大阪府同和問題解決推進審議会提言(平成20年2月) 第2章

更新日:2023年6月21日

2 今後の同和問題解決に向けた取組みについて


(1) 同和問題解決に向けた取組みの点検

 平成13年府答申において、「これまでの取組みの成果を損なうことなく、地対財特法失効後は、一般施策の活用により同和問題の解決をめざす」という新たな方向性が示され、それに基づく取組みが開始されてからすでに5年余りが経過しました。
 大阪府は、現在実施している施策の必要性等について、引き続き、府民へのわかりやすい説明に努めるとともに、次に提案する3つの視点から、施策の点検を行い、府民の信頼と理解のもとで、同和問題解決に向けた実効ある取組みを推進していく必要があります。

<点検の視点>
[1] 社会情勢やニーズの変化を勘案せず、漫然と施策を実施しているようなことはないか、真に必要なものとなっているか、また、その手法が効果的なものとなっているか等、施策内容や実施手法について、継続的に効果検証を行っているか
[2] 施策が適正かつ効率的に執行されているか
[3] 施策の目的や必要性について、府民の理解を得られるものになっているか

(点検にあたっての留意事項)
*府の様々な部局で実施されている事業について、その目的や内容が重複していないか、限られた予算のもとで、より効果的な方法等はないか等、全庁的な視点からの検証が必要です。
*また、事業の対象が限定されていないにもかかわらず、事実上、特定の地域のみでしか実施されていない事業がないか、特定の地域に重点を置く手法が、事業目的達成のために最適なものとなっているか等についても、継続的に効果検証を行っていく必要があります。
*法令を順守するという基本的な姿勢のもと、適正かつ効率的に施策が執行されているか等について、日常的に点検していくことが求められています。
*さらに、事業の実施にあたって、課題や必要性に応じて施策を行なうことが行政としての原則であり、そうした観点から実質的な公平性が確保されているか、また、府民への説明責任を果たすため、透明性の高い事業執行となっているかについての検証などを行っていく必要があります。



(2) 今後の取組みに向けた提案

 大阪府では、これまで「人権教育のための国連10年」に係る大阪府の行動計画を、平成9(1997)年3月に全国に先駆けて策定するなど、人権という普遍的文化の創造をめざし、人権尊重の重要性を明確に示すとともに、すべての行政分野において総合的な人権施策を推進する取組みを進めてきました。また、国において平成12(2000)年に施行された「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」に基づき、大阪府では、平成17(2005)年3月に策定した「大阪府人権教育推進計画」を地方公共団体の基本計画として位置づけ、人権教育・啓発に関する施策の積極的な推進に努めてきました。
 大阪府は、今後ともすべての人の人権が尊重される豊かな社会の実現を図るという目標を掲げるとともに、同和問題解決のための取組みを人権問題の本質からとらえるべきとした平成13年府答申に基づき、その解決を図っていくことが重要です。

 また、同和問題は、行政だけで解決できるものではなく、行政、当事者、府民、NPOなどの民間団体、事業者、企業などがそれぞれの役割を果たすとともに、協働して取り組んでいくことが重要となります。そうした認識のもとで、大阪府や市町村は、府民一人ひとりの偏見の解消を図るとともに、当事者が内在する力を発揮して、自立、自己実現を達成し、主体的な行動へと結びつけていけるよう、必要な条件整備を行っていくことが大切です。共通の目標に向けた協働の取組みが、偏見の解消に最も効果的であり、最大の啓発ともなるからです。また、民間運動団体は、当事者の自尊感情の醸成や主体性の確立を図るため、積極的な役割を果たすことが期待されます。

(補足説明)
*アメリカの心理学者 G・W・オルポートは、その著書『偏見の心理』(培風館 1961年)の中で、「偏見は、共通の目標を追求する多数者集団と少数者集団との対等の地位での接触によって減少される」と述べています。
 この考え方を適用すると、同和地区内外の人々が、人権尊重のコミュニティづくりという共通の目標に向かって対等の立場で協働することが、同和問題解決にとって有効であるということになります。

 本審議会では、以上の考え方に基づき、平成13年府答申で掲げられた「基本目標」や「基本視点」を具体化するために効果的と思われる取組みの手法や留意すべき点について、以下のとおりまとめました。

a コミュニティづくり
 同和地区には、住民同士の相互扶助の人間関係を育んできた経緯があり、隣保館をはじめとした様々な施設が整備されているなど、これまでの歴史や同和問題解決への取組みの中で培われてきたソフトとハードの貴重な資源があります。府内には、これらの資源を活用しながら、同和地区を中心として、周辺のNPOや学校、企業などを巻き込んだコミュニティづくりに主体的に取り組んでいる事例が生まれています。こうした当事者の主体的な活動や、同和地区内外の住民の交流、協働の取組みは、同和問題の解決にとって重要かつ効果的なものであることから、大阪府は、コミュニティづくりや協働の取組みを促進するための条件整備に努めるべきです。
 コミュニティづくりにあたっては、同和地区内外の市民組織(NPO、自治会など)や事業者、企業など、様々な社会資源を有する人々がつながり、それぞれがもつノウハウを活かして協働した活動を行うことが重要です。そのため、地域の実情に応じて、小学校区または中学校区などで取り組むことが効果的であるといえます。
 また、住宅・まちづくり施策は、コミュニティづくりを進めるうえで基本となる重要な施策です。旧地域改善向け公営・改良住宅は、同和地区の劣悪な住環境の改善のため建設され、住環境の向上に一定の成果をあげてきました。しかし、コミュニティづくりを考えるにあたっては、周辺地域との一体性にも配慮しながら、住み続けたいと思う人が住み続けられ、また、多様な人々が住みたいと思うような、ハード、ソフトの両面にわたる施策を展開する必要があると考えます。

(コミュニティづくり促進のための留意事項)
*コミュニティづくりには、同和地区内外の様々な人々とつながり、コミュニティづくりのリーダーとなりうる人材や専門的な知見をもつ人材が必要であることから、そうした人材が育つ条件整備に取り組むことが重要です。
*地域住民の交流を図り、地域から人権尊重のコミュニティづくりを進める拠点としての役割を果たすことが期待される隣保館などの施設の活用などによって、同和地区内外の住民が集い、交流し、活動する場づくりを促進することが効果的です。
*コミュニティづくりには、関係機関等と連携し、公募提案型事業の導入などを通して他のモデルとなる意欲ある取組みを支援することや、先進事例についての情報の収集・発信を行なうことが重要です。


b 教育・啓発
 これまで行われてきたわが国の同和教育や人権啓発事業は、必ずしも十分な成果を挙げてきたとはいえない面もありますが、その理念や実践は、「人権教育のための国連10年」の行動計画からみても、独特で優れた点を多々有し、高いレベルのものということができます。
 大阪府においては、平成13年府答申において、学校教育における進路指導等の充実や、地域における諸活動の活性化などの取組みの重要性が指摘され、その後学校教育に関する様々な施策の充実とともに、教育に関する課題を学校、家庭、地域の団体・グループ等が共有し、課題解決に向けた協働の取組みを通じて新たな人のつながりをつくり出すことをめざした「教育コミュニティ」づくりの推進などが図られてきました。今後は、近年の「効果のある学校」に関する実践的な研究成果などを踏まえ、授業や学校運営の工夫、地域との連携など、きめ細かな実践を通して様々な課題を克服しつつある学校から学ぶとともに、「教育コミュニティ」づくりに向けた活動の充実のための支援等を通じて、同和地区児童生徒を取り巻く様々な課題の解決を図っていく必要があります。

(補足説明)
* 「効果のある学校(エフェクティブ・スクール)」とは、教育的に不利な環境の下にある児童生徒の学力水準を押し上げている学校のことをいい、そうした学校の先駆的な取組みに学び、効果のある学校をつくろうという研究が推進されていますが、近年の「効果のある学校」に関する調査研究では、差別や貧困による教育不平等を克服するための優れた事例が紹介されています。
 人権教育には、人権や人権問題について学ぶ「人権についての教育・学習」だけでなく、教育を受ける権利を保障するための取組みを意味する「人権としての教育(人権保障のための教育)」という側面があり、「効果のある学校」はこうした面からの取組みといえます。

 また、人権啓発については、これまでの同和問題に関する啓発の経験や成果を踏まえるとともに、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」などに基づき、すべての人の人権を尊重していくための人権啓発を推進するための取組みが一層求められています。とりわけ、同和地区に対するマイナスイメージなどに起因する忌避意識の解消に向けて、当事者による主体的なコミュニティづくりの実践事例やこれまで培われてきた豊かな文化や芸術等、プラスイメージを積極的に発信していくなど、戦略的な人権啓発のための取組みを推進していく必要があると考えます。なお、同和地区内外の人びとによる協働の取組みそのものに啓発効果があることを既に指摘したところですが、こうした取組みと行政が行う継続的な人権啓発施策があわせて行われることによって、啓発効果が一層高まるものと考えます。
 なお、情報化が進展する中で、メディアによってもたらされる情報は社会に大きな影響を与えることから、すべての人の人権が尊重される社会の実現に向けてメディアが自らの責務を一層自覚し、積極的な役割を果たすことを期待します。

(補足説明)
*学校における人権教育については、国の「人権教育の指導方法等に関する調査研究会議」がとりまとめた「人権教育の指導方法等の在り方について」に基づき、ただ広く浅く抽象的にその知識や理念を教えるということではなく、身近な具体的な事象を通し、自分の問題として学び、その根底にある基本的原理を自ら発見するような学習であることが重要です。
*成人のための啓発活動については、諸外国と比較して極めて先進的な取組みをしているということができます。わが国の場合、社会教育法第3条に、人々が自ら行うその「文化的教養」を高めるための活動に対し、国や地方公共団体は、「集会の開催、資料の作製、頒布その他の方法」によって、それを奨励し、その環境を醸成する責務があることを述べており、それが、国民の「人権文化」を高めるための啓発事業の法的根拠となっているといえます。さらに、平成12(2000)年には、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が制定され、自治体は、この法律に基づき、学校、地域、家庭、職域等様々な場において人権教育及び人権啓発に関する施策を推進していくことになりました。
*大阪府には、大阪人権博物館、大阪国際平和センター等の施設があります。これらの施設は、わが国の中では、際立った人権教育・啓発のための施設であり、国際的にもユニークな存在です。こうした施設を、広く国内・国外の人びとの教育・啓発のために大いに活用していくことが必要です。


c 相談
 相談は、困難な課題を抱える人が問題解決のための手立てを主体的に選択できるように支援する窓口となるとともに、具体的な相談事例を通じて様々な課題の実態把握につながるなど、同和問題解決において重要な機能を有しています。大阪府においては、人権相談体制の充実を図るため、行政機関、公益法人、NPO等の相談機関で構成する「人権相談機関ネットワーク」を(財)大阪府人権協会とともに構築してきましたが、こうした相談が有する重要な役割が十分に発揮されるよう、身近な相談窓口となる市町村の相談機能の向上のための支援をはじめ、NPOなど専門性を有する相談機関相互の連携など、府内の相談に関する基盤整備を一層推進していくことが必要です。

d 関係機関等との連携
 大阪府は、同和問題解決に向けた取組みを、より効果的に進めていくため、意欲的な取組みを展開しているNPOや関係機関等との連携・協力を拡充していくことを基本的な視点におき、そのための条件整備を図っていく必要があります。
 そのため、(財)大阪府人権協会においては、平成13年府答申において、府と市町村が人権施策を推進していくための協力機関として位置づけられていることから、NPOや関係機関等との連携を一層強化し、それらの意欲ある取組みを活性化するとともに、協力機関にふさわしい役割を果たしているか等について常に点検評価等を行い、透明性の高い事業執行に努める必要があります。
 また、大阪府は、大阪人権センターを、一人ひとりの人権が尊重される豊かな社会の実現をめざして、人権問題に取り組む府民やNPO、関係機関等が連携を図り、効果的に取組みを展開していくための拠点として活用することが求められています。
 さらに、大阪には、これまで同和問題をはじめ、様々な人権問題の解決や人権教育の推進に豊かな蓄積を有する研究機関等があることから、大阪府は、こうした研究機関等の成果を課題解決のための効果的な取組みの推進に活かすべきと考えます。



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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権擁護課 人権・同和企画G

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