第2章 大阪府における現状と課題 1.視覚障がい者等の読書環境の現状 (1)大阪府内の対象者数と利用の現状  大阪府における身体障がい者手帳所持者のうち、障がい種別が「視覚」の人数は、25,238人、「肢体不自由」の人数は、208,907人となっています。(令和元年度「福祉行政報告例」)  また、ディスレクシア※1と呼ばれる限局性学習症※2の一種とされる読字障がい者の正確な人数は把握されていませんが、学習障がいを理由に、公立小・中学校、高等学校の通級※3による指導を受けている児童・生徒は、大阪府において1,915人います。(文部科学省「令和元年度特別支援教育資料」)  一方、大阪府立図書館(以下「府立図書館」という。)における障がい者サービス(身体障がい者手帳、療育手帳所持者等が府立図書館を利用するためのサービス)の利用登録者は約350人です。(令和元年度利用者数)  また、大阪府立福祉情報コミュニケーションセンター点字図書館(以下「大阪府点字図書館」という。)、大阪市立早川福祉会館点字図書室、社会福祉法人日本ライトハウス情報文化センター、堺市立健康福祉プラザ点字図書館の4つの視聴覚障がい者情報提供施設(以下「点字図書館※4」という。)の利用登録者は、延べ約7,500人となっています。  上記は一例ではありますが、これらの人数を見ると、身体障がい者手帳等の所持者や、加齢による視力の低下などにより読書に困難を抱えていると想定される人数に比べ、まだ、多くの人が利用しているとは言えないのが現状です。その理由として、読書や図書館の利用に困難を伴う人に対するサービスの存在を知らなかったり、知っていても利用できていなかったりすることが考えられます。 (2)視覚障がい者等が利用可能な読書手段  現在、視覚障がい者等が読書を行う主な方法として、次のようなものがあります。   ○ 家族や支援者等による読み上げ、公立図書館や点字図書館で行われている対面朗読(リーディング)※5サービスの利用 ○ 点字図書※6や拡大図書※7、触る絵本※8、LLブック※9等の利用 ○ 録音図書※10や音声デイジー※11、テキストデイジー※12、マルチメディアデイジー※13などのデイジー図書※14の利用 ○ 拡大読書器※15の利用、OCR(光学文字認識)処理によりテキストデータ※16化した書籍や電子書籍※17の読み上げ (3)大阪府におけるこれまでの取組  大阪府では、読書活動を支える府立図書館等において、アクセシブルな書籍※18等の充実や対面朗読(リーディング)サービス等、視覚障がい者等が利用しやすくなるよう、次のような取組を行ってきました。   ○ 府立図書館では、障がい者支援室を設置し、視覚に障がいがある人向けに、対面朗読(リーディング)サービスや点字資料・録音図書の提供、パソコンの利用支援サービスなどを実施しています。また、来館が難しい人向けの郵送貸出の実施、聴覚障がいがある人向けのファックスでの問合せ対応、手話通訳者の配置などを行っています。 ○ 府立図書館において、自館が所蔵していない資料については国立国会図書館等、他館から実物の取り寄せまたはデータのダウンロードにより提供しています。また、府内の公立図書館(図書館のない地域は公民館図書室等)や点字図書館で所蔵されていない資料について、取り寄せの依頼を受けて提供しています。   府内の公立図書館に対しては、貸出依頼のあった府立図書館の資料を週1回、車で届けるサービスも実施しています。 ○ 府立中央図書館は、建設当初から「大阪府福祉のまちづくり条例」の適用施設として、施設・設備面のバリアフリー対策を行っています。 ○ 府立中央図書館では、障がい者サービス研修や図書館司書セミナー等を実施し、障がい者理解が進むよう、取り組んでいます。 ○ 府立中央図書館のホームページに「学校支援のページ」を掲載し、特別支援学校※19を含む学校等に対するテーマ別や対象別の特別貸出用図書セットを用意するなど、学校における読書環境づくりを支援しています。 ○ 大阪府点字図書館は、指定管理者※20(一般財団法人大阪府視覚障害者福祉協会)が運営しており、視覚障がい者の読書サービス機関として、点字図書、デイジー図書等の製作・貸出のほか、対面朗読(リーディング)、読書支援機器※21の案内や貸出等のサービスを行っています。また、公立図書館と連携した相互貸出を行うことにより、来館が難しい利用者の利便性を図っています。 ○ 大阪府点字図書館では、点訳※22や音訳※23ボランティアの養成講座を開催しています。また、府立中央図書館では、音訳者の養成講座を開催しています。 ○ 公立図書館、点字図書館等で製作したアクセシブルな書籍等のデータや目録を国立国会図書館やサピエ図書館※24へ提供しています。また、公立図書館、学校図書館、点字図書館での相互貸出を行い、視覚障がい者等が日本全国にある資料を利用できるよう連携しています。 ○ 大阪府立学校では、学校図書館を活用できる時間の確保に努めるとともに、図書館利用に係る児童・生徒へのオリエンテーションをはじめ、「学校図書館活性化ガイドライン(平成23年3月)」を活用した児童・生徒にとって身近で利用しやすい学校図書館づくりに取り組んでいます。 2.視覚障がい者等の読書環境の課題  総務省委託事業として、一般社団法人電子出版制作・流通協議会が、障がい者の読書におけるニーズ等の把握並びに障がいの種別等に応じた読書における技術的課題等を調査した「令和元年度視覚障害者等の読書における技術的な課題等に関する調査研究【報告書】」及び本計画策定に際し、視覚障がい者等その他の関係者より聴取した意見等から、以下の検討すべき課題が挙げられます。 ア.アクセシブルな書籍等は、一般書籍と比べて発行数が非常に少ない。 イ.アクセシブルな書籍等は、一般書籍の出版時に同時製作しても校正等に時間を要するため、発行のタイミングは遅くなるものが多い。 ウ.アクセシブルな書籍等は、小説など文芸書の割合が高く、学習用図書や専門書、図鑑、絵画集・写真集等は極めて少ない。 エ.一般書籍から点訳、音訳等を行う製作ボランティア等が不足している。 オ.点字ディスプレイ※25やデイジープレイヤー※26などアクセシブルな書籍等の利用に必要な読書支援機器は、高額なものも多く、給付制度が適用されず自費で購入する場合、利用者の負担が大きい。また、機器の使用方法習得には時間が必要である。 カ.障がい種別や等級等により、利用できる制度やサービスが制約される場合がある。 キ.多様な読書方法や公立図書館・点字図書館・サピエ図書館におけるサービスが十分に周知されていない。 ク.電子書籍は、アプリケーション※27等によって電子書籍リーダー※28等の操作方法が異なる。また、読み上げが可能な形式のものは、発行済みタイトル数の4割程度にとどまっている。  大阪府内の対象者数と利用の現状を踏まえると、まず、「エ」と「キ」が大きな課題です。  その要因として、読書活動を支援するサービスの存在を知らなかったり、利用できていなかったりといった状況があることや、アクセシブルな書籍等に実際に触れる機会が少ない現状があります。また、ボランティア活動の多様化に加え、点訳や音訳は高い集中力と時間を要する作業であり、技術の習得も必要となることなどにより、これまでのような、資料製作の多くをボランティア等に頼った方法のみでは限界があるという状況があります。  さらに、点字での読書が難しく、かつ、読書支援機器等の操作に不安を感じている人に対する支援なども大きな課題です。  これらの課題を解決するためには、複数の取組を連携させながら対応していくことが必要です。  読書を楽しみたい思いは、障がいの有無にかかわらず、誰もが同じです。視覚障がい者等の読書環境の現状や課題を共有し、理解を深めていくための取組を推進していくことが重要です。  【課題と主な要因】 課題、主な要因の順に記す。 ア (アクセシブルな書籍等の発行数が少ない) ・点字図書や録音図書などの製作をボランティア等に依存しているため、発行点数の伸びが期待できない ・発行物の巻末に電子データをダウンロードするための引換券が添付されていることもあるが、ごく一部の出版者に限られている ・当初からアクセシブルな形式で発行するためには、出版者や著作権者の理解、協力が必要になる イ (アクセシブルな書籍等の発行が遅い) ・点訳では、仮名読みへの変換と分かち書き※29の作業をする必要がある ・点訳、音訳とも、正しい読みであることの確認が必要になる ・製作の効率化を図るためには、テキストデータの提供等、出版者や著作権者の理解、積極的な協力が必要になる ウ (アクセシブルな専門書等が少ない) ・学習用図書や専門書には、その分野特有の用語が含まれている ・数式や図表部分を文字によって置換えることや、点図(点を用いて示した図)による表記等が必要になる場合がある ・専門書の点訳に必要な専門知識を有する人材が少ない エ (製作ボランティア等の不足) ・点訳、音訳を行うボランティア等の高齢化が進んでいる ・ボランティア活動の多様化等により、新たに点訳や音訳ボランティアとして活動する人が減少している ・講習会を複数回受講して点訳や音訳技術を習得する必要があるなど、ボランティアを始めるためのハードルが高い ・点訳や音訳作業には、高い集中力と完成までの長い時間を要する オ (読書支援機器の購入や使用方法の習得) ・市町村が行っている日常生活用具給付等事業に、厚生労働省参考例として読書支援機器等が記載されているが、実際の対象用具や対象者は各市町村で異なる ・全額自己負担で購入するには、利用者の負担が大きい ・機器等をスムーズに利用するためには、操作方法を習得する必要がある カ (制度やサービスの制約) ・日常生活用具給付等事業には、対象とならない障がい種別や等級がある ・書籍等の郵送サービスにおいて、障がい種別や等級等による制限が設けられている場合がある キ (読書方法や支援サービスの認知) ・機器を用いて文字を拡大する、音声で聞くなど、さまざまな読書方法があることを知らない ・アクセシブルな書籍等の存在を知らない ・読書を支援するサービスがあることを知らない、または、知っていても利用することができない ク (電子書籍の操作) ・出版市場に占める電子書籍の割合は約2割で、そのほとんどが、コミックである ・テキスト情報を持たない固定されたレイアウトで作成されたものは、音声読み上げを行うことができない