人権学習シリーズ ちがいのとびら 多様性を読み解く視点や概念

更新日:2016年2月9日

オークション体験で考える平等

ねらい

 「これぞ不平等?」でも解説した通り、差別是正のためのさまざまな特別措置についての議論が深まりにくい原因の1つは、平等といえば「機会の平等」のことだと考えている人が多いことです。しかし、問題はその点にだけあるのではありません。ここでは、オークションという方法を使って、もう1つの原因にアプローチします。
 そのもう1つの原因とは、「機会の平等」がもっている問題点が実感的に捉えにくいことです。私たちはそれぞれに努力して人生を送っています。努力のおかげで何かを得られたと感じている人にとって、特別措置は不当に感じられやすいのです。また、周りを見れば、困難な環境を乗り越えて成功している人もいます。そのため、生まれ育った環境の違いは努力で乗り越えられると思いやすくなります。著名人などからも「夢は、あきらめずに持ち続ければかなう」といった発言が聞かれます。そこへ「結果の不平等(実態的差別)」についての統計だけを紹介しても、むしろその統計に疑問を感じたりするのです。そこで、機会の平等が実際には不平等を維持・拡大するおそれが大きいことを実感的に理解することがポイントになります。成功者が1人出る背景には、成功し得なかった多くの人がいる。シミュレーション学習により、この社会の縮図を体験すれば、このような問題を実感的に理解できるのです。
 また、「機会の平等」や「結果の平等」を理解するためにはいくつかの概念をあわせて学ぶことが必要です。例えば、「差別と全般的不利益の悪循環」、被差別者をしばる「二重の拘束」、被差別者でない立場による「特権」などです。これらの諸概念は、社会を説明する理論と自分の生活を結びつける手助けとなります。
 まず「これぞ不平等?」を通して、平等に関する複数の物差しを知ることにより、考え方を広げます。ついで「オークション体験で考える平等」を通して、不平等を疑似体験することにより差別を自分に引きつけて考えやすくなります。ここから、「機会の平等」という物差しを適用すべき場面と、集団間の「結果の平等」という物差しを適用すべき場面を、自分なりに判断できるようになることを期待したいと思います。

基本概念

機会の平等、結果の平等、「差別と全般的不利益の悪循環」、二重の拘束、特権
 

時間

120分

準備するもの

ワークシート「何といってもこれがほしい」(参加人数分)
ワークシート「何といってもこれがほしい」の各項目をA4程度の白紙に大きく書いた項目シート(項目数につき1枚ずつ)
模擬紙幣(模擬紙幣16枚の用紙と模擬紙幣25枚の用紙をあわせて参加人数分にする)
資料「結果の不平等(実態的差別)」(参加人数分)
コミュニケーションカード(感想を書いてもらう用紙)(参加人数分)
 

プログラムの流れ

「これぞ不平等?」と「オークション体験で考える平等」のアクティビティを載せています。

私たち一人ひとりがもっている平等観をはっきりさせる
 多くの場合、あいまいなままに「機会の平等」が平等だと考えていますが、それだけでは整理できない問題があることを考えます。集団間の「結果の平等」という考え方もあることを知り、平等についての自分の考えを振り返ります。
  【アクティビティ】
  部屋の四隅・「これぞ不平等?」

                                              ↓

機会均等社会を疑似体験することにより、そこで発生する問題を認識する
 「機会の平等」が原理となっている社会では、不平等の拡大再生産、不利益層の無力感、不正などが起こりやすいことを認識します。それに対して、「結果の平等」を促進するという考え方で特別措置が実施されていることを伝え、自分がどのような発想で差別問題に臨むかを考えます。
 【アクティビティ】
 早い者抜けじゃんけん・「何といってもこれがほしい(不平等版)」

                                              ↓

さまざまな差別や不平等をめぐる実態を学び、自分なりの考え方を練り上げる
 「機会の平等」か「結果の平等」かという問題は、どちらがよいなど一義的に論じられるわけではなく、それぞれの問題のそれぞれの領域ごとに考えられるべきものです。できるだけ具体的な例をあげつつ、どのような領域についてどの原理をいかに適用すべきかを整理します。
 【アクティビティ】
 「これぞ不平等?」(後半の振り返りと資料解説)・身近な「結果の平等」策


アクティビティの進め方

●早い者抜けじゃんけん(20分)
 5人勝ち抜きじゃんけんをし、早く勝ち抜いた人から周りの椅子に座ってもらいます。一般的に雰囲気を盛り上げるだけではなく、「何といってもこれがほしい(不平等版)」につなぐために、勝負へのこだわりによってグループ分けする点にも意義があります。

●「何といってもこれがほしい(不平等版)」(70分)
 ワークシート「何といってもこれがほしい」を配り、「不平等について考えるため」と趣旨を簡単に説明します。座っている場所などに応じて、参加者を大きく2つの群に分け、一方の群と他方の群で所持金が異なるように模擬紙幣を配ります。この時、お互いの所持金が異なることには気づかれないようにします。例えば、「今からオークションに使う模擬紙幣を配るので、手元にきたらすぐに紙幣1枚ずつになるよう切って、購入計画を立ててください」と指示したうえで、一方の多額群には模擬紙幣25枚の用紙を配り、もう一方の少額群には模擬紙幣16枚の用紙を配ります。多額群の人数よりも、少額群の人数の方を多めにする方が効果的です。
 具体的には、次のような手順で進めます。
 「今日は、不平等について考えるために、『何といってもこれがほしい』というオークション(競売)をします。今からワークシートを配りますので見てください。配り終えたら購入計画を立てる方法を説明します」と述べて、ワークシートを配布し、購入計画を立てられるよう説明します。
 「これから所持金を配ります。お金は大切なので、一人ひとりていねいに配ります。手元に来たらすぐに一枚ずつに切って、後のオークションに備えてください。ここからは個人戦なので、おしゃべりはなしにして5分程度で購入計画を立ててください。所持金を配った後では質問にも答えられませんので、確かめたいことがあったら今のうちに質問してください」と述べて、模擬紙幣を一人ひとりに配ります。
 ほぼ全員がワークシートを書き終えたら、「それではオークションを始めます。皆さんの購入計画に沿って、競売に参加してください。たくさんの項目を競り落とした人が勝ちですから、購入計画を大切にしつつも、購入のチャンスと見たら、柔軟に対応してください」と説明した上で、1項目ずつ競りにかけていきます。
 競りの中では、「さあ、つぎは『●●』です。ほしい人はいませんか」「○○円」「○○円以上の人はいませんか」「××円」「××円」が出ました。もうありませんか」と言ってせり上げていきます。とぎれたら、「それでは××円の人が落札しました。おめでとうございます。拍手」などと言いながら、前に出てきてもらってお金を受け取り、交換で項目シートを渡します。
 このような形ですべての項目を競りにかけ、時間的に余裕があれば、ほしかった理由などを言ってもらいます。
 すべての項目を競り終えたら、振り返りの話しあいをします。意見が出にくい場合は、隣どうしで話しあってもらったうえで意見を出してもらうようにします。
 オークションの中ではさまざまな出来事が起こります。例えば、途中で金額の違いに誰かが気づいて苦情を述べるなどです。これに対しては、「現実はそういうもので、今日は不平等について考えるのがねらいなのでそうなっています」と簡単に説明し、すぐにオークションに戻ります。また、自分たちの金額が少ないと気づいた人たちの間で「私のお金を使ってそれを買い落としてください」などとお金の供出が始まったりもします。ルールの変更を申し出る人が出てきたり、やる気を失う人も出てきます。
 たいていの場合、競り落とした項目数は、多額群の方が多くなります。
 多くの場合、多額群の人の中には、オークションが終了しても自分たちが多額の所持金になっていたことに気づかない人が出てきます。「金額が違っていたと分かっていますか」と尋ねて挙手してもらうと、気づかなかった人がわかります。
 そのことも関連して、多額群と少額群との間で感情的軋轢が発生したりします。多額の所持金を与えられていながら、そのことにすら気づかない人たちを見て、少額群の人たちがイライラするのです。

 ファシリテーターの問いかけ
  「金額が違うということはわかっていましたか」
  「分かった人はどの段階でわかりましたか」
  「所持金の額が違うとわかる前と後とで何か違ってきましたか」
  「どちらのグループの人が何項目入手できたでしょうか」
  「このオークションと現実は、どこが同じでどこが違うでしょうか」

 参考:『わたし・出会い・発見』「何といってもこれがほしい」(大阪府同和教育研究協議会 1996年)

●身近な「結果の平等」策(20分)
 「何といってもこれがほしい(不平等版)」というオークションで、なぜ購入物に差が生じ、貧富の格差が広がったのかを解説します。また、現実の社会ではどうなっているのか、資料「結果の不平等(実態的差別)」を各参加者に配布して紹介します。「機会の不平等」という概念が理解されたら、同和対策事業が実施された理由や、女性専用車両ができた背景を紹介してその是非を話しあいます。

●ふりかえり(10分)
 コミュニケーションカードに感想を記入してもらいます。また、もう少し時間がとれるなら、感想の疑問に答える時間を設けるなどすることもできます。    

ワークシート

「何といってもこれがほしい」

  

「価値」の項目

プラン欄

収支欄

事務処理・片づけと計画性の能力      
何かを信じる心      
スポーツ万能      
一つのスポーツに優れた力      
うまく発言する能力      
人の気持ちを思いやる心      
やってる仕事の成功      
素敵なルックスとスタイル      
好きな所に旅行するチャンス      
10素直で誠実な心      
11人から好かれる資質      
12自分の健康      
13思ったことを発言・表現出来ること      
14強い指導性、リーダーシップ      
15音楽的才能      
16絵などの美術的才能      
17世界の平和      
18うまく人間関係をつくる力      
19高い地位、出世      
20ユーモアのセンス      
21スリムな体重      
22今のままの自分を認められること      
23安心出来る未来      
24読書をする余裕と能力      
25かしこさ      
26文章をスラスラとうまく書く力      
27自由な時間        
28十分な語学力      
29夢をもつこと      
30詩や小説を書ける文学的才能      
31         
32         
33         

出典:『わたし・出会い・発見』大阪府同和教育研究協議会 1996年

ワークシート「何といってもこれがほしい(不平等版)!」  / [PDFファイル/781KB]

模造紙幣 / [PDFファイル/1.21MB]

資料「「これぞ不平等?」/身近な「結果の平等」策 / [PDFファイル/1.3MB]





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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

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