第11回大阪府障がい者差別解消協議会「大阪府障がい者差別解消条例施行状況の検討について」の主な委員意見   論点1 事業者による法等の理解に向けた取組みや合理的配慮の実施状況、現行の規定(努力義務)に基づく取組み  1 合理的配慮の概念の事業者への浸透状況  府が1,000事業者を対象に実施したアンケートでは、合理的配慮の理解度を直接的に問う設問がなく、「過重な負担がないにもかかわらず配慮を行わないことは差別にあたるか」という設問の回答だけで、合理的配慮が事業者に浸透しているとは言えない。  アンケートでは、合理的配慮について説明したうえで設問を展開していることから、合理的配慮の概念を理解しないままに回答しているとは一概には言えない。  公共交通機関分野だけでも、事業者には鉄道、タクシー、バスなど様々な事業形態があり、事業規模等も事業者ごとに異なることから、法の認知度や理解度には差があると考えられる。  アンケート結果では、「研修を実施している事業者ほど法の認知度が高い」と分析されているが、エリアや店舗、従業員の研修参加率など詳細に分析する必要があり、府の分析が適当なのかは疑問に感じる。  法の認知度を問う設問では、回答事業者のうち約7割が法の内容を知らないことから、社会における法(合理的配慮の概念)の浸透度は不十分であると言える。  一方、過重な負担がないにもかかわらず配慮を行わないことは差別にあたるかとの設問では、約8割の事業者が差別にあたると回答していることから、一般論として差別であるとの認識が示されていると言える。   法・条例施行後、努力義務である以上対応しないという事業者は見受けられず、大半の事業者は、努力義務であっても社会的責任としてできる限り対応しているのではないか。  アンケート結果によると、業務上、障がい者と接する機会がある事業者は回答事業者数の7割程度いるにもかかわらず、法の名前も内容も知っている(合理的配慮の提供について考えることのできる)事業者が3割程度という現状は、法等の浸透が不十分であると言える。      2 事業者に対する啓発の取組みへの評価と今後求められる取組み  アンケート回答者と想定される経営者等と、実際に障がい者に接する現場の従業員とでは意識の乖離が考えられる。現場の従業員にどのように法の理念等を浸透させるかが課題である。  障がい者差別解消協議会は、障害者差別解消支援地域協議会の機能を併せ持つことから、解消協の有するネットワークを活用しながら、現場の従業員にまで法の理念等を浸透させるための手法を検討していくことが必要。  事業者が、合理的配慮という抽象的でわかりにくい概念や配慮の望ましい事例を具体的に理解し、取り組めるよう、飲食や公共交通利用時など場面に応じて対象を絞った啓発物の作成が必要である。  また、他自治体が実施している、合理的配慮の提供にあたっての行政による補助制度や、合理的配慮の提供に積極的に取り組んでいる事業者の表彰制度なども考えられる。     論点2 合理的配慮の義務化の検討について  1 意義・効果及び事業者に与える影響  (1)合理的配慮の義務化の意義や社会的・法的効果  障害者権利条約は、合理的配慮を公的機関と民間事業者の区別なく法的義務として定めており、同じ内容のサービスを提供する場合に設立主体が公民かで配慮を区別すること自体が極めて不合理である。また、努力義務である現状では、府や市町村による建設的対話の働きかけが困難になるなどの事例が散見されており、合理的配慮の提供に不可欠な建設的対話を促すためには努力義務では極めて不十分である。以上のことから、義務化は必要だと考える。  他都道府県や、府内では茨木市が条例により義務化し、特段の支障や課題が生じていないこと、法が地方の実情に合わせられるよう条例による上乗せ横出しを認めていること、アンケートでも義務化への賛成意見が8割程度であることからも、共生社会に向けて義務化を検討すべきではないか。  障がい者差別解消のためには現状の取組みの充実が求められており、また、合理的配慮の不提供を背景とした不当な差別的取扱いの事案や法等の理解が不十分なことによる差別事案も生じている。障害者権利条約では合理的配慮の提供は義務であり、関西万博に向けて国際基準を満たした共生社会づくりも求められている。このようなことを理由として、義務化を検討すべきである。  国内法は障害者権利条約の批准に向けて整備をしたものであり、権利条約では合理的配慮の提供は義務とされていることや、過重な負担のない範囲という前提もあることから、義務化することは妥当である。  依然、社会には障がいに対する偏見や無理解があることから、義務化により法の理念等の理解浸透を図り、共生社会に向けて取り組んでいくことが求められる。  義務化により、事業者が合理的配慮の提供を社会的責務として受け止め、建設的対話への姿勢、理解が深まるのではないか。  合理的配慮の概念が社会に浸透していることは、義務化の前提条件ではない。現状の取組みでは法の理念等が社会に十分に浸透することは難しいことから、合理的配慮の概念を浸透させるために、啓発以外の仕組みとして、義務化を検討する必要がある。  法制定時は合理的配慮の概念が十分に社会に浸透していないことから努力義務と規定された背景はあるが、障害者権利条約では合理的配慮は義務である。  府として、権利条約の規定や、SDGsに基づいた取組みや大阪・関西万博の開催に向けた社会づくりが必要となっている現状を踏まえ、義務化により社会に法等の理念を浸透させ、障がい者差別解消を進めることは、社会的効果の観点から意義があると言えるのではないか。  合理的配慮の提供が努力義務である以上はあっせんの対象に加える実益がないと結論づけられることから、合理的配慮の提供をあっせんの対象に加えるためには義務規定化することが必要。  ただし、その際には、あっせんの効力の及ぶ範囲と限界について、解消協議会の認識を一致させておくことが求められる。  府条例に定める紛争予防や解決の仕組みは、府が当事者間の建設的対話を促し、柔軟・現実的な方法を見出していくというものであり、過重な負担に該当するか否か、合理的配慮の不提供か否か、法的責任を事業者に問うか否かの判断を行うものではない。  広域支援相談員による調整以外で、建設的対話を促すための紛争解決の手法として、義務化により合理的配慮をあっせんの対象に加えるというのは一つの考え方ではないか。  あっせんの対象になるという点で合理的配慮の提供を法的義務にする意味はあるが、合理的配慮の不提供による不当な差別的取扱いはあっせんの対象としていることや、努力義務・法的義務をとわずいずれも行政指導の対象であることから、義務化による法的効果は特にない。  広域支援相談員の調整や合議体によるあっせんは、事業者に対する強制的な権限を有しておらず、行政指導により、当事者間の紛争に介入し、共生社会に向けて紛争解決の方法を見出す条例の基本的な考え方は義務化しても変わらない。  つまり、義務化の意義は、社会的効果として、啓発による法の理念等の浸透を図るということにあると考える。  (2)義務化によって事業者や、事業者と障がい者の関係に与える影響  過重な負担がある場合は合理的配慮を提供しなくても不提供とはならないことから、財政基盤や人的・物的規模を考慮して民間事業者の負担が大きくなるという指摘はあたらない。  義務化の検討にあたっては、事業者が抱える不安や課題(過重な負担の基準が不明確であることや、安全性・公平性との整理、現場での柔軟なルール変更の難しさなど)を解消するための具体的な取組みを検討しなければならない。  その手法として、ガイドラインの活用や広域支援相談員の調査権限の整理、障がい者や事業者がともに差別解消に取り組んでいくための対話や調整を可能とする仕組みの検討が必要である。  過重な負担の基準は、業種や規模、状況や場面等でその都度異なることから明確に示すことは困難である。  義務化の検討に当たっては、事業者に対し、過重な負担も含め、合理的配慮に関する事例を今後も積み重ね、事例ごとの考え方を情報発信することで、事業者が配慮の申し出を受けた場合に他事例を踏まえて取り組むことができるよう、概念等の浸透に向けた啓発をしていくことが求められる。  事業者が懸念する安全性の確保や現場での柔軟なルールの変更については、過重な負担とは考えにくい合理性の問題であり、抽象的・一般的な安全上の理由だけで障がい者の社会参加の機会を奪ってはならない。また、公平性の観点は、障がい者とそうでない人に同じことを行うことではなく、障がいによる社会的障壁をなくすための合理的配慮によって平等にしていくことへの理解が必要になる。  事例ごとに対話を積み重ね、その事例をガイドラインにより提示し、周知していくことが求められる。  法・条例施行後、合理的配慮ではないことを「合理的配慮」として申し出る事例が見受けられる。合理的配慮とは障がい者の機会平等の確保のための変更や調整であり、配慮や思いやり、手伝いという概念ではない。合理的配慮は、事業者による「善意」とは異なるものであり、具体的に合理的配慮とは何かということを社会全体に周知していく必要がある。    2 広域支援相談員や合議体等、条例上の仕組み  (1) 広域支援相談員の権限強化(実効性の確保)  第12回大阪府障がい者差別解消協議会で審議予定  (2) 合理的配慮があっせん対象になることに伴う合議体の判断の安定化  合理的配慮や過重な負担が抽象的概念である以上、判断や考え方がその都度、変わることはある程度やむを得ない。  合議体は、事案に応じて、解消協委員等のうちから会長が指名する5人をもって構成することで、様々な意見を踏まえながら判断の安定性を確保する仕組みである。  基本的な考え方は解消協委員、専門委員で共有することは必要だが、合議体の仕組みは現行のままで良いと考える。  (3) 事業者に対する罰則規定  条例では知事の勧告・公表という実質上の制裁措置が規定されている。知事の勧告・公表によってもなお問題が解決されず著しく公益に反する事態が具体に生じた場合、行政罰も検討の余地はあるが、現時点ではそのような事態はなく、今は社会に法の理念等を広げていくことが重要である。  罰則という形ではなく、障がい者が今後社会参加できるようにするためにはどうすればいいのかということが権利救済のあるべき姿であり、行政機関の介入による柔軟な対応である。      (4) その他  事業者による合理的配慮の提供を直接・間接に支援する仕組みの整備が必要である。当面は大阪府による広域的な仕組みの構築が必要となるが、将来的には基礎自治体が主体的に運営することができるよう、府による財政措置も含めた支援制度を設けていくことが求められる。  義務化にあたっては、物的な補填も含め、ソフト面、ハード面での援助が求められる。  義務化に伴い広域支援相談員の業務範囲が拡大することが想定されるため、相談体制の更なる整備が求められる。  事業者が合理的配慮の提供が社会的責務であると肯定的に受け止めることができるよう、既に義務となっている行政機関等における積極的な取組みを広く周知・広報するとともに、事業者の積極的な取組みを評価・交流していく機会を設けることが必要。  義務化に当たっては、事業者任せにすることなく、府として状況に応じた柔軟な支援・対応を行うことを内外に示すことが必要である。