人権学習シリーズ ぶつかる力 ひきあう力 「対立」に向き合う姿勢づくり

更新日:2016年2月9日

「対立」に向き合う姿勢づくり

ねらい

 多様性を尊重する社会においては、お互いの「ちがい」がぶつかりあう場面は避けて通れません。ぶつからないように距離をとることは、「ちがいを認めあう」のではなく、おたがいを避け、関わろうとしないことであり、ともに社会を生きるあり方とはいえないでしょう。求められているのは、ちがいを認めつつ積極的に関わりあおうとすることであり、そこではぶつかりあったとき、つまり対立が起こったときににどう向き合うかが重要になります。
 とはいえ、現実には対立というと否定的なイメージが強い人の方が多数でしょう。特に、対立=争い・けんか・暴力、と思っている人も少なくないかもしれません。ぶつかりあうところにはエネルギーが生まれます。そのエネルギーが傷つけあう方に作用すれば、争いや暴力につながってしまうことも確かにあります。しかし、エネルギーは新しいものを生み出したり、状況を変えたりする力にもつながるのです。実際、人権の歩みは、社会的に困難な状況におかれた人たちが、「納得いかない」と異議申し立てや抗議の声をあげ、対立点としての課題を明確にすることを通して、多くの人々を巻きこみながら社会のしくみやあり方を変革してきたことの積み重ねです。であるなら、身近な対立も、そのエネルギーをよりよい関係をつくるきっかけにすることができるはずです。
 このプログラムでは、まずは対立についてのイメージを出し合い、わたしたちの社会がどのように対立を見ているかをふりかえります。そのうえで、実際に対立を適切に扱うためのスキルを身につけていく前提となる、対立に向き合う肯定的な姿勢づくりをめざします。

プログラムの流れ

対立のイメージを出し合おう
 対立についてどんなイメージを持っていますか。率直に出し合い、イメージを広げてみましょう。苦手意識をもつ人が多いですが、実は「対立は悪くない」のです。
 ○アクティビティ:対立のイメージを色で
             対立についての連想図

●わたしたちの社会は対立をどうとらえている?
 日本の社会は、対立やそれにかかわることがらについてどのようにうけとめ、表現してきたのでしょうか。人権という観点から、どのように転換していく必要があるのでしょうか。
   ○アクティビティ:ことわざで考えよう

●対立にどう向き合うか
 具体的な対立の場面には、どのような向き合い方があるでしょうか。対立に対し、否定的・消極的にではなく、肯定的に向き合う、とはどういうことかを考えます。
   ○アクティビティ:対立の扱い方

●対立を力に!
 対立に肯定的に向き合うために、どんなことが大切か、学んだことをもとに表現してみましょう。
   ○アクティビティ:対立に肯定的に向き合うための川柳づくり

〔準備するもの〕
A3(B4)程度の白紙(グループ数を3回分)*場合によっては模造紙を使ってもよい
マジック(グループ数)
プリント「ことわざカード」(ペアまたはグループ数)
プリント「事例カード」(グループ数)
ホワイトボードと専用ペン(黒板も可)

アクティビティの進め方

 ●対立のイメージを色で(15分)
  「対立」ときいたときに、あなたはどのようなイメージをもちますか。そのイメージを色で表わすとどうなるでしょうか。同じ色をイメージした人で集まって、グループを作ってみてください。それぞれの色は、対立のどんなイメージからくるのでしょうか。話しあってみましょう。
 ▶ 色を確認しながら、人数が多いところは分け、少ないところは集めて、4〜5人のグループにする

●対立についての連想図(20分)
 もう少し、対立のイメージを具体的に考えてみます。
    ▶ 各グループに、白紙とマジックを配る

  1.  紙の真ん中に「対立」と書いて、そこから連想するものをまわりにどんどん書いていってください。連想図といいます。どんなものでもかまいません。グループで話しながら、イメージを出しあいましょう。
    ▶ 5〜10分、作業の時間をとる

  2.  では、どんなものが出たか、簡単に発表してください。前のグループからは、出ていないような点を中心にお願いします。

例

 そもそも、「対立」とはどんなときに起きるのでしょうか。意見や立場のちがいがあるときではないでしょうか。ならば、「お互いのちがいを大切にする」という人権尊重社会では、対立は避けて通れないものです。みなさんと共有したいのは、「対立は、それ自体は悪いものではない」ということ。「対立」が悪いのではなく、「対立の扱い方」を間違えて、それが争いや暴力になることが問題なのです。

●ことわざで考えよう(30分)
  日本では、対立をどのようにとらえてきたのでしょうか。身近なことわざや慣用句から考えてみましょう。
  ▶ プリントことわざカード を配る

 1.  あなたにとって、いちばん共感できるものはどれですか。そのことわざの意味することは、あなたの対立のイメージとどんな関係があるでしょうか。グループまたはペアで話し合ってみてください。
 ▶ 時間に余裕があればグループに。ない場合ペアでするのがよいでしょう

 2.  これらのことわざの示すありようで、対立にむきあうことには、どのような利点や限界があるでしょうか。整理して考えてみましょう。
 ▶ 白紙とマジックを配り、板書した表の見本を書き写し分析してもらう。
  1グループにつき、2〜3のことわざを取り上げる

 3.  分析してみて感じたこと・気づいたこととあわせて、発表してください。
 ▶発表してもらう

見本


 いままでの社会では、同質であることや、力関係を理解してそれに従うことが重視されてきた面があるのではないでしょうか。しかし、これからめざすべき社会は、多様性を尊重し、対等な関係でお互いを尊重しあうものです。そのために、対立に肯定的に向き合う姿勢を育てることが大切です。

●対立の扱い方(40分)
  では、対立の場面でどのようなことができるのか、具体的に考えてみましょう。
  (対象となる参加者に応じて使う事例をえらんでください。市民対象なら家庭編・地域編、職場研修なら職場編など。)

 ▶ グループに1つの事例カードと、白紙を配る
 それぞれの対立の事例に対して、どのような対応が考えられますか。できるだけいろんなパターンを考え、手元の紙にメモをしてみてください。「自分だったらどうするか」だけでなく、「こんなやり方もあるかも」と、バラエティにとんだ方法を考え出してみてください。
 どのくらいアイデアが出たでしょうか。では、新しいアイデアを出すのは終わって、出てきたものを少し見てみましょう。
 そのなかで、対立に「肯定的に」向き合っている、と思えるのは、どの対応でしょうか。どういった点が「肯定的」だと思うか、実際にできそうか難しそうか、などについて話し合ってください。
(あわせて逆の視点から、暴力的・否定的な向き合い方になっているものも考えてもらうのもよいでしょう)
 ▶ 話し合いのあと、簡単に発表してもらう

 いま、考えていただいたのは、「よい解決策」ということではありません。関係性や状況によって、どの対応をとるかはさまざまですから、解決策の正解があるわけではありません。
 大切なことは、対立にはいろんな向き合い方があり、関わる人みんなができるだけ納得できる方法を選ぶことができる、ということです。対立の場面では、「どちらか一方の言い分しか通らない」「選択肢は二つに一つしかない」などと思ってしまいがちです。そうではなく、「みんなが満足できるにはなにが大切か」「ほかにも方法はないだろうか」と考えること、それが対立に肯定的に向き合う、ということではないでしょうか。

●対立に肯定的に向き合うための川柳づくり(15分)
  最後に、今日、学んだことをふまえて、「対立に肯定的に向き合うための川柳」をつくってみましょう。いままでよりは、対立を前向きにとらえられるようになったでしょうか。
  完成したら、お互いに発表・共有しましょう。
  ▶ つくった川柳を発表してもらう

ファシリテーターのために

対立と事実・感情・価値観
 多様性を尊重する社会では、対立に肯定的に向き合うことが大切、ということは、理屈としては分かっても、実際にはなかなか難しい、と感じる人は多いかもしれません。そこには、わたしたちの「気持ち(感情)」が大きく関わっているのではないでしょうか。対立の場面では、さまざまな感情、なかでも怒りの感情が刺激されること多いのですが、わたしたちは感情を適切に扱うことに慣れていないうえ、怒りは感情のなかでも最も扱うのが難しいと言われているのです。

●感情の扱い方
 感情の扱い方には、大きく分けて「抑圧する」「支配される」「コントロールする」の3つのパターンがあります。「抑圧する」というのは、自分の気持ちを抑え込み、感じていることを否定したり合理化したりすることです。その感情を引き起こすきっかけとなる相手を避け、自分の内面にこもってしまうことになりがちです。「支配される」というのは、自分の気持ちにふりまわされてしまい、過剰な行動をとったり、相手のせいにしたりと、攻撃や暴力につながりやすい状態です。長い間、感情を抑圧してきた結果、たえきれなくなって爆発することもあるので、「抑圧する」と「支配される」は正反対のようで、じつはとても近いともいえます。
 3つめの「コントロールする」というのは、「抑圧する」とは違います。自分の感情をありのままに把握し、自分がどうしたいか、まわりにどう伝えたいかを踏まえて、表現や行動を選択する、というあり方です。
 適切に感情を扱う、とは、自分の感情に意識を向け、その感情に名前をつけて(嬉しい・悲しいなど)明確にし、ありのままに受け止めて、どう表現するか、行動するかを考える、というステップを踏むことです。ポイントは、感情を「よい・わるい」で判断しないこと。感情は、どれも大切なものなのです。

●怒りの感情
 怒りの感情が生じたとき、「支配される」パターンになってしまうことが多く、そこに現れる攻撃性や暴力性のために、怒りの感情そのものを否定的にとらえてしまいがちです。
 だからこそ、「怒り」についてじっくり深める機会を積極的にもちたいものです。ちょっとした対立から、とても大きな・深刻な対立まで、それぞれの段階での「気持ち」をふりかえることで、自分がふだんどのように怒りを感じ、扱っているかをふりかえることができます。また、ほかの人と話し合うことで、おたがいの感じ方のちがいを知ることができます。これは当たり前のようで重要なことです。気持ちの中でも「怒り」の感情は、「あの人が○○したから」と、相手のせいにしてしまいがちです。しかし、他者の行為はきっかけであって、それによってどのような感情を持つかは自分自身なのです。同じできごとであっても、誰もが同じように感じるわけではありません。自分にとって許せないくらい腹立たしいことでも、相手はなんでもないことと感じているかもしれません。それを、「誰だって怒るはず(のひどいこと)なのに、それをなんでもないように言うなんてひどい」と受け取ってしまうと、さらに対立がこじれてしまいます。
 自分の感情を引き受け、責任を持つことは、感情を扱ううえで大切なことです。「あの人のせいで怒っている」のと「あの人が○○したことに、わたしは腹が立つ」というのは、ちがうのです。自分の感情を引き受け、責任を持ったうえで、相手と向き合うことが、対立に肯定的に向き合う際の感情の扱い方に求められます。
 (※人権学習シリーズvol.4「ちがいのとびら」に掲載されている、「怒りの温度計」の活動が参考になるでしょう。)

●「事実」「感情」「価値観」を整理する
  「感情」を適切に扱うためには、「事実」と「感情」を分けて考えることが大切です。そこで起こっている客観的な「事実」は何なのか、それに対してそれぞれの当事者がどう「感じて」いるのか、を整理してみるのです。また、どのように感じるかの背景には、「価値観」があります。価値観は多様ですから、なにを大切だと思うか、なにが譲れない点だと思うかは人によって違うのです。
 対立の場面でのできごとを、一方からのみ見るのではなく、それぞれの「感情」「価値観」までさかのぼって整理することで、なにをめぐる対立かの焦点も変化してくるでしょうし、なにより、お互いの理解が深まります。それこそが、対立をよりよい変化につなげるためのエネルギーとし、多様性を尊重する社会づくりの第一歩なのです。

事実




プリント

ことわざカード

雨降って地固まる無理が通れば道理が引っ込む
長いものにはまかれろ柳に雪折れなし
和して同ぜず虎穴に入らずんば虎子を得ず
負けるが勝ち言わぬが花
出るくいは打たれる終わりよければすべてよし


プリント「ことわざカード」 / [PDFファイル/451KB]

プリント

事例カード

<家庭編><地域編><職場編>
子どもが門限を破った
(初めての場合/5回目の場合)
ゴミの収集日を守らない近所の人に対して必ず会議に遅れてくる人(同僚/部下/上司)がいる
置いてあった携帯電話を勝手に見られた
(夫婦間で/親子間で)
地域の共同清掃に出てこない人に対して仕事があるのに「ノー残業デー」だから帰れと言われる
自分が掃除機をかけた後に、「ホコリが残っている」と言われた町内会の議事を古くから住んでいる人だけで決めてしまうことに対して湯飲みは各自で片付けるが、給湯室の掃除は女性がしている


プリント「事例カード」 / [PDFファイル/451KB]
 



 

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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

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