大阪府情報公開審査会答申(大公審第134号)

更新日:2009年8月5日

大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第134号)

〔学校法人決算書部分公開決定第三者異議申立事案

(答申日 平成19年4月17日)

第一 審査会の結論

  実施機関の決定は妥当である。

第二 異議申立ての経過

1 平成18年8月9日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「学校法人Aの平成16年度・平成17年度貸借対照表、資金収支計算書、消費収支計算書、消費収支内訳表」の行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)が行われた。

2 同年8月16日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書に異議申立人である学校法人Aに関する情報が記録されていることから、条例第17条第1項の規定に基づき意見書提出の機会を付与するため、異議申立人に対して、第三者意見書提出機会通知書を送付した。

3 同年8月21日、異議申立人は、実施機関に対し、本件行政文書の一部について公開に反対する旨の意見書を提出した。

(1)公開に反対する部分

貸借対照表の基本金の部及び消費収支差額の部(この部分はすでに登記されている)以外の全て

(2)公開に反対する理由

ア 今回の請求は行政文書の公開請求であるが、当法人は、大阪府から補助金を受けていない。また、該当年度に新たに実質的な許認可も受けていない。従って、請求のあった文書は「行政文書」には該当しない。

尚、今回、大阪府が公開請求に応じることとなれば、当学校法人は次年度以降、決算書類については、提示には応ずるが提出は見合わせることとする。

イ 教育基本法において、学校法人の関係者(生徒父母含む)に対しては、正当な理由がある場合を除いて、計算書類の閲覧が認められている。逆に言えば、正当な理由のある場合や、関係者以外の者には、閲覧を認めていない。今回の請求は、正当な理由があるかの判断もできないし、関係者以外かどうかも不明である。従って、そのまま公開請求を認めることは、行政が教育基本法の趣旨を無視することとなる。

ウ 情報の内容は、学校法人の基本的な財務内容を示すものであり、競合する認可された学校または認可を受けていない学校に利用され、当方が相手の情報を入手できないならば、一方的な不利を蒙ることになる。従って、請求者が自らの情報を公開していないならば、このような請求は認められるべきではない。仮に認められるならば、請求者の住所氏名を当学校法人に通知されたい。

4 同年9月7日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として、(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、請求者に通知するとともに、条例第17条第3項の規定により、公開決定をした理由を(3)のとおり付して異議申立人に通知した。

(1)行政文書の名称

 学校法人Aの平成16年度・平成17年度 貸借対照表、資金収支計算書、消費収支計算書(内訳表を含む)

(2)公開しないことと決定した部分

 資金収支計算書、消費収支計算書(内訳表含む)及び貸借対照表の中科目以下の金額(ただし、大科目により知り得る中科目以下の金額、補助金に係る中科目以下の金額は除く。) 

(3)公開決定をした理由

 行政文書公開請求に対する公開・非公開の決定は、当該公開請求の目的等を問わず、条例の規定に則して行うものであり、本件行政文書(公開部分)に記録されている情報については、大阪府情報公開条例第8条第1項各号又は第9条各号(非公開情報)に該当しない。

5 同年9月19日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

なお、本件決定のうち本件異議申立ての対象となった部分については、同日、異議申立人が、行政不服審査法第34条第2項に基づき、執行の停止の申立てを行い、同年9月27日、実施機関が執行の停止を決定して、その旨を異議申立人及び請求者に通知している。

第三  異議申立ての趣旨

本件決定を取り消すとの決定を求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。

1 異議申立書における主張

(1)本件決定は、異議申立人が、実施機関に任意に提出した平成16、17年度の貸借対照表、資金収支計算書、消費収支計算書、消費収支内訳表(以下総称して「計算書類」という)に関して一部非公開部分を認めるものの、条例第8条第1項各号又は第9条各号に該当しない、として公開の決定をなしたものである。

(2)しかし、そもそも異議申立人は、大阪府から補助金を受けておらず、私立学校振興助成法第14条に定める計算書類の提出義務を負わない。

計算書類は異議申立人の財務内容、経営状況、資金繰り等を顕わす極めて重要な書類であり、みだりに公にすべき性質のものではない。しかしながら、異議申立人はこのような経営実態を明らかにする重要な書類ではあるが、所轄庁には明らかにすべきであると考え、公にしないことを条件として任意に提出してきた。

(3)確かに、異議申立人の経営実態を知るべき正当な利益を有する者がいる。しかし、この点は今般、私立学校法第47条の改正により「在学者その他の利害関係人から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、これを閲覧に供しなければならない」とされ、在学者等利害関係人の閲覧については正当な理由がない限り閲覧を拒むことができなくし、正当な利益を有する者の保護を明確にした。

しかし、この改正条文の反対解釈として、利害関係のない第三者に対しては計算書類等の閲覧を拒否できると解すべきである。

(4)計算書類は異議申立人の経営実態を赤裸々に顕わすものである。従って、これを条例により誰にでも公開されるというのは異議申立人にとって競争上の地位等正当な利益を著しく害されるものと言わざるを得ない。

(5)従って、本件決定は条例第8条第1項第1号の「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害するもの」と認められ、かつ、第2号「公にしないことを条件として任意に個人又は法人等から提出された情報」であるので、すべて非公開としなければならないのに、その解釈を誤り、一部を公開決定とした違法、不当がある。

 2 反論書における主張

(1)計算書類の提出について

ア 実施機関は、専修学校のみを設置する法人である異議申立人に対し、計算書類の提出を求める根拠法を私立学校法第6条に求めている。

しかし、同条は一般的に所轄庁は私立学校に対し、「教育の調査、統計その他に関し、必要な報告書の提出を求めることができる。」と規定しているだけで、その求める書類については具体的に明らかではない。

他方、私立学校振興助成法第12条で、所轄庁は同法により助成を受ける学校法人に対し、当該学校法人からその業務若しくは会計の状況に関し報告を徴する権限を有すると具体的に定めている。

イ 実施機関は、計算書類を、「教育の調査、統計その他に関し、必要な報告書」の中に含ませて解釈し、助成を受けていない専修学校にも計算書類の提出を求める根拠としている。しかし、前述したように私立学校振興助成法第12条が助成を受ける学校法人のみを対象として「その業務若しくは会計の状況に関し報告を徴することができる」と規定している以上、実施機関の前記解釈は不当である。そうでなければ、私立学校振興助成法第12条の規定は屋上屋を重ねただけの意味のない規定になってしまう。

私立学校振興助成法の前記規定は、所轄庁から助成を受けている学校法人は助成金が適正に使われていることを明らかにする義務があるので、その業務若しくは会計の状況を所轄庁に報告すべきであるとの考え方に基づくものである。助成を受けてない学校法人には、助成金の使い途がどうであるかは全く関係のないことになるので、助成金の有無で調査対象が異なることにしているのである。

ウ 実施機関が「教育の調査、統計」に学校経営にかかる収支状況や、学校法人の運営状況等も含ませて解釈しようとするが、前記私立学校振興助成法の規定から、助成金の有無を考慮せず、一律に含ませる解釈は失当である。

エ 実施機関が毎年学校法人に対し、助成金の有無を問わず、計算書類の提出を求めているのは根拠法を欠く違法なものと言わざるを得ない。少なくとも、助成を受けてない学校法人には計算書類の提示はともかく、提出を拒む権利があると理解すべきである。特に、提出した計算書類が行政文書として公開され、学校法人の経営実態をさらけ出され、競争上の地位その他正当な利益を侵害されるとなれば、尚更である。百歩譲って計算書類が公開されるのであれば、競争上の対抗処置がとれるよう、公開要求した相手方を学校法人に通知すべきである。

 (2)本件決定について

ア 実施機関は、実施機関において収集した情報は事業を営むものから収集したものであっても原則として公開すべきだとしている。しかし、実施機関も認めているように、公開情報にかかる行政文書が条例第8条第1項第1号により、社会通念に照らし、当該学校法人の競争上の地位その他正当な利益を害するもの認められるものについては非公開とすることができるのである。

イ 実施機関が、当該法人の財務状況を全て公開することは金融上、経営上の秘密などの経営ノウハウが明らかになり、その結果、ノウハウを利用されるなど競争に不利になり、学生の確保にも大きな影響を与える等、競争上の地位その他正当な利益を害するものと考えられる場合は非公開にすべきだ、とした点は正当である。

ウ しかしながら、実施機関は大科目(大科目より知りえる中科目以下の金額を含む)であれば公開しても「競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。」として、中科目以下の金額に限り前記利益を害すると区別した。

しかし、そもそも公開する計算書類の範囲について実施機関は何ら検討を加えていない。一般の民間企業を規制する会社法及び証券取引法においては、上場会社等については、「貸借対照表」・「損益計算書」に加えて、「キャッシュ・フロー計算書」の公表を義務づけている。上場会社以外では、大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上の会社)では「貸借対照表」と「損益計算書」の公表を義務づけ、「キャッシュ・フロー計算書」は含まれていない。それ以外の中小企業にあっては、「貸借対照表」だけで、「損益計算書」も「キャッシュ・フロー計算書」も公表を義務づけられていない。会社法等に基づく計算書類は学校法人の計算書類とは若干異なるが、「貸借対照表」については同じであり、「損益計算書」に比定されるものが「消費収支計算書」、「キャッシュ・フロー計算書」に比定されるものが「資金収支計算書」である。この比較で云えば、学校法人はどんなに小さくても、中小企業並みどころではなく、負債が200億円もある大会社並みでもなく、上場会社と同様の情報を公開されることとなる。学校法人といえども、特に専修学校を設置する学校法人の場合は民間企業との競争に曝されているのが通例であるから、その比較を行うべきであるのに、実施機関においてこれを行った形跡はない。

それだけではない。どんな上場会社といえども、会社全体の情報は公開が義務づけられることはあっても、事業部毎や工場毎や支店毎の情報を一般に公開することは義務づけらていないし、公表することもあり得ない。株主に対してでさえ公開してはいない。しかし、学校法人の計算書類のうち、「資金収支内訳表」・「消費収支内訳表」は、学校法人が設置する学校毎の情報が記載されている。会社で云えば、まさに工場毎・支店毎の情報である。これを公開範囲に含めると云うことは、上場会社よりも更に公表範囲を広げて詳細な情報を開示することになる。この点について実施機関が何らかの検討を行った形跡はない。

また、実施機関の主張する大科目だけなら「競争上の地位その他正当な利益を害することは認められない。」という主張も、気分として主張しただけで、具体的には何も論証していない。

例えば、民間企業の「損益計算書」であれば【売上高】という科目が、学校法人会計の「消費収支計算書」では【学生生徒等納付金】【手数料】【寄付金】【補助金】【事業収入】に区分されており、同様に「損益計算書」の【営業外収益】が、「消費収支計算書」においては、【資産運用収入】【雑収入】に区分されている。同じく「損益計算書」の【販売費一般管理費】は、「消費収支計算書」では、【人件費】【教育研究経費】【管理経費】に区分されている。端的に言って、上場会社以外で「人件費」を総額と云えども公表しているところはない。まして、内訳表まで考えれば、支店毎、工場毎の人件費となり、公表などあり得ないことである。また「資金収支計算書」の大科目【施設関係支出】は、不動産に対する設備投資を示し、【設備関係支出】は、不動産以外の設備投資の金額を示している。これも内訳表まで考えれば、工場毎に、設備投資の内容を不動産と機械・設備に区分して公表するようなものである。実施機関はこのように学校法人会計の計算書類における大科目の詳細さや特質について、何の留意もしておらず、何の検討も加えていない。

また、小規模法人においては、大科目と小科目の間に大きな差が存在しない。例えば当法人の場合、「消費収支計算書」の「消費収入の部」では、5科目のうち、小科目が複数存在するのは1科目だけである。その1科目も「学生生徒等納付金」の小科目として「授業料収入」と「入学金収入」が存在するだけである。実はこれらの小科目の金額は比較的容易に推定可能である。学校法人は募集要項を発行しているが、そこには入学金や年間の納付金が記載されている。また募集人員も記載されているから、ある程度の組み合わせで推定可能である。更に、「資金収支計算書」の大科目「前受金収入」には入学前に納められた第1期分の授業料等(募集要項には入学手続の際に納めるべき金額が明示されているのが通例である)が記載されるのが一般的であるので、3月末までの入学手続人員も把握できることになっている。また、前述したように「消費収支計算書」の支出の部では、大科目そのものが、その性質によって区分されているので、既に中科目的な存在になっている。

実施機関は以上に述べてきた事情を検討することなく、気分的に大科目の公開は「競争上の地位その他正当な利益と害するとは認められない」と主張しているにすぎない。

結局、実施機関が競争上の地位その他正当な利益を守ろうとした意図が実際には全く実現されない結果になってしまう。部分公開は実質的には全部公開であり、これは競争上の地位その他正当な利害を害するため違法である。

(3)私立学校法第47条の解釈について

ア 今回の改正で、「在学者やその他の利害関係人」から請求があった場合には「正当な理由がある場合を除いて」、これを閲覧に供しなければならない、とされた。

計算書類の閲覧には、請求者が限られ、かつ、正当な理由がある場合はこれを拒否することができることが前提で、この規定が制定されたのである。

イ 文部科学省の期待感はともかくとして、現実の法文に一定の制約があることを無視してはならない。「何人も」とも規定されていないし、「いかなる場合においても」とも規定されていない。この点を軽視することはできない。

ウ 実施機関はこの法規は条例等に運用を及ぼすものではない、と主張するが、法律無視の運用が許されるはずがない。

(4)結語       

以上のように実施機関は学校法人の財務状況の公開が競争上の地位その他正当な利益を害することを認めながらも、大科目(大科目により知り得る中科目以下の金額を含む)について部分公開を認めたことは、実質的に前記利益を害することになるので、本件決定は違法である。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね以下のとおりである。

1 学校法人の計算書類について

学校法人は、毎会計年度終了後2月以内に財産目録、貸借対照表及び収支計算書を作り、常にこれを各事務所に備え置かなければならない(私立学校法第47条)。また、専修学校のみを設置する法人(私立学校法第64条第4項の法人)が、補助金の交付を受ける場合には、当該学校法人からその業務若しくは会計の状況に関し報告を徴することができる(私立学校振興助成法第12条)。

所轄庁は、私立学校に対して、教育の調査、統計その他に関し必要な報告書の提出を求めることができる(私立学校法第6条)。ここでいう教育の調査、統計には、教育課程や校地、校舎など、直接教育にかかるものに限定されず、学校経営にかかる収支状況や学校法人の運営状況など、私立学校教育に関連の深い事項について、広く調査の対象とされているところである。実施機関においては、毎年、府内の私立専修学校・各種学校に対しては、生徒数や教員数の把握を目的とした基礎資料調査、法人に関する調査等を行っており、その他に、学校経営にかかる収支状況と法人の運営状況を調査することを目的として、学校法人の計算書類の提出を求めている。

 

2  本件行政文書について

本件行政文書のうち、異議申立人が決定の取消しを求めている部分は、当該学校法人から提出のあった計算書類のうち、平成16年度、平成17年度の、(1)資金収支計算書、(2)消費収支計算書、(3)貸借対照表である。

3 本件決定について

実施機関においては、許認可、補助、調査等の事務事業を通じて、事業を営む者の情報を収集しており、これらの情報は、事業を営む者から収集したものであっても、原則として公開すべきものとしている。

しかしながら、公開請求に係る行政文書に国、地方公共団体及び請求者以外の第三者の情報が記録されている場合は、第三者の正当な権利利益の保護を図るため、条例第17条第1項の規定に基づき、第三者の意見を事前に聴取し勘案した上で、より的確な判断を行うことが重要である。その際、条例第8条第1項第1号により、社会通念に照らし、第三者の競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことが適当である。

このような観点に照らしたところ、条例第8条第1項第1号に該当する情報にあたらない記録として公開することとしたものであり、同号に該当しないと判断した理由を以下に述べる。

学校法人は、公教育の一翼を担うものとして、その設置・運営する学校を通じて、広く府民に教育サービスを提供する主体であり、教育活動の状況や経営状況などについての情報を積極的に公開するとともに、学生やその保護者などが学校を選ぶ際に、主体的で多様な選択を適切に行うことができるように情報公開に努める責務がある。

しかしながら、当該学校法人の財務状況を全て公開することは、金融上、経営上の秘密などの経営ノウハウが明らかとなり、その結果ノウハウを利用されるなど競争に不利になり、学生の確保にも大きな影響を与えるなど、競争上の地位その他正当な利益を害するものと考えられるため、経営内容が一定明らかとなる大科目(大科目により知り得る中科目以下の金額を含む。)については公開し、中科目以下の金額(ただし、大科目により知り得る中科目以下の金額は除く。)については、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」に該当するものと判断し、非公開とした。

4 異議申立人の主張について

(1)計算書類の提出義務について

異議申立人は、大阪府から補助金を受けておらず、私立学校振興助成法に定める計算書類の提出義務を負わないと主張するとともに公にしないことを前提に提出したものであり、行政文書にはあたらないとしている。

異議申立人の計算書類は、私立学校振興助成法の規定により求めているものではなく、私立学校法第6条の規定により、学校経営にかかる収支状況や法人の運営状況を調査することを目的として提出を求めているものであり、府として公にしないことを前提に提出を求めたものではない。

また、条例において、行政文書とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書等であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものをいい、学校法人から提出された計算書類は行政文書にあたるものである。

(2)私立学校法について

異議申立人は、教育基本法において、「在学者その他の利害関係人から請求があった場合」のみ閲覧義務が課されておりそれ以外の者に対しては閲覧を拒むことができると主張している。

利害関係人に対しての閲覧については教育基本法ではなく私立学校法に規定されている。私立学校法第47条において「学校法人は、(中略)当該学校法人の設置する私立学校に在学する者その他の利害関係人から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、これを閲覧に供しなければならない。」と定めがある。これは、学校法人に対して最低限の義務を課したものであり、必ずしも利害関係人以外の者に対して閲覧に供することを禁止しているものではない。むしろ文部科学省の見解としては「(1)今回の改正内容は設置する学校の種類や数、規模等、学校法人の多様な実態を踏まえつつ、法律によりすべての学校法人に共通に義務付けるべき最低限の内容を規定したものであること。したがって、各学校法人におかれては、法律に規定する内容に加え、設置する学校の規模等、それぞれの実情に応じ、例えば学内広報やインターネット等の活用など、より積極的な対応が期待されること。」(平成16年7月23日付け16文科高第305号)となっている。さらには、この規定は条例等の運用に影響を及ぼすものではない。

(3)競争上の地位について

異議申立人は、計算書類を公開することは当該法人の競争上の地位その他正当な利害を害し、請求者が自らの情報を公開していないならばこのような請求は認められるべきではないと主張しているが、本件公開部分は大項目に限られ、その分析によって異議申立人のいう経営規模、資産運営規模、収支の均衡状態、大項目の記載の範囲内での経営方針の方向性等を把握することができるとしても、どの点に重点を置いてどのような経営方法で経営がされているかを知るためには、更に小項目をも検討しなければ、それが容易に判明するとはいい難く、部外者が財務分析を行ったとしても正確かつ細部にわたる判断は計算書類の作成者から詳細な説明を受けない限り困難であり、大項目の検討では不十分というべきである。

このことから、本件情報から得られる分析内容からは当該法人の競争上の地位を害するような異議申立人独自の経営上のノウハウ等を得ることは困難である。したがって、異議申立人の主張は当を得ないものである。

5 結論

以上のとおり、本件についての実施機関の決定は、条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適正かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 本件行政文書について

(1)私立専修学校及び私立専修学校のみを設置する学校法人に対する実施機関の関与について

学校法人は、私立学校の特性にかんがみ、その自主性を重んじ、公共性を高めることを目的とする私立学校法の規定に基づき、私立学校の設置を目的として設立される法人である(同法第1条及び第3条)。私立学校及び学校法人の所轄庁は、学校の種類に応じて定められており、私立専修学校及び私立専修学校のみを設置する学校法人の所轄庁は、いずれも都道府県知事とされている(同法第4条第2号及び第4号)。所轄庁は、私立学校に対して、教育の調査、統計その他に関し必要な報告書の提出を求めることができるとされており(同法第6条)、これを受けて、実施機関においては、毎年度、府内の全ての私立専修学校に対し、生徒数や教員数の把握を目的とした基礎資料調査や法人に関する調査を実施するほか、学校経営に係る収支状況と法人の運営状況を調査することを目的として、文部科学大臣の定める「学校法人会計基準」(昭和46年4月1日文部省令第18号)に準じた計算書類(府提出フォーム)の作成及び提出を求めている。

なお、学校法人は、毎会計年度終了後2月以内に財産目録、貸借対照表及び収支計算書(資金収支計算書及び消費収支計算書)を作成するとともに、常にこれを各事務所に備え置き、当該学校法人の設置する私立学校に在学する者その他の利害関係人から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、これを閲覧に供しなければならないこととされている(私立学校法第47条)。

また、学校法人(私立学校法第64条第4項の法人)が補助金等の助成を受ける場合、所轄庁は、助成に関し必要があると認める場合において、当該学校法人からその業務若しくは会計の状況に関し報告を徴し、又は当該職員に当該学校法人の関係者に対し質問させ、若しくはその帳簿、書類その他の物件を検査させることができ(私立学校振興助成法第12条)、当該学校法人は、文部科学大臣の定める学校法人会計基準に従い貸借対照表、収支計算書その他の財務計算に関する書類(以下「計算書類」という。)を作成し、所轄庁へ届け出なければならない(私立学校振興助成法第14条)こととされているが、異議申立人は大阪府から補助金等の助成は受けておらず、これら規定の適用を受けない。

(2)本件行政文書について

本件行政文書は、上記の実施機関の求めに応じて異議申立人が提出した計算書類のうち、平成16年度、平成17年度の貸借対照表、資金収支計算書、消費収支計算書、消費収支内訳表である。本件決定において、実施機関は、中科目以下の金額(大科目により知り得る中科目以下の金額を除く。)を除き公開することとしており、これに対し、異議申立人は、本件決定の取消しを求めている。したがって、本件における係争部分は、本件行政文書のうち、中科目以下の金額(大科目により知り得る中科目以下の金額を除く。)を除く部分である。

3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

異議申立人は、本件係争部分に記録されている情報が条例第8条第1項第1号又は同項第2号に該当すると主張するので、検討したところ、以下のとおりである。

(1)条例第8条第1項第1号について

事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

同号は、

ア 法人(国、地方公共団体、独立行政法人等、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、土地開発公社及び地方道路公社その他の公共団体を除く。)その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、

イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)

が記録された行政文書は公開しないことができる旨定めている。

本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきである。

 (2)本件係争部分の条例第8条第1項第1号該当性について

本件係争部分に記録されている情報は、法人が作成した計算書類の一部であるから、(1)アの要件に該当することは明らかである。

次に、本件係争部分に記録されている情報が(1)イに該当するかどうか検討する。

本件係争部分に記録されている情報については、計算書類という文書の性質上、異議申立人及び異議申立人が設置する私立専修学校の全般的な財務状況を把握することが可能な情報であることが認められる。また、本件係争部分に記録されている数値からは、様々な財務指標を算出することが可能であり、異議申立人の経営規模、資産構成、収支バランス等全般的な財務状況等が把握できる。

しかしながら、学校法人は、専ら教育という公益性の高い事業を行うことを目的として設立される公益法人であること、その公益的性格にかんがみ税制上の優遇措置がとられていることからすると、学校法人及びその設置する学校の全般的な財務状況に関する情報は、学生、保護者等関係者や入学志願者にとどまらず、広く府民等の正当な関心の対象となるべき情報である。

また、そもそも本件行政文書には、異議申立人の個別の取引に係る取引先や金額などの具体的な情報は記録されておらず、しかも、本件決定においては、計算書類の中科目以下の金額は、該当する中科目が1科目で大科目の金額より知り得る場合を除き非公開とされている。大科目の金額より知り得るとして金額を公開することとされている中科目は、資金収支計算書における「入学検定料収入」、「一般寄付金収入」、「受取利息・配当金収入」、「有価証券売却収入」、「その他の雑収入」、「授業料前受金収入」、「構築物支出」、「保証金支出」、「有価証券購入支出」及び「期末未払金」と消費支出計算書及び消費収支内訳表における「入学検定料」、「一般寄付金」、「受取利息・配当金」、「有価証券売却益」及び「その他の雑収入」並びに貸借対照表の「第1号基本金」であり、いずれも学校法人における費目としては一般的なものである。さらに、異議申立人は「入学金収入」と「授業料収入」の内訳が比較的容易に推定可能であることや、資金収支計算書の「前受金収入」から3月末までの入学手続人員も把握できることを指摘しているが、このような入学試験受験者や在学者、入学手続に関する概括的な人数や収支に関する情報は、通常、入試情報として公にされている募集人員や学生数、各種納付金や入学手続の内容等の情報からも大まかな推定が可能なものと考えられるものである。

以上のことを総合して判断すると、本件係争部分に記録されている情報については、公開することにより、異議申立人及びその設置する学校の全般的な財務状況が明らかとなるものではあるものの、学校法人としての公共的な性格を考慮すると、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するものとまでは言えないと認められる。

なお、この点に関連して、異議申立人は、私立学校法第47条第2項の規定により、貸借対照表及び収支計算書等の閲覧を請求できるのは当該学校法人の設置する私立学校に在学する者その他の利害関係人に限定されており、反対解釈として、異議申立人は、利害関係のない第三者への公開を拒否できると主張するが、当該規定は、学校法人自らが利害関係人に対して貸借対照表及び収支計算書等の全部を閲覧に供しなければならない旨義務づけたものであり、文部科学事務次官通知(平成16年7月23日付け16文科高第305号)において「すべての学校法人に共通に義務付けるべき最低限の内容を規定したもの」とされていることからしても、実施機関が学校法人から提出を受けた計算書類を、条例の規定に基づき一般に公開することを妨げるものではないと解される。

また、異議申立人は、本件決定により公開される情報が、一般の営利企業、特に、小規模企業に比べて詳細である旨指摘し、異議申立人のように専修学校を設置する学校法人にあっては民間企業等との競争にさらされているから、本件係争部分が公開されると、競争上の地位が害されると主張する。確かに、異議申立人が設置する(略)専修学校にあっては、一般の営利企業が経営する施設との間で一定の競争関係があると考えられるが、一方で、学校法人であることによる信頼感や税制上の優遇措置など利点があることからすると、異議申立人が指摘する公開範囲の違いをもって、直ちに異議申立人の競争上の地位が害されると言うことはできない。

以上により、本件係争部分に記録された情報は、(1)イの要件には該当しないと認められ、条例第8条第1項第1号により、公開しないこととすることはできない。

(3)条例第8条第1項第2号について

実施機関と情報提供者との信頼関係、協力関係の確保の観点から、第三者から公にしないことを条件に提供を受けた情報は、一定の要件を満たす場合については、公開しないことができることとするのが本号の趣旨である。

本号は、

ア 実?機関の要請を受けて、公にしないことを条件として任意に個人又は法人等から提供された情報であって、

イ 当該条件を付することが当該情報の性質、内容等に照らして正当であり、かつ、当該個人又は法人等の承諾なく公にすることにより、当該個人又は法人等の協力を得ることが著しく困難になると認められるもの

については、条例第8条第1項第1号に定める例外公開情報に該当するものを除き、公開しないことができる旨定めている。

(4)本件係争部分の条例第8条第1項第2号該当性について

本件行政文書は、実施機関が、私立学校法第6条の規定に基づいて提出を求めたものであるから、任意に提出を求めたものとは言い難く、仮に、異議申立人が主張するように、任意に提出したものであるとしても、実施機関と異議申立人の間で公にしないことを条件とされた事実は認められない。

以上のことから、本件係争部分に記録された情報は、(3)アの要件に該当せず、条例第8条第1項第2号により公開しないこととすることはできない。

なお、この点に関連して異議申立人は、私立学校振興助成法第14条第2項の規定に基づき計算書類を所轄庁に届け出なければならないのは補助金の交付を受ける学校法人に限られていることから、実施機関は補助金の交付を受けていない異議申立人に対し、私立学校法第6条を根拠に計算書類の提出を求めることができず、本件行政文書は異議申立人が任意に提出したものであって条例に基づく公開請求の対象となる「行政文書」には該当しない旨や、計算書類が公開されるのであれば、競争上の対抗処置がとれるよう、公開請求した相手方を異議申立人に通知すべきである旨主張する。しかしながら、条例に基づく行政文書公開制度は、実施機関が取得した文書について、根拠法令の如何を問わず公開請求の対象とするものであり、条例の非公開規定に該当しない限り、当該行政文書が公開の対象となるのは止むを得ないものである。また、公開請求を行ったのが誰であるかという情報は、一般に、条例第9条第1号又は第8条第1項第1号の非公開情報に該当するものであることからすると、請求者名の情報を異議申立人に通知することはできないものである。

4 結論

以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

 

  (主に調査審議を行った委員の氏名)

   岡村周一、曽和俊文、小松茂久、鈴木秀美

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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