人権学習シリーズ ちがいのとびら 私たちの多様性

更新日:2016年2月9日

知ってる!知らない?わたしの立場

ねらい

 社会の中で生きていくということは、自分が意識している、していないにかかわらず、社会の構造を自分自身の中に立場として取り込むことでもあります。そして、現実の社会にさまざまな格差がある以上、そうした社会の構造に気づかず、無条件に前提として受け容れてしまうことは、格差や差別を維持し、強化することにもつながってしまいます。社会の中での自分の立場を振り返り、無自覚な言動が、格差や差別に荷担することにつながりかねないことを自覚したうえで、特定の立場の人が不利益を被らないような、多様な立場が尊重された公正なあり方を実現するにはどうしたらよいかを考えます。

基本概念

コミュニケーション、プライバシー、情報の自己コントロール、社会的立場 

時間

120分

準備するもの

ワークシート「「わたしは」ではじまる10の文章」(参加人数分)
「条件カード」
ワークシート「アイデンティティの重層的カテゴリー」(参加人数分)
ホワイトボード

プログラムの流れ

お互いに知りあおう
 初めての人と出あったとき、どのように自己紹介しますか。
 実際に自己紹介をしてみて、どのような項目で自己紹介をしたかを振り返ってみましょう。
 【アクティビティ】
 傾聴で自己紹介・「わたしは」ではじまる10の文章
 
         ↓

より深く知りあうには
 では、相手をもっと知りたいと思ったときは、どのようなことを質問するでしょうか。親しくなるにつれて、どんな質問が追加されますか。
 その中に、答えにくい項目や、聞かれることに抵抗を感じる項目はあるでしょうか。あるとしたら、それはどういった項目でしょうか。
 【アクティビティ】
 知り合うために何をきく?
 
         ↓

言いにくいこと・言いたくないことはなぜ
 例えば、知り合いが結婚することになったとき、結婚相手についてどのようなことを尋ねますか。そうした質問が、ある“立場”を持っている人には、どのように感じられるでしょうか。
 また、私たち自身は、社会の中でどのような立場にいるのでしょうか。
 【アクティビティ】
 結婚の条件・アイデンティティの重層的カテゴリー

         ↓

社会の現実をふまえた対等な出会いのために
 社会にはさまざまな立場の人がいます。一人ひとりの背景でもある社会的な立場が、不利益や特権につながらないような、公正な社会をつくるために、どのようなことに配慮すべきかを考えましょう。
 【アクティビティ】
 ふりかえり

アクティビティの進め方

●傾聴で自己紹介(15分)
 
「はなす・きく」ということは、ワークショップでは不可欠です。はじめに「はなす・きく」について体験することで、ウォーミングアップをするとともに、どのように自己開示をするかについて考える導入とします。
 できるだけ知らない人と2人組をつくり、話し手と聴き手をどちらが先にやるかを決めます(ファシリテーターが指定してもかまいません。名前の50音順、会場に早く着いた順、服の色が濃い人からなどです)。 
 話し手は、1分で自己紹介をします。この1分間は話し手の時間なので、何をどのくらい話すか(話さないか)は自由に決めて結構です。聴き手は、傾聴の姿勢で聴きます。傾聴のポイントは下記の3つです。

〈傾聴のポイント〉
1)心をむける:「自分の番がきたら何を話そう」などほかの事を考えずに、話し手に集中します。
2)体全体で共感をあらわしながら:姿勢や相槌など、全身で聴く姿勢をあらわします。
3)質問しない:質問されると、それに答えなくてはならなくなります。ここでの傾聴は、話し手が好きなように話せることを大切にしたいので、質問はなしです。
 ※このポイントは、このアクティビティでのもので、「傾聴」一般のものではありません。
 ※質問はしないが、黙って聴くということではありません。「へぇ」「なるほど」「それで」など、ふつうの応答や話を促す言葉は構いません。

 1分間、話し終わったら役割を交替して繰り返します。それぞれが話し終わったら、やってみてどうだったかを2人1組で自由に話してもらいます。

 ファシリテーターの問いかけ
  「自己紹介では、どのようなことを話しましたか」
  「1分間は、長かったですか、短かったですか。話し手の時と聴き手の時で感じ方は違いましたか」
  「傾聴でやってみてどうでしたか。話すとき、聴くときに、何か感じたことがありますか」
  「質問なし、というやり方はどのように感じましたか。質問したくなったことはありますか」

●「わたしは」ではじまる10の文章(15分)
 自分で自分のことをどう見ているかということを振り返ります。ワークシート「「わたしは」ではじまる10の文章」を各参加者に配り記入してもらいます。参加者が記入している間に、ファシリテーター自身も書いてみましょう。書き終わったものを見て、自分が書いた項目にどんな傾向や特徴があるか、考える時間をとります。先ほどの2人組から4人グループをつくり、どのような項目を書いたかを話しあいます。具体的に、何を書いたかを言う必要はありません(言っても構いません)。感じたことや気づいたことを発表してもらいます。

 ファシリテーターの問いかけ
  「どんな項目がありましたか」
  「名前や住んでいるところなど、アンケートや履歴書に書くような項目が多かったですか。好きなものや夢など、考えていることや思いといった項目が多かったですか」
  「今日の現時点でのこと(おなかがすいている、緊張しているなど)と、恒常的なことと、どちらを書きましたか」
  「他の人の書いた項目で、意外だったものはありますか」
  「自分の項目の傾向として、なにか気づいたことはありますか」

●知り合うために何をきく?(15分)
 相手を知るためにどのような質問をするか、されたときにどう感じるかを考えます。先のアクティビティは自己紹介でしたが、相手にインタビューをするとしたら、どのようなことを聞くか、項目を考えてできるだけたくさんあげてもらいます。考えたものをポップコーン形式(※)で発表してもらい、板書していきます。出てきた項目を見ながら、聞かれたくない/答えたくない項目がないかを問いかけます。

    ※ポップコーン形式
   順番にあてるのではなく、発言したい人がランダムに発言する方法です。1回に1項目にしてもらい、できるだけいろんな人が発言するようにします。

 ファシリテーターの問いかけ
  「この項目の中で、聞くことや答えることに、ひっかかりを感じるものはありますか」
  「自分だったらこの項目は聞かない、というものはありますか。それはなぜですか」

●結婚の条件(50分)
 「あたり前」と思っているやりとりが、他者を傷つけることがあることを知り、それがなぜかを考えます。
 新しく3人1組のグループをつくります。「A:結婚しようと思っている人」「B:Aの親しい人」「C:Aの結婚相手(条件カードを配布する対象)」の登場人物を設定し、以下のように進めます。
 A…「結婚したい人がいるんだけど」と切り出し、Bにアドバイスを求める。
 B…アドバイスをするために、結婚相手についてたずねる。質問は5つまで。最後に一言アドバイスをする。
 C…AとBのやりとりをその場にはいない設定で観察する。そのとき、もっている「条件カード」の立場になったつもりでどう感じるかを意識しておく。
 ※BからAの質問については、実在の人ではないので、Aは答えなくても構いません。
 終わったら、気づいたことをメモし、役割を交替して繰り返します。「条件カード」はいったん回収して、毎回配りなおします。
 それぞれが全部の役割を体験したら、振り返りをします。出てきた意見は板書していきます。その際、「質問の種類」「アドバイス」「やりとりを聞いて感じたこと」に分けて書いていきます。

 ファシリテーターの問いかけ
  「5つの質問にはどのようなものがありましたか」
  「アドバイスにはどのようなものがありましたか」
  「Cの立場で観察していて、感じたのはどのようなことですか」
  「Bで質問をするとき、1回目、2回目、3回目で変化はありましたか。あったとすれば、どのようなものですか」
  「発表された質問やアドバイスをあらためて見て、気になるものはありますか」
  「Cの“条件”に関わるような質問が出たグループはありますか。そのとき、どう感じましたか」
  「“条件”に関わる質問が全くでなかったとき、どんなふうに感じましたか」

出典:『人権教育ファシリテーター・ハンドブック基本編 参加型「気づきから築きへ」プログラム』「結婚の条件」(特定非営利活動法人ERIC国際理解教育センター 2000年)


●アイデンティティの重層的カテゴリー(15分)
 私たちのアイデンティティを構成する要素がさまざまに分類され、重なりあっていることを知り、社会でどのように意味づけられているかを考え、自分がどのような立場にあるのかを振り返ります。
 ワークシート「アイデンティティの重層的カテゴリー」を各参加者に配り、それぞれの要素で自分がどこに位置するのかを確かめます。グループ(2〜4人)で、やってみて気づいたことや感じたことをわかちあいます。その際、自分の位置を記入したワークシートは見せなくてよいことを告げておきます。
 ※アイデンティティとは、共同体(地域、組織、集団など)への帰属意識のことをいいます。

 ファシリテーターの問いかけ
  「自分がふだん意識しない項目や強く意識している項目はどれですか」
  「これらの項目の中で、たんなる違いや分類といえるものと、有利/不利があるものは、それぞれどれがでしょうか」
  「ワークシートの項目の左右の並びは、どのようになっているでしょうか」
  「おおむね左側が社会の中で“多数派”や“有利”なものですが、並べ方に違和感があるものはありますか」
  「他にはどのようなカテゴリーが考えられますか。付け足したいものはありますか」
  「項目の有利/不利について、ご自身の経験で共有していただけることがあれば、お願いします」

●ふりかえり(10分)
 全体を通して、気づいたことや感じたことを発表してもらいます。
 「よりよい出会いのためのコミュニケーションの心がけ」として話しあってもらい、発表してもらっても結構です。

 ファシリテーターのコメント
  「自分に関わる情報について、何をどこまで言うかはその人自身が決めるということが基本です」
  「自分にとって、質問されて答えるのに何の違和感もないことでも、全ての人がそうだとは限りません」
  「だからといって、質問してはいけないということではありません。大切なのは、その人との出会いのなかで、なぜそれを聞きたいのかということではないでしょうか」
  「聞かれたことに違和感がある場合、どのように返答すればよいでしょうか。それを対話のきっかけに、お互いに理解を深めるにはどうしたらよいのでしょうか」
  「社会の中での立場は、“有利/不利”“差別する/される”といった二項対立に単純に分けられるものではなく、いろんな要素が複雑に絡みあっています。いろんな要素があるのだから“お互いさま”“仕方ない”というものでもありません」
  「あらゆる社会的な立場について詳しく知ることは不可能ですが、自分にとって有利なことは自覚しにくく、不利なことは意識せざるをえない場面が多いということはいえます。まずは、今回のワークの「条件カード」や「アイデンティティの重層的カテゴリー」を手がかりに、自分の立場について自覚しにくくなっていることは何か、じっくり振り返ってください」


★発展・応用★「この質問はOK?」
 自己紹介するときの項目や初対面の相手に質問する項目をのり付きふせん紙に書き出します(または、ファシリテーターがあらかじめカードにして用意しておきます)。それを「話しやすい/話しにくい(答えやすい/答えにくい)」「聞きやすい(質問しやすい)/聞きにくい(質問しにくい)」の二元軸で分類し、どういった基準で「話しやすさ」が決まるのか、質問の際に配慮すべきことはどういったことかを考えます。
 ※位置づけ
 1)「知り合うために何をきく?」を短くし、展開として行ないます。
 2)「結婚の条件」の内容を踏まえて、「アイデンティティの重層的カテゴリー」の代わりに行ないます。

ワークシート

「わたしは」ではじまる10の文章

わたしは_________________

わたしは_________________

わたしは_________________

わたしは_________________

わたしは_________________

わたしは_________________

わたしは_________________

わたしは_________________

わたしは_________________

わたしは_________________


ワークシート「「わたしは」ではじまる10の文章」 / [PDFファイル/703KB]

条件カード

条件カードは、コピーして1枚ずつコピーして切り離してから配ってください。

条件カード

 


中学校卒

女性

離婚経験者     
障がい者

子どもあり
父母同居希望

未成年
在日韓国・朝鮮人

家つき
フリーター

在日外国人
借家、財産なし

定収入なし
大学院卒、就職浪人中

遺伝性疾患
同性愛

一流企業社員
HIV感染者

同和地区出身
刑を終えた


「結婚の条件」『人権教育ファシリテーター・ハンドブック基本編 参加型「気づきから築きへ」プログラム』66ページ


条件カード「結婚の条件」 ・ ワークシート「アイデンティティの重層的カテゴリー」 / [PDFファイル/621KB]

ワークシート

アイデンティティの重層的カテゴリー

あなたはどのカテゴリー? それは単なる違い? それとも有利不利?


男_____________________________女

異性愛___________________________同性愛

健常____________________________障がい

定職____________________________無職

学卒_____________中退_____________未就学

既婚____________________________未婚

子持ち____________子なし____________不妊

日本国籍___________外国籍____________無国籍

夫婦同姓___________夫婦別姓___________同棲

嫡出子___________________________非嫡出子

登録婚____________事実婚____________不倫

持ち家____________借家_____________ホームレス

ホワイトカラー________________________ブルーカラー

大人____________ 未成年_____________子ども

両親あり___________ひとり親____________孤児

芸達者___________________________無芸

音楽できる_________________________音痴

スポーツ万能________________________へた

年収高い__________平均年収程度__________無収入

健康____________________________病気

右利き___________________________左利き

わたしたちは無数のカテゴリーで分類可能な存在です。どのカテゴリーに「上下」を感じますか。
どのカテゴリーが固定的で、本人の努力では変えることができないものだと思いますか。
固定的で、逸脱を許さないもの、しかもそれが有利/不利につながる違いが差別です。
差別につながるカテゴリーを語ることが許されるのは「手だて」を考えようとするときだけです。

★構造的暴力
直接的に暴力がなくても、ある人に対して影響力が行使された結果、その人が現実に肉体的・精神的に実現しえたものが、その人のもつ潜在的実現可能性を下回った場合、そこには暴力が存在する。

「無限のカテゴリーの・・・」『レッスンバンク17-1』



        



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府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

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