人権学習シリーズ ちがいのとびら 多様性と人権課題

更新日:2016年2月9日

ガラスの天井を越えて

ねらい

 現在、日本社会には200万人を超える外国人が在住しており、人口の100人に1人以上は外国籍住民で占められるほど、社会のあらゆる分野に在日外国人の存在が“あたり前の存在”として位置づけられてきています。
 しかし、外国人といっても多様で、在日韓国・朝鮮人のような旧植民地出身者とその子孫や中国残留孤児の関係者とその子孫といった歴史的経緯を持った人たちもいれば、1980年代以降、仕事や結婚、留学などで来日して定住していく外国の人たち(ニューカマー)もいます。
 この在日外国人が安心して日本で暮らしていくためには、偏見や差別、異文化間での摩擦をなくすための共生の関係づくりや社会システムづくりが求められています。このプログラムでは、在日外国人との共生をテーマに、「ひとくくり」という見方から「一人ひとり」をありのままに受けとめる多様性の観点で社会を捉えることを学びます。

※表題の「ガラスの天井」とは、アメリカにおけるマイノリティの「法的差別」はなくなったはずなのに、マイノリティの社会参加や進出が困難な状況を象徴する言葉として用いられています。つまり、《機会の平等はあるはずなのに、上にあがることはできない、見えない天井が存在する》という意味です。このプログラムでは、機会の平等も保障されていないという状況を含めて、「ガラスの天井」と表しました。

基本概念

多民族・多文化共生、自他理解、ユニバーサルデザイン(共生システム) 

時間

90〜130分

準備するもの

「名刺カード」(参加人数分)
ワークシート「名刺交換記入用ワークシート」(参加人数分)
「参加カード」((1)オレンジ、(2)緑色、(3)黄色、(4)青色を割合(※)に応じて参加人数分にする)
※参加人数が30人ならば、(1)オレンジ3枚、(2)緑色7枚、(3)黄色15枚、(4)青色5枚にする
箱(何でもよい)
のり付きふせん紙(7〜8cm角 参加人数分×20枚程度 ※多めにあるとよい)
模造紙(グループ数)
マーカー(グループ数)

プログラムの流れ

肩書きで自分が変わるか?
 さまざまな職業や肩書きが記載された名刺カードを参加者全員に配布し、全体で名刺交換を行います。1回あたり1分から1分30秒をめどに会話をし、終了後は交換した名刺の肩書きが次の新しい名刺となり、5〜10人の人たちと交換します。名刺の肩書きによって自分がどのような気持ちになるかを考えます。
 【アクティビティ】
 名刺交換

                                              ↓

「鉄の扉の参政権〜あたりまえの権利?誰のための権利?〜」を考える
 参加者がそれぞれ持った色別の参加カードによって、「お祭り(カーニバル)」を企画する話しあいに参加できたりできなかったり、参加時間が変わったりします。
このように、その人の社会的条件によって社会参加に違いがあるということが、現実社会にあります。生まれや国籍の違いによって参加が阻まれる制度の問題点やその違いを乗り越えて、共生できる新たな社会システムの可能性について考えます。
 【アクティビティ】
 鉄の扉の参政権 〜あたりまえの権利? 誰のための権利?〜

                                              ↓

「ヒューマンチェーン(人間の鎖)」
 「多民族・多文化共生」の実現に必要なプロセス(過程)やアプローチ(接近)の方法を実感するとともに、自分自身に具体的に何ができるのか、という行動のあり方を考えます。
 【アクティビティ】
 ヒューマンチェーン(人間の鎖)

                                              ↓

「まとめとふりかえり」
 在日外国人問題の解決は、差別をなくして多民族・多文化共生社会をつくるという方向はすでに出ており、あとはそれをどのようなプロセスを経て実現させるかという私たちの歩みや協働の実践が必要であることを考えます。
 

アクティビティの進め方

●名刺交換(20〜30分)
 円形になって椅子に座っている各参加者に、さまざまな職業・肩書きが記載された「名刺カード」を配布します。配布中は、「名刺カード」を裏返して、見えないようにします。
 参加者には、「名刺カード」の職業や肩書きになりきって、相手と名刺交換してもらうことを伝えます。開始の合図とともに一斉に立ち上がり、相手を見つけて名刺交換をしてもらいます。時間は1分から1分30秒で、その間はその肩書きに基づく事柄や世間話など、何でも自由に話をしてもらいます。
 終了後、相手から渡された名刺の肩書きが、次の自分の肩書きになることを伝えます。この名刺交換を5〜10人程の相手と実施してもらって終了します。
 そして、最後の名刺交換の相手と2人組になり、感想を述べあってもらいます(グループごとでもよい)。その後、全体で感想を交換します。
 まとめの話しあいの中で、それぞれの肩書きによって感情や対応の違いがあることに気づいたり、見た目(例えば背広を着ている人と作業服の人など)によって、どのような判断をしているかを考えます。また、自分や世間にある見た目による意識にはどんな意味があるかなどを振り返ります。
 社会的地位や肩書きはあくまでその人物にある一部分であって、人格そのものを表わす象徴でないことに気づき、多様性を実現することや人と対等に向きあうためには、相手の“人間性”に注目することが重要であることをまとめとして伝えます。

 ファシリテーターの問いかけ
  「肩書きが変わることで意識も変わったことはありましたか」
  「社会的地位のある肩書きを持った時とそうでない時の違いはありましたか。あったとすればそれはどんな感じでしたか」
  「実際に名刺交換してみて、相手の顔やお話を覚えていますか。また、肩書きや仕事の話題だけでなく、相手の人柄も注目していましたか」
  「見た目やイメージだけで相手を見ていませんでしたか。外国人にあてはめた場合、例えば本名(民族名)を名乗る人と接した時の反応や、相手の人種や国籍、出身国によるイメージや実像の違いがありますか」

 ※プログラムの進行に時間がある場合は、「名刺交換記入用ワークシート」を各参加者に配布して、肩書きや見た目が持つ問題点について、参加者どうしで意識を深める作業をしてもらうこともできます。

●鉄の扉の参政権〜あたりまえの権利?
 誰のための権利?〜(40分〜60分)
 誰もがあたり前だと思っている参政権は、歴史的には特定の社会的に有利な人々しか与えられてこなかったことや、日本において在日外国人には認められていない事実を学びながら、多文化共生社会の創造に必要なことは何かを考える機会とします。
 参加者全体で実施するか、15人ほどのグループに分かれてもらい、箱の中のある「参加カード」を各参加者に1枚ずつ無造作に取ってもらいます。
 次に、「お祭り(カーニバル)」を実施するという設定で、具体的に何がしたいかを「参加カード」に記入してもらいます。各参加者からの意見発表の後、「お祭り(カーニバル)」でしたい取り組みについて、グループで討議します(必要に応じて模造紙とのり付きふせん紙を使います)。
 第1回の討議に参加できるのは、(1)オレンジの参加カードを持った人に限ります。
 10〜15分後に、第2回の討議として、(2)緑色の人も討議に参加できることを伝えて、そこから参加してもらいます。
 10〜15分後に、第3回の討議として、(3)黄色の人も討議に参加できることを伝えて、そこから参加してもらいます。
 (4)青色の人たちは討議に参加できず、傍聴のみとなります。その旨はプログラム中は伝えないようにします。
 討議に参加してもらった人たちで「お祭り(カーニバル)」のプログラムを決定し、全体に発表してもらいます。
 全体で、最初から討議に参加した人、途中から討議に参加した人、一度も討議に参加できなかった人から、それぞれ感想を聞きます。この中で青色のように討議に一度も参加できなかった人は、現実社会では誰を表わすかと質問をします。
 
 ※この中で、在外邦人(2005年に国政の比例区選挙に限り在外選挙ができるようになり、2007年6月からは選挙区選挙もできるようになりました。)や障がい者にも門戸が開かれているかという問題も出ますが、ここでは在日外国人に対する社会参加や制度のあり方を考えます。  

 まとめとしては、参政権の歴史は、社会的特権のある人や有利な人にしか付与されなかった流れから、権利を持たされていない当事者による権利獲得の取り組みによって権利が拡大してきた歴史であることを伝えます。そして現在の問題として、外国人の参政権の問題があり、このことについても多様性の立場から望ましいあり方について話しあいなどを行います。

 ※在日外国人の参政権問題
   1995年の最高裁判決では、在日韓国・朝鮮人の参政権を求める訴えは棄却されましたが、判決では「法律によって永住外国人の地方参政権(自治体の長、議員の選挙権)を付与することは、憲法上禁止されているものではない」旨が出され、司法の問題だけでなく広く立法・行政の裁量にその可能性が委ねられることが示されました。
   また、憲法93条2項の地方参政権の規定には、「地方公共団体の住民が直接これを選挙する」と「国民固有」ではなく「住民」と記載されており、地方参政権については国籍に関係なく、在日外国人にも付与すべきだという意見もあります。
   その他に、在日外国人を地域住民として認知していく取り組みが各地で行われており、2002年に滋賀県米原町(現米原市)では、日本で初めて外国籍住民にも投票権を認める住民投票条例が制定されるなど、150以上の自治体で同様の条例が制定されています。

 ファシリテーターの問いかけ
  「討議に最初から参加した人、途中から参加した人、全く参加できなかった人、それぞれのご感想をお聞かせください。討議中どのように感じながら参加・傍聴されていましたか」
  「あたり前だと感じている社会的権利は、その歴史や社会状況をひも解くと様々な制限がなされた中で今日に至っていることがご理解いただけたでしょうか。今後さらに未来をよりよいものにしていくために求められる共生のシステムはどのようなものか、ご意見をお出しください」

 ※(1)は1890年当時の参政権を持つ人=「15円以上の税金を納めている25歳以上の男性」で、全人口の1.1%を表します。
 ※(2)は1928年当時の参政権を持つ人=「25歳以上の男性」で、全人口の20%を表します。
 ※(3)は1946年当時の参政権を持つ人=「20歳以上の男女」で、全人口の48.7%を表します。
 ※(4)は在日外国人の状況を表します。

 参考:『多様性教育入門─参加型人権教育の展開』「参政権の歴史」(解放出版社 2005年)

●ヒューマンチェーン(人間の鎖)(20〜30分)
 「人間の鎖」をひも解く係として、各グループから1名ずつ選んでもらうか、希望者を募るかして、4〜5名の係を選びます。その他の人は手をつないで円になり、「人間の鎖」をつくってもらいます。
 ひも解く係の人は、ファシリテーターの指示があるまで目をつぶってもらいます。ファシリテーターはその間に、円になった参加者の手や体を入れ替えたりして、輪を絡ませた状態にします。
 その後、係の人に目を開けてもらい、絡まった人間の鎖をもとの輪に戻すように指示します。
 10分間ほど様子を見た後、完成できたかどうかを見守ります。もとの輪に戻すことができていれば、その要因を聞き、不完成であったならばなぜできなかったかを出してもらいます。
 次に、本来の「人間の鎖」の趣旨である、傍観ではなく、内側と外側の人(選ばれた鎖をひも解く人と輪をつくっている人)すべてが、互いに協力しながら問題解決を図ることの意義や可能性を学ぶアクティビティであることを伝えます。2回目として、ひも解く係も交代して、円も再構成しながらヒューマンチェーンを実施します。この時は、ひも解く人も輪をつくっている人も一緒になって意見を出しあいながら解決してもらいます。
 ヒューマンチェーン終了後に、全体で協力しながら、輪をひも解いたときの達成感や喜びを出しあいます。そして、多民族・多文化共生社会の実現や、在日外国人問題の問題解決には、私たちが他人事として傍観することなく、私たちができることは何かなどを具体的に考え話しあいます。

 ファシリテーターの問いかけ
  「ヒューマンチェーンをやってみてうまくできましたか。うまくできたならば、それはなぜですか。失敗したならば、その原因は何でしょうか」
  「1回目と2回目の違いは何でしょうか。あるいはその心境の変化はありましたか」
  「在日外国人との共生に問われていること、必要なことは何でしょうか、お考えをお聞かせください」

 ※先の参政権問題では、在日外国人が置かれている社会状況の理解をはじめ、厳しい現実を学びながらも具体的な多民族・多文化共生実現のあり方について学習してきました。
   ヒューマンチェーンは本来、コミュニケーションスキルや仲間づくりを深めるためのアクティビティですが、「鉄の扉の参政権〜あたりまえの権利?誰のための権利?〜」から「ヒューマンチェーン(人間の鎖)」に移行するねらいは、この学習を頭の理解だけで終わるのではなく、共生を実現するために求められる私たちの働きや可能性を実感できる経験が必要だということから設定しています。この趣旨を理解の上でアクティビティを進めてください。

●ふりかえり(10分)
 在日外国人問題の解決は当事者の生き方に限らず、社会の構成員である私たち一人ひとりの主体的な判断や行動が大切であり、多民族・多文化共生社会は全ての人たちの多様性を保障する上で欠かせない課題であることを伝えます。また、多様性の尊重に基づくこれからの社会のあり方について、参加者とともにその方向性を出しあいます。

名刺カード

名刺交換

名刺カードは、コピーして1枚ずつ切り離してから配ってください。


公立小学校教諭


弁護士


大企業人事部課長


有名中高一貫校校長


衆議院議員


市会議員


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国立大学教授


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フレンチ・シェフ


美容師


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名刺ありません


タクシー運転手


知的障がい者作業所職員


高齢者施設職員
(介護福祉士)


キムチ屋経営者


建築現場労働者


翻訳・通訳業


NPOスタッフ


名刺カード / [PDFファイル/702KB]

ワークシート

名刺交換記入用ワークシート

1. 名刺交換しての感想は?

2. 名刺交換して親近感、あるいは憧れを持った職業・肩書きは何ですか? それはどうしてだと思いますか?

3. 名刺交換して違和感、あるいは難しかった職業・肩書きは何ですか? それはどうしてだと思いますか?

4. 社会的地位や社会的有利の有無や、職業観・学歴観などで気づかされたことはありますか?

5. 「名刺ありません」(名刺を持っていない人)はどういう人でしょうか?自分がもしその立場であればどんな気持ちになりますか?

6. 見た目や肩書きではなく、人物本意で人と出会い、つながるために必要なことはどんなことか、ご自身のご意見をお書きください。


ワークシート「名刺交換」 / [PDFファイル/937KB]



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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

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