しく助長されるようなものではなく、むしろ、そうした学校の抱える課題や問題点を広く府民等と共有することを通じて、克服を図っていくことが期待されるものである。

また、cの校長の自らの職務・職責に対する認識や意気込みについては、上司である教育長のみならず、部下である教職員や生徒・保護者に対しても明らかにされることが望ましい情報である。人事管理上の課題認識・教職員の指導方針については、個々の教職員への指導方針など個別具体的な内容が記載されている場合には、人事管理上著しい支障が生じる場合が考えられるが、審査会において、本項の情報を見分したところによっても、そのような個別具体的な記述は確認できなかった。

さらに、dの主張については、本項の情報には、「設定目標」欄に記載される個別具体的な項目等の概要ないし目次に相当する内容が含まれる場合があるが、審査会において見分したところによれば、「設定目標」欄に記載される個別具体的な項目等の具体的な内容まで特定し得るものとは認められなかった。

また、eの主張については、本項の情報が公開されることとなった場合、今後、校長の自己申告票の記載内容に影響がないとは言えないが、後述のとおり、「設定目標」欄に記載される個別具体的な目標等については、公開しないことができることからすると、校長の評価・育成等の人事管理に関する事務に必要な情報は、十分に得ることができると考えられる。

以上を総合して判断すると、本項の情報は、人事管理等の事務に関する情報ではあるものの、これらを公開しても評価・育成システムの目的が達成できなくなり、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとまでは言えず、ア(イ)の要件に該当しない。

(ウ)「設定目標」、「進捗状況」、「目標の達成状況」及び「学校経営の充実に向けた自己の課題」の各欄に記録されている情報について

本項の情報を審査会において見分したところ、校長が学校運営上取り組んでいる事項に係る個別の目標や実施計画の内容、その達成状況の自己評価等、職務に関しての自己の課題や次年度の構想、実施機関に対する意見、さらには教職員の能力分析や生徒の状況等が、校長個人の考えに基づいて具体的かつ比較的詳細に記載されていることが認められた。

これらの情報は、目標管理の手法による教職員の評価・育成を目的とする評価・育成システムにおいて、校長が、学校経営のビジョンや学校教育目標等を達成するため、個人として設定した具体的な目標及びその進捗状況や達成状況を評価者である教育長に申告する自己評価そのものの情報である。また、この校長の自己評価を踏まえて、教育長が、校長の勤務評価を行っており、その結果は、校長個人に対する指導・育成や人事異動等に活用されているが、18年度分からは、校長個人の給与にも反映されることが予定されているものである。

このような個人の勤務評価に係る具体的な情報については、校長といえども、通常、府民や他の教職員に明らかにされるような情報ではなく、また、これらの情報が公になると、校長が他の教職員や保護者等に内容を知られることを慮って、自らの目標や評価等を率直に記述しなくなるおそれがあり、その結果、実施機関においては、人事評価に必要な情報を十分に得ることができず、適正な勤務評価を行うことが困難となるおそれがある。さらに、評価結果を活用して実施する校長の指導・育成等の学校教育に関する事務や人事異動、昇給等の事務にも支障をきたすなど、今後、同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められることから、本項の情報は、ア(イ)の要件にも該当する。

以上のことから、本件行政文書に記載されている情報のうち、「設定目標」、「進捗状況」、「目標の達成状況」及び「学校経営の充実に向けた自己の課題」の各欄に記録されている情報については、条例第8条第1項第4号に該当し公開しないことができるが、本人に関する情報の各欄並びに「中期的な学校経営のビジョン」及び「今年度の学校教育目標等」の各欄に記録されている情報については、同号に該当しないと認められる。

(2)条例第9条第1号該当性について

次に、本件行政文書に記録された情報が校長個人に係る情報でもあることから、(1)で条例第8条第1項第4号に該当しないと判断した本人に関する情報の各欄並びに「中期的な学校経営のビジョン」及び「今年度の学校教育目標等」の各欄に記録されている情報が、条例第9条第1号に該当するか否かについて検討する。

ア 条例第9条第1号について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

本号は、このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。

同号は、

(ア)個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

(イ)特定の個人が識別され得るもののうち、

(ウ)一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならない旨定めている。

イ 条例第9条第1号該当性について

(ア)本人に関する情報の各欄に記録されている情報について

本項の情報は、いずれも校長本人の属性に関する情報であり、学校名及び氏名により、特定個人が識別されるから、ア(ア)及び(イ)の要件に該当することは明らかである。

次に、ア(ウ)の要件に該当するか否か検討する。

a 「学校名」、「氏名」、「校長在職年数」、「現任校在校年数」及び「備考」欄に記録されている情報について

これらの情報については、いずれも個人に関する情報ではあるものの、公務員の職又はその職務の遂行に関する情報であり、これらの情報そのものは、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められず、ア(ウ)の要件には該当しない。

b 「年齢」について

「年齢」については、個人の固有の属性に関する情報であり、公務員としての職務に関する情報ではないから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、ア(ウ)の要件に該当する。

(イ)「中期的な学校経営のビジョン」及び「今年度の学校教育目標等」の各欄に記録されている情報について 

本項の情報は、校長が学校責任者として考えている学校の将来のあるべき姿や学校が進むべき方向性についての中長期的なビジョンやその実現に向けて、学校全体として重点的に取り組むべきと考えている目標であり、そこには校長個人の考えや思いが反映されており、個人に関する情報としての側面は否定できないものの、基本的には、公務員としての職務の遂行に関する情報であることから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められず、ア(ウ)の要件には該当しない。

以上のことから、(1)において条例第8条第1項第4号に該当しないと認められた情報のうち、「年齢」については、条例第9条第1号に該当し公開してはならないが、「学校名」、「氏名」、「校長在職年数」、「現任校在校年数」、「備考」、「中期的な学校経営のビジョン」及び「今年度の学校教育目標等」の各欄に記録されている情報については、条例第9条第1号にも該当せず、公開すべきである。

(3)本件請求1に対応する行政文書の部分公開に関する異議申立人の主張について

異議申立人は、本件請求1に対応する行政文書について、学校名や校長名等の個人を特定できる部分は容易に分離でき、かつ、これらの情報を除くことによって、当該文書に記載された情報と個々の校長の勤務評価との対応関係は消滅するはずであることから、当該文書が条例第8条第1項第4号に該当するとしても、学校名等を分離することによって職員の人事管理に支障を生じる恐れを減殺することとなる旨主張している。

しかしながら、公務員の職務の遂行に関する行政文書の公開請求に対しては、個人のプライバシー情報を非公開とするため必要な場合や当該公務員?生命、身体、財産等の保護に支障を及ぼすとおそれがある場合など特別の事情のない限り、当該公務員の氏名や所属、職名等を公開すべきであり、本件請求2のように学校を特定して公開請求されることを考慮しても、本件行政文書について、校長名や学校名を非公開とすることを前提に部分公開を検討することは適当でない。

また、仮に、校長名や学校名を特定し得る情報を除いて公開するとしても、(1)及び(2)で非公開が妥当と判断した「設定目標」、「進捗状況」、「目標の達成状況」及び「学校経営の充実に向けた自己の課題」の各欄には、各学校の運営方針や目標等が、当該学校の状況を踏まえつつ具体的に記述されているため、当該学校の教職員や生徒・保護者等相当広範囲にわたる一定の関係者から見れば、当該学校を容易に特定し得る情報が含まれており、前記の関係者からも学校名や氏名が特定されないようにすると、断片的な情報のみが残る結果となって、部分公開にはなじまないものと認められた。

以上のことから、この点についての異議申立人の主張は採用することができない。

5 結論

以上のとおりであるから、本件異議申立ては、「学校名」、「校長の氏名」、「校長在職年数」、「現任校在校年数」、「備考」、「中期的な学校経営のビジョン」及び「今年度の学校教育目標等」の各欄の公開を求める部分について、理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

 (主に調査審議を行った委員の氏名)

   岡村周一、曽和俊文、小松茂久、鈴木秀美

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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