資料2−1 大阪府障がい者差別解消条例施行状況の検討について (本日の検討事項)    論点1 事業者による合理的配慮の提供について  (1)事業者による法等の理解に向けた取組みや合理的配慮の実施状況、現行の規定(努力義務)に基づく取組み  3か年の取組状況と自己評価  府は、条例施行を見据えてガイドラインを策定するとともに、施行後、新たな取組みとして、障がい者を講師として事業者に派遣し、障がい理解を深める出前講座の実施や、汎用性のある研修プログラム(DVDなど)の開発・周知による事業者の研修実施の支援により、事業者の障がい理解や差別解消に向けた自主的な取組みの促進を図ってきた。  しかし、合理的配慮の概念は未だ社会全体に充分に定着しているとは言えず、建設的対話を通じた合理的配慮の提供の必要性を広く社会で共有し、浸透させることが重要である。  今後も、事業者に対するガイドライン等を活用した啓発とともに、事業者が自ら障がい理解を深める取組みを行うような支援の充実が求められる。  (平成30年度「大阪府障がい者差別解消条例運用状況に関するワーキング」より抜粋)    検討の視点  合理的配慮の概念は事業者に浸透しているか。  事業者に対する啓発の取組みへの評価と今後求められる取組みについて    視点(平成30年度「大阪府障がい者差別解消条例運用状況に関するワーキング」より抜粋)  法や条例施行後、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮は一定広まっているが、本質的な理解にまでは至っていない。また、管理職は知っていても、現場の従業員まで浸透していない。法で一番大切にしなければならないのは、障がいがあるということを理由に、障がいのない人と同じサービスが受けられないということをなくすために、様々な工夫をしていこうということであるが、そのことが浸透していない。  法や条例施行後、合理的配慮の概念が事業者に浸透したかは、法の施行によって合理的配慮を全く知らなかった事業者における言葉の認知を言うのか、内容の熟知までを言うのかの整理が必要である。  合理的配慮の理解促進について、定量的な評価は難しい。仮に事業者に対する世論調査を行い、定量的に浸透度を出したとしても、何パーセントになれば良いと考えるのかという問題が残る。事業者における合理的配慮の概念の浸透状況については、定性的な評価をした方が良い。  何か事案があり、それに対する事業者の責任として取り組んできた事業者団体は、既に人権問題に関する研修を実施しており、差別解消に関する研修も実施しやすいが、そうではない事業者団体では、新たに差別解消の研修を実施することは難しい。  行政機関においても、法等の理解が進んでいないというのが現状である。  事業者自らの業務の中で障がい者差別に「気付く」ための研修や啓発が求められる。また、エンドユーザーの意識が変わることで、事業者の差別解消の取組みに対する姿勢も変わると考えられる。  事業者における研修の推進には、「研修を実施する」ことへのハードルの高さや実施時間、分量の問題があることから、行政による研修マニュアルの作成や短時間での研修方法や事例、わかりやすい資料の紹介、講師の派遣といった、事業者にとって簡単で取り組みやすい研修の動機付けが必要である。  作成した既存ツールを改めて整理、補足してSNSなども活用し広めていくなどの工夫とともに、広報や周知活動だけではなく、より高い理解に導いて、行動につなげるという啓発が必要である。  G20大阪サミット(2019年開催)、日本国際博覧会(2025年開催)、オリンピック・パラリンピック(2020年開催)を見据え、観光・量販店等の店舗、公共交通など 対象を絞った事業者向けの啓発が必要である。  また、開催に当たっての事業者広報のなかに、差別解消に取り組む企業として事業者イメージを向上させるような広報活動を組み入れるなど、事業者のノウハウや媒体をうまく活用した啓発の検討が必要である。  合理的配慮の提供を義務化しても、啓発の取組の強化は必要であり、事業者の意識がどう変わったかを把握するツールの開発が必要である。【再掲】  府は、事業者向けの啓発DVDを作成し、周知しているところだが、その活用方法や実績などの確認も必要である。  啓発活動のなかで、事業者が環境整備として取り組むことが大切である。事業者や事業者団体に具体的な取組みを助言できるような啓発がなされれば、当事者間の建設的対話が進んでいくと考える。これは解消協の課題である。   論点2 合理的配慮の義務化の検討について  (1)意義・効果及び事業者に与える影響  検討の視点  合理的配慮の提供が努力義務規定である現状において、事業者による合理的配慮の提供に課題や支障が生じているか。  合理的配慮の義務化には社会的効果や法的効果があるのか。また、それらの効果はどの程度見込めるのか。義務化によって、事業者や、事業者と障がい者の関係にどのような影響を与えるか。  義務化に関する事業者の懸念事項(資料2−4 アンケート結果より)  過重な負担の判断基準が不明確である(合理的配慮の範囲が不明確)。  業種・規模等による違いがあるほか、混雑時等の状況によっても対応が難しい場合がある。  施設・設備の改修等を求められた場合、物理的に難しい場合や費用負担が重すぎる場合がある  社会への障害者差別解消法の理念や内容の浸透が十分ではない。  視点(平成30年度「大阪府障がい者差別解消条例運用状況に関するワーキング」より抜粋)  事業者に合理的配慮の概念が充分に浸透したことをもって義務化するのか、あるいは、義務化することで合理的配慮の概念を浸透させていくのかという2つのアプローチがある。事業者における合理的配慮の概念の浸透度合いと、合理的配慮の提供の義務化の議論を結び付けて考えることは妥当なのかという点を整理する必要がある。  条例制定時、法を踏まえ、事業者にとって合理的配慮の概念が新しく、法的義務はハードルが高いとして努力義務にした経過がある。必ずしも、合理的配慮の概念が浸透していなければ義務化できないものでないが、条例制定の経緯を考えると、社会規範として合理的配慮の概念が浸透したか、事業者に与える影響はどうかについて、事業者の意見を把握したうえで義務化を判断する必要がある。  法は権利条約を具体化するために制定されており、条例は、法を具体化したものなので、その意味では権利条約を具体化していると考えることもでき、権利条約が義務であれば、条例で合理的配慮の提供を法的義務にするという考え方はある。  法において、事業者は努力義務とされたのは経過措置である。10月に施行された東京都の条例においては義務規定であり、法が施行された平成28年度当時とは状況が異なる。義務化によって、事業者の社会的責任が周知され、事業者における合理的配慮の提供に当たっての体制整備や取組みが進むという点で社会的意義は大きい。  義務化の意味は、合理的配慮の不提供をあっせんの対象に加えることにとどまるが、努力義務の場合においても他都道府県の条例からあっせんの対象に加えることは可能であり、法的義務とする「法的意味」はない。 つまり、義務化するかは、「合理的配慮は提供されなければならない」ということを府民に明示するという「社会的意味」を持たせるかどうかである。  合理的配慮という言葉は浸透しつつあることから、今後は、義務化によって事業者の内容理解を深め、意識を変えていくことが求められる。  過重な負担を求められるものではない以上、法的義務であっても努力義務であっても求められることに違いはないので、法的義務化をしても良いのではないか。  法や条例は、義務違反を摘発し刑罰や行政罰を適用するものではなく、国や府のソフトな関与・調整によって、事業者に対し理解と協力を求め、望ましい社会のあり方に向けて取り組んでいくものである。法的義務化によって、この条例の性格が変わるものではない。  義務化により、障がい者は、条例を根拠に事業者に合理的配慮の提供を権利として要求でき、事業者は義務不履行時に過重な負担があることの説明をしなければならなくなるという新たな権利と義務が発生することになる。このことがどのような社会的な効果・影響をもつのか見極める必要がある。  また、事業者と障がい者の関係に実際にどのような影響を与えるか、特に紛争予防・解決の仕組みやプロセスにどのような影響を与えるかについても考慮する必要がある。  義務化は、障がい者を中心とした社会がより住みやすくなるための一つの重要なツールではあるが、義務化することで事業者への周知が図られるということはおそらくありえない。大事なことは、努力義務でも今の取組みを地道に継続することで、結果的に合理的配慮の考え方を事業者に周知していくことである。  合理的配慮の浸透方法は義務化だけではなく、義務化の前段階として、合理的配慮の概念等の周知徹底や相談紛争解決の仕組みをより有効なものにすることが重要である。  あっせんは司法とは異なり、法的拘束力のある命令まではできないため、義務化には期待するほどの効果はない。義務化については、社会的効果と様々な紛争解決の仕組みとをセットで検討しなければならない。  合議体が行う紛争解決は、司法で権利救済ができるような拘束力はないという法的解釈があることを障がい者に理解いただく必要があり、社会的効果と法的効果の議論が必要である。  法は、行政指導により実効性を確保する仕組みであることから法的効果として限界があり、義務化によって一定の改善がなされることはあっても、事業者としては過重な負担があり提供できない場合がある。法的効果としてどの程度のものを想定できるか確認が必要である。  社会的効果として、合理的配慮の提供をしなければならないということを明確化することに意味はあるが、社会規範として法的義務化できる状況にあるのかということも確認が必要である。  紛争解決の体制整備を行うという条例趣旨を考えると、義務化により、当事者の意見が大きく食い違う時にあっせんで合意形成を促すことに意味があるが、現在の条例の運用レベルでも対応可能。現時点ではあっせんの対象に合理的配慮の不提供を含めるという仕組みの検討を視野に入れつつ、条例改正による合理的配慮の提供の法的義務化については、法改正を踏まえて対応することも考えうる。  啓発の取組みを強化するなかで、社会規範として合理的配慮が周知徹底され、かつ、法改正がなされた状況にあれば、条例改正がしやすい環境ができるのではないか。  義務化に当たっては、ガイドラインをどう改訂するか、府として事業者に合理的配慮の概念をどう浸透させていくか、また、解消協や合議体の役割はどう変えていく必要があるのかなどを整理する必要がある。  合理的配慮は個別性・多様性が高いものであり、一般化できないものであることから、事業者には、義務化に当たって合理的配慮の提供の範囲や過重な負担の基準に関する不安や懸念の声がある。一方で、事業者の声として、「義務化されると、過重な負担を求められる恐れがある」というように合理的配慮を誤解している節があることから、義務化に当たっては、合理的配慮の提供は、過重な負担のない範囲で行うことになることを伝えていくことが求められる。  ガイドラインで合理的配慮の提供に係る事例や過重な負担の基準化を一緒に考えていくことが求められる。  合理的配慮の提供は個別性が高いことから、ガイドラインで全てを示すことはできないので、例示によって事業者の不安や懸念の声をすべてなくすことは難しい。  府は条例を施行し、様々な事例を積み上げてきており、相談員は事業者からの相談も受けていることを周知することで、事業者の不安や懸念を払拭していくことができるのではないか。そのために相談機能の強化が必要になる可能性はある。  障がい者と事業者が建設的対話をすることが法・条例の本質であり、合理的配慮の提供として形にしていくことが必要。そのように条例を運用するためにも、合理的配慮の提供を義務化し、府が間に入ることを増やすようにするべき。府が対話の中核的役割を担うことは十分できる。  条例で不当な差別的取扱い等の事例を明示すると、該当の行為だけが不当な差別的取扱い等であると解釈されてしまう懸念があり、抽象的に規定することのメリットもある。    (2)広域支援相談員や合議体等、条例上の仕組み  検討の視点  合理的配慮の提供の義務化によって、その不提供があっせんの対象に含まれることになるに伴い、広域支援相談員の権限強化(実効性の確保)(※次ページ)などの条例上の仕組みや、合議体による判断の安定化に向けた取組みが必要か。  事業者に対する罰則は、法の趣旨(事業者の自主的な取組みを促すこと、話し合いによる解決を図ること)を踏まえた取組みにそぐわないことや事業者の活動に過度な制限をもたらす懸念があることなどから、平成27年度「障がい者施策推進協議会差別解消部会」における整理で適当ではないと整理されている。  合理的配慮の提供を義務化した場合においても、上記理由や条例に知事の勧告または公表という実質上の制裁措置を規定していることに基づき、罰則規定は不要という整理でよいか。    視点(平成30年度「大阪府障がい者差別解消条例運用状況に関するワーキング」より抜粋)  義務化した場合、合議体は、事業者に対し、条例を根拠として促しやすくなる。また、当事者が合意しない事例などはあっせん不調になるため、あっせんの過程においてもそれほど支障は出ないと考える。  過重な負担に該当するかどうかの判断が難しい事例や両者の主張に歩み寄りが期待できない事例については、あっせん不調という形での終結も考えられる。紛争解決の仕組みとしては限界があるということも含めて、義務化の議論をしていく必要がある。  義務化により、相談員としては合理的配慮の不提供か否か、どう対応すればいいか、判断に迷うことが増え、合議体に即時助言を求めることが想定される。合議体の開催を迅速化するため、開催人数を少人数とすることは一つの案であるが、多様な意見が反映されなくなり、偏った判断をする可能性があることも考慮しなければならない。  また、合議体の判断を安定化させるためには構成員を固定化することが望ましいが、多様な意見を反映させることが難しくなる。  あっせんの申し出が増えれば、構成員を固定化することが難しくなるが、そのことで合議体の判断が都度異なることに対し、社会的な批判や信頼を失わない仕組みの検討が必要である。  合理的配慮は曖昧で抽象的な概念であり、合議体構成員間で合理的配慮の不提供か否かの判断が異なることは、ある程度、やむを得ない。  義務化する場合は、相談員の権限を実効性のあるものにしなければ、合議体におけるあっせんの検討に当たり、事実確認ができずに判断ができないことがありうる。    広域支援相談員の権限強化(実効性の確保)について(第9回資料1−1より抜粋)  補足 相談員の活動に実効性を担保する手法について  以下は、平成30年度「大阪府障がい者差別解消条例運用状況に関するワーキング」構成員の意見に基づいた整理である。  手法1  事業者が相談員の活動に正当な理由なく協力しない場合に府知事名による勧告・公表という仕組みを設ける。  現行の2段階構成での仕組み(広域支援相談員による対応、合議体によるあっせん・府知事名での勧告・公表)を設けている意味が失われ、また、相談員が有する裁量が失われる懸念がある。    手法2  事業者に対する協力義務を新たに条例に規定する。  規定には法的効果はないこと、また、条例第5条の規定により、事業者には府施策への協力に係る努力義務が課せられている。  (参考)  茨木市障害のある人もない人も共に生きるまちづくり条例  第8条 市内に居住し、通勤し、又は通学する障害のある人、その家族、後見人及び支援者並びに事業者は、市長に対し、前条各号に掲げることに関する相談を行うことができる。  2 市長は、前項の相談を受けた場合は、必要に応じて、次に掲げる対応を行うものとする。  (1) 助言、情報提供その他の前項の相談に係る事案を解決するために必要な支援  (2) 前項の相談に係る事案の当事者及び関係者に対する事実の確認及び調整  (3) 関係機関への通知 (当事者及び関係者の協力)  第9条 前条第2項第2号の当事者及び関係者は、市長の同項各号に掲げる対応に対し、正当な理由がある場合を除き、必要な協力をしなければならない。    事務局の見解   相談員は、事業者から協力を得られない場合に、十分な調査を行うことができないケースが考えられるが、障害者差別解消法が、行政措置によって実効性を確保する行政法的アプローチを採用していることから、行政(相談員)が紛争解決を行うことにはそもそも限界がある。  この限界のなかで、府条例では、相談員が対応してもなお解決が見込めない場合に、合議体によるあっせん及び知事の勧告・公表という事実上の制裁措置により実効性を確保しており、現行の条例の2段階構成での仕組みがうまく機能していると言えるのではないか。  第9回大阪府障がい者差別解消協議会での委員の主な意見  相談員の活動に実効性を担保する手法として、一つに、事業者が相談員の活動に正当な理由なく協力しない場合に府知事名による勧告・公表という仕組みを設けるということが考えられるが、これは事実上の制裁措置であるため、相談対応について条例で細かに規定するといった手続きの明確化が求められる。  このことにより、相談員が裁量の範囲で行っている柔軟な対応が困難となる懸念があることを認識しておく必要がある。  条例施行後3か年の間に、事業者が、広域支援相談員が行う調査に非協力的である事例もあったことを踏まえると、相談員の活動に実効性を担保する手法として、事業者に対する協力義務を新たに条例に規定することが考えられる。  条例第5条では、事業者には府施策への協力に係る努力義務が課せられているが、これは極めて一般的・理念的で原則的なルールを規定したものなので、「茨木市障害のある人もない人も共に生きるまちづくり条例」第9条のように、紛争解決に向けて有効に機能し得る規定を定めるべきではないか。  行政法的アプローチを採用していることから、行政が紛争解決を行うことには限界があることは事実であるが、だからこそ、広域支援相談員が円滑に調整等の活動を進めることができるための枠組みを設けることは必要である。  事業者が広域支援相談員の活動に非協力的であるがために解決が見込めない場合でも、あっせんでの紛争解決の仕組みを条例に規定していることから、事業者の協力義務規定は不要ではないか。  条例の2段階構成での仕組みは、条例施行後3か年の間にあっせんに至った事案がないことから、必ずしもうまく機能しているとは言えず、また、合理的配慮の不提供はあっせんの対象外である。紛争解決の機能が果たされるよう、事業者に対する広域支援相談員の相談活動に対する協力義務規定を設けることは必要ではないか。  相談員が活動しやすいよう、事業者の協力義務規定を設けることは一つであるが、規定には法的効果はないということも踏まえたうえで検討すべきである。