大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第106号)

更新日:2009年8月5日

第一 審査会の結論

実施機関の決定は妥当である。

第二 本件異議申立てに至る経過

1 平成16年10月16日、異議申立人は、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、評価・育成システムに関し、実施機関と各団体との交渉及び話し合いの記録並びに協議・確認・合意事項がわかる文書(「教職員の評価・育成システム」実施(案)概要除く)の行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 同年10月25日、実施機関は、本件請求に対して、不存在による非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、「公開請求に係る行政文書は、作成又は、取得していないため、管理していない。」との理由を付して異議申立人に通知した。

3 同年11月8日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

第三 異議申立ての趣旨

本件決定を取り消し公開することを求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張を総合すると概ね次のとおりである。

1 教職員の「評価・育成システム」(以下「システム」という。)の導入は、これまでの勤務評定制度を廃止し、新たな評価を確立するための制度であり、実施機関は、14年度実験的実施・15年度試行的実施を重ね教職員・校長等へのアンケートや検証結果の公表を行うとともに、各職員団体との「折衝」を行ってきた。これらの「折衝」は、職員企画課・制度グループの4人から5人が出席し、職員団体からもほぼ同人数が出席して行われてきた。

異議申立人が入手した「大阪教職員組合(以下「大教組」という。)第168回2004年度定期大会運動方針(以下「運動方針案」という。)」によると、活動報告として、2003年4月から同年12月にかけて14回にわたってシステムに関し、実施機関との間で「折衝」が行われている。

異議申立人が入手した「折衝ノート」によれば、折衝は、2003年4月17日・5月8日・13日・16日・20日に行われており、大教組は折衝時のメモをもとにワープロで「折衝ノート」を作成している。「折衝ノート」によれば、「折衝」の内容は次のとおりである。

   (中略)

また、運動方針案には、システムに関して「大教組が確認を求め府教委に回答した事項(2004年4月)として、19項目の回答を行った」とされている。

2 「折衝」は、大教組の疑問に答えるという形で進められているが、成案を得るためのものにとどまらず、システムに関する「実質的な団体交渉」であることは明らかである。いずれも勤務時間中に行われており、地方公務員法上の制約があるため「折衝」としているが、「実質的な団体交渉」が組合側との間で行われてきた。このような「折衝」は、大教組にとどまらず、各職員団体と実施機関の間で行われてきたことは明らかであり、継続的に行われている組合との「検討メモ」が存在しないということはあり得ない。

「折衝」では、担当職員は、職員団体からの意見を聞くにあたり誤りのないようノートに記帳し、回答の時もノートを見ながら行っているのが常である。話し合いが終われば、ノートをもとに記録を整理し、上司に報告後保管している。

システムは、実施機関あげての取り組みであり、折衝の窓口は教職員企画課が行っているが、最重要な案件であるだけに労働組合のように交渉経過記録簿が作成されていると考えるのが常識的である。運動方針案に記載されている「大教組が確認を求め府教委に回答した事項(2004年4月)」の回答の決定にあたっても、交渉記録をもとに協議が行われていると考えるのが常識的である。

大阪府が職員団体と交渉を行う際にも、担当者2名がノートをとり、話し合いの後に記録がまちがっていないか、確認を毎回行っている。

茨木市においては、職員団体との交渉経過記録簿があり、出席者(組合側・理事側)課題、経過報告、開始・終了時間、議題(組合側)、討議内容(理事者側)が記載されている。交渉経過記録簿は、交渉の経緯を示すとともに、回答内容を決定する重要な文書として位置づけられており、担当係長・課長・部長・助役・市長まで決裁されている。

3 実施機関は、「担当者メモ及び検討の過程における規則案についても、試験的実施同様、グループ内での検討メモの性格であり、組織共用文書に該当しないため、保存することはしなかった」としているが、本件「メモ」はグループ内の「検討メモ」にとどまるものではなく、各組合との「交渉メモ」であり、システムに対する組合の意向を知る上でも、府教委内部で協議する際の貴重な資料として活用されている。単に個人の「検討メモ」にとどまるとの実施機関の主張は、条例の解釈・運用を誤ったものと言える。

条例解釈運用基準によると、(1)メモ等が公文書に該当するためには、「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものをいう」、(2)「組織的検討に付されたものとは、原則として、課長補佐に相当する職以上にある者を含めた複数の職員による検討に付され、その結果、これらの者が共用するに至ったものをいう」としている。上記要件に照らしても「検討メモ」は公文書であり、存在しないということはあり得ない。

また、組織的共用文書に関する専門家の見解は、「他の職員との検討のための資料として提示した場合や決裁書類に添付され一体とされたような場合をいい、他の職員の利用を全く予定していないような職員の個人的メモのみは、その上で、組織的に共用するものとして行政機関において保有されていないという意味で、対象から除外されるべきである。」(松井・情報公開法94ページ)と解釈されるとしている。

以上から、「検討メモ」は、個人の単なるメモではなく、実施機関も認めるように「団体交渉の記録として協議を前提に作成されたもの」であり、組織共用文書として、当然保管されている公文書であるといえる。

4 実施機関は、2004年システムの本格実施にともなって、人事異動に反映させるとともに、システムに基づく査定結果を次のとおり賃金等に反映することを明らかにしている。

(1)給料に反映させる  10月 3日 毎日 2006年度から実施

(2)「教頭補佐」の採用  9月19日 産経 2006年度から実施

(3)スーパー教師の採用 10月 6日 朝日 2006年度から実施

(4)手当にも反映させる 10月 6日 読売 2005年度から実施

 給与等への反映は、職員の賃金・労働条件に関わる重大な問題であり当然団体交渉事項である。

 全教職員の賃金・労働条件に関わる重要な交渉の文書(ノート等)が存在しないはずはないし、本件請求文書は大阪府情報公開条例第2条第1項に規定する組織的に用いる文書(組織共用文書)に該当し、開示対象となることは明白である。

以上のとおり、各種資料に照らしても、実施機関と各団体との交渉及び話し合いの記録並びに協議・確認・合意事項がわかる文書が一切存在しないとする実施機関の弁明は承服できない。実施機関の決定は条例の解釈運用を誤ったものであり、直ちに開示されることを求める。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。

1 教職員の評価・育成システムについて

 システムは、教職員が学校の目標達成に向けた個人目標を主体的に設定し、各々の役割に応じて、同僚教職員と連携・協力しながら、目標の達成に積極的に取り組み、点検・評価、改善を行うことにより、教職員の意欲・資質能力の向上と教育活動をはじめとする様々な活動の充実、組織の活性化を一体的に図ることをめざすものである。

 学校においては、日頃から教職員がそれぞれの役割に応じて、同僚教職員と連携し、相互に協力しながら、様々な活動が展開されており、教職員は個々に、あるいは集団として、活動の結果について点検し、次回や次年度に向け、目標や計画を見直したり、新たに立てるなど、教育活動等の充実・改善に向けた取り組みを進めている。そして、これら取り組みが進められることにより、教職員の実践的な資質能力が一層磨かれ、高められることとなる。

 このことは、実施機関が設置した「教職員の資質向上に関する検討委員会」(座長 木下 繁彌 甲子園短期大学学長)の平成14年7月最終報告(以下「報告」という。)においても明らかとなっている。報告は、「教職員が学校や校内各組織の目標の達成に向けた個人目標を主体的に設定し、校長等の支援を得ながら意欲的に取り組みを進めることを基本に、子どもや保護者、同僚教職員等の意見を踏まえた自己評価と校長等からの評価により、自らの意欲・資質能力を一層高めることを通じ、学校の教育活動をはじめとする様々な活動を充実させるとともに、学校や校内各組織の活性化を図っていく」ことを提言している。

 実施機関は、この報告における提言を踏まえ、システムの制度化を行ったものであるが、その着実な定着を図るため、平成14・15年度の2ヵ年にわたり試行を実施することとした。試行の目的は次の3点にあった。

(1)システムをより効果的なものとするための改善点等を把握し、今後の検討の参考とする。

(2)試験的実施を通じて、教職員の活動内容の充実・改善や目標設定の契機とするとともに、教職員の意見を学校運営等に反映する。

(3)システムに対する教職員の理解を深めるとともに、校長等の評価・育成能力の向上を図る。

  実施機関は、この2ヵ年にわたる試行を経て、必要な制度改善を行い、具体的には府立学校において教頭を教諭等の一次評価者とすること等を内容として、平成16年4月16日に開催された大阪府教育委員会会議(以下「教育委員会会議」という。)で「府立の高等専門学校、高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」及び「府費負担教職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(以下、これら規則を「規則」という。)を制定し、同日以降、大阪府内の全ての公立学校の教職員を対象にシステムを本格実施しているところである。

2 システムに関する職員団体との対応について

(1)職員団体等への実施案の提示等について

平成14年度の試験的実施、平成15年度の試行実施及び平成16年度からの本格実施に当たっては、市町村教育委員会をはじめ、小・中・高等学校の校長会など関係団体に対して、事前に実施案を示し、説明を行った。その理由は、実施機関として、平成14年度実施要綱、平成15年度実施要綱及び平成16年度規則(以下「実施要綱等」という。)を策定するに当たり、学校関係者への説明を行うことにより、実施内容についての理解を促すとともに、留意すべき意見等が提起された場合には必要な検討を加えて、実施要綱等を策定するためであった。なお、平成14年度及び平成15年度はシステムの試行ということから、本格実施における規則ではなく、府立学校については大阪府教育委員会教育長(以下「府教育長」という。)が定める実施要綱に基づき、市町村立学校については府教育長が定めた実施要綱を参考として市町村教育委員会教育長が定める実施要綱に基づき実施することとした。

この対応については、地方公務員法(以下「地公法」という。)第52条にいう「職員がその勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織」する「職員団体」についても同様に行った。しかしながら、当該対応は、地公法第55条第1項に定める「職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに附帯して、社交的又は厚生的活動を含む適法な事項に関す」る「適法な交渉」の性格を有するものではない。実施要綱等の策定は、地公法第55条第3項に定める管理運営事項に該当するものであるが、前述した学校関係者への実施理由と同様の趣旨から、職員団体への説明を行ったものである。ちなみに、大阪府教育委員会に係る職員団体は、平成16年4月1日現在で、16団体が大阪府人事委員会の登録を受けており、これら全ての職員団体に対して説明を行った。

(2)平成14年度の試験的実施について

試験的実施は、1で前述した報告を受けた後、実施期間を平成14年11月1日〜平成15年3月31日とし、教職員から校長に対する目標の自己申告及び教職員と校長の面談を基本として、校長については評価を行い(評価・育成シートの作成)、教職員は評価ではなく育成のみを行う(育成シートの作成)という内容の実施案を、職員団体を含む関係団体に説明した。

実施案に関しては、職員団体からの申出に応じて、必要の都度、面会又は電話により、質問や意見について説明を行った(以下「意見交換等」という。)。

意見交換等の場では、出席した担当者又は電話応対した者は、必要があればその内容をメモすることもあったが、それらについては意見交換等終了後、システムの制度整備を担当する教職員企画課制度グループ(以下「グループ」という。)内で検討、協議し、実施要綱策定の参考とした。このような取り組みを重ねた上で、府教育長の決裁を経て、実施要綱を制定した。このため、担当者のメモは、担当者メモの性格のまま、役割を終了することとなった。また、この過程でグループ内において検討した各段階の実施要綱案についても、グループ内での検討メモの性格であり、組織共用文書に該当しないため、保存はしなかった。

試験的実施案について、職員団体から示された意見は、学校における新しい取り組みの導入ということもあり、システムの実施中止及び撤回という内容が大勢を占めたが、中には、a.システムの趣旨に照らした自己申告票の提出の必要性、b.校長の学校運営等についての教職員意見の反映の必要性など、試験的実施において留意すべきものもあった。

これら意見のうちa.については、「自己申告票については、全対象者からの提出を求める。ただし、このシステムが、教職員の自主性を尊重し資質の向上を図ることを重視しており、強制的な対応をするよりも、教職員が制度の趣旨を理解できるよう校長が努め提出を求めることが望ましいと考えており、これを基本として運用していく。」ものとして整理し、その旨、府立学校長及び市町村教育委員会あて示した。さらに、b.についても「校長への意見シート」を導入することとし、要綱に基づく運用に規定した。

このように、システムの試験的実施を前提とした意見交換等における意見について、参考となるものは要綱等へ反映することとし、その他の意見を含めた担当者メモについては業務上必要ないことから、実施機関の組織において保存するに至らなかったものである。

(3)平成15年度試行実施について

試行実施は、試験的実施の結果を踏まえ、実施期間を平成15年5月下旬〜平成16年3月末までとし、試験的実施同様、自己申告及び面談を基本とし、自己申告については試験的実施では1回であったものを、目標設定、進捗状況及び達成状況の各々について行うこととし、面談についても目標設定、達成状況及び評価結果の開示の各々について行うこととした。また、試験的実施では行わなかった教職員への評価についても実施することとし、府立学校の事務職員等の一次評価者を事務長等とし、校長の学校運営の充実・改善のために「校長への提言シート」を導入した。これら内容を実施案として、試験的実施同様、職員団体を含む関係団体に説明した。

試験的実施同様、意見交換等を行い、その場での担当者メモを参考にしながら、グループにおいて、実施要綱案の検討を重ね、実施要綱案を策定した。その後の実施要綱の制定は試験的実施と同様である。このため、担当者メモ及び検討の過程における実施要綱案についても、試験的実施同様、グループ内での検討メモの性格であり、組織共用文書に該当しないため、保存することはしなかった。

試行実施案について、職員団体から示された意見は、試験的実施同様、システムの実施中止及び撤回という意見が依然多かったが、中には、a.学校実態に応じたシステムのスケジュールの見直し、b.評価者研修の実施やc.苦情対応制度の整備など、試行実施において留意すべきものもあった。

これら意見のうちa.については、面談の重要性はあるものの、システムの円滑な実施のため達成状況の面談を見直し、目標設定と開示の2回のみとした。また、b.については、評価者研修として、市町村教育委員会及び府立学校長等を対象に実施した。さらに、c.については、実施要綱において「教職員は、評価結果について苦情を申し出ることができる」旨制度化した。

このように、システムの試行実施を前提とした意見交換等における意見について、参考となるものは要綱等へ反映することとし、その他の意見を含めた担当者メモについては業務上必要ないことから、実施機関の組織において保存するに至らなかったものである。

(4)平成16年度の本格実施について

本格実施については、既に1で述べたように、2ヵ年の試行の結果を踏まえ、実施期間を4月から翌年の3月末までとし、教頭を一次評価者とすること等を新たに加えたものの、ほぼ試行実施どおりで実施する。また、本格実施ということから、実施要綱ではなく、府立学校職員については地公法第40条の規定に基づき、府費負担教職員については地方教育行政の組織及び運営に関する法律第46条の規定に基づき、実施機関により実施に関する規則を制定するという内容の実施案を、職員団体を含む関係団体に説明した。なお、職員団体とは、電話での応対を除いて8職員団体に対して合計13回の意見交換等を行った。

試験的実施及び試行実施(以下「試験的実施等」という。)同様、意見交換等を行い、その場での担当者メモを参考にしながら、グループにおいて検討を重ね、規則案を作成し、教育委員会会議提出議案として決裁を経て、教育委員会会議において規則として制定した。このため、担当者メモ及び検討の過程における規則案についても、試験的実施等同様、グループ内での検討メモの性格であり、組織共用文書に該当しないため、保存することはしなかった。

意見交換等において、職員団体から示された意見はシステムの実施中止及び撤回という意見も多かったが、中には、a.評価者研修の充実及びb.苦情対応制度の確立といった、実施機関としても留意すべきものもあった。

これら意見のうちa.については、実施機関において、既に、評価者研修として、市町村教育委員会及び府立学校長等を対象に実施し、b.についても規則において、「職員は評価結果に苦情があるときは、苦情を申し出ることができる」旨制度化した。

このように、システムの本格実施を前提とした意見交換等における意見について、参考となるものは規則等へ反映することとし、その他の意見を含めた担当者メモについては業務上必要ないことから、実施機関の組織において保存するに至らなかったものである。

(5)新聞記事に係る職員団体との対応について

異議申立人は、新聞記事において評価結果の活用が報道されたことから、この件について職員団体との交渉が行われている旨主張するが、これら報道については、平成16年9月に開催された大阪府議会定例会(以下「府議会」という。)における議員の質問及び理事者の答弁を捉えての報道であると考えられる。

なお、府議会では、評価結果の反映は交渉事項であることを前提に実施機関としての目標を答弁したものであり、評価結果の反映方法については、現在、実施機関において、その具体的活用方策について検討している段階であり、職員団体との交渉の事実はない。

したがって、異議申立人が主張するような行政文書は存在しない。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

2 教職員の評価・育成システムの実施に係る実施機関と職員団体との応接の状況について

実施機関の説明及び異議申立人が提出した資料等により、以下のとおり認められる。

(1)教職員の評価・育成システムについて

 システムは、教職員が学校の目標達成に向けた個人目標を主体的に設定し、各々の役割に応じて、同僚教職員と連携・協力しながら、目標の達成に積極的に取り組み、点検・評価、改善を行うことにより、教職員の意欲・資質能力の向上と教育活動をはじめとする様々な活動の充実、組織の活性化を一体的に図ることをめざすものである。

 実施機関が設置した「教職員の資質向上に関する検討委員会」の報告での提言を踏まえ、システムの制度化が行われており、平成14年度の試験的実施及び平成15年度の試行実施を経て、平成16年4月16日の教育委員会会議で規則が制定され、同日以降、大阪府内の全ての公立学校の教職員を対象にシステムが本格実施されている。

(2)職員団体への対応について

実施機関は、平成14年度の試験的実施、平成15年度の試行実施及び平成16年度の本格実施の各実施案について、その都度、職員団体を含む関係団体に説明することとし、職員団体からの申出に応じて、面談や電話により、担当者が説明や意見交換を行っている。

この対応は、職員の勤務条件に関わる団体交渉としてではなく、地公法第55条第2項に定める管理運営事項に関する説明ないし意見聴取として行われている。

また、平成14年度の試験的実施、平成15年度の試行実施及び平成16年度の本格実施の各実施案に対する職員団体の意見の一部については、各年度の実施要綱や本格実施の規則に反映されているところである。

3 本件決定に係る具体的な判断及び理由

(1)条例第2条第1項について

行政文書公開請求の対象となる「行政文書」の意義については、条例第2条第1項に「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真又はスライド並びに電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」をいう旨規定されている。

「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関の組織において業務上必要なものとして利用・保存されている状態のものなどを意味する。

したがって、正式文書とは別に職員が自己の執務の便宜のために保有する複写物や個人的な検討段階のメモで未だ組織的な検討に付されていないものなど、個人で自由に廃棄しても組織上・職務上支障がない個人メモ等は、これに該当しないが、このような個人メモ等として作成されたものであっても、原則として、課長補佐に相当する職以上の職にある者を含めた複数の職員による検討に付され、その結果、これらの者が共用するに至るなど、実施機関の組織において業務上必要なものとして利用・保存されるに至った場合は、職員個人の段階のものとはいえず、「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」に該当することになる。

(2)本件請求に対応する行政文書の存否について

本件請求に対応する行政文書が存在しないことについての実施機関の説明は、概ね、次のアからエのとおりである。

ア 平成14年度の試験的実施、平成15年度の試行実施及び平成16年度の本格実施に当たっては、市町村教育委員会をはじめ、小・中・高等学校の校長会など関係団体に対して、事前に実施案を示し、説明を行った。

イ この対応は、全ての職員団体についても行ったが、システムの実施は、地公法第55条第3項に定める管理運営事項に該当することから、当該対応は、同条第1項に定める職員の勤務条件等に関する交渉としてではなく、他の関係団体と同様の説明として行ったものであり、具体的には、各職員団体からの申出に応じて、必要の都度、面会又は電話により、説明や意見交換等を行っている。

ウ 職員団体から示された意見は、各年度とも、システムの実施中止及び撤回を求めるものが多いものの、実施に当たり留意すべきものも含まれていた。それらは、教育委員会規則や試験的実施及び試行実施の実施要綱の内容に反映したが、意見交換等の内容そのものについては、出席した担当者又は電話応対した者が必要に応じてメモすることがあった以外には記録を作成していない。

エ これらのメモも、担当グループにおいて、教育委員会規則や試験的実施及び試行実施の実施要綱等の検討、協議を行った際には参考としたが、その後、所属長の決裁を経て、規則や実施要綱が制定されており、その段階で役割を終了したものとして、検討段階の規則や実施要綱等の案とともに、各自廃棄しており、保存されていない。

これらの説明については、地公法第55条の規定の趣旨、実施機関の説明により認められるシステムの実施に係る担当グループの事務の状況、及び異議申立人が提出した資料からも窺える職員団体との意見交換等の状況、特に、担当グループの職員の全員又は多くが主要な職員団体との意見交換等には出席していたという状況を考慮すると、特段、不自然、不合理な点は認められなかった。

また、意見交換等に出席した担当者又は電話応対した者が必要に応じて作成したメモは、課長補佐以上の職員が含まれる担当グループにおける検討、協議をした際に参考とされており、(1)で述べたところに照らし、条例第2条第1項に定める「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」として、行政文書に該当することとなった可能性はあるが、当該メモが現存しないため、現時点において、これについて判断することができない。

なお、異議申立人は、実施機関と意見交換等を行った職員団体が作成した資料を提出し、システムの実施に係る実施機関と職員団体との意見交換等は、実質的な団体交渉であり、団体交渉である以上、交渉の記録や実施機関が作成したメモなど、条例第2条に規定する行政文書が存在するはずであると主張しているが、システムの実施に係る意見交換等については、実施機関だけでなく、職員団体においても、地公法第55条第3項に定める管理運営事項に関するものであることを前提に対応していることが、異議申立人が提出した職員団体作成に係る資料からも窺える。

また、異議申立人は、システムの査定結果を人事異動や給与等へ反映させるとする新聞記事を引用し、これらについての交渉は、地公法第55条第1項に定める団体交渉であり、団体交渉である以上文書が存在する旨主張するが、実施機関の説明を聴取した結果によっても、実施機関がシステムによる評価結果の給与等への反映方法について職員団体に提案し交渉を行った事実は認められなかった。

以上のことからすると、少なくとも、本件請求の時点においては、本件請求に対応する行政文書の存在は確認されず、本件決定は、妥当であると認められる。

4 結 論

以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

このページの作成所属
府民文化部 府政情報室情報公開課 情報公開グループ

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