ギャンブル等の問題で困っている人への支援のポイント 大阪府こころの健康総合センター はじめに 借金、家庭問題等で、困った状況になっているにも関わらず、パチンコや競馬などのギャンブル等をやめることができない人がいます。 その人に支援者として関わることになったら、あなたはどうされますか? 「家族に迷惑かけてるのに何でやめないんですか」 「これ以上やったら、生活が破綻しますよ」 「もうやらないって約束してくれますよね」 「ほかの趣味を見つけたらどうですか」 このように言って説得しようとするかもしれませんが、それは「意志が弱い」「性格の問題」「根性がない」 と思っているからかもしれません。 「ギャンブル等依存症」はギャンブル等に関するコントロール機能を 失ってしまう病気で、本人の意志や性格、根性は関係ありません。 この冊子は、ギャンブル等依存症の本人や家族をはじめ、実際に支援にあたっている医療機関職員や法律の専門家、 相談窓口職員等で構成されている「大阪府依存症関連機関連携会議ギャンブル等依存症地域支援体制推進部会」で ギャンブル等依存症の本人・家族への関わり方と支援について意見をいただき、それをまとめたものです。 ギャンブル等依存症の本人や家族等への支援の際にご活用いただければ幸いです。   もくじ 第1章 ギャンブル等依存症の基礎知識・・・1 第2章 相談対応について・・・5 第3章 ギャンブル等依存症の本人・家族への支援のポイント・・・10 (1)支援のポイント〔本人・家族共通〕・・・10 (2)支援のポイント〔本人〕・・・14 (3)支援のポイント〔家族〕・・・17 第4章 体験から学ぶ・・・20   第5章 借金に関する基礎知識・・・24 ○平成30年10月に施行されたギャンブル等依存症対策基本法では、「ギャンブル等」を「法律の定めるところにより行われる公営競技、  ぱちんこ屋に係る遊技その他の射幸行為」と定めており、遊技であるパチンコやスロットも「ギャンブル等」に含まれます。  また、医学的には法律に定められていない金銭を賭ける行為もギャンブルとしており、  この冊子では法律の対象外の行為も含めて「ギャンブル等依存症」としています。 ○親戚、友人、知人、パートナー等、本人の身近な人も家族と同様、ギャンブル等によって起こる問題に巻き込まれることがあります。  身近な人からの相談についても、家族の対応をご参照ください。 第1章 ギャンブル等依存症の基礎知識 1 ギャンブル等って何? ギャンブル等とは、結果が偶然に左右されるゲームや競技等に対して、金銭を賭ける行為のことです。 日本では、パチンコ、競馬、宝くじ等があります。 2 ギャンブル等依存症って何? 借金等で何らかの問題が起こっているにも関わらず、ギャンブル等で金銭をかける行為がやめられず、 コントロールする機能が弱くなった状態をギャンブル等依存症と言います。 不安や緊張を和らげたり、嫌なことを忘れるためにギャンブル等を繰り返しているうちに、脳の神経回路が変化して、 自分の意志ではやめられなくなる病気で、意志の弱さや性格の問題ではありません。 ギャンブル等依存症になると、脳の変化によって、次第にギャンブル等のことを第一に考え、 社会生活をしていく上で優先しなければならない様々な活動(仕事や家庭など)を選択できなくなっていきます。 なお、「ギャンブル等依存症」は行政用語で、法律において、「ギャンブル等にのめり込むことにより日常生活又は社会生活に支障が生じている状態」と 定められており、医学用語ではありません。「ICD-10」※1では「病的賭博」、「DSM-5」※2では「ギャンブル障害」と記されています。 ※1)「ICD」とはWHOによる国際疾病分類。平成31年3月現在、「ICD」は改訂されて「ICD‐11」が発表され、「Gambling disorder」と表記されている。    作成中の日本語版では、ギャンブル症(障害)とされる見込み。 ※2)「DSM‐5」とはアメリカ精神医学会の「精神疾患の診断と統計マニュアル第5版」。 3 ギャンブル等ってどんな種類があるの? ■ パチンコ、パチスロ ■ 競馬 ■ 競輪 ■ ボートレース ■ オートレース ■ 宝くじ、ナンバーズ、サッカーくじ ■ 賭け麻雀、賭け将棋 ■ スポーツ(野球等)にお金を賭ける賭博 ■ インターネット賭博 ■ カード(花札・バカラ等)を使った賭博 ■ 合法または非合法のカジノ ■ 証券の信用取引(FX) ■ 先物取引市場への投資 等 4 ギャンブル等依存症になるとどうなるの? ギャンブル等依存症になると、以下のような状況になることがあります。 ■ ギャンブル等で負けたとき、負けた分を取り戻すためにギャンブル等をする。 ■ ギャンブル等による借金を返すため、さらに借金をする。 ■ ギャンブル等によって生じた借金やお金の使い方について、家族等の周囲の人から注意されたり、責められる。 ■ ギャンブル等を続けるため、家族や親戚、友人等から嘘をついてお金を借りたり、窃盗や横領等をする。 ■ ギャンブル等でつくった借金を家族や親戚等に肩代わりさせ、ギャンブル等を続ける。 ■ ギャンブル等を続けるためのお金を得るため、必要な家計や財産を家族に相談せずに処分する。 ■ 家族や友人等にギャンブル等をしていることを知られないように隠す。 ■ 実際は負けているのに、そのことを隠す。 ■ 家族や友人等の大切な人のことよりも、ギャンブル等を優先してしまう。 ■ ギャンブル等をする時間のコントロールができない。 ■ 仕事や勉強の時間をギャンブル等に充てる。 ■ ギャンブル等をしていることについて罪悪感がある。 ■ ギャンブル等にまつわる問題から気分が落ち込み、うつ状態になり、希死念慮が生じる。 5 ギャンブル等依存症の人はどのくらいいるの? 厚生労働省の調査※3によると、ギャンブル等依存症が疑われる人は、全国で約320万人(これまでの生涯で該当する人)及び 約70万人(過去1年以内に該当する人)と言われています。 これを人口比(7%)から計算すると、大阪府で約22万人(生涯)及び約4.9万人(過去1年以内)と推計されます。 ※3)平成29年度全国調査「ギャンブル障害の疫学調査、生物学的評価、医療・福祉・社会的支援のありかたについての研究」    障害者対策総合研究開発事業(国立研究開発法人日本医療研究開発機構) 6 ギャンブル等依存症って治るの? ギャンブル等依存症になっても一生そのままというわけではありません。 時間はかかるかもしれませんが、様々な助けやまわりの理解によって、ギャンブル等に頼らない生き方をしていくことができます。 これを「回復」と言います。 また、回復したと思っていてもストレスがかかったり、何らかの刺激でギャンブル等を再開してしまうことがあり、それを何度も繰り返す人もいます。 回復に大切なのは、人とのつながりや、信頼できる人が寄り添ってくれること、安心して生活できることなどです。 支援者は、ギャンブル等依存症について正しい知識を身につけるだけではなく、回復した本人に出会い、 依存症からの回復のイメージを持つことが大切です。 もし、いまは回復できるような状態でなかったとしても、いつか回復できることを信じて関わり続けましょう。 第2章 相談対応について 1 起こっている問題は「氷山の一角」 本人や家族からは、ギャンブル等のコントロールができないことや、借金などの経済的な問題を解決したいという相談が多くあります。 本人の行動を監視したり、経済的問題を解決さえすればギャンブル等や借金はとまると思われがちですが、 依存症の背景にあるギャンブル等に頼ってしまう根本的な原因(ストレスや生きづらさ等)の解消がなければ、本人はギャンブル等を続けます。 これを氷山にたとえると、〔図1〕のようになります。 〔図1〕ギャンブル等によって起こっている問題(例) 表面化 借金、失業、離婚、虐待、自殺企図、失踪、うつ状態 等 潜在化 依存症の背景にある根本的な原因(例) ○家庭、学校、仕事等のストレス ○感情の過度な抑制(我慢) ○孤独感 ○自尊心が低い ○疾患、障がいによる生きづらさ 等 支援者はギャンブル等や借金をやめさせることにとらわれず、ギャンブル等になぜのめり込むのか、なぜギャンブル等が必要なのか、 本人がギャンブル等に頼らざるを得ない理由に焦点をあてて支援の方向性を考えましょう。 なお、ギャンブル等にのめりこむ背景に、発達障がいや精神疾患、認知症などがあることもあります。 その場合は、背景にある障がいや疾患への支援・治療の対応を行い、その上で本人の生活のしづらさの軽減を図っていきます。 ギャンブル等をしてしまう刺激(引き金)を分析して対処したり、ギャンブル等に近づかないようにするための 物理的な回避方法を本人と一緒に考えることも一つの方法です。 2 相談支援の流れ(イメージ) 本人・家族 ↓ 相談窓口 本人・家族との関係づくり(相談してくれたことをねぎらう、つらい気持ちに寄り添う、否定しない等) 本人 回復に向けて ギャンブル等に関連して生じている問題(金銭問題等)の解決に向けた支援 ギャンブル等依存症の回復に向けた支援 回復したら… 回復を促進する支援 家族 回復に向けて ギャンブル等に関連して生じている問題(金銭問題等)への対処の支援 本人への対応の支援 家族自身の回復(健康生活)のための支援 回復したら… 本人との関係を良好に維持するための支援 家族の回復を促進する支援 ギャンブル等依存症に関する支援では、ギャンブル等に関連して生じている問題の解決・対処と同時進行で、 ギャンブル等依存症の回復に向けた支援(治療や相談への導入、自助グループ※1へのつなぎ等)を行います。 支援については、本冊子の支援のポイントをご参照ください。また、回復に向けて、本人や家族を対象にした心理教育や、 認知行動療法の考え方等に基づく集団プログラムを提供している相談機関や医療機関もあります。 本人はプログラムに参加することで病気への認識が深まり、家族は本人への感情や行動が変化し、適切な対処ができるようになります。 本人や家族の状況に応じて、必要な社会資源を活用することも有効です。 ※1)依存症によって起こる問題で困っている本人や家族が集まって、自分自身の体験、気持ちなどについて話すグループ。    ギャンブル等のグループは、GA(ジーエー/本人のための集まり)とGAM−ANON(ギャマノン/家族や友人のための集まり)がある。    本人や家族しか参加できないクローズドミーティングと、支援者など誰でも参加できるオープンミーティングがある。 3 相談に来た人からどんなことを聞いたらいいの? まずは、相談に来たことをねぎらい、本人や家族のつらい気持ちを語る言葉に耳を傾け、否定せずに話を聞きましょう。 本人や家族が言いたくないことを無理に聞き出したり、問いただすようなことはやめて、まずは、本人や家族との信頼関係の構築に努めましょう。 ギャンブル等依存症の本人や家族からの相談場面では、本人がギャンブル等に頼らざるを得ない背景を理解するために、 生活状況、生育歴・生活歴等を聞き取ります。 それに加えて、次のページの「聞き取り項目」を参考に話を聞くことで、依存症の状態や金銭問題等へのアプローチのヒントになります。 全て一度に聞こうとするのではなく、支援を継続する中で、本人や家族のペースに合わせて必要なことを聞き取り、支援の方向性を検討していきましょう。 〔参考〕聞き取り項目(ギャンブル等依存症) @ギャンブル等の状況  ○現在のギャンブル等の種類  ○週あたりの頻度  ○1回あたりのギャンブル等の時間・金額  ○過去にのめり込んだことがあるギャンブル等の種類  ○ギャンブル等をすることに対して本人が感じているメリット(ギャンブル等に頼らざるを得ない理由)  ○ギャンブル等を行う引き金(現金が手元にある等) A借金等の状況  ○現在の借金額(貸金の業者等から)  ○現在の借金額(家族親戚、友人等から)  ○これまでの借金の総額(貸金の業者等から)  ○これまでの借金の総額(家族や親戚、友人等から)  ○現在の家計状況(収入・支出)  ○現在の返済状況  ○債務整理の有無やその結果  ○家族等による借金の肩代わりの有無やその額     B精神疾患や発達に関する事項  ○精神疾患の既往歴  ○知的障がいや発達障がいを指摘されたことの有無 Cギャンブル等に関連して起こった問題  ○親戚、友人、同僚、知人等の周囲への影響  ○家族関係や子どもの問題について  ○経済的困窮や借金について  ○仕事や学業への影響  ○触法行為(窃盗や横領など)の有無  ○失踪したことの有無  ○希死念慮や自殺未遂行為の有無 第3章 ギャンブル等依存症の本人・家族への支援のポイント 1 支援のポイント〔本人・家族共通〕 1 相談に来たことをねぎらう 本人も家族も、周囲の目が気になったり、相談することへの不安などから、電話や来所で相談窓口につながるまでには、時間がかかります。 まずは、相談に来たことをねぎらい、相談者が安心できるよう、真摯に対応しましょう。 2 話を受容的にじっくり聞く 本人や家族の話をじっくり聞きましょう。 はじめて相談する際は、困っていることについてうまく話せないこともあります。 相談者の不安な気持ちに寄り添って、受容的にじっくりと話を聞くことをこころがけてください。 3 回復できる病気であることを伝える 依存症は、時間はかかるかもしれませんが、回復できる病気です。 支援者は自助グループに見学に行くなどして、回復した本人や家族に会い、回復のイメージを持っておくことが大切です。 4 借金の問題は、本人抜きで解決しない 借金問題の解決も大切なことですが、まずは、借金の背景にある依存症と向き合うことが重要です。 家族が本人に代わって返済してしまうと、本人は自分自身の問題に気づくチャンスを逃してしまいます。 時間はかかるかもしれませんが、依存症の背景にあるしんどさやつらさに寄り添い、本人が主体的に借金の問題に対応できるよう支援しましょう。 5 問題の解決を焦らない 本人や家族は、借金を返済すれば問題が解決すると思っていたり、本人が入院したり入所したりすれば問題の全てが一気に解決すると思いがちです。 家族が本人に代わって借金を返しても、根本的な問題が解決されていなければ、再び借金をするという悪循環に陥る可能性もあります。 回復には時間がかかるということを、最初に伝えておくことも大切です。 6 指示や説教をしない ギャンブル等がやめられないのは意志や性格の問題ではなく、脳のコントロールする機能が弱くなっているからであり、 自分の意志で何とかなるものではありません。 このため、周囲が指示や説教をしてもギャンブル等をやめることはできず、本人はそのストレスからさらにギャンブル等にのめり込むことがあります。 7 個別の状況を踏まえて支援する 支援には個別性があるため、適切な対応は人により異なります。 「こうしたらよくなります」と個別性を無視して伝えることは、本人や家族に過度な期待を与えることになります。 8 引き金と対処を考える 本人がギャンブル等を行う引き金やそれへの対処法について、本人や家族が知ることも大切です。 例えば、ギャンブル等ができる店の前を通る、現金が手元にある、自由に使える預金がある等は大きな引き金になります。    支援者は本人と一緒に引き金を避ける方法を考えたり、家族とは引き金を避けることへの協力方法(本人の希望がある上での金銭管理等) について一緒に考えましょう。 対処法は、自助グループや集団プログラム等に参加している人の体験談が参考になることもあります。 9 病気による行動を理解する ギャンブル等が自分にとってマイナスになる、周囲の人に迷惑をかけていると認知しながら、本人はギャンブル等をコントロールできずにいます。 本人はギャンブル等への強迫的欲求でかけ金を得るために家庭内外で盗みを行ったり、自分の立場を守るためのその場しのぎの嘘をつくことがあります。 盗みも嘘もその人の性格や人格の問題というよりもギャンブル等依存症という病気による行動であり、病気による言葉であると言えます。 これらのことが病気によるものであるということを支援者は理解して対応しましょう。 10 気持ちを正直に話せる場所につなげる 依存症の本人や家族は、ギャンブル等によって起こる問題を世間体等から誰にも話せず、つらい気持ちを抑えて生活しています。 つらい気持ちを正直に話して共感してもらうことは、気持ちを整理することにつながります。 普段、誰にも言えず抑えていた気持ちを正直に話すことができるよう、相談窓口や医療機関、自助グループ等、正直に話すことができる場所につなげましょう。 11 他の機関を丁寧に紹介して、その後確認する 自身の機関で継続的に対応することが難しく、他の機関を紹介することがあっても、窓口の情報を伝えて終わるのではなく、 本人や家族の了解を得た上で、紹介先に連絡して丁寧につなぎましょう。 また、紹介先につながったかどうか、後日、本人や家族に連絡して確認をし、つながっていない場合は理由を確認した上で継続的に話を聞き、 支援の方向性を再検討しましょう。 つなぐ先としては、別紙「ギャンブル等依存症の相談窓口・自助グループ等」等を参照してください。 2 支援のポイント〔本人〕 ギャンブル等依存症の本人は、ギャンブル等にのめり込むことを「だらしない」「意志が弱い」「家族を悲しませてひどい人」などと、 周囲から責められ、つらい状態にあります。 依存症から回復するためには、怒ったり叱ったりして本人を責めるのは有効ではありません。 また一方的に、ギャンブル等を二度としないと約束させることも効果はありません。 本人がギャンブル等に頼らざるを得ない理由を丁寧に見ていくことが必要です。 1 本人のつらい気持ちに寄り添う ギャンブル等を続けることへの罪悪感や後悔、またそういう気持ちから来る「死にたい」「消えたい」という気持ち、 嘘をつき続けることのしんどさ、隠し続けることの大変さに寄り添いましょう。 2 説教等で正そうとしない 追い詰めたり、約束、説教、正論で正そうとすると、本人は余計に追い詰められて、そのつらい気持ちを軽減するためにギャンブル等がやめられなくなります。 3 コントロールしようとしない 本人がギャンブル等をすることをコントロールしようとしないこと、つまり、本人を変えようとしない、変わることを待つ、 変わりそうなタイミングを待つことが大切です。 一方的にやめさせようとすると、本人はギャンブル等により起こってくる問題を認めず反発することがあります。 4 再開したことを責めない 一旦、ギャンブル等をやめたとしても、ストレス等の何らかの刺激で再開することがあります。 そのことを責めないようにしましょう。 再開したことで本人はまわりから責められると思っています。 ギャンブル等の再開について勇気を出して話してくれた時は、「よく話してくれましたね」と伝え、再開のきっかけが何だったのか、 本人がそのことをどう捉えているか等、本人の気持ちに寄り添って聞いていきましょう。 5 小さなことでも評価する、褒める 本人が追い詰められることがないよう、悪い点に着目し過ぎないようにしましょう。 本人が変わろうとしている気持ちや努力について、たとえ小さなことであったとしても、「できて当たり前」と思うのではなく、 そこに着目して評価し、褒めるように心がけてください。 6 余暇の時間の使い方について一緒に考える 時間があるとギャンブル等にしか費やせないという状況に陥っているため、時間の使い方について一緒に考えましょう。 ただし、ギャンブル等以外に興味を持ちにくくなっているため、本人が関心を持てないような趣味を強要することはやめましょう。 また、ギャンブル等をやめることで、生活スタイルが大きく変化します。 暇で退屈な時間を作らないために、休息や、興味を持つことができる活動等を取り入れた大まかなスケジュールを立てることを提案しましょう。 7 やめたい気持ちとやめたくない気持ちの間で葛藤していることを理解する ギャンブル等をやめる気が全くないように見えても、本人はやめたい気持ちとやめたくない気持ちの間で葛藤しています。 やめる気がないから何もできないと決めつけず、相反する気持ちの間で揺れ動いていると理解し、関わっていきましょう。 8 本人の変化のステージがどの段階なのか見極め、 適切な働きかけや情報提供をしていく 本人は起こっている問題に対して無関心であったり、自分自身が変わることの必要性を理解していない時期があります。 そのような時期に、相談や治療、自助グループにつなげようとしても、本人は拒否したり、1回行ったとしてもつながらない場合があります。 その場合は、つながらないことを責めたり、諦めるのではなく、なぜ拒否するのか、なぜ1回しか行かないのか、本人の話を否定せずにじっくりと聞きましょう。 また、家族が本人と接する際の対応を見直したり、家族自身が自助グループにつながったりしながら、変化を待つことも必要です。 本人がどの時期にあるのか、相談を継続させながら見極めていきましょう。 3 支援のポイント〔家族〕 家族は、本人のギャンブル等によって起こっている問題を家族の責任と思っていたり、周囲から監視不足等を責められたりして、苦しんでいます。 また、ギャンブル等による借金の額や高い金利、世間体を気にして、家族が本人に代わって借金の返済を行うことが多くあります。  家族のつらさや苦しみに寄り添い、ギャンブル等の問題に振り回されてきた家族自身が健康を取り戻すことができるよう、支援を行うことが大切です。 1 家族のつらい気持ちに寄り添う 家族はギャンブル等依存症によって起こった様々な困難な問題により、非常につらく、苦しい状況にあります。その気持ちに寄り添って対応しましょう。 2 金銭問題への対応を一緒に考える 本人が返済できない借金に対し、家族が肩代わりしないよう、金銭問題への対応について、専門家への相談も含めて家族と一緒に考えましょう。 3 本人を責めたり管理しないよう心掛けてもらう 家族が本人を責めたり、管理的になると、本人はそのつらさから抜け出すために、さらにギャンブル等に頼るようになることを理解してもらいましょう。 4 家族が不適切な対応をしていても責めない 家族が借金の肩代わりをしたり、本人を責めたりするような行動をとったりしても、そのことを不適切な行動だと責めてはいけません。 それによってどのような結果が生じているのかに気づいてもらい、じっくり話しながら対応の仕方を一緒に考えましょう。 5 本人の意志を無視した金銭管理や監視は効果がないことを伝える ギャンブル等をやめさせるために、本人の意志を無視して金銭管理をしたり監視したりしても、本人を回復に向かわせる効果はありません。 本人の心の中にある「やめて立ち直りたい」という気持ちが回復の動機になり、本人への信頼と尊重がその動機を強めることになります。 これまでの本人との関係を問い直し、関係の修復に取組むことを支援しましょう。 6 家族自身の健康の回復をめざす 家族が本人のギャンブル等に関する問題にとらわれ過ぎている場合は、仕事や趣味、自助グループに通うこと等、家族自身が自分のための時間を作ったり、 元気になることをめざして支援しましょう。 7 重要書類の管理や避難場所の確保をしておく ギャンブル等依存症の人が病気の行動で盗みをし、自己嫌悪に陥り、自尊感情を低める結果を招かないため、家族は勝手に名義を使われたりしないよう、 重要書類や実印は本人の手の届かないところに保管するなどの対応が必要です。 銀行の貸金庫の利用も一つの方法です。 自宅でも財布を身に付けておく等の対処が必要な場合があります。 また、本人から暴言や暴力がある場合は、親戚や友人の家、公的なシェルター、ホテルなど、家族が避難できる場所をあらかじめ確保できるよう、 家族と話し合いをしておきましょう。 8 各家庭の事情や安全性に配慮する 各家庭の事情や安全性に配慮せず、家族に「本人を家から追い出しなさい」「家を出なさい」と伝えると、家族は経済的な面や、 子どもの養育や学校の問題等によって躊躇し、不安になります。 また、結果的に、本人や家族を追い詰めてしまい、状況が悪化することもあるので注意しましょう。 第4章 体験から学ぶ 本人の体験談@「焦らないで」 「ウソ」と「現実」の見境がつかなかった。何度も何度も繰り返す借金。家が何軒も買えるほどの借金をして、家族に尻拭いしてもらった。 自分でもおかしいと思っているがギャンブルがやめられない。 仕事の出張で家にいない時間が多くても、毎月百数十時間の残業をこなしながらでも、ギャンブルに行く時間は作っていました。 そんな時、妻が調べてくれ、妻が相談機関につながり、ギャンブル等依存症の治療をしている医療機関を紹介されました。 息子から「親父、病気やったら治してこい」と言われ、それが私にとってまさにその時で、医療機関に受診しました。 医療機関でカウンセリングを受け、気分が楽になりました。また、自助グループを教えてもらったことが回復の始まりであり、再出発の時でした。 自助グループで自分と同じような仲間がいることを知りましたが、「これで本当に回復するのか?」と思ったのも事実です。 しかし、不思議なことが起こり、自助グループに通ううちに、心が落ち着いてきました。回復の兆しかもしれないと思えました。 もうあの負のスパイラル(借金、ウソの生活)には戻りたくない。ミーティングによる仲間との分かち合いに参加し続け、回復の道を歩き続けたいと思います。 回復の時は必ず来ます。しかし、本人が相談機関や自助グループに現れるまでには長い年月が必要です。 焦らずに、その時に備えて、本人も家族も相談機関や自助グループ等で対応方法を学んでください。 本人も家族も、そして支援する人もどうか焦らないでください。 本人の体験談A「私とギャンブル」 18歳で高校を卒業して料理の道へ進む決心をし、中国料理店に就職しました。 入社して3か月間は、まじめに勤務出来ましたが、やがて酒を覚え、パチンコが始まりました。 最初のうちは勤務が終わってから1時間位でしたが、次第にコントロールが効かなくなっていきました。 この時の1日は、休憩時間はパチンコ、仕事が終われば酒の生活が毎日でした。1年間はこのような生活でしたが、転勤して今度は大型店です。 大型店ですから当然繁華街にあり、少し余裕が出てきた頃から休憩時間は繁華街でパチンコ、仕事が終わればお酒の生活が始まりました。 給料は、ギャンブルとお酒のために使い、なくなれば親にたかる生活です。ちょうどこの頃に、違法でありながらポーカーゲームにはまりだしました。 2,3か月は続きましたが、ポーカーゲームが廃止になって出来なくなり、その後はまたパチンコでした。「今度こそは勝ってやる」と行くのですが、ダメ。 休憩時間、仕事終わりに通っていましたが、ダメ。  結局、のちにサラ金地獄になりました。サラ金も最初は「ちょっとくらいいいか」の考えでしたが、それはもうすでに地獄の入り口に入っていました。 自転車操業になっても返済できると思いたかったけれど現実は違いました。出来た事は逃げる事でした。  どうしようもなくなり、回復施設につながって、自助グループにも通い、いまはお酒もギャンブルも止まっています。  回復するためには、「依存を必要としない生き方」しかありません。でも一人では無理で、仲間の力が必要です。 過去の自分に依存は必要でしたが、ミーティングに参加してギャンブルを必要としない生き方に変えていくことができるようになりました。 家族の体験談@「母のこと」 私にはギャンブル依存症の母がいました。母のギャンブル歴は長く、私はパチンコ店で育ちました。 博打に興じる母の姿を見るのがつらくて悲しかったのですが、何故か…心の片隅では母がかわいそうに思えて、パチンコをやめて欲しいとは言えませんでした。 始終借金トラブルを抱えて周囲の鼻つまみ者でしたが、私は母が好きでした。 私が社会人になっても母のギャンブルはとまらず、繰り返す借金は父と私が返済を続けておりましたが、膨れ上がる借金総額になす術をなくしていました。 そんな時、新聞に小さな記事を見つけました。「ギャンブル依存症」書かれていた内容はまさに母の症状でした。 その中でギャンブルをやめるためには自助グループミーティングが効果的なことも知りました。それから14年が過ぎました。 母と私は自助グループミーティングに継続参加していました。 ギャンブルをやめると、素の母の長所がたくさん出てきて、母を人生の先輩として尊敬できるようになっていました。 そして今…母は癌のため、私の前から姿を消しましたが、亡くなるひと月前までミーティングに参加していました。 私や母を支えてくれた自助グループメンバー、悩みを静かに聴いてくれた行政窓口の人。たくさんの方々の力を借りて回復を継続させることができました。 次は私が経験した出来事を伝えていく順番だと思っています。ね!お母ちゃん。 家族の体験談A「夫と私」 私は度重なる夫の借金発覚で人生のどん底を味わっていました。夫はパチンコにはまっていて競馬や麻雀もやっていました。 借金がばれる度に私は怒り狂い、怒鳴りちらし、泣き喚くという事を繰り返していました。 なぜ離婚しなかったのか?それはギャンブルの問題さえなければ、優しく仕事も出来る、穏やかないい人だからという理由と私が共依存で、 一人でやっていく自信がなかったからです。 最後に借金が発覚した時、もう無理!離婚しようと思いましたが、インターネットで自助グループの存在を知り、とりあえず行ってみる事にしました。 家族のための自助グループは私を温かく迎え入れてくれました。 自分がこの世で一番不幸だと思っていましたが、同じ悩みを持つ人達がいることで、少しほっとしました。 夫も苦しんでいたので仲間に教えてもらった病院へ連れて行き、本人の自助グループに繋がることが出来ました。 そしてギャンブル依存症はその本人だけでなく周りの人も同じような強迫観念にとらわれてしまう病気になっているのだと知って驚きました。 夫はギャンブルに、私は夫に依存していたのです。とても苦しいのに夫の問題を自分の事のように思い、夫を自分の思い通りにしたいと思っていました。 夫だけでなく子どもにも同じように思っていました。 自助グループに通うようになって夫のギャンブルだけでなく自分の生きづらい部分にも目を向けて、より生きやすい人生を送れるようになったことが 本当に良かったと思います。 第5章 借金に関する基礎知識 ギャンブル等依存症に関する相談の多くで、本人の借金が問題となります。  ここでは、借金に関して知っておきたい知識をご紹介します。 1 ギャンブル等依存症の人はどこから借りているの? ギャンブル等依存症の人は、ギャンブル等を続けるために、以下に示すもののうち、複数からお金を借りていることがよくあります。 ■ 銀行、信用金庫、JAなどの金融機関 ■ いわゆる消費者金融やサラ金と言われる貸金業者 ■ クレジットカードのキャッシングやローン(なお、クレジット枠の利用も借金と考えてください) ■ 会社からの貸付 ■ 社会福祉協議会の生活福祉資金貸付 ■ 生命保険の契約者貸付 ■ 年金担保貸付 ■ 家族(親・配偶者・子ども・兄弟)、親戚、友人、知人 ■ ヤミ金融業者(違法な貸金業者)等 借り入れの全体像により借金の整理方法が決まりますので、全て把握するように心掛けましょう。 特に、親戚・友人・知人からの借り入れは整理の対象ではないと勝手に考え、自己申告されない場合がありますから、注意してください。 また、住宅ローン、自動車のローンなどギャンブル等以外の原因の借金や保証債務なども整理方法に影響を与えますので、もれのないように聞き取りましょう。 なお、本人は、自分の名前でお金を借りるに留まらず、以下のような方法でギャンブル等を続けるために金銭を得ようとすることもあります。 ■ 生命保険を家族に無断で解約する ■ 勝手に家族名義でお金を借りる ■ 教育資金や奨学金など子ども名義の財産に手をつける ■ クレジットで購入した物品を転売する ■ 家族名義のクレジットカードを無断で使用する ■ 家族のお金を盗む、勤務先のお金を横領する ■ 預り金の流用 ■ 勤務先の財形貯蓄の解約 等 ギャンブル等依存症になると、本人の価値観が変化し、ギャンブル等を続けることが最も優先されてしまい、 ありとあらゆる方法でギャンブル等の資金を手に入れようとすることがあります。 そのような事情も借金の整理方法や今後の支援に影響を与えますので、できるだけ聞き取るようにしましょう。 2 押さえておきたいポイント 1 安易に家族等の周囲が借金を返済しない ギャンブル等をするために作った借金を、安易に家族等の周囲が返済してはいけません。 そうすることで本人は苦しみから簡単に逃れられ、ギャンブル等に問題があることを自覚できなくなってしまいます。 また、再度借り入れることができるようになるため、すぐにギャンブル等を再開し、簡単に借金を繰り返してしまいます。 なお、(連帯)保証人や連帯債務者になっていなければ、家族に返済の義務はありません。 2 借金の発覚は、本人を回復に導く大きなチャンス 借金が発覚することで、本人も自分のギャンブル等のやり方に問題があると気が付くきっかけになります。 借金の問題の相談だけではなく、本人やその家族の状況に応じ、適切な相談機関や医療機関、回復施設、自助グループにつながるような助言をしてください。 3 債務整理について 「債務整理」とは、借金(債務)の額と支払い方法を見直すという意味で、金融機関などの債権者と交渉したり、 裁判所に申し立てをしたりすることにより、将来の利息カット、借金の減額などを行う方法です。 債務整理では友人・知人からの借り入れや保証債務など全ての借り入れを含めて処理することになり、 任意整理・特定調停・個人再生・自己破産の4種類があります(次ページ〔表1〕のとおり)。 法律の専門家(弁護士・司法書士)が、本人から債務整理の委任を受けた旨記載した受任通知(介入通知)を送れば、 債権者からの借金の取り立てはストップしますが、信用情報機関※1に情報が登録され、その後の金融機関からの借り入れが困難になります。 なお、依頼する際の費用は、後述の民事法律扶助制度(P.29参照)を利用する場合を除き、法律の専門家により異なります。 ※1)全国銀行個人信用情報センター、株式会社日本信用情報機構、株式会社シー・アイ・シーのこと 〔表1〕債務整理の種類と概要 任意整理 裁判所を利用せずに、法律専門家(弁護士・司法書士)に依頼して、今後の借金の支払いを、各債権者との個別の話し合いにより決め、 決めた内容を書面化するという手続きです。借金の総額が比較的少なく、原則として今後分割して支払っていける場合に選択します。 特定調停 裁判所において、公正な立場の調停委員を介して、総債権者に対して、借金の額・支払い方法について話し合う手続きです。 債権者数が多く個別の話し合いは難しいものの、借金の総額が比較的少なく、今後分割して支払っていける場合に選択します。 実費は数千円程度で、法律専門家に依頼することなく、ご自身が裁判所に調停の申立てを行うこともできます。 ただし、調停で決まった返済計画には、判決と同じ強制力がありますので、終了後、支払を確実に継続する必要が出てきます。 個人再生 裁判所に申し立て、一定額まで借金が減額される手続きで、定期的な家計収入がある方が選択できる手続きです。 住宅ローンは、他の債権者への支払計画とは分けて、別途返済していくことができるので、住宅ローンのある方にも適した手続きです。 また、どうしても自己破産できない事情のある方が、選択することもあります。 複雑な手続きなので、法律の専門家に依頼することをお薦めします。 自己破産 裁判所に申し立て、価値のある資産(生活必需品などは除きます)は、お金に換えて各債権者の債権額に応じて平等に分配した上で、 返済できない部分の借金の支払いを免除してもらう手続きです。資産よりも負債が大きく、返済ができない場合に選択します。 複雑な手続きなので、法律の専門家に依頼することをお薦めします。 4 債務整理にかかる支援者の心構え ■「借金の問題は必ず解決できます。」  まずはこの言葉で本人や家族をエンパワメントしましょう。 ■債務整理は、借金をしている人の負債総額はもちろん、収入、資産、支出の状況などによって対応が変わり、個別性が高いものです。  債務整理について扱っている機関以外の支援者の判断だけで、この方法が使えると本人や家族に伝えるのは控えましょう。 ■債務整理の専門の相談窓口(別紙「ギャンブル等依存症の相談窓口・自助グループ等」参照)等につないだ後は、  返済の状況についての報告を受けて、本人ががんばっている点や、返済を始めているのであればその点を評価しましょう。 ■借金の返済が終わってからでないと、何も相談支援ができないわけではありません。  また、ギャンブル等に頼らざるを得ないつらさやしんどさを解決しないまま借金だけを返済しても、また借金を繰り返すことも多く、  問題を悪化させるだけです。  借金の返済は、ギャンブル等依存症の問題の一部と捉え、本人がギャンブル等に頼らざるを得ないつらさに寄り添った相談支援を継続しましょう。 5 いわゆるヤミ金について ヤミ金は、法律で定められた金利を超える高金利で貸付けを行います。 そして、返済が少しでも遅れた場合には、勤務先や親きょうだい・親戚にまで脅迫まがいの厳しい取立てや嫌がらせなどを行い、精神的な追い込みをかけてきます。 ヤミ金との契約は原則無効(民法90条、貸金業法42条)ですので、返済は不要です。 また、ヤミ金の悪質な取立行為は、脅迫罪、強要罪等の刑法犯に該当したり、貸金業法等の法律に触れ罰則が適用されたりする場合があります。 厳しい取立てに対しては、法律の専門家に相談することはもちろん、最寄りの警察署か大阪府警察本部の悪質商法110番(06-6941-4592)に相談するよう助言しましょう。 6 法的手続きのための費用が準備できない場合 収入や財産が少なく、法律の専門家に法的手続きを依頼する際のまとまった費用の準備が難しい方には、 費用立替えのための民事法律扶助制度を利用するよう助言してください。 この制度は、司法支援センター(愛称:法テラス)からも申し込みができますし、法テラスの契約弁護士・司法書士であれば、 法テラスを介さずに、民事法律扶助制度を利用できます。 また、収入や財産が法テラスの基準以上あり、民事法律扶助制度が利用できない場合でも、費用の分割支払いに応じてもらえることもありますので、相談してみてください。 大阪府こころの健康総合センター 〒558-0056大阪市住吉区万代東3-1-46    TEL:06-6691-2810  FAX:06-6691-2814 平成31年3月発行 (令和2年2月増刷)