大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第115号)

更新日:2009年8月5日

第一 審査会の結論

 実施機関は、本件異議申立てに係る部分公開決定において公開しないことと決定した部分のうち、「(4)関係施設・関係機関等に対する普及啓発及び研修」及び「(6)連絡協議会等の開催状況」の非公開部分を公開すべきである。

 実施機関のその余の判断は妥当である。

第二 異議申立ての経過

1 平成17年5月26日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「H16年度自閉症・発達障害支援センター事業実施報告書」についての行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 同年6月24日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、「平成16年度自閉症・発達障害支援センター事業実施状況報告」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、下記(1)に掲げる部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を下記(2)のとおり付して異議申立人に通知した。

(1)公開しないことと決定した部分

ア 「(4)関係施設・関係機関等に対する普及啓発及び研修」のうち、対象者が在籍又は利用している学校又は施設の名称

イ 「(5)個別支援のための調整会議等の開催状況」のうち、対象者の年齢・性別、対象者が在籍又は利用している学校又は施設の名称

ウ 「(6)連絡協議会等の開催状況」のうち、対象者が在籍又は利用している学校又は施設の名称

(2)公開しない理由

大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する。

本件対象文書(非公開部分)には、対象者の年齢、性別及び対象者が利用する施設名等が記録されており、これらを公にすることによって、対象者本人が支援の参加者や内容等を知り得るところとなり、当該事業対象者の指導・養育に関する事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

3 同年7月11日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

第三 異議申立ての趣旨

本件決定の取り消しを求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は概ね次のとおりである。

1 条例第8条第1項第4号に該当しない。

(1)不開示にすることによって、自閉症・発達障害支援センターの活動状況が分からなくなる。秩父学園主催の自閉症・発達障害支援センター職員研修会の講師になったり、厚生労働省の検討会に呼ばれたりして、自閉症・発達障害支援センターの活動状況を説明している。不開示情報があるというのであれば、自閉症・発達障害支援センターの活動状況を厚生労働省主催の発達障害支援に関する勉強会に参加を要請されたからといって、報告すべきではない。厚生労働省主催の発達障害に関する勉強会の資料は、オープンになっている。不開示情報を入れないで、作成している自閉症・発達障害支援センターもある。

情報公開をすれば入手することができる資料は、一般に誰しもが入手することができる資料ということができる。

(2)支援内容は、自閉症・発達障害支援センター報告書の中にはない。事実が報告されていることの証明をする責任は、大阪府にある。

厚生労働省の定めた文書を作成したからといって、支援内容を公表しているとはいわない。厚生労働省に提出した文書には、個別支援計画(個別援助計画)の内容が記載されていない。厚生労働科学研究「知的障害児・者の障害認定の基準と入所判定に関する研究」で示された大阪府職員が作成したアセスメント票を確認していただきたい。大阪府の職員がアセスメント票を公表して、支援の方法を提示しているにもかかわらず、それに対応しない厚生労働省へ提出した文書でもって、支援内容を公表したと主張するのは、自閉症児支援の後退を意味する。アセスメント票を作成する力が自閉症・発達障害支援センター職員になければ、大阪府が自閉症・発達障害支援センターを運営すればよいのである。自閉症児の支援内容を理解する研修を大阪府の職員は受けているのかが、問題となる。自閉症児に関して、適切に支援がなされていることの確認を大阪府職員がどのように実施しているのかを、大阪府財務規則第69条にそって、明らかにしていただきたい。

(3)民間福祉法人が、厚生労働省が予定している、適切な事業を実施できるはずはない。委託をしている大阪府の責任において、自閉症・発達障害支援センターの報告書は作られている。報告書が不開示にされると、本来報告書が持つ意味がなくなってしまう。

福岡県で発生した社会福祉法人の不祥事の原因は、福岡県職員が、自閉症者に対する虐待を支援と思っていたということである。このようなことは、大阪府でも発生する可能性がある。厚生労働省へ提出する文書とは別に、個別支援の内容、その結果を記載した文書を提出するような契約書を作成すべきである。さらに、福岡県で発生した社会福祉法人のあり方から教訓を得て、自閉症・発達障害支援センター事業に関しての第三者評価文書を添付する等の文言を含む契約書を作成し、自閉症児の権利利益を優先する支援システムを考えていただきたい。

2 自閉症・発達障害支援センター職員の職務について

大阪府は自閉症・発達障害支援センター職員の療育経験を不開示にしている。どのような機関での経験かも明らかにしていない。療育プログラムを作成した経験があるのかも明らかにしていない。個別教育計画を作成した経験があるのかも明らかにしていない。実践レポートを作成しているのかも明らかにしていない。大阪府は、療育経験を有しているから、どのような機関・施設に対しても、指導することができると主張しているようである。大阪府は、自閉症・発達障害支援センター職員の療育支援能力について一切明らかにせず、療育に関する事業の公正かつ効果的な実施に大きな影響を及ぼすおそれがあると主張する。

氏名を明らかにしないで、療育経験を明らかにしない自閉症・発達障害支援センター職員が、自閉症児の教育プログラムを作れないことが問題である。大阪府は、適切に事業を実施していると主張するが、自閉症児・保護者に事業結果評価の調査をし、自閉症児・保護者の意見を聴取してから、適切な事業を実施していると主張していただきたい。

このような情報公開請求に対する不開示理由は、自閉症・発達障害支援センター職員による相談・療育支援活動は、十分に効果をあげているという資料を提供することによって、議論を回避することが出来る。

3 学校での事例について

大阪府は、学校に対して支援をしていると主張しているが、学校での発達障害児に対する教育状況を明らかにして、支援の必要性を説明すべきである。

大阪府は、大阪府立養護学校を設置している。市町村が設置している特殊学級もある。そこで働いている教諭は、障害のある児童に対して、専門的な知見を活用して、特殊教育を実施している。教諭一人当たり経費は、1000〜800万といわれている。自閉症・発達障害支援センター職員経費は、500万以下である。障害教育の専門職として働いている教諭に対して、自閉症・発達障害支援センター職員が支援するということは、考えられないことである。大阪府は、大きな勘違いをしているように思われる。自閉症・発達障害支援センターは、形式を整える為に、「指導、療育」をしているように思われる。

4 学校での支援について

疑問点は、大阪府は、学校数育と施設援助を同じと思っているのか?匿名性の確保を主張する自閉症・発達障害支援センター職員から支援(指導)される教諭は、単に、自閉症理解に関する勉強を十分にしていないということである。怪しげな療育が行われるおそれがあることも否定できない。教育、療育が不適切で、不安定になる自閉症児は、多くいる。その結果、不登校になる場合もある。このことは、多くの研究で明らかになってきていると思われる。大阪府が例示した不登校になっている児童の心身状況を把握すると、発達障害児が多く含まれていることが明らかになると思われる。さらに、最近の調査によると、虐待を受けている児童のかなりの割合が、発達障害児であることが明らかになってきている。大阪府の学校にも当てはまると思われる。

自閉症児に対してどのような教育環境が提供されているのかを確認していただきたい。個別教育計画が作成されているのかどうかを確認していただきたい。適切な初期アセスメントを実施しているのかを確認していただきたい。情緒が不安定になる自閉症児等の心身状況を改善できないのが現状である。このことに対して、適切な教育対応ができていない現状であるので、学校名を非開示にしていると考える。自閉症・発達障害支援センター職員が指導・支援をすることによって、情緒の安定がもたらされているのか、説明をしていただきたい。事業実施状況報告書には、結論の部分が記載されていない。異議申立人は、これを問題にしている。

5 大阪府の職員が参加している厚生労働科学研究について

平成16年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究)「被虐待児の医学的総合治療システムに関する研究」に分担研究者として、大阪府立母子保健総合医療センター職員が参加している。

分担研究タイトルは、

(1)被虐待児に対応するための病院内及び地域医療システムのあり方に関する研究

(2)被虐待児への医学的総合治療システムのあり方に関する研究

である。

そのほかに、研究協力者として参加している研究タイトルは、

(1)被虐待児と家族への医療における在宅ケアのあり方に関する研究

(2)虐待によって生じる精神病理をふまえた被虐待児の包括的治療に関する研究。

このようなことから、大阪府の職員は、この研究に深く関わっていると考えることができる。

この研究では事例検討がなされている。倫理面への配慮として、各々の研究は、それぞれの施設の倫理委員会において承認を得た。また取り上げた症例はいずれも公表の許可を得ており、そのうえで、匿名性を守る為に大幅な内容の変更を行っていると説明をしている。

しかしながら、公開している事例は、深刻なものも多く、被虐待児の承諾を得ているとは考えられない。文書にて、厚生労働科学研究の説明をして、被虐待児からの承諾を得て、そのうえ、虐待している保護者から承諾を得ているとは考えられない。特に、被虐待児の57パーセントに何らかの発達障害診断が可能であると説明がある以上、発達障害を有する被虐待児からの承諾を得ていないと考えるのが自然である。何らかの精神症状のあるために、虐待を行った親のカルテを作ったのは、15パーセントあったと説明をしている。

事例の匿名性を確保する為に細部を改変しているとしているが、離婚理由、妻が離婚申し立てをしたということ、母親の新しい恋人等論文として、必要としない記述が削除されずに、登載されている。大阪府は、このことを分担研究者に確認をする必要がある。大阪府からの虐待事例の提供は平成16年度の研究ではないようであるが、問題が生じるおそれがある。

6 発達障害児について

厚生労働省は、本年4月から発達障害者支援法が施行されているが、発達障害児の定義をしていない。発達障害と医学診断された児童が、発達障害者支援法上の発達障害児ではない。大阪府も、発達障害者支援法上の発達障害児の定義をしていない。日常生活に制限を受けている、社会生活に制限を受けていることの判定基準が示されていないから、都道府県も対応に苦慮している。法律ができたのだから、その法律の対象となる発達障害児はいるだろうということはできるが、その児童は誰かについては、未定の状態である。それゆえ、大阪府が主張する、発達障害児が在籍しない多数の教員が授業の調査研究等のために多数来校することにはならない。

さらに、文部科学省の見解では、通常学級に在籍する発達障害を有すると考えられる児童・生徒の割合は、6.3パーセントである。つまり、多くの学校には、発達障害児童・生徒がいるということである。発達障害を有すると考えられる児童・生徒が在籍していると考えられる学校は、20人以上の児童・生徒が在籍している学校である。児童・生徒数が20人以下の学校数を確認すれば、「当該学校における授業に支障」が出ないことは明白である。

自閉症・発達障害支援センター職員の支援によって、自閉症児の状態が著しく改善を図ることができたのであれば、それは、保護者の口コミで周知の事実になっていると思われる。残念なことではあるが、そのようなことにはなっていない。

7 結論

条例第8条第1項第4号に該当しないので、非公開とした部分を公開していただきたい。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね次のとおりである。

1 自閉症・発達障害支援センター運営事業について

(1)事業の概要

自閉症・発達障害支援センター運営事業は、厚生労働省の国庫補助対象事業であり、「自閉症・発達障害支援センター運営事業実施要綱」(平成14年9月10日付け厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知。以下「実施要綱」という。)において、概ね次のとおり定められている。

ア 目的

支援センターは、自閉症等の特有な発達障害を有する障害児(者)(以下「自閉症児(者)等」という。)に対する支援を総合的に行う地域の拠点として、自閉症等に関する各般の問題について自閉症児(者)等及びその家族からの相談に応じ、適切な指導又は助言を行うとともに、関係施設との連携強化等により、自閉症児(者)等に対する地域における総合的な支援体制の整備を推進し、もって、これらの自閉症児(者)等及びその家族の福祉の向上を図ることを目的とする。

イ 実施主体

実施主体は、都道府県又は指定都市(以下「都道府県等」という。)とする。なお、都道府県等は、支援センターの行う事業の全部又は一部について、自閉症児施設、知的障害児施設、知的障害者更生施設、知的障害者授産施設その他都道府県等が適当と認める施設(以下「自閉症児施設等」という。)を経営する地方公共団体、民法第34条の規定により設立された法人及び社会福祉法人に委託することができる。

ウ 支援センターを附置する施設の選定

都道府県等は、自閉症児施設等の中から支援センターを附置する施設を選定するものとする。

エ 支援センターの利用対象者

自閉症等の特有な発達障害を有する障害児(者)とその家族を対象とする。

オ 事業の内容

支援センターにおいては、地域の自閉症児(者)等を支援するため、概ね次に定める事業を実施する。

(ア)自閉症児(者)等及びその家族等に対する相談支援と情報提供を行う。

(イ)自閉症児(者)等及びその家族等に対する療育相談を実施し、家庭での療育方法に関する指導又は助言、情報提供等を行う。

(ウ)自閉症児(者)等及びその家族等に対して、就労に向けて必要な相談等による支援を行い、必要に応じて公共職業安定所、地域障害者職業センター等との連絡・調整を図る。

(エ)関係施設及び関係機関等に対する普及啓発及び研修を行う。

(2)実施機関における支援センター事業への取組み

実施機関は、平成14年度から、社会福祉法人北摂杉の子会(以下「本件法人」という。)に支援センターとして行う事業を委託実施しており、その内容については、次のとおりである。

ア 事業目的

大阪府自閉症・発達障害支援センターを設置し、大阪府内における在宅の自閉症等の特有な発達障害を有する障害児(者)とその家族を対象に、相談・療育・就労の支援を行うとともに、関係施設・関係機関との連携強化等により、自閉症児(者)等に対する地域における総合的な支援体制の整備を推進し、もってこれらの自閉症児(者)等及びその家族の福祉の向上を図る。

イ 委託事業名  大阪府自閉症・発達障害支援センター運営事業

ウ 委託期間   平成16年4月1日〜平成17年3月31日

エ 委託内容

(ア)自閉症児(者)等及びその家族等に対する相談支援と情報提供を行う。

(イ)自閉症児(者)等及びその家族等に対する療育相談を実施し、家庭での療育方法に関する指導又は助言、情報提供を行う。

(ウ)自閉症児(者)等及びその家族等に対して、就労に向けて必要な相談等による支援を行い、必要に応じて公共職業安定所、地域障害者職業センター等との連絡・調整を図る。

(エ)ガイドヘルパー及びホームヘルパーに対する研修会の実施並びに自閉症の人の余暇支援ボランティアの養成セミナーの実施

(オ)関係施設及び関係機関等に対する普及啓発及び研修

2 本件行政文書について

本件行政文書は、「大阪府自閉症・発達障害支援センター運営事業委託契約書」第7条の規定により、平成17年4月28日付けで、本件法人から提出された精算書の添付書類の一部であり、本件行政文書は次の(1)〜(6)の項目により構成されている。

(1)自閉症児(者)等及びその家族に対する相談支援事業における事業実施状況

対象者の年齢、性別、本人・家族等の別、延支援回数、期間、分野、相談要旨、対応・所見について記載している。当該部分で公開しないことと決定した部分は存在しない。

(2)自閉症児(者)等に対する療育支援事業における事業実施状況

対象者の年齢、性別、延支援回数、期間、主なプログラムについて記載している。当該部分で公開しないことと決定した部分は存在しない。

(3)自閉症児(者)等に対する就労支援事業における事業実施状況

対象者の年齢、性別、延支援回数、期間、支援テーマ、支援内容について記載している。当該部分で公開しないことと決定した部分は存在しない。

(4)関係施設・関係機関等に対する普及啓発及び研修に関する事業実施状況

対象機関、対象者数、啓発・研修、実施期間、事業内容について記載している。

ただし、対象者が在籍又は利用している特定の学校名又は施設名については、公開しないこととした。

(5)個別支援のための調整会議等の開催状況

対象者の年齢、性別、開催時期、参加者、検討テーマについて記載している。

ただし、対象者の年齢、性別や特定の学校名及び施設名については、公開しないこととした。

(6)連絡調整会等の開催状況

開催時期、参加機関、協議事項について記載している。

ただし、対象者が在籍又は利用している特定の学校名については、公開しないこととした。

3 本件決定の適法性について

(1)条例第8条第1項第4号について

本号は、「府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」に該当する情報については、公開しないことができる旨規定している。

(2)本件非公開部分が第8条第1項第4号に該当することについて

本件行政文書(非公開部分)には、対象者の年齢、性別及び対象者が利用する施設名等が記録されており、これらを公にすることによって、対象者本人が療育を受けていることを第三者に知られることに強い嫌悪感を抱き、当該事業対象者の指導・養育に関する事業の公正かつ効果的な実施に大きな影響を及ぼす恐れがある。

というのは、ADHD(注意欠陥・多動性障害)のある発達障害児などの自閉症児(者)は、体調が日々変化することから、自らの療育内容が一般に知れわたることにより、急激に情緒が不安定になること等が予見され、場合によっては、不登校や反抗挑戦的性障害などの二次障害の起因になることも十分に考えられるからである。

また、関係施設・関係機関等に対する普及啓発及び研修に関する事業実施状況において事業を行った特定の学校名を公表することは、発達障害児が当該校に在籍していることを公表することと同じであり、その結果、本年4月から発達支援法が施行されたことに伴い、発達障害児が在席しない他校の教職員が授業の調査研究等のため多数来校することになることから、当該校における授業に支障をきたすことは明らかである。

このようなことから、特定の学校名又は施設名を公開することは、本来の事業目的の達成に著しく支障をきたすことになり、本件非公開部分は条例第8条第1項第4号に該当する。

(3)異議申立人の主張について

申立人は「厚生労働省主催の発達障害に関する勉強会の資料は、オ−プンになっている」と主張しているが、これは厚生労働省が全国の支援センターに対して直接に参加者を募集して開催しているものであり、その資料は一般的に誰しもが入手できる資料ではない。

第二に申立人は「支援内容は、自閉症・発達障害支援センター報告書の中にはない。事実が報告されていることの証明をする責任は大阪府にある」と主張しているが、支援内容については、国において定められている事業実施報告書により既に公開している。

また、事実関係の確認については、大阪府財務規則第69条により適正に行っている。

第三に申立人は「民間社会福祉法人が、厚生労働省が予定している、適切な事業を実施できるはずがない。委託をしている大阪府の責任において、自閉症・発達障害支援センターの報告書は作られている」と主張しているが、実施機関においては、実施要綱に基づいて本件法人に委託して支援センター事業を実施している。

実施機関は社会福祉法人との委託契約に基づき、平成17年4月28日付けで社会福祉法人から提出された本件行政文書をもとに国の定める様式により事業実施状況報告書を作成し、厚生労働大臣に提出しているものである。

以上により異議申立人の主張は妥当ではない。

4 結論

以上のとおり、本件決定は、条例の趣旨を踏まえたものであり、なんら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

  行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

  このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

  このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

2 本件行政文書について

(1)自閉症・発達障害支援センター事業(以下「本件事業」という。)について

本件事業は、平成14年度から厚生労働省の補助事業として実施されることとなった事業であり、その目的は、概ね、

自閉症児(者)等に対する支援を総合的に行う地域の拠点として、

ア 自閉症等に関する各般の問題について自閉症児(者)等及びその家族からの相談に応じ、適切な指導又は助言を行うこと

イ 関係施設との連携強化等により、自閉症児(者)等に対する地域における総合的な支援体制の整備を推進すること

によって、自閉症児(者)等及びその家族の福祉の向上を図ることである(実施要綱1)。

実施要綱によれば、本件事業の実施主体は、都道府県等であるが、その事業の全部又は一部について、自閉症児施設等を経営する地方公共団体、社会福祉法人等に委託することができることとされている(実施要綱2(1))。実施機関においては、制度が開始された平成14年度から、社会福祉法人である本件法人に委託して、以下に掲げるような支援等の事業を行っている。

ア 自閉症児(者)等及びその家族等に対する相談支援と情報提供を行う。

イ 自閉症児(者)等及びその家族等に対する療育相談を実施し、家庭での療育方法に関する指導又は助言、情報提供を行う。

ウ 自閉症児(者)等及びその家族等に対して、就労に向けて必要な相談等による支援を行い、必要に応じて、公共職業安定所、地域障害者職業センター等との連絡・調整を図る。

エ ガイドヘルパー及びホームヘルパーに対する研修会を実施し、また自閉症の人の余暇支援ボランティアの養成セミナーを実施する。

オ 関係施設及び関係機関等に対する普及啓発及び研修を実施する。

(2)本件行政文書について

  本件事業においては、都道府県等は、本事業の毎年度の実施状況等を厚生労働大臣に報告することとされている(平成14年9月10日付け厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課長通知「『自閉症・発達障害支援センター運営事業の実施について』の取扱いについて」7)。本件行政文書は、平成16年度の事業の実施状況等について、実施機関が厚生労働大臣に対して行った報告の基となった資料であり、大阪府自閉症・発達障害支援センター(現在は、「大阪府発達障害者支援センター」に改称されている。)運営事業に係る「委託契約書」に基づき、本件法人から提出された事業報告書の一部である。

  本件行政文書は、支援センターの名称・所在地等と事業実績の総括的な数値を記載した表書と、事業の区分ごとの明細を記録した「(1)自閉症児(者)等及びその家族に対する相談支援」、「(2)自閉症児(者)等に対する療育支援」、「(3)自閉症児(者)等に対する就労支援」、「(4)関係施設・関係機関等に対する普及啓発及び研修」、「(5)個別支援のための調整会議等の開催状況」及び「(6)連絡協議会等の開催状況」の6つの表からなっている。

(3)本件非公開部分について

  本件行政文書のうち、本件決定において公開しないこととされた部分のある表の記載内容と公開しないこととされた情報の内容は、次のとおりである。

ア 「(4)関係施設・関係機関等に対する普及啓発及び研修」

個別の普及啓発及び研修の事業ごとに、「番号」、「対象機関・対象者」、「対象者数」、「啓発/研修」の別、「実施時期」及び「事業内容」の欄が設けられ必要事項が記載されている。

このうち、本件決定において公開しないこととされた情報は、「対象機関・対象者」の欄に記録されている情報のうち、研修又は啓発の事業の対象となった小学校及び養護学校の名称である。

イ 「(5)個別支援のための調整会議等の開催状況」

調整会議等による個別支援の対象者ごとに、「番号」、「対象者の年齢・性別」、「開催時期」、「実施回数」、「参加者」及び「検討テーマ」の欄が設けられ必要事項が記載されている。

このうち、本件決定において公開しないこととされた情報は、「対象者の年齢・性別」欄に記録されている情報全部と、「参加者」の欄に記録されている情報のうち、対象者が在籍又は利用している学校、支援施設又は作業所の名称の一部である。

ウ 「(6)連絡協議会等の開催状況」

開催された連絡協議会等の会議ごとに、「開催時期」、「参加機関」及び「協議事項」の欄が設けられ必要事項が記載されている。

このうち、本件決定において公開しないこととされた情報は、「参加機関」の欄に記録されている情報のうち、連絡協議会等に参加した小学校の名称である。

3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

(1)条例第8条第1項第4号について

行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれのあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

このような支障を防止するため、これらの情報については、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

同号は、

ア 「府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって」、

イ 「公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」

について、公開しないことができる旨定めている。

(2)本件非公開部分の条例第8条第1項第4号該当性について

   本件行政文書は、実施機関が本件法人に委託して実施している本件事業に関して、本件法人から実施機関に提出された報告書であり、(1)アに列挙されている事務が、府の機関等の代表的な事務を例示したものと解されることからすると、本件非公開部分に記録されている情報は、いずれも(1)アの要件に該当する。

次に、本件非公開部分に記録されている情報が(1)イの要件に該当するか否かについて検討したところ、以下のとおりである。

ア 「(4)関係施設・関係機関等に対する普及啓発及び研修」の非公開部分について

本項の非公開部分に記録されている情報は、自閉症・発達障害支援センターによる研修又は啓発の事業の対象となった小学校及び養護学校の名称である。

本項の非公開部分に記録されている情報に関して、実施機関は、現に対応を要する自閉症児等が在籍する学校が、研修等の実施を希望する場合が多いとして、学校名を公開することは、自閉症児等が当該校に在籍していることを公表することと同じであり、そのことを当該自閉症児等が知ることによりその指導育成の目的を達成できなくなるおそれがあるとともに、自閉症児等が在籍しない他校の教職員が多数来校し当該校の授業に支障をきたすと主張している。

しかしながら、実施機関の説明等によれば、自閉症・発達障害支援センターによる普及啓発及び研修の事業は、関係機関等に対して、自閉症児(者)等に関する知識や適切な対応方法等の普及を図るものであって、学校を対象に実施する場合においても、当該校に自閉症児等が在籍することを前提とするものではない。したがって、本項の非公開部分を公開することにより明らかとなるのは、当該校の教職員を対象として研修又は啓発の事業が行われたという事実であり、そのことは、当該校に自閉症児等が在籍していることまでをも意味するものではない。

また、文部科学省が設置した特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議の報告書(平成15年3月28日付け「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」)によると、自閉症等の児童は、約6%程度の割合で通常の学級に在籍している可能性があるとされている。したがって、一般の小学校において自閉症児等が在籍していること自体は何ら特別のことではなく、上記事実を公にすることによって、自閉症児等の指導育成に支障が生じるとは言えない。

さらに、他校の教職員から、授業に支障が生ずるほどの見学申込みがあった場合には、見学を断ることも可能であって、実施機関が主張するのは抽象的な危惧に過ぎない。

これらのことからすると、本項の非公開部分に記録されている情報については、これを公開しても、自閉症児等の育成支援という本件事業の目的が達成できなくなったり、その公正かつ適切な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるとは言えず、上記(1)イの要件には該当しないと認められる。

イ 「(5)個別支援のための調整会議等の開催状況」の非公開部分について

本項の非公開部分に記録されている情報は、調整会議等による個別支援の対象となった自閉症児(者)等の年齢及び性別と、当該対象者が在籍又は利用している学校、支援施設又は作業所のうち該当者が相対的に少数に限られているものの名称である。

調整会議等による個別支援は、特定の自閉症児(者)等について、関係機関等が連絡・調整を密にし、効果的な支援を行おうというものであり、通常、その対象者は、個々の関係機関等が単独では対応が難しいような困難な問題を抱えていることが想定される。また、ADHD(注意欠陥・多動性障害)のある自閉症児(者)等は、体調が日々変化することから、自らが対応困難な事例として調整会議等による個別支援の対象になっていることを知ることによって、情緒が不安定となること等も考えられるところである。

一方、本項の非公開部分に記録されている情報は、いずれも、対象者本人にとっては既に公開されている参加者(関係機関名)や検討テーマに関する情報と突き合わせることにより、自らが対応困難な事例として調整会議等による個別支援の対象となっていることを特定し得る情報である。このような情報を公開し、対象者本人の知るところとなると、対象者が情緒不安定となること等が考えられ、場合によっては、不登校など二次障害の起因になることも懸念される。

これらのことからすると、本項の非公開部分に記録されている情報については、これを公開することにより、自閉症児(者)等の育成支援という本件事業の目的が達成できなくなるおそれがあり、上記(1)イの要件にも該当すると認められる。

ウ 「(6)連絡協議会等の開催状況」の非公開部分について

 本項の非公開部分に記録されている情報は、連絡協議会等に参加した小学校の名称である。

連絡協議会等は、地域において、自閉症児(者)等に対する支援の充実を図るため、関係機関や施設が協議するものであり、本項の非公開部分に記録されている小学校は、学校支援モデル事業である巡回相談の実施校として参加していることが認められる。

本項の非公開部分に記録されている情報に関しても、実施機関は、相談の対象となる自閉症児等が在籍する学校が選定されることが多いとして、学校名を公開することは、自閉症児等が当該校に在籍していることを公表することと同じであり、そのことを当該児童が知ることにより当該児童の指導育成に著しい支障が生ずるとともに、自閉症児等が在籍しない他校の教職員が多数来校し、当該校の授業に支障をきたすと主張している。

しかしながら、実施機関の説明等によれば、巡回相談の実施校は、地元市町村教育委員会の希望を尊重して選定されており、相談の対象となる自閉症児等が在籍する学校が選定されることが多いものの、他校からの相談も認められており、必ずしも自閉症児等の在籍を前提として選定されているわけではない。したがって、本項の非公開部分を公開することにより明らかとなるのは、当該校で巡回相談が行われたという事実のみであり、当該校に自閉症児等が在籍していることまでをも意味するものではない。

また、上述のとおり、一般の小学校において自閉症児等が在籍していること自体は何ら特別のことではなく、上記事実を公にすることによって、自閉症児等の指導育成に支障が生じるとはいえない。

さらに、他校の教職員からの見学申込みによる授業の支障についての実施機関の主張が抽象的な危惧に過ぎないことは、上述のとおりである。

これらのことからすると、本項の非公開部分に記録されている情報については、これを公開しても自閉症児等の育成支援という本件事業の目的が達成できなくなったり、その公正かつ適切な執行に著しい支障が生じるおそれがあるとはいえず、上記(1)イの要件に該当しないと認められる。

以上のことから、本件非公開部分のうち、「(5)個別支援のための調整会議等の開催状況」の非公開部分に記録されている情報については、条例第8条第1項第4号に該当し、公開しないことができるが、「(4)関係施設・関係機関等に対する普及啓発及び研修」の非公開部分並びに「(6)連絡協議会等の開催状況」の非公開部分に記録されている情報については、同号に該当せず、これを公開すべきである。

(3)異議申立人のその余の主張について

異議申立人は、「自閉症・発達障害支援センターの職員(本件法人の職員)が、研修会の講師になったり、厚生労働省の検討会に呼ばれたりして、自閉症・発達障害支援センターの活動状況を説明している。厚生労働省の自閉症等に関する勉強会の資料はオープンになっている。」などと指摘している。しかしながら、当該説明又は資料の内容は、本件行政文書の内容と必ずしも同一ではないと考えられる上、限られた関係者等の前で説明したことをもって、当該情報を何人に対しても公開すべきであるということはできない。また、勉強会の資料についても、何人でも容易に入手しうるものとは認められない。これらのことからすると、上記のような指摘をもって、「(5)個別支援のための調整会議等の開催状況」の非公開部分を公開する根拠とはならないと考えられる。

また、異議申立人は、「支援内容について事実が報告されていることの証明をする責任は大阪府にある。民間の社会福祉法人が厚生労働省が予定している適切な事業を実施できるはずはない。」などとして、本件非公開部分に記録されて?る情報を公開することの公益性を主張しているものと解されるが、「(5)個別支援のための調整会議等の開催状況」の非公開部分を公開することによる本件事業への影響を上回る公益性を認めることはできない。

さらに、異議申立人は、府の職員が参加した厚生労働科学研究費補助金による研究について深刻な内容等も公表されているとして、本件非公開部分を公開するよう主張しているものと解されるが、このような他分野の研究についての公表内容の如何により、本件行政文書の公開の可否を判断することはできない。

なお、異議申立人は、以上のほか、自閉症・発達障害支援センターの運営や、府の自閉症児(者)等に対する支援のあり方等についても、種々主張しているが、いずれも、本件行政文書の公開の可否についての判断に影響を及ぼすものではない。

4 結論

以上のとおりであるから、本件異議申立ては、本件決定において公開しないことと決定した部分のうち「(4)関係施設・関係機関等に対する普及啓発及び研修」並びに「(6)連絡協議会等の開催状況」の非公開部分の公開を求める部分について、理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

(主に調査審議を行った委員の氏名)

塚本美彌子、松井茂記、福井逸治、小松茂久

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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