大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第121号)

更新日:2009年8月5日

第一 審査会の結論

  諮問実施機関(大阪府公安委員会)の判断は妥当である。

第二 本件審査請求に至る経過

1 平成17年6月27日、審査請求人は、大阪府警察本部長(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「H16.9.16 高槻警察署 広聴相談カード 2689号」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 平成17年7月6日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、広聴相談カード(高槻警察署平成16年受理番号第2689号)(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(1)の公開しないことと決定した部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(2)のとおり付して審査請求人に通知した。

(1)公開しないことと決定した部分

 ア 相談申出者の氏名、性別、年齢、言動、関係者の名称及びこれらを特定し得る部分

 イ 警察職員の職員番号

 ウ 相談申出者の申出内容及びこれを特定し得る部分

 エ 警部補以下の警察職員の氏名及び印影

 オ 警察電話番号

(2)公開しない理由

 ア 条例第9条第1号に該当する。

本件行政文書(非公開部分)には、相談申出者の氏名、年齢等に関する情報が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。

イ 条例第8条第2項第1号に該当する。

本件行政文書(非公開部分)には、申出者の具体的な申出内容等が記載されており、これらの情報は、府民から警察に対して申し出られる広聴相談等であり、申し立てる上で、他に公表されないことが前提となっているものであり、公にすることにより、府警の広聴相談制度に対する府民の信頼が損なわれ、府民の自由な申し立てが期待できなくなるなど、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあることから同条例第8条第1項第4号に該当する。

ウ 条例第8条第2項第3号に該当する。

本件行政文書(非公開部分)には、警部補以下の警察職員の氏名及び印影が記載されており、これを公にすることにより、当該警察職員及びその家族等の生命、身体、財産等の保護に支障を及ぼすおそれがある。

エ 条例第8条第2項第1号に該当する。

本件行政文書(非公開部分)には、警察部門の事務に関する電話番号が記載されており、これは警察の連絡調整事務等に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあることから同条例第8条第1項第4号に該当する。

3 平成17年8月22日、審査請求人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第5条の規定により大阪府公安委員会(以下「諮問実施機関」という。)に対して審査請求を行った。

第三 審査請求の趣旨

広聴相談カードの部分開示ではなく、全開示を求める。

第四 審査請求人の主張要旨

(中略)

この公聴相談カードの内容、高槻警察の対応には様々な疑念を抱かざるをえないので今回のこの公聴相談カードの部分開示ではなく全開示をここに求める為に部分公開決定に対し不服を申し立てます。

第五 諮問実施機関の主張要旨

1 実施機関の意見

(1)広聴相談制度について

警察が行う広聴相談業務は、「大阪府警察広聴相談取扱規程(平成13年大阪府警察本部訓令第21号)」(以下「相談規程」という。)に基づき、府民から警察に対して申し出られる要望、苦情、相談等を適正に取り扱い、これらを業務運営に的確に反映させることにより、警察に負託された責務を全うすることを目的として行われるものである。また、相談規程第26条において、「広聴相談事案の処理に関して知り得た内容については、保秘を厳守するとともに、申出者及び関係者の名誉、信用又は社会的地位を傷つけるような不用意な言動をしないこと。」として申出者及び関係者のプライバシー等の権利利益を特に保護すべきことと明記されるなど、広聴相談事案を適切に処理するためには、警察と申出者等との信頼関係が不可欠であることを定めている。

(2)広聴相談カードの作成について

広聴相談カードの作成については、相談規程に基づき作成することとしており、要旨は以下のとおりである。

ア 受理

大阪府警察職員は、広聴相談事案の申出があったときは、これを受理するものとする。

イ 作成

広聴相談事案を受理したときは、広聴相談カードを作成しなければならない。

(3)広聴相談カードの記載事項について

  広聴相談カードは、次の事項を記載することとされている。

ア 受理所属

イ 処理所属

ウ 基礎コード(西暦、所属、受理番号、申出)

エ 決裁・受理(所属長、副署長・次長等)

オ 決裁・処理(所属長、副署長・次長)

カ 受理者(課、係、階級、氏名、警電、職員番号)

キ 処理者(課、係、階級、氏名、警電、職員番号)

ク 受理日時(年、月、日、曜日、時間)

ケ 受理態様(来訪、電話、文書、FAX、Eメール、署(所)外活動)

コ 申出種別(1相談(警察相談、要望意見、感謝激励、事件情報、その他)、苦情 2分類コード)

サ 件名

シ 申出者(住所、氏名、性別、生年月日、年齢、職業、電話、備考)

ス 関係者(住所、氏名、性別、生年月日、年齢、職業、電話、備考)

セ 関係企業(所在地、企業名、電話等、備考)

ソ 処理状況(自所属処理(所属内引継ぎ、月日、係、担当者)、移送(月日、署・課、係、担当者)、結果(検挙、行政処分、補導、指導・助言、警告・説得、他機関教示、手配等措置、その他(執務参考、打切り))、苦情完結、申出者への回答(月日(面接、電話、文書)、不要、不能))

タ 備考

チ 完結日

ツ 経過決裁印

テ 項目

ト 申出内容・処理経過等

(4)本件行政文書について

本件行政文書は、高槻警察署に所属する警察職員作成に係る広聴相談カードであり、記載項目は、受理所属、基礎コード、決裁・受理、受理者、受理日時、受理態様、申出種別、件名、申出者(氏名)、関係者(氏名)、処理状況、完結日、申出内容、処理経過等である。

なお、本件行政文書は、広聴相談のうち申出種別が、相談規程第2条の警察相談であり、相談申出者から契約取引に関する相談を受理し、作成したものである。

(5)条例第9条第1号に該当することについて

個人の尊厳の確保、基本的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。特に個人のプライバシーは、一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすことにかんがみ、条例は、その前文において、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」することを明記し、条例第5条において、「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものを、みだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」ことを定めている。

そして、条例第9条第1号においては、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもの(以下「個人識別情報」という。)のうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」については、「公開してはならない情報」として公開を禁止するという基本原則が明確に定められている。

本号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」とは、一般に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいい、この「正当と認められるもの」の判断に当たっては、客観的に明白である場合を除き、条例第5条の規定の趣旨に十分配慮し、プライバシーの侵害のないよう特に慎重に取り扱うことが要請されている。

以下、本号に該当する理由を述べることとする。

ア 公開しないことと決定した部分

(ア)相談申出者の氏名、性別、年齢、言動、関係者の名称及びこれらを特定し得る部分並びに警察職員の職員番号

(イ)相談申出者の申出内容及びこれを特定し得る部分

イ 理由

本件非公開部分のうち、相談申出者の氏名、性別、年齢、関係者の名称及びこれらを特定し得る部分には、個人のプライバシーに関する情報であり特定個人が直接識別され得る情報が記載されている。

また、「申出内容・処理経過等」欄の本件非公開部分には、相談申出者の具体的言動や相談申出者の言動を踏まえた警察職員の教示内容が記載されており、これらは全て個人(相談申出者)の内心、心情等に関する情報である。

更に、本件非公開部分には、大阪府警察職員の職員番号が記載されており、これは職員個人を特定し得る情報であって、職員が、個人の認証、人事給与、決裁等の業務の基本的な番号として使用しており、共済組合員証の番号の一部にもなっていることから、職員個人の職務の正常な遂行や取引の安全等を害するおそれがある情報である。

したがって、これらは、個人識別情報のうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものである。

(6)条例第8条第2項第1号に該当することについて

条例第8条第2項第1号は、条例の適用除外事項として「前項第1号から第4号までのいずれかに該当する情報」を規定している。本件非公開部分は、条例第8条第1項第4号に該当するものである。

この趣旨は、行政が行う事務事業において、公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすものがあるところから、このような支障を防止するため、これらの情報については、公開しないことができるというものである。

以下、本件非公開部分が本号に該当する理由を述べることとする。

ア 公開しないことと決定した部分

(ア)相談申出者の申出内容及びこれを特定し得る部分

(イ)警察電話番号

イ 理由

本件非公開部分には、相談申出者の具体的な申出内容等が記載されており、これらは、相談の内容及び受理した警察職員からの教示内容を記録したものである。

これらの情報は、府民から警察に対して申し出られる相談であり、申し立てる上で、他に公表されないことが前提となっているものである。警察相談の業務は通常相談申出者を含む関係者の人権等の権利利益が尊重され、かつ、秘密の厳守を図られるという信頼関係の下に成り立つものであることから、公にすることにより、府民との信頼関係が損なわれるおそれがあり、今後、相談を行おうとする者が相談を躊躇するなど、相談事務の適正な遂行に著しく支障を及ぼすおそれが認められるから、事務執行支障情報に該当する。

次に、本件非公開部分には、警察部内の連絡調整事務等に関する警察電話番号が記載されており、警察の捜査や事務を妨害しようとする者が、電話を架け続ける等の妨害を行う等、これがなされることにより、当該警察の連絡調整事務等の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれが認められるから、事務執行支障情報に該当する。

(7)条例第8条第2項第3号に該当することについて

条例第8条第2項第3号は、「前2号に掲げるもののほか、公にすることにより、個人の生命、身体、財産等の保護に支障を及ぼすおそれがある情報が記録されている行政文書を公開しないことができる。」と規定している。これは、個人の生命、身体及び財産の保護に任じる警察業務の特殊性(警察法第2条第1項)と保護すべき利益の重要性から、他の適用除外事項では非公開とすることができない情報について、警察独自の適用除外事項として定めたものである。したがって、本号を適用して公開しないことができるのは、警察業務を通じて作成又は入手した情報の中でも、個人の生命、身体、財産等の保護に影響し得るものであって、当該情報を公開することにより、これらの「保護に支障を及ぼすおそれ」の程度が、法的保護に値する蓋然性のある場合に限られる。

以下、本件非公開部分が本号に該当する理由を述べることとする。

ア 公開しないことと決定した部分

警部補以下の警察職員の氏名及び印影

イ 理由

警察業務は、「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当たることをもってその責務とする。」(警察法第2条)とあるとおり、犯罪捜査及び警察規制等を目的としている。そして、刑事訴訟法の規定に基づき、犯罪捜査権は主として警察官によって行使されることが予定されており、また、警察官職務執行法その他の法令の規定に基づき、実力行使等の行政上の権限が警察官に与えられているところから、警察官は、犯行現場や警察規制の現場等で、直接被疑者や被規制者と対峙して、逮捕や規制の結果を直接かつ強制的に実現することとなる等、その職務は、その相手方個人や組織から反発、反感を招きやすいものである。

また、警察職員の配置を含む警察業務に関する情報は、一般市民にとっては些細な情報であっても、犯罪の実行や警察官に対する報復を目論む個人や組織にとっては、貴重な情報となることがあり、そのような情報が犯罪組織等に入手されることを防止する必要がある。

以上、警察の業務は、相手方からの反発、反感を招きやすく、警察職員が攻撃や懐柔の対象とされるおそれが高いものである。

したがって、警察職員の氏名・印影を公にすることにより、個人が特定され、警察職員であるが故に本人や家族が襲撃等の危害を加えられるおそれがあり、ひいては、公共の安全や秩序の維持に支障が生じるおそれがあることから、公にできないところであるが、特に警察職員のうち警部補以下の場合は、

・ 現に職務質問等の街頭警察活動や犯罪の捜査に従事している

・ 重要事件等発生時にはこれらの職務に従事することが予想される

・ 所属内での配置変更等により、これらの職務に従事することが予想される

・ 以前にこれらの職務に従事していたことがある

ことから、氏名又は印影を非公開とされる必要があるというべきである。

なお、警部以上の警察職員については、慣行として公にされてきたものである。

(8)審査請求人の主張について

審査請求人は、広聴相談カードの内容に不審な点があり、広聴相談カードの中身を確かめる為に全面公開を求める旨主張しているが、審査請求人の主張は、本件行政文書の記載内容の事実関係に関しての主張であって、条例第8条及び第9条の規定の該当の有無に関するものではなく、失当である。

(9)実施機関の結論

以上のとおり、本件決定は条例の趣旨を踏まえて行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

2 諮問実施機関のまとめ

本件決定のうち、審査請求人が公開を求めている部分にかかる情報は、条例第8条第2項第1号に規定する事務執行支障情報、同項第3号に規定する個人の生命、身体、財産の保護に支障を及ぼす情報、及び条例第9条第1号に規定する個人識別情報のうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報に該当するものと考えるところである。

第六  審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

2 広聴相談制度及び本件行政文書について

実施機関の説明により次のとおり認められる。

(1)広聴相談制度について

実施機関における広聴相談制度は、府民から申し出られる要望、苦情、相談等を適正に取り扱い、これらを業務運営に的確に反映させ、実施機関に負託された責務を全うすることを目的として行われており、実施機関の職員は、これら広聴相談事案の申出があったときは、これを受理するとともに、「広聴相談カード」を作成し、速やかに所属長に報告するものとされている。

また、広聴相談制度において受理する相談の種別には、警察に対する要望、意見、陳情、苦情、情報、感謝等の相談の他に、府民が安全で平穏な生活を営む上での障害又は生活の安全に関する問題について、警察にその解決等を求める警察相談があり、実施機関が本件行政文書を作成することとなった審査請求人からの申し出については、契約取引に関する相談であることから警察相談として処理されている。

(2)本件行政文書について

本件行政文書は、大阪府高槻警察署において、実施機関の職員が審査請求人からの広聴相談の申し出を受理した際、相談規程第12条に定める様式により作成した「広聴相談カード」である。記録された内容は、「契約取引に関する相談」で、安全で平穏な生活を営む上での障害に関する問題について、警察に解決等を求める内容である。

3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

(1)本件係争部分について

実施機関は、本件決定において非公開とされた部分について、件名及び申出者並びに関係者欄に記録された「相談申出者の氏名、性別、年齢、言動、関係者の名称及びこれらを特定し得る部分」及び受理者欄に記録された「警察職員の職員番号」並びに申出内容・処理経過等欄に記録された「相談申出者の申出内容及びこれを特定し得る部分」は条例第9条第1号に該当し、申出内容・処理経過等欄に記録された「相談申出者の申出内容及びこれを特定し得る部分」及び受理者欄に記録された「警察電話番号」は条例第8条第2項第1号(条例第8条第1項第4号に該当する情報)に該当し、受理者欄及び受理欄に記録された「警部補以下の警察職員の氏名及び印影」は条例第8条第2項第3号に該当すると主張するので、以下検討する。

(2)条例第9条第1号について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、条例第5条においては、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨を規定している。

本号は、このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。

同号は、

ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、

イ 特定の個人が識別され得るもののうち、

ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記載されている行政文書を公開してはならない旨定めている。

(3)条例第9条第1号該当性について

ア 「相談申出者の氏名、性別、年齢、言動、関係者の名称及びこれらを特定し得る部分」及び「相談申出者の申出内容及びこれを特定し得る部分」

本項の非公開部分に記載されている情報は、特定の個人がその私生活上の問題の解決を求めて警察に対して行った相談に関する情報であり、上記(2)ア及びイの要件に該当することは明らかである。

このような警察に対する相談は、住民が犯罪行為等による被害に遭った際の最後の拠り所として行うものであり、特定の個人が警察の機関に相談したという事実やその相談内容及び処理経過は、通常、他人に知られたくないと望むことが正当であると認められることから、(2)ウの要件にも該当し、条例第9条第1号に該当する。

また、このような情報は、個人の私生活に関する情報の中でもとりわけ機微にわたる情報として、誰からも当該相談申出者を特定されるおそれのないような概括的な情報を除けば、条例第10条の規定に基づく部分公開もできないというべきである。

審査会において、本件行政文書を見分したところ、相談の内容が、「契約取引に関する相談」であるといった情報や、警察職員からの回答に関する概括的な情報は、既に公開されており、それ以上に部分公開が可能な情報は含まれていないと認められるので、本項の非公開部分を公開しないこととした実施機関の判断は妥当である。

イ 「警察職員の職員番号」

本項の非公開部分に記録されている職員番号は、大阪府警察職員が、個人の認証、人事給与、決裁等の業務の基本的な番号として使用しているものであって、共済組合員証の番号の一部にもなっているものであることから、(2)ア及びイの要件に該当する。

また、このような職員番号を公にすると、職員個人の職務の正常な遂行や取引の安全等を害するおそれがあるから、(2)ウの要件にも該当すると認められる。

以上のことから、本項の非公開部分に記録されている情報は、本号に該当すると認められる。

(4)条例第8条第2項第1号について

本号は、条例第8条第1項第1号から同項第4号までのいずれかに該当する情報が記録されている行政文書を公開しないことができると規定しており、本件決定において実施機関は条例第8条第1項第4号に該当するものとして本号を適用している。

行政が行う事務事業に係る情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれのあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすものもある。このような支障を防止するため、これらの情報については、公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第4号の趣旨である。

同号は、

ア 府の機関の又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、

イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

については、公開しないことができる旨定めている。

(5)条例第8条第2項第1号該当性について

ア 「相談申出者の申出内容及びこれを特定し得る部分」

本項の非公開部分には、上述のとおり、相談申出者から実施機関に対してなされた相談内容が記録されている。具体的には相談申出者からの申出をもとに、契約取引に関する相談内容や相談申出者からの言動及び対応した警察職員の回答内容が記録されている。

これらの情報は、実施機関が、府民から警察に対して申し出られる要望、苦情、相談等を適正に取り扱い、これらを業務運営に的確に反映させることにより、警察に負託された責務を全うすることを目的として行っている相談業務を通じて得た情報であり、(4)アの要件に該当する。

また、本項の非公開部分に記録されている情報が、(4)イの要件に該当するか否かを検討するに、実施機関の行う相談業務は、府民が犯罪行為等による被害を受けた際の最後の拠り所となっているものであることからすると、秘密の厳守という信頼関係の下に成り立つものであることは明らかであり、その申出内容等が特定される情報を公にすると、相談者との信頼関係が損なわれることとなり、今後、相談を行おうとする者が相談を躊躇するなど、相談に関する事務の公正かつ適切な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとともに、実施機関における犯罪の防止や捜査に必要な情報が得られなくなるなど当該事務の目的が達成できなくなるおそれがあると認められ、(4)イの要件にも該当する。

以上のことから、本項の非公開部分に記録されている情報は、条例第8条第1項第4号に該当するものとして、本号に該当すると認められる。

イ 「警察電話番号」

本項の非公開部分に記録されている警察電話番号は、警察部内の連絡調整等の事務に利用される警察電話の番号であり、ア(ア)の要件に該当すると認められる。

次に、本項の非公開部分に記録されている情報が、(4)イの要件に該当するか否かを検討するに、警察電話は、警察部内における連絡調整等を円滑に行うための専用電話として設置されているものであり、通常一般には利用ができないものであるが、審査会において実施機関から聴取した警察電話の設置状況等に照らせば、外部の者が、電話をかけ続ける等の妨害を行うことが不可能ではないことが認められる。

一方、警察の活動においては、種々の犯罪者や犯罪組織が取締りや捜査の対象となるものであり、外部から警察の活動の妨害を企図する者が現れることも考えられないではない。

このような事情の下で、本項の非公開部分に記録されている警察電話番号を公開すると、外部から当該電話番号に電話かけ続ける等の妨害を容易にし、警察部内における連絡調整等を円滑に行うという警察電話の設置の目的が達成できなくなるおそれがあることから、(4)イの要件にも該当すると認められる。

以上のことから、本項の非公開部分に記載されている情報は、条例第8条第1項第4号に該当するものとして、本号に該当すると認められる。

(6)条例第8条第2項第3号について

警察が保有する情報の中には、個人の生命、身体及び財産の保護に任じる警察業務の特殊性(警察法第2条第1項)から、条例第8条第2項第1号及び同項第2号に該当しない場合であっても、公開すると、個人の生命、身体、財産等の保護に支障を及ぼすおそれのあるものがある。そうした事態を防止するため、これらの保護に支障を及ぼすおそれがある情報を公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

本号は、条例第8条第2項第1号及び同項第2号に掲げるもののほか、公にすることにより、個人の生命、身体、財産等の保護に支障を及ぼすおそれがある情報が記録されている行政文書を公開しないことができると規定している。

(7)条例第8条第2項第3号該当性について

本件決定において、本号に該当するとして非公開とされた情報は、広聴相談を受理した警部補以下の警察職員の氏名及び決裁欄に押印された警部補以下の印影である。

一般に、警察職員は、他の公務員とは異なり、犯罪捜査や警察規制に係る取締りに従事することを本分としており、犯罪捜査や取締りの現場において、相手方の反発・反感を招きやすい立場にあることから、その氏名や氏名が特定され得る情報が公開されると、当該警察職員が過去に従事した犯罪捜査等の関係者など警察職員を標的とする人物等からの加害行為を容易にし、当該職員だけでなく、その家族に対しても脅迫や嫌がらせ等の危害が及ぶおそれがあると認められる。

本件係争部分に記載された警察職員の氏名及び印影は、常時犯罪捜査等に従事する部署に勤務する警部補以下の警察職員に係るものであり、公にすることにより当該警察職員等への加害行為を容易にし、その生命、身体、財産等の保護に支障を及ぼすと認められる。

以上のことから、本件係争部分に記録されている警部補以下の警察職員の氏名及び印影については、本号に該当し、公開しないことができる情報であると認められる。

4 審査請求人のその他の主張について

審査請求人は、本件審査請求において、本件請求に係る行政文書が審査請求人自身に係る文書であること、また、本件請求に係る広聴相談カードの記載内容について種々疑義があることを主張して、本件請求に係る行政文書の開示を強く求めている。しかしながら、条例においては、「何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる。」(条例第6条)と規定して請求者を何ら区別することなく行政文書の公開を請求する権利を付与しており、第8条及び第9条に規定する公開・非公開の基準においても、請求者が本人である場合について特則を設けず、個人情報の本人開示に不可欠な本人確認の手続きも定めていない。また、大阪府では、昭和59年に制定された公文書公開等条例(昭和59年大阪府条例第2号)においては、一般の公文書の公開に加えて、公文書の本人開示に係る規定が置かれていた(同条例第17条)が、平成8年に個人情報保護条例(平成8年大阪府条例第2号)が制定され、同条例に自己に関する個人情報の開示の規定が設けられたことから、公文書公開等条例の公文書の本人開示に係る規定が削除された経緯もある。

これらのことからすると、条例に基づく行政文書公開制度においては、請求者が誰であるかによって、公開・非公開等の決定内容に差異を設けることはできないのであり、その公開請求に係る行政文書が請求者の個人情報を記録したものであるからといって、他の請求者と異なる公開決定を行うことはできない。

なお、本件請求に係る行政文書については、現時点では、警察本部長が大阪府個人情報保護条例の実施機関となっていないため、同条例に基づく自己に関する個人情報の開示を求めることはできないが、平成18年4月1日以降、警察本部長が同条例の実施機関となることが既に決まっている。実施機関においては、このような事情も踏まえつつ、当事者である審査請求人に対して、可能な範囲で説明するなど、審査請求人が主張する疑義の解消に、引き続き努力されることを期待するものである。

5 結論

以上のとおりであるから、本件審査請求には理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

(主に調査審議を行った委員の氏名)

塚本美彌子、福井逸治、小松茂久、鈴木秀美

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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